ワカバの導き手   作:星月

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第三十話 vsウリムー 消失

 あと少しだったんだよ。あと少しで手が届いたんだ。

 ようやくサツキさんを救い出すことが出来たと思ったいたのに。

 それなのに、それなのになんであいつは。……なんで仮面の男は何もかも奪っていく!?

 

「うああああああっ!!」

 

 咆哮と共に突撃する。ピジョットの加速は凄まじく、体が持っていかれそうになるのをなんとかこらえる。

 対して相手が迎え撃つために飛び出してきたのはデリバードだ。

 以前の戦いを思い出す。そう、かつてウバメの森で初めて対峙したときは、この一体にやられたんだ。

 

(だけど、俺はあの時とは違う!)

 

 ピジョットも――当時は進化していなかったためピジョンだったが――あの時のことは覚えている。

 俺を庇い、苦手な攻撃とはいえ一撃の下に沈んでしまった。しかし、もう同じことは繰り返さない!

 

「あの時と同じだと思うなよ! ……ピジョット、“つばさでうつ”!」

「デリバード、叩き落とせ!」

 

 俺も幾度のジム戦を経験し、ピジョットもあのころよりも成長しているんだ。

 空中で激しいぶつかり合いが繰り広げられる。

 デリバードの腕とピジョットの翼が衝突。威力は互角なのか、どちらも譲らない。

 何度も何度も接触が続き、やがて鍔迫り合いとなって両者がにらみ合う。……それでも、戦況は動かない。

 

「“ずつき”!」

「“オウムがえし”!」

 

 腕が封じられている以上、打つ手は限られてくる。

 痺れを切らしたのか、仮面の男が指示を飛ばした。

 デリバードは腕の力を入れたまま、しかし上体を後ろへと逸らす。

 こちらも負けじとピジョットに指令を出して……両者はほとんど同じタイミングで“ずつき”をした。

 同じ技による攻防。しかし……

 

「……ッ! ピギャアッ!!」

「くそっ! 体勢を立て直せ!」

 

 威力は相手の方が上だったのか、ついにピジョットが押し負けた。

 痛みにもがきながら交代するピジョット。翼を羽ばたかせながら首を振り、ダメージから立ち直ろうとする。

 追撃を食らうわけにはいかない。ピジョットに命じて、一時後退した。

 

「ふんっ、その程度か。まあ所詮はデリバードの技を真似ただけの偽者。到底本物には敵うまい」

「……うるさい!」

 

 自分の優位を感じ取ったのか、仮面の男が不気味に笑う。

 ……本当に何者なんだ、この男は?

 やはり実力は凄まじい。それこそこれまで戦ってきた猛者(ジムリーダー)さえもが凡百と同等に感じられるほどに。

 まともに言葉を返すことさえ、心を折られそうになる。それだけの実力を、この男は持っている。

 

「だが、良いのか? そのように後退している暇など貴様にはないだろう?」

「どういう意味だよ?」

「忘れたわけではあるまい。この女のことを」

「ッ――!?」

 

 仮面の男は視線をすぐ横――サツキさんへと向ける。

 そうだ、今こうしている間にも氷の中でサツキさんが命を蝕まれている。

 体が凍り付くことの恐ろしさは俺が身を持って知っている。その痛みも。

 

「可哀相になあ。早くしなければ、この女は手遅れになってしまうかもしれんぞ?」

「お前に言われなくても、それくらいわかっている!」

 

 だからこそ……

 

「ピジョット、“でんこうせっか”!」

 

 ……早く、決着をつけなければいけないんだ!

 ピジョットが先ほどとは比べ物にならないスピードでデリバードに突進する。

 加速による威力が加わったこの攻撃、まず止められるはずがない。

 その勢いは衰えることなく、瞬く間に距離を詰めた。

 

「やはり若い。単純だな」

 

 ふと、仮面の男の呟きが聞こえた気がする。

 だがもうこの攻撃は止められない。

 ピジョットは嘴から一直線にデリバードに突撃する。

 そしてピジョットの体は……完全に止められてしまった。

 

「なっ……!?」

「その程度の攻撃で、打ち破れるとでも思ったのか?」

「“でんこうせっか”を、受け止めただと……?」

 

 信じられなかった。相手のデリバードはスピードを見切り、ピジョットの頭を両腕で掴みとっていた。

 今のはピジョットの最高速(トップスピード)であったというのに……ありえない。ありえない!

 

「……デリバード」

「ッ……!」

 

 仮面の男の声を聞き、デリバードが大きく息を吸う。

 ……間違いなく攻撃の指示だ。ならばその前に……!

 

「“つばめがえし”だ!!」

 

 その前に反撃して、脱出しなければならない。

 おそらくデリバードは“こごえるかぜ”か“れいとうビーム”を繰り出そうとしていたはず。

 しかしその技が放たれる前に――ピジョットが目にも止まらぬ速さで翼を振り切り、デリバードの体を一閃した。

 

「ギィャッ!!??」

「なにっ……!?」

「もう一発もらっとけ!」

 

 デリバードの悲鳴が上がる。

 反撃を予想していなかったのか、仮面の男も驚愕している。

 その間にもう一度ピジョットは“つばさでうつ”を繰り出し、デリバードを吹き飛ばした。

 ポケモンが吹き飛ばされたことで、仮面の男もデリバードの元に駆け寄る。

 

「この……若造が! こしゃくな真似を!!」

 

 仮面の男が何事かを言っているが、知ったことではない。

 今はそれよりも……

 

「サツキさん!」

 

 ……こちらの方が気がかりだ。

 サツキさんに呼びかけるがやはり返事はない。体全体が凍りついているのだから、当然のことか。……くそっ!

 悔しがっていても仕方がない。とにかく彼女を助けることを考えるんだ。

 

「手持ちポケモン達も一緒に凍り付いているから、俺がなんとかするしかない……!」

 

 彼女のポケモン達はスターミーだけでなく、他の五体もボールごと凍り付いている。

 ……人間は長い間凍結していたら死んでしまう。そうでなくても障害が残る。

 だからこそ少しでも早く救い出さなければいけない。とにかく、今は俺のバクフーンで氷を溶かさないと。

 

「シュン! 貴様……敵を放っておいて何をしている!」

「ッ!? ピジョット!」

 

 しかし考えは途中で遮られてしまった。

 怒りの叫びと共に、“こおりのつぶて”がデリバードより放たれた。

 ピジョットがその場で高速旋回することで攻撃を打ち落とし、無効化する。

 今は防げたからよかった。だけど、仮面の男が先ほどの“ふぶき”のような強力な技を持つと知っている今。やっぱりこいつを退けなければいつまでも事態は進展しないのか……!

 

「敵を差し置いて意識を逸らすとはな。

 ……そのように余裕でいられるのはこちらも不愉快だ。ここから先は、容赦なくいかせてもらおう」

 

 仮面の男は再び視線をデリバードへ。

 するとデリバードは今まで手にしていたプレゼントの袋を地面に落とした。袋からは大きなプレゼントの箱や“きのみ”に“大きなキノコ”など、様々なものがこぼれだす。

 ……そういえば、デリバードの袋は攻撃用の“プレゼント”だけではなく、エサを運んでいるという情報を思い出す。

 デリバードというポケモンの象徴でもある袋を手放すとは。体が軽くなることで動きが良くなるということだろうか? それだけ仮面の男も怒っているということか?

 だが、もしそうだとしても、

 

「プレゼントの袋を下ろして、ようやく本気を出すってことか!? 舐めたことしてんじゃねえよ!」

 

 ここまで本気でなかったというのは、こちらも良い気分ではない。

 そして同時にデリバードがどれだけ動きが良くなるのかという不安もある。

 ならば、本気を確かめるためにもまずはこちらから仕掛ける。

 

(“でんこうせっか”の勢いから、そのまま“つばめがえし”につなげれば……!)

 

 いくら動きが良くなったとしても、防ぎきれるわけはない。事実、先ほどピジョットの“つばめがえし”には反応することさえできなかったのだから。

 再びピジョットは突撃した。

 

「……残念だったな。その一手は失策だったぞ!」

 

 突然の出来事だった。突撃と同時に仮面の男の前の、凍っている地面が不自然に盛り上がる。

 何事かと不思議に思うが……その原因を考えはじめるより先に、その原因が姿を現した。

 

「う、ウリムー……!?」

 

 それはポケモンだった。小さなイノシシのようで、愛くるしい姿。

 しかし今の俺にとってはその姿は恐怖以外の何者でもない。

 なぜならこのタイミングで、この場所で、このポケモンが現れるなど。……仮面の男のポケモンであるという以外にありえないからだ。

 

(まさか――“あなをほる”で今までずっと地中に潜っていたのか!!)

 

 大地も凍りつき、いくらポケモンでも動きが鈍る環境であるというのに。

 “こおり”と“じめん”。二つのタイプを併せ持つウリムーはそんなこと関係なかった。ウリムーだからこそできる芸当であった。

 しかしタイミングが良すぎる! 仮面の男は指示をしていないはずなのに……!?

 

(プレゼントの袋か! あそこから出てきた“きのみ”や“キノコ”の匂いに反応して出てきたんだ……!!)

 

 先ほどのデリバードが地面に落とした袋にはエサが含まれていた。

 そしてウリムーは地中のエサの匂いを嗅ぎわることができるほどの嗅覚を持つという個体である。

 そのウリムーの性質を……いや、ウリムーとデリバード、二体の性質を全て把握して仮面の男は実行した!

 だとしたらまずい! ウリムーは既に攻撃態勢に入っている。対してピジョットは“でんこうせっか”のせいで勢いを止められない。

 このままではウリムーの攻撃が先に命中する!

 

「逃げろ、ピジョットォォォォッ!」

「“れいとうビーム”!」

 

 回避するために必死に指示を出すが……遅かった。

 ピジョットは空中で止まり、上空へ逃れようとするも、ウリムーが放つ“れいとうビーム”が容赦なく俺達を襲う。

 

「ピギャアアアアアア!!」

「がああああっ!!」

 

 その痛みに耐えられず、俺達は地面に転げ落ちた。

 ピジョットの左翼と、俺の左腕。それが一瞬で凍り付いていた。

 

「ああっ、ああああああっ!」

 

 痛い。冷たい。痛い、痛い、痛い痛い!

 一度経験した痛みでも、やはり体が慣れることはない。

 体に走る激痛を前に、まともに動くことさえできなかった。

 

「無様だな。どうだ? 地に這い蹲り、敵を見上げる気分は?」

「ひっ……!?」

 

 後方から、何者かが近づいてくる足音が聞こえる。

 ……わかっている。あいつしか、仮面の男しかいない。

 戦わないと。……どうやって? 勝てるのか? ……本当に?

 痛みと恐怖が焦りを呼んで、悪循環が生まれていた。混乱して、体も動かない。

 

「……ッ! バクフーン!」

 

 だけど何もしていなければやられることは明白だ。

 ならばこそ、と腰のボールへと手を伸ばし、バクフーンをボールから出した。

 言葉にしなくても俺の意図を察してくれたのだろう。バクフーンは登場と同時に“えんまく”を放つ。

 

「くそっ、こざかしい!」

 

 “えんまく”はあっという間に視界を奪っていく。これで少しでも時間を稼げるだろう。

 

「……すまん、バクフーン。お前の炎で、氷を、溶かしてくれ!」

 

 バクフーンはコクリと頷いて、まずは俺の左腕の氷を、次いでピジョットの左翼の氷を溶かした。

 まだ痛みは残るけれども、なんとか動かすことはできる。

 

「俺達もまともに見えないけど、でも行くぞ!」

 

 ピジョットをボールに戻して俺はバクフーンを連れて真っ直ぐ歩く。

 煙でよく見えないけれど、先ほど俺は“でんこうせっか”で真っ直ぐ進んでいた。

 倒れてしまったとは言っても、方向はそんなに変わっていない。真っ直ぐ歩けば元いた場所に――サツキさんのいた場所に行ける。

 そう思って歩を進める。体が重く感じるが、早くしなければと自分にエールを送って歩いた。

 すると煙が晴れて、サツキさんの姿が見えた。

 

「サツキ、さん……」

 

 もう一度名前を呼ぶ。返事がないとわかっていても。

 とにかくバクフーンにサツキさんの氷も溶かしてもらおうと思って……

 

「……ッ! しつこいぞ、そこをどけ……!!」

 

 俺はまた、デリバードと対峙した。

 きっと空を飛べるこいつは逸早く空から先回りしたのだろう。

 助ける気などないくせに、まるでサツキさんを守るかのように俺に立ちはだかる。

 

「邪魔だ、邪魔なんだよお前!」

 

 それが余計に腹が立つ。

 ただ助けたいだけだというのに、なのになぜコイツらは……!

 

(――力ずくでも!)

「バクフーン、“かえんぐるま”!」

 

 バクフーンが炎を纏って突撃する。

 “かえんほうしゃ”より威力は劣るが、デリバードにかわされたらと思うとそうはいかない。上手く氷を溶かしてくれればいいが、下手すればサツキさんに被害が及んでしまうためだ。

 だがバクフーンに進化した今、“かえんぐるま”の威力も上がっている。

 

「……“れいとうパンチ”」

 

 デリバードは跳躍し、氷が纏った右腕を思いっきり振り下ろす。

 ……進化してそれでもまだ届かない。バクフーンは一撃の下に、地に沈んでしまった。

 

「……なっ!」

 

 相性が良いバクフーンでさえも、倒された。

 これがどれだけ衝撃的なことなのか。……計り知れない。

 デリバードは倒れたバクフーンを掴み挙げて、俺の方へと投げ飛ばした。

 

「ッ! 戻れ、バクフーン!」

 

 地面に叩き落される間にバクフーンをボールに戻す。

 ……ありえない。信じられない。信じたくもない。

 成長したと思っていたのに。それでもまだ、届かないのか……!

 

主力(バクフーン)が倒され、戦意も尽きたか?」

「……」

 

 後ろから、仮面の男が声をかける。

 何か言わないと。そうでなければ、それこそ相手の調子を良くしてしまう。

 それがわかっていたのに。……俺は何も口にすることができず、また一歩も動くことができなかった。

 

 

――――

 

 

「ああっくそっ! さっさと着けよ、うずまき島!」

 

 舟の上でゴールドは怒りを、焦りを隠す事無く声高に叫ぶ。

 だが無理もない話だとクリスタルは思った。

 突如シュンが独断で先行してしまい、とても仲が良いというゴールドが落ち着いていられるはずもないのだから。

 

「ねえゴールド。あなたとシュンさんってどういう関係なの?」

 

 視線をルギアに向けつつ、クリスタルはゴールドに問いかけた。

 二人の関係をほとんど知らない彼女にとって、ゴールドの反応はとても不思議に映ったのだろう。

 

「ああ? どういう関係って言われてもな。……俗に言う先輩と後輩みたいな関係だぜ?

 家が近かったから、よくポケモンを交えて遊んだりしてたしな」

「幼馴染ってこと?」

「まあ、そんなもんか? でも、そんな一言で済まして欲しくはねーな。

 何せ色々シュンさんには世話になったし、心配もかけちまったから。

 ……ま、何はともあれ、俺にとっては本当に頼りになる良い人だぜ?」

 

 話しが続くにつれ、ゴールドの笑みが深くなる。

 それだけシュンを慕っているということだろう。

 聞いたクリスタルも雰囲気から二人の仲を察し、つられるように笑った。

 

「だから俺もシュンさんの力になりたいとは思うぜ。俺も旅してちーっとは実力がついたからな」

「……どうかしら? シュンさんはかなりの凄腕みたいだし、あんたみたいなトレーナーが力になるの?」

「ああん!? なんだテメエ! 喧嘩売ってんのか!?」

「あ、イエローさん凄い! 華麗に跳んで、まるで踊ってるみたい!」

「話を振っといて無視してんじゃねーよ! こんの真面目ギャル!」

 

 なぜか口論に発展してしまう二人。

 最終的にはゴールドの扱いを徐々に理解してきたクリスタルが、適当にあしらって終わるのだが。

 

(……平和だな。ゴールドの野郎もなかなかどうして楽しそうじゃねえか)

 

 そんな二人を見て、ヒデノリは思わず今自分がいる場所が戦場だということを忘れそうになる。

 しかしそんな彼の意識を覚醒させるかのように……地響きに似た音が届いた。

 

「ッ!? なんだ!?」

「……爆発音?」

 

 その音は二人の耳にも届いた。

 ドオンッ、と鈍く響く音。何かが強く叩きつけられたのか、あるいは何かが爆発したのかはわからない。

 しかし確実なのは……シュンが飛び立った方角から聞こえたということだ。

 

「まさか、シュンさんの身に何かが……!?」

 

 ゴールドは焦りを感じた。

 何か嫌な予感がする。こんな時は、なぜか予感が当たってしまうのだと理解しているから。

 

(大丈夫っスよね、シュンさん……!)

 

 信じてはいるが、焦りは止まらない。

 

「霧が凄いが……よし、お前ら準備しろ!」

 

 ヒデノリの声が聞こえる。

 もう1分もしない間に浜辺に到着するだろう。

 徐々に霧も晴れてくる。……するとゴールドが浜辺の方角を見ると、ある人影が目に入った。

 あれは、あの姿は……

 

「シュンさん!」

 

 見慣れた、ゴールドの先輩・シュンの姿。

 無事だったんだと、安心してゴールドの顔に笑みが戻る。

 

「……来たか」

 

 しかし、やがてシュンの背後に二つの影が現れた。

 一つはシュンの上に立つ……というよりも浮かんでいる、飛んでいる小さな影。

 もう一つはその斜め後ろに立っている、人影であった。

 すぐに彼らの姿もはっきりと見えるようになった。だが……

 

「なんで……」

 

 ゴールドが言葉に詰まる。

 目の前の出来事を受け入れることができずに。

 

「どうなってんだ、コイツは……」

「どうしたの? ゴールド?」

 

 ヒデノリも、運転を忘れて呆然とした。

 不思議に思ったクリスタルが、一時的に持ち場を離れてゴールドの横に立つ。

 

「ッ! 嘘!」

 

 そして彼女もまた、ゴールドと同じように黙り込んでしまった。

 口を押さえて『信じられない』と語っている。

 小さな影はデリバード。意識がないのか、ぐったりとしているシュンの体を持ち上げて飛んでいた。

 そして人影は、ゴールドが二度戦った因縁の相手、仮面の男だった。

 

「仮面の男!」

「ほう、まだ生きていたのか小僧……」

 

 ゴールドの叫びに対し、仮面の男は意にも介していないかのような口ぶり。

 それがゴールドの怒りを余計に駆り立てた。

 

「テメエ、シュンさんまでやりやがったのか!」

「なんだ知り合いだったのか? それならばくれてやろう。……ホラ」

「なっ!? シュンさん!」

 

 デリバードは掴んでいたシュンを海に放り投げた。

 意識がないのか、シュンは叫びもあげず……その体は海の中に沈んでいく。

 

「シュンさん! 今行きます!」

「ちょっ、ゴールド!」

「おい、待て!」

 

 二人の制止を振り切ってゴールドが海に飛び込んだ。

 ゴールドの手持ちであるニョたろうも続く。

 

「余程大切な者だったようだな。麗しい友情、感動さえ覚える。その友情を讃えて……私から“プレゼント”を贈ろうではないか」

 

 すると仮面の男はデリバードに命じて……ありったけの“プレゼント”を、海に投げ込ませた。

 プレゼントはまるで爆弾のように次々と爆発を起こし、海上に、海中に被害を生む。

 

「うおおお!?」

「きゃああ!!」

 

 舟も例外ではない。爆発によって生じた波に自由を奪われてしまう。

 その衝撃は大きく、先ほどクリスタルが捕まえたテッポウオのボールが海中に投げ出されてしまうほどだった。

 

「おや、どうやら派手すぎたか? これは波を鎮めなければなるまい。……“オーロラビーム”」

 

 デリバードより放たれた冷気で波が凍り付く。

 あれだけ荒れた波も凍り、舟は波の上で停止した。

 現実離れした威力に、ヒデノリ達は驚愕を隠せない。

 

「なんだと!? 波ごと凍らせるとは、なんというエネルギーだ!」

「それよりも、これでは二人が……! シュンさん! ゴールド!」

 

 それと同時に、クリスタルの脳内に嫌な想像が浮かび、二人の名前を呼んだ。

 海が凍っては二人がもう上がってこれないのではないか、という不安が生まれたのだ。

 だが、当然返事はなく、目の前の脅威にただ怯えるしかなかった。

 

「さて、これでひとまず邪魔は……うん?」

 

 一通りの障害を排除した、と仮面の男は頷く。

 しかしそんな彼に襲い掛かる者達がいた。

 

「ヘラクロス! ラプラス! エーフィまで!」

 

 シュンの手持ちポケモン達である。

 彼らの(トレーナー)を攻撃されて、何も感じないわけがなかった。

 (トレーナー)を失った三匹は怒りに任せて仮面の男に襲い掛かる。

 ヘラクロスは“かわらわり”で、ラプラスは“のしかかり”で、エーフィは“アイアンテール”で三体同時に仮面の男に仕掛けた。

 

「ふんっ、こざかしい!」

 

 ……だが、デリバードが放つ“ふぶき”で吹き飛ばされてしまう。

 三匹は着地もままならず、氷の地面に叩きつけられた。

 

「そんな!」

 

 鍛え上げられたポケモン達が簡単に一蹴された。その事実に、クリスタルはただ驚くしかない。

 

「一歩でも動けばその瞬間貴様らを討つ。生きたければ大人しく見ていろ。私の目的は、貴様らではないのだから」

 

 そう警告すると仮面の男はデリバードに掴まり、空へと飛んでいく。その先にいるのは――ルギアだった。

 

 

――――

 

 

「……なんだ?」

 

 最初に異変に気づいたのはシルバーだった。

 突如、舟からの援護射撃が完全に途絶え、ポケギアも繋がらなくなった。

 違和感を覚えたシルバーは一度ルギアから距離を取り、舟を見る。

 ……そして、舟が目指していた島の一部が凍り付いているところを発見した。

 

「なんだコレは!? 何が起こっている!?」

 

 それはシルバーにとっても予想外の異変だった。

 呆然とするが、さらに衝撃が起こる。

 突如真下の海で水柱が立ったかと思えば、波が凍りついたのだ。

 真下でも別の戦いが起こっているということは明らかだった。

 

「まさか……」

 

 “氷”というキーワードで、シルバーの脳内にあるイメージが湧いた。それも最悪のイメージが。

 

「おい、どうしたガキ!?」

「シルバーさん!?」

「お前達、ルギアだけに構うな! おそらく、こちらにもヤツが来る!」

 

 声をかけてくる二人に、シルバーは声を荒げた。

 シルバーは誰よりもヤツの危険性を知っているからこそ、平然としていられなかった。

 そして直後、島より何者かが飛び立ち、彼らと同じ場所まで飛んできた。

 

「貴様――!!」

「なっ、テメエ!?」

「……誰? 何でこんなところに?」

 

 三者三様の反応だが、嫌悪、敵対心、違和感とどれも良いものではない。

 それも当然のことか。何せ向き合っているのは仮面の男。

 

「よくぞ戦ってくれた、ここからは私に任せれもらおう。――ルギアは私がいただく」

 

 彼らの敵であり、打ち倒さなければならない相手なのだから。

 

「よくもそんなことを抜け抜けと言えたもんだな! そんなこと、させるわけねえだろうが!」

 

 その言葉に怒りを覚え、マチスが飛び出した。

 

「なっ、待て!」

「どうしたんですか、マチスさん!」

 

 二人の声を無視して、マチスは仮面の男へ向かっていく。

 レアコイル達が作る電磁フィールドにいる間は大丈夫だと、安易に思っているところもあった。

 電磁フィールドとデリバードが衝突する。空中での鍔迫り合いが始まった。

 

「ほう。これはこれは、懐かしい顔ぶれだなマチス」

「ほざけ。てめえ、ルギアをいただくだと? 一体何を考えていやがる?」

「貴様に教える必要はない」

 

 「それよりも」と仮面の男は付け加えて言った。

 

「私に構っていると、痛い目にあうぞ?」

「ああん? それは一体どういう――」

「マチスさん!」

 

 どういう意味だと、尋ねようとした言葉はイエローの呼び声にかき消された。

 

「なっ!?」

 

 真後ろから、ルギアの“エアロブラスト”。

 とてもではないが対応できるはずがない。“エアロブラスト”が一体のレアコイルに直撃。直撃したレアコイルは力なく空中でふらついた。

 

「くっそっ。……しまった!」

 

 先ほどルギアに一体のレアコイルをやられてしまっており、これで二体目を失った。

 その結果、電磁フィールドを形成することは困難に陥り、マチスはゆっくりと落ちていく。

 

「イエロー、マチスを!」

「わかりました!」

 

 シルバーの支持を受け、イエローはマチスを追う。

 どうにか海に叩きつけられる前に回収することができた。

 しかしレアコイルがいない以上、マチスを空中戦力として数えることはできない。

 イエローもマチスを舟へと降ろすために戦線離脱し、シルバーは一人で仮面の男と向き合った。

 

「……お前がルギアを怒らせたのか?」

「どうしてそう思う?」

「俺達が来る前からルギアは我を忘れていた。しかも今、ルギアはお前を見た瞬間“エアロブラスト”を放った。

 結果的にマチスが被弾したが、それはあくまで直線状の位置に突撃したからだ。明らかに、狙いはお前だった」

 

 シルバーの推測を聞いて、仮面の男はしばし無言を貫くが……やがて口元を歪ませた。

 

「……その通りだ」

 

 そしてシルバーの考えが当たっていたと断言する。

 自然とシルバーは歯を食いしばった。ここまで相手の掌の上で踊らされていたのかと、怒りを覚えた。

 

「俺は貴様を許すわけにはいかない!」

「それで私を攻撃するか? ……愚かな」

 

 二人の道が交わることはなく、衝突を生む。

 ヤミカラスとデリバードの一騎打ち。お互いがお互いの飛行能力を奪おうと、接近戦を挑む。

 このまま押し切ることは難しくても、一瞬でも隙を作ることができれば、とシルバーは考えた。

 

「ギィアァーッ!!」

「ッ!!??」

 

 しかし二人の戦いに割り込む形でルギアの絶叫が木霊した。

 

「ルギアか。忘れていたわけではないが、いきなり……ッ!?」

 

 シルバーは顔をしかめてルギアをにらみつける。

 一対一で仮面の男と戦いたいと思っていたため、邪魔をされて良い気分なはずがない。

 しかし、突如ルギアはシルバーを見ると、仮面の男を差し置いてシルバーへ向けて“エアロブラスト”を放った。

 

「ちいっ!」

 

 間一髪のところでヤミカラスが距離をとり、攻撃を回避する。

 

(こいつ、一体どういうことだ)

 

 攻撃されて内心穏やかなものではない。

 最初にルギアを攻撃したのは仮面の男ならば、ルギアの怒りの矛先は仮面の男へと向くはず。

 それなのに仮面の男を差し置いてシルバーだけを攻撃してくるとは予想していなかった。

 

「ふん。どうやらルギアは、自分の敵を他の者が攻撃していることを許さなかったようだな」

「……くそっ!」

 

 おそらく仮面の男の言うとおりだろう、シルバーは舌打ちして顔を背けた。

 『敵の敵は味方』ということでルギアには仮面の男を攻撃して欲しかったのだが、上手くいかなかった。それどころか敵を勝手に攻撃するシルバーに襲い掛かるとは予想外としか言いようがない。

 すかさずルギアの追撃が来た。

 再び“エアロブラスト”が連射される。二つの空気砲がシルバー達目掛けて発射した。

 ヤミカラスはより高くに飛び上がり、旋回しながらかわしていく。

 

「だが、私もいることを忘れるな!」

「仮面の男……!」

 

 だがその先に行動を予測した仮面の男が先回りしていた。

 デリバードが拳を振り下ろす。ヤミカラスが翼でガードしようと動くが、間に合わない。

 威力が高いようで、すでに体力を消耗していたヤミカラスはバランスを失い、落下してしまった。

 

「……また、か!!」

「シルバーさん!」

 

 シルバーは落下しながらも仮面の男の姿を捉えつづける。

 駆けつけたイエローによって救われたものの、ヤミカラスも戦闘続行は厳しい状態になってしまった。

 シルバーはまたしても仮面の男を止める事は敵わず、その戦いを見届けるしかなかった。

 

「……久しいな、ルギアよ」

「ギィァアース!!」

「語り合う余裕もないか。悲しいかな」

 

 仮面の男がルギアと対面するや否や、ルギアは“エアロブラスト”をタメなしで放射する。

 それをデリバードが巧みに飛び回ることで回避していった。

 四発の弾丸を全てかわしたところで、仮面の男は反撃に転じる。

 

「デリバード、“こごえるかぜ”」

 

 大気が凍てつくほどの冷気がルギアを襲う。

 ルギアは連続して“エアロブラスト”を放出しようと空気を吸い込んでいたため、口腔内にもダメージが及んでしまった。

 

「――ッ! ッ――ッ!!」

「言葉を発することも躊躇われるか? 安心しろ、すぐに楽にしてやる」

 

 上手く鳴くことさえできないルギアだが、仮面の男は手を緩めることを知らない。

 口呼吸ができずに“エアロブラスト”を、“ハイドロポンプ”を封じた今、ルギアの攻撃力は格段に落ちた。

 すでに体力もほとんどない。――仮面の男は勝負を決めに来た。

 

「デリバード」

 

 (トレーナー)の意図を理解し、デリバードをより高い場所へと飛ぶ。

 そこでさらに体を後ろに倒すことでタメをつくり、ルギアに目標を定めると……

 

「――”ゴッドバード”!」

 

 一瞬でルギアの腹部へと突撃した。

 あのルギアでさえ、反応することができなかったスピードは、防ぎようもない。

 一撃でルギアは残った力を失い、倒れてしまう。

 

「さあ、お前も私に従え!」

 

 それを見て仮面の男はモンスターボールを放った。

 ボールはルギアの額にあたり、体が吸い込まれていく。

 ……仮面の男は空中でボールを確保した。ルギアの捕獲が完了したことを確認すると、うっすらと笑みを浮かべる。

 

「ルギア、捕獲……!」

「まさか……!」

 

 最悪の事態になろうとは、シルバーが悔やむがもはやどうしようもない。

 仮面の男を直視することができずに視線を逸らす。……すると、その視線の先。凍った波の部分に亀裂が走った。

 

「……なんだ?」

 

 ピシッと音を立てて広がっていく。するとその亀裂はさらに大きくなっていき、

 

「おりゃあああああ! ゴールド、復活!!!!」

 

 そこから先ほど海に投げ飛ばされたはずの少年――ゴールドがシュンを抱きかかえて飛び出してきた。

 

「ご、ゴールド!?」

「シュンさんも一緒だ!」

「それにあれは……マンタイン!?」

 

 思わぬ登場に誰もが目を丸くする。

 ゴールドは海中で出会ったマンタインに、さらにクリスタルが捕獲した20匹のテッポウオをヒレにつけ、“みずでっぽう”を一斉放射させることで空を飛んでいた。その姿はまるでハンググライダーのようである。

 

「よくもやってくれたじゃねえか、仮面野郎! 今度はこっちの番だぜ!!」

「ぬうっ!?」

 

 捕獲直後で油断したのか、仮面の男の反応も鈍い。ゴールドの接近を許してしまった。

 

「全体、回れ右! ……20連“みずでっぽう”、食らいやがれ!!」

 

 ゴールドの合図でテッポウオ達は方向転換。

 今度は仮面の男達へ向かって一斉に“みずでっぽう”を放出する。

 

「ぐおおおっ!!」

 

 まともに攻撃を受けてしまい、デリバードは怯んで仮面の男を放してしまった。

 

「くっ、来い! デリバード!」

 

 もう一度命じることで、デリバードは立ち直る。

 主を空中で救い出し、さらにゴールドから逃げるように低空飛行を始めた。

 

「目的は全て達した。これ以上ここに長居は無用だ、引き上げるぞ!」

 

 そう言うと、先ほど彼らが潜んでいた島へと向かっていく。

 着陸するとデリバードは仮面の男を離し、代わりに氷漬けとなったサツキを抱えて再び飛ぶ。仮面の男はジュゴンを連れて海での逃走を図った。

 

「逃がすな、ゴールド!」

「お前に言われなくてもわかってら!」

 

 数少なくなった飛行戦力を持つゴールドに、シルバーは声をかける。

 ゴールドもすぐに彼らの後を追う。再び方向転換して追いかけた。

 これだけ好き勝手しておいて、逃がすわけにはいかない。視線を去っていく仮面の男へと向けるが……

 

「……やれ」

 

 それゆえに、視野が狭まっていた。

 島に隠れていた仮面の男のイノムーの“とっしん”を許してしまう。

 

「がはっ!?」

 

 投げ飛ばされるゴールド。マンタインも島に落下し、ダメージを負ってしまった。

 イノムーは攻撃が決まると同時に駆け出し、(トレーナー)が去っていった方角の海へと走っていき……ボールに収まった。

 

「ちく、しょう! 後、少しだったのに……!」

 

 ゴールドは歯を食いしばって悔しがる。

 奇襲により仮面の男の不意をつき、一矢を報いることはできたが、それだけだった。

 結局ルギアは捕獲され、仮面の男も逃がしてしまう。

 

「大丈夫、ゴールド!?」

「おうクリスか? 俺はなんとか。それよりも……シュンさんは!?」

 

 心配そうに声をかけてくれるクリスタルには感謝するが、同時にシュンのことが気がかりになった。

 自分と同じように投げ出されてしまい、どこか怪我を負っていないのかと不安になったのだが。

 

「……心配するな。大きな怪我はない。少し休めば意識を取り戻すだろう」

 

 シルバーがシュンに駆け寄り、彼の無事を知らせてくれた。

 

「そうか。……よかった」

 

 シュンの無事を知り、ゴールドも一息ついた。

 ひとまずは危機は去った。シュンも無事ならばまずは大丈夫だろうと、ゴールドはそう思った。

 

「……でも、その代わりサツキさんが……」

「それじゃあクリスタルさん、やはり先ほどデリバードが運んでいったのは……」

「はい。おそらくは……」

「そんな……!」

 

 しかしクリスタルとイエローの表情が暗い。

 『サツキ』という聞きなれない単語、いやゴールドも少しだけシュンから聞いていたことを思い出した。

 シュンがここまで旅を共にしてきたという女性のことを。

 

「どういうことだ、説明しろ」

「そのサツキって人が何かあったのかよ?」

 

 事情を知らないシルバーとゴールドが二人に詰め寄る。

 接点の少ないマチスも少し気になっている素振りを見せている。

 

「さっき、あの仮面の男のデリバードが運んでいた氷の塊。あれに……あの中に、サツキさんの姿が、見えました」

「なっ!?」

「……え?」

 

 真実を知り、全員が驚きのあまり固まってしまった。

 クリスタルが言うことが本当だとするならば。……彼らは危機を退ける代わりに、あまりにも大きなものを、失ってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

 

 主人公:シュン

 持っているバッジ:5個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ、レギュラーバッジ、ファントムバッジ、スチールバッジ)

 

 

手持ちポケモン

 

 バクフーン♂ Lv44

 ピカチュウ♂ Lv49

 エーフィ♀Lv48

 ラプラス♀ Lv51

 ピジョット♀ Lv46

 ヘラクロス♂ Lv52

 

 

ボックスメンバー

 

 サナギラス♂ Lv49

 サンドパン♂40

 ハッサム♂ Lv47

 

レポートに書き込みました!!

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