ワカバの導き手   作:星月

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第三十一話 vsラッタ 巨悪の野望

 タンバシティ、ポケモンセンター。

 

『……そうかうずまき島で仮面の男と戦闘した、か。

 戦いに敗れ、ルギアはやつの手におち、そしてサツキ君も……』

 

 パソコンの画面には急の報告を耳にし、頭を抱えるオーキド博士が映し出されている。

 ルギアと、そして仮面の男との戦いの後、ゴールド達一行は気を失ったシュンを抱えて一番近くの街、タンバシティへと来ていた。

 道中、自分の船に戻ったマチス。『調べたいことがある』と言って別れたシルバーはこの場にはいない。

 傷ついたポケモン達の回復を終え、シュンも目を覚ますと彼らは依頼主であるオーキド博士へ事の顛末を全て打ち明けた。

 その内容はとても重々しいものだった。皆暗い表情を浮かべ、淡々と起こった事を口にしている。

 

「すみません、オーキド博士。結局何もできずに、俺は……」

『君が気に病むことではない。行方不明だったゴールドも見つかって何よりじゃ。よくぞ無事に戻ってきてくれた』

「……本当に、すみません」

 

 今まで沈黙していたシュンはただ謝罪の言葉を繰り返す。

 彼はこの戦いでも強敵を相手に最前線で奮闘していた。オーキド博士も彼に非はないと理解し、彼を諌める。

 だがシュンには慰めにもならないものだった。目から大粒の涙が零れ落ち、呪いのように謝罪を続ける。

 

「……先輩、ちょっと座りましょう」

 

 それだけこの敗戦は彼にとっては辛いものだった。

 見ていられなくなったゴールドに促され、シュンは少し離れた椅子に腰掛ける。

 痛々しい姿を、誰も直視する事ができなかった。

 

『今回のやつの動きは、間違いなく戦力の拡大を狙ってのことじゃろう。ルギアという伝説のポケモンを手にした今、ロケット団はさらに大きな動きを見せるやもしれん』

「ええ。私達も同意見です。でも、気になることが一つあります」

『なんじゃ?』

「仮面の男の行動についてです。どうして仮面の男はサツキさんを連れ去ったのでしょうか?」

 

 クリスタルは戦いが終えてからずっと抱いていた疑問をオーキド博士に尋ねた。

 最後に彼女達が目にした時、サツキは全身が凍りついた状態だった。すぐに氷を溶かし、救命処置をなさなければならない危険な状態である。

 だが仮面の男が連れ去ってしまったということはおそらくは彼らのアジトへ運ぶのだろう。

 人目につかないような場所へ運ぶとなると時間がかかる。そしてそうなると――彼女の命は、語るまでも無い。

 

『……これも先ほどと同じ理由じゃ。やつらの狙いはおそらく、彼女のポケモン達』

「ポケモン?」

『そうじゃ。かつてロケット団はポケモンの生体実験を行っていた。

 そしてその実験結果として、トレーナーの手持ちポケモンを操る術を手にいれておった』

「他者のポケモンをですか!?」

 

 驚愕に目を見開くクリスタル。

 一度手にしたポケモンはそのトレーナーのものとしてボールに登録され、トレーナー以外の言うことは滅多に聞かない。

 だがロケット団の先端技術が常識を覆した。かつてカントー地方一帯を席巻した時も彼らは他人のポケモンを奪い、支配下においていた。

 その技術はおそらく仮面の男の支配下に入った今でも引き継がれている。だからこそ、サツキは狙われたのだろうと。

 

『実は、やつらは以前もサツキ君を捕縛しようと策略していた。すんでのところでシュン君が駆けつけてくれたおかげで事なきを得たが。

 今思えば、あの時もやつらは情報が目的、ということではなくただ戦力を欲していたのかもしれん。その為にサツキ君を狙って、今回も』

 

 オーキド博士はチラリと視線をシュンに向けた。サツキという名前が出た瞬間、彼の肩がピクリと震えた。

 気落ちしても彼の意志は変わっていない。そんな事実が余計に胸を締め付けた。

 

「あの、それで博士。サツキさんは……」

『……操る術を持っている以上、やつらがサツキ君を助ける理由は無い。

 いや、それ以前に助けようとしてもすでに時間が経ってしまっていたのじゃろう。

 もはや体のあちこちで細胞が死んでしまっているはず。ほぼ間違いなく、もう……』

 

 恐る恐る、わずかな希望を抱いていたイエローの呟きは、オーキドの言葉によって否定される。

 わかっていたことではある。戦力確保が目的なら、目的を達した今、ロケット団に彼女を救う意味はない。

 『この世にはいない』という言葉を搾り出すこともできず、オーキド博士は視線を床に落とした。

 つられてクリスタルもイエローも手で口を覆い、ゴールドは拳を強く握り締め、シュンは歯を食いしばった。

 

「……オーキド博士。教えてください。俺達は、次にどう動けばいいのですか?」

 

 一番早くに立ち直ったのは意外にもシュンであった。

 誰よりもこの事態にショックをうけているはずなのに。いや、だからこそ、すぐに次のことへを目を向けることができた。

 これ以上彼女の話題に触れていたくなかった。

 光を失った瞳で博士を射抜く。

 ただ事ではない様子にオーキド博士も我に返り、改めて口を開いた。

 

「うむ。君達には一度コガネシティの南にある育て屋に向かってもらいたい」

「育て屋?」

「げっ。またあそこに行くのかよ!?」

 

 『育て屋』。この単語に反応を示したのはシュンとゴールドだった。前者はただ首を傾げ、後者は心底嫌そうに顔を歪めている。

 

『そうじゃ。そこで今後のことについて話したい。ついたら連絡をくれ。大事な話じゃ』

 

 その言葉を最後に通信は終わり、画面はぷつりと切れた。

 

「……よし。聞いての通りだ。早速育て屋に行こう」

「うっす!」

 

 誰もがオーキド博士の言葉の意味を理解しかねているが、何時までもここにいても意味は無い。

 シュンが真っ先に出口に向かって歩き始め、ゴールド達も後に続く。

 

「ゴールドとイエローさんはマンタイン、バタフリーがいるから移動手段は大丈夫だな。クリスタルは?」

「私もネイぴょんがいますけど、さすがに長時間は……おじさんの船に乗っていきましょうか?」

「いや、空を飛んだ方が速い。それなら俺のピジョットを貸そう。俺はヘラクロスに乗って移動する。

 イエローのおじさんとは後で連絡を取って合流しよう。今はオーキド博士の用件が優先だ」

 

 確認を済ませるとシュンはクリスタルにピジョットが入っているボールを預け、ヘラクロスへと声をかける。

 口早に指示を出し、体調が万全であることを理解するとすぐに飛び立つ準備を始めた。

 

「ちょっと待ってください!」

「どうした?」

 

 今にも飛び立とうとした瞬間、ゴールドが手を広げて制止する。

 『早くしろ』と態度で急かすシュンの様子が感じ取られ、彼が知る姿は微塵も存在しなかった。

 

「もうちょっとここでゆっくりしていってもいいんじゃないっスか?

 シュンさんも目が覚めたばっかりなんだし。ちょっと休んだ方が……」

「俺の心配なら不要だ。それより、今ここを立たないと日が沈むまでにたどり着けない。夜になると海は危険だしな」

「……そうっスか。わかりました」

「もういいな? ……場所を知っている俺が先導する。皆、ついてきてくれ」

 

 これ以上呼びかけても無理だと理解し、ゴールドは後ずさった。

 シュンも一度あたりを見渡し、誰も意見がないということを察すると真っ先に飛び立つ。

 少し遅れてイエローが飛び、ゴールドとクリスタルも二人に続いた。

 

「……らしくねえな」

「シュンさんのこと?」

「たりめえだろ? お前だって疑問感じてんじゃねえのかよ?」

「まあ、ちょっと心配ではあるけれど……」

 

 最後方でシュンに聞こえないように並行して飛びながら会話するゴールドとクリスタル。

 付き合いの短いクリスタルから見ても違和感を感じているのだ。ゴールドが不満を漏らすのも無理はなかった。

 

(別に急ぐ事に文句はねえ。けどよ、そんな余裕の無い顔で急かされちゃ、俺らは堪ったもんじゃねえ)

 

 生気を感じさせない瞳。失意に沈む彼は今何を見据えているのか。

 生き急いでいるようにも感じるシュンの後姿を、ゴールドは苦々しく見つめた。

 

 

――――

 

 空を飛び続けること数十分。

 俺達はコガネシティの南、34番道路の育て屋に降り立った。

 

「おお、よく来たな。お前達」

「お久しぶりです」

「久しいの。初めて見る顔もおるようじゃが、まあよかろう。入りなさい」

「うっす」

 

 かつて俺を鍛えてくれたおじいさんとおばあさん。

 すでに話はついていたようで挨拶を済ませるとすぐに家へと招いてくれた。

 初めてここを訪れてからそれほど日は経っていないものの、どこか懐かしさを覚えながら廊下を歩いていると、和式の居間へと案内される。

 そこには既に一人の先客が来ていた。

 

「おう。お前さんらがオーキドに図鑑を託されたっちゅうガキか」

「ゲッ!? ガンテツのじじい!?」

「誰がじじいじゃ! ガンテツさんと呼ばんかい小僧!」

 

 額に青筋を浮かべ、ゴールドを怒鳴りつける頑固そうな老職人。

 『ガンテツ』という名を一度聞いた事がある。たしかヒワダで多くのボールを作り出すボール職人と。

 俺は使ったことはないがこの人が作ったボールは使い勝手にこそ難はあれど、使いこなせば通常のボールとは比べ物にならないほどの効果を発揮するという噂もある。

 

「ガンテツ師匠がなぜここに?」

「おおクリス君。なに、オーキドに話を聞いて、少し思うところがあったんじゃ」

 

 クリスタルには愛想のよさそうな笑みを見せているガンテツさん。二人の会話の様子から『捕獲の専門家』として付き合いがあったというころが窺える。

 認めたものには寛容、そうでないものには厳しくあたる、という性格なのだろうか。

 

「積もる話はあるだろうが、まずはオーキドと繋ぐぞ」

 

 そう言ってガンテツさんはパソコンを開き、オーキド博士と通信を繋げた。

 程なくしてオーキド博士が通信に応じて画面に映し出される。

 

『……うむ。全員揃ったようじゃな』

 

 顔ぶれを見渡して、オーキド博士は大きく頷いた。

 俺達も頷き返して誰かが意見するのを待つ。

 真っ先に口火を切ったのはガンテツさんだった。

 

「まずわしから話しておくことがある。だがその前に――お主がシュンというトレーナーだな?」

「は? ええ。そうですが」

「そうか。ならばまずは君に謝っておかなければなるまい。すまなかった」

 

 突如俺に向かってガンテツさんが頭を下げた。

 当然ながらこの意味がわからない。

 俺とガンテツさんは初対面。そのはずだ。その相手にいきなり謝罪をされても理解が追いつかない。

 周囲の反応も俺と似たようなもので、ガンテツさんが話を続けるまで呆然とするしかなかった。

 

「実は以前、サツキ君から君の話を聞いておった」

「……え?」

「思えばあの時、わしが彼女の話に応じていれば、結果は変わっていたのかもしれん」

「どういう、ことですか?」

「まずは皆、これを見てくれ」

 

 そう言ってガンテツは懐から一つの巻物を取り出し、皆に見えるよう広げて見せた。

 

「……なんじゃこりゃ?」

「何かボールみたいな絵が描いてありますね……」

「これはわしが作るボールの製作法が記されている『特殊玉作成秘伝の書』じゃ」

「ガンテツ師匠の?」

「一番最後のボールを見てくれ」

 

 促され、俺達は視線を最後のボールへと移す。

 それは今まで見たことがないボールだった。

 ボールの蓋には文字のような模様が描かれており、普通のボールとは何かが違うのだと見て取れる。

 

「これはおそらく、仮面の男が欲しているものじゃ」

「……なんじゃと!?」

「仮面の男がこのボールを!?」

 

 打ち明けられた事実に驚愕を隠す事は出来なかった。

 今までは敵の明確な目的さえ明らかになっていなかった。だがそれがガンテツさんの口から明らかになったのだ。

 

時間(とき)を捕らえるモンスターボールと呼んでおる」

時間(とき)?」

「そうじゃ。ウバメの森、中心部に祀られておる祠には伝説のポケモンが棲むと言われておる。

 このポケモンを捕まえる為には特殊なボールが必要でな。それがこれじゃ」

 

 ウバメの森。それは俺が初めて仮面の男と対峙した場所でもある。

 じゃああの時も仮面の男は伝説のポケモンを狙っていたということか?

 戦いは偶然ではなく、張り込んでいたロケット団に遭遇したから、ということか。

 そう考えればガンテツさんの話も疑う事無く信じることができる。

 

「しかし、何故仮面の男の狙いがわかったんですか?」

 

 事の顛末を冷静に考えていたクリスがガンテツさんに問う。

 たしかにそれは俺も気になっていたことだ。

 伝説のポケモンと仮面の男、二つを繋ぐ線が見えない。

 確かにウバメの森に執着していたから可能性はあるだろうが、何故こうも断言できるのかと。

 

「オーキドから仮面の男がルギアを捕らえたという話を聞いたからじゃ。

 こいつとは旧知の仲でな。何か知らないかとすぐに知らせてくれたわい」

「ルギアも何か関係があると?」

「……このボールを作るために必要となる捕獲網、キャプチャーネットを編む材料。

 いくつか手がかりはあるが、その一つがルギアが落とす『ぎんいろのはね』なんじゃ」

「そんな!」

 

 信じられない。その叫びを聞いてガンテツさんは首を横に振る。

 つまり、仮面の男によるルギア捕獲はただ単に戦力の増強ではなかったということ。

 自力で伝説のポケモン捕獲は無理だと判断し、正攻法を挑もうとしている。

 

「ならば今すぐにでもウバメの森に行きましょう! 手遅れになってしまうかもしれない!」

 

 俺はボールを手にするとすぐに立ち上がった。

 もしもウバメの森の伝説のポケモンまで仮面の男に奪われれば、やつの目的は達成されてしまう。

 それだけは何としても阻止しなければならない。

 

「待てい! まだ話は終わっておらん!」

 

 だが駆け出そうとした足はガンテツさんの叫びで止められた。

 

「話って、それどころではないでしょう! 材料がやつの手にある以上、いつ動くかわからない!」

「材料はそれだけではない!」

「……何?」

「え!? まだあんのかよ!?」

「ああ。とにかく座りなさい」

「……はい。取り乱してしまい、すみません」

 

 指差された席に戻り、再び腰掛ける。

 どうも気が急ってしまっているな。情報は疎かにしてはいけないとわかっているはずなのに、やつの話となるとどうしても逸ってしまう。

 

「話を戻す。『ぎんいろのはね』、そしてもう一つ。『にじいろのはね』を紡ぎ合わせると捕獲網を編むことができるという」

「『にじいろのはね』というのは?」

「エンジュに伝わる伝説のポケモン――『ホウオウ』。このポケモンの翼より抜け落ちる羽じゃ」

「『ホウオウ』、どっかで聞いた気が……何だっけかな?」

 

 説明を聞いて何か思い当たる節があるのか、ゴールドは頭を抱え始めた。

 逆に俺は始めて聞く内容ばかりで話を整理することで精一杯だった。

 わかったことはただ一つ。

 

「つまり、仮面の男の狙いは!」

「そうじゃ。おそらくはもう一体の伝説のポケモン、『ホウオウ』」

『君達をここに呼んだのはこれが理由じゃ。仮面の男の目的、まず間違いないと考えてくれ』

「はい!」

 

 オーキド博士にそう言われ、俺達図鑑所有者は背筋を伸ばして答えた。

 敵の狙いがわかったならばこちらも動きやすい。この情報、実に価値があるものだ。

 

「ならばオーキド博士。俺達はエンジュに向かえということですね」

『いや、それも少し違う』

「……は?」

 

 しかし俺の提案はオーキド博士によって切り捨てられた。

 

「何でだよオーキドのじいさん! あの仮面やろうがエンジュに来るんだろ!? だったら俺達が行かなくてどうすんだよ!?」

『話は最後まで聞かんかい! ――実は、今度セキエイ高原でポケモンリーグが開かれる。

 そしてその場ではリーグ戦の前にカントー・ジョウト両地方のジムリーダーが集結し、対抗戦を開く事となった』

「……ジムリーダーが集結!」

「えっと、それがどうしたんですか?」

 

 理解できたのは俺とゴールドだけだった。

 他の者は全員オーキド博士の言葉を理解できず、何故今それが関係しているのかと首をかしげている。

 

「以前、ゴールドが戦った時に発覚したんです。仮面の男の正体はジムリーダーの誰かだと」

「ジムリーダーが!? だって、ジムリーダーといえば街の代表でしょう!? そんなことがありえるんですか!?」

「……間違いない」

 

 間違いないからこそ、俺やサツキさんがここまで調べていたんだ。

 だが結局仮面の男の正体を暴くことは出来なかった。

 オーキド博士たちも善後策を考えていてくれたのか。期待に応えられなくて申し訳ない。

 

『そこで君達にはエンジュとセキエイ高原、二手にわかれて向かってほしい。

 もしも伝説のポケモンが現れれば仮面の男はそちらへ向かうはず。そうなれば仮面の男の正体は割れる』

 

 エンジュに現れ、会場に姿を見せなかったものがいれば、そいつが仮面の男。

 成程。対抗戦というのは建前で、本当の狙いは仮面の男の正体を暴くことが狙い、というわけか。

 

「ですが仮面の男が伝説のポケモンの捕獲を今回ではなく、次の機会に定める可能性もありますが?」

「いや、それはないと思います」

「クリスタル?」

「なぜそう言い切れる?」

 

 俺の疑問をキッパリ否定したのはクリスタルだった。

 彼女も何か知っているというのだろうか。先を促すと、クリスタルはここまでの旅で見たことを話し始めた。

 

「実は以前、ホウオウが降り立つというスズの塔を見たことがあります。

 その時ホウオウの像が光り輝いていました。専門家が言うには、主が戻る時が近いことを示していると」

『……そういうことじゃ。伝説のポケモンがいつ現れるかなどわからん。

 だが機会が限られている中、やつが諦めるとは到底思えんのだ』

「そういうことでしたか」

『ポケモンリーグはセレモニーなども含め、ジムリーダーの行動を数日間縛り続けることができる。

 その数日がやつにとっては致命的じゃ。必ずやホウオウを狙って動き出す!』

「そこが狙い目ってわけだな! 任せな!」

 

 数日間で勝負は決まる。

 ようやく全ての話がつながり、ゴールドは笑みを深くしてオーキドに告げる。

 どこまでも明るいその姿が今は羨ましく見えた。

 正直、俺はどうしても笑おうとは思えなかったし、できるとは思わない。

 

「ですが、二手に分かれるといってもどうするんですか?」

「そうですね。四人いるから二人ずつ二チームに別れるのがベストですけど……」

「なら俺とシュンさん。そんでクリスタルと麦わら君だな」

「……麦わら君って僕のことですか?」

 

 俺を除いた図鑑所有者が今後の方針を話しはじめた。

 ――エンジュ、そしてセキエイ高原。

 まちがいなく仮面の男が現れるのはエンジュシティ。戦いに関しても同じだ。

 セキエイ高原にもやつが来るかもしれないが、目的達成を強行するならばそもそも現れない可能性とてある。

 ……ならば選択肢は一つか。

 

「いや、エンジュシティは一人でいい」

「え?」

「俺がエンジュに向かう。三人はセキエイ高原へ向かってくれ」

 

 議論に割って入った俺の提案。

 突然の意見に三人は硬直するが、我に帰るとすぐに反対してきた。

 

「何を言っているんですか! 一人だなんて危険です!」

「ポケモンリーグを開くとなれば、相応の人が動く。その中で監視、いざという時やつを取り押さえるのはあまりにも厳しい。

 となるとそちらに人数を割くべきだ。むしろ二人じゃ足りなすぎる」

「し、しかし……」

 

 理解はできても簡単に頷く事ができないのだろう。

 クリスタルは歯を食いしばりながら、何も言えずに顔を俯ける。

 本当、よくもこんな嘘をいえたものだと自分を褒め称えたい。

 最初からそんな大層な考えなんてない。ただ単に俺が一人で仮面の男と戦いたいというだけなのに。

 

「それと、実はわしも当日は会場に向かおうと思っとる。わが町の代表、ツクシ君も出ることになっとるのでな」

「……決まりだな。ガンテツさんも秘伝の書を持っている以上、狙われる可能性がある。

 となると、エンジュ1、セキエイ3でうち一人がガンテツさんの護衛、これで問題ないだろう」

 

 ガンテツさんの言葉を追い打ちとして、結論を出した。

 ここまで判断材料があれば反対する理由は無いだろう。

 

「じゃあ、俺がエンジュに行くっすよ! 別にシュンさんが行く必要ないじゃないっすか!」

「この中では俺が一番戦闘に向いていると自負してる。

 イエローさんは戦闘向きの性格ではないようだし、クリスタルはどちらかというと捕獲の方が得意。

 さて。ここまで幾つかのジムリーダーと渡り合ってきた俺とお前、どっちが適任だ?」

 

 正論を武器に、ゴールドの善意を押し切った。

 もはや言い負かせないと判断したのだろう。ゴールドは俺から顔を背け、小さく舌打ちした。

 ……久しぶりの再会を果たしたというのに、残念だ。

 

「では、俺がエンジュに向かうということでいいですね、オーキド博士?」

『……うむ。たしかに適任じゃろう。しかし』

「ならば急いで向かいましょうか? それこそ仮面の男がすぐにホウオウ捕獲に動くかもしれません」

 

 オーキド博士の言葉を遮り、問いかける。

 言葉の通り、仮面の男が祭典を放り投げる可能性もゼロではない。

 ならばすぐに動くべきという考えは間違っていないはずだ。

 

『いや、明日の朝にしとくれ。現段階で全ジムリーダーは招集を受け、セキエイへと向かっているという報告があった。

 今は高速の運行手段であるリニアが停止している為にすぐに到着はできん。やつも今簡単には動けんはずじゃ」

「そういうことならば。わかりました」

 

 これ以上食い下がるのはいささか強引過ぎると判断し、渋々と引き下がった。

 

「では明日の明朝、俺はエンジュに向かいます。イエローのおじさんと連絡を取って、旅の準備をしてくるので、後のことはお願いします」

「なっ! ちょっと、シュンさん!」

 

 ゴールドの制止の声を振り切って俺はその場を後にした。

 やることが決まった以上、じっとしてなどいられなかった。

 足取りがどんどん早まっていく事がわかる。

 

「サツキさんは、もういない。だが、仇は必ず現れる……」

 

 俺はどんな表情で今の言葉を口にしたのだろうか。

 わからない。

 もう、俺は、自分のことさえ、わからない。

 

 

――――

 

 

『――以上じゃ。イエローはガンテツの護衛を、ゴールドとクリス君、二人はセキエイ高原でジムリーダー達の動きを見張ってくれ』

「わかりました!」

「ああ! 俺に任せな!」

「全力を尽くします」

 

 三者三様の反応を見せ、オーキドの期待に添おうと笑みを作る。

 話し合いの結果、無茶をしかねないゴールドを抑えるべく、彼に制御役としてクリスタルをつけ、イエローがガンテツと行動を共にすることとなった。

 厳しいクリスタルでも制御ができるか些か不安は残るがベストな選択といってよいだろう。

 

『では、くれぐれも無茶はせんようにな。シュン君にも伝えておいてくれ』

 

 そういって通信は打ち切りとなった。

 ようやく全ての話し合いが終わって各々手を伸ばしたりポケモン達の様子を見たりと緊張をほぐしている。

 

「わしは一度ヒワダに戻る。ではイエロー、セキエイで合流しよう。よろしく頼む」

「あ、わかりました」

 

 用件があるのか、ガンテツは一足先に帰路についた。

 イエローも見送るべく部屋を出る。

 居間にはゴールドとクリスタル、そして育て屋夫婦二人が残された。

 

「さて、どうすっかな。おいクリスタル。ちょっと俺も出てくっから後頼むぜ」

「え? いいけど、どこに?」

「……シュンさんの様子、見てくんだよ」

 

 寂しげな表情を浮べるゴールド。

 よく知る仲である為、余計に不安に思ったのだろう。

 こうしてはいられないと椅子から立ち上がった。

 

「待たんかいゴールド!」

「あたー! ってーな、なにすんだよ!?」

 

 だが立ち上がろうとしたところ、育て屋おばあさんに杖で叩かれた。

 

「お主、何の為にオーキドがここを指定したと思っておる?」

「……は?」

 

 文句を言おうとして、おばあさんに諭された。

 確かにガンテツは重要な情報を話したものの、育てや夫婦は特に事件に関する情報を知っているわけではない。

 ならば何故オーキド博士はこの場所を指定したのか。

 考えても答えは浮かんでこなかった。

 

「実はの、お主に渡すようオーキドに頼まれておったものがあるんじゃ」

「もっとも受け取ったのはもっと前のことだがね。これじゃよ。後で読んでおけとのことじゃ」

 

 そう言って二人は一通の手紙をゴールドに差し出した。

 

 

――――

 

 

 その頃、太陽も沈みかけて暗くなり始めた頃。

 34番道路の草むらの一角では夜にも関わらず激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

「うおおおおおおおお!!!!!」

 

 獣の叫びかと疑うほどの激しい咆哮。声の主である俺が思うのだから、誰もが思うことだろう。

 三匹のポケモン達と共に並行して駆けながら、次々と指示を飛ばした。

 

「サナギラス、“ずつき”! ピカチュウ、“10まんボルト”! バクフーン――“かえんぐるま”!」

 

 “とっしん”してくるラッタの勢いをサナギラスが自慢の硬さで返り討ち。

 空を自在に飛びまわり接近するゴルバットをピカチュウが電撃で蹴散らす。

 ユンゲラーが遠距離から念を飛ばすと、バクフーンが自らの体に炎を纏って突撃し、撃退した。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ! ――くそっ! くそっ!」

 

 一通りの野生ポケモンを撃退し、苛立ちを隠す事無く言葉を荒げた。

 手持ちポケモンのレベル上げというのはもはや建前だ。鬱憤をはらすべく戦い続けるも心に渦巻く闇が掻き消えることはない。

 ただ目的もなく戦い続け、疲れて膝に手を置くのだった。

 

「……本当に、駄目だな。何をやってんだよ」

 

 今感じているのはサツキさんという守りたかった人をを守れなかった自責の念。そして敵を倒そうと思っても本当に倒せるのかという不安、か。

 負の連鎖を断ち切ることができず、結局気分が晴れないままだ。俺はポケモン達を連れてホテルへと戻った。

 

「シュンさん!」

「……ゴールドか?」

 

 そしてその道中で、ゴールドに呼び止められた。

 疲れを理由に無視する事もできただろうけど、ようやく再会できたこいつを前に無視はできなかった。

 俺は声に応じて振り返り、ゴールドへと視線を移した。

 その瞬間、ゴールドの表情が強張ったのを見逃さなかった。

 果たして俺はどんな顔をしているんだろうな。

 俺にはもう、何もわからない……

 

 

 

 

 

 

ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

 

 主人公:シュン

 持っているバッジ:5個 (ウイングバッジ、インセクトバッジ、レギュラーバッジ、ファントムバッジ、スチールバッジ)

 

 

手持ちポケモン

 

 バクフーン♂ Lv48

 ピカチュウ♂ Lv50

 エーフィ♀ Lv49

 ラプラス♀ Lv52

 サンドパン♂ Lv46

 サナギラス♂ Lv52

 

ボックスメンバー

 

 ヘラクロス♂ Lv53

 ピジョット♀ Lv49

 ハッサム♂ Lv48

 

レポートに書き込みました!!

 

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