「サツキ、さん。サツキさん!」
一度目は自分の中での確認の意味も兼ねて独り言のような小さな声で。
二度目はようやく本物だと理解して叫ぶように名前を呼んだ。
ゆっくりとした足取りでサツキさんへと脚を踏み出す。
すると、一歩近づいた事に反応したのか、スターミーが彼女を庇うように前を出た。
まるで俺を敵であると認識しているかのように俺を主に近づかせようとはしない。
思わず再び呆然としてしまった。
スターミーの行動も。それを止めようとしないサツキさんの反応も。彼女は言葉さえ発せず、冷たい目でこちらを射抜いている。
「何で――」
『感動の再会だな。どのような気分だ?』
「ッ……!」
ようやく無事に会えたというのに。それなのに。
仮面の男の嘲笑がさらにこの理不尽に対する憤りを強くさせる。
「お前が! お前がっ!」
『ああ。私が彼女を救いあげただけだ。その対価として、少しこちらに協力させてもらっているが』
「好き勝手に操っておきながら協力だと?」
怒りで頭がおかしくなりそうだ。
一体どこまでこの男は人の心を踏み躙れば気が済むと言うのか。
ゴールドを追い込み、サツキさんを生死不明にまで至らせただけでは飽き足らず。今また彼女を利用して計画を成就させようとする。これだけ人を傷つけて一体何を成し遂げようとしているのか。
『そうだとも。さあ、お前が大切な者がこうして目の前に現れたわけだが――さて、どうする?』
そう言い終えると、動き出したのはサツキさんだった。
スターミーの体の上に乗るとスターミーは宙に浮き、どこかへと立ち去ってしまう。
「どこに?」
仮面の男が彼女をよこしたのはホウオウ捕獲のためではなかったのか。
ホウオウが現れるというエンジュシティを離れるという彼女の行動。
これが仮面の男の命令によるものならば、考えられる事は――陽動作戦か。
『ようやく見つけた人が離れてゆく。お前は任務を選び私を阻むか? それとも任務など捨ててあの女を追うか?』
「――ッ!」
(やはり、俺をエンジュから遠ざける為にこのような真似を!)
仮面の男の挑発が俺の考えを肯定することとなった。
サツキさんの実力を持ってすればこの場で俺を封じ込める事も出来ただろう。だが隙をついて、あるいは何らかのイレギュラーが起こってホウオウ捕獲の際に余計な邪魔立てが入る可能性も有る。
伝説のポケモン捕獲に当たって横槍が入るのは避けたいところ。
だから万全を期してサツキさんを使い、邪魔者である俺を遠ざけようとしている。
(どうする?)
相手の思惑がわかって、それでも判断をすぐに決めることができない。
本当ならばこの場で仮面の男を止めなければならない。だが、サツキさんの後を追いたいというのも俺の本音だ。
難しい決断を前に、ふと父親の言葉が脳裏に蘇る。
『戦わなければならない理由ができるはずだ。大きくわければ、理由は二つある。
一つは――どうしても倒さなければならない
握り締めた拳に自然と力が篭る。
どうしても倒さなければならない
多くの犠牲者を出して、人の心を弄ぶ存在を許せるはずがない。
でも、父の教えはそれだけではない。むしろもう一つの方が俺の中ではより大きな意味を持っている。
『そしてもう一つは――どうしても守らなければ、救わなければならない存在ひとができたときだ』
守らなければならない、救わなければならない
真っ先にかつて何度も目にしたサツキさんの笑顔の数々が蘇る。
――駄目だ。私情を挟んではいけないと頭が理解していても。やはりどうしても、俺は守れる者を守りたい。その想いが募ってしまう。
拳を開き、モンスターボールに手を伸ばしてハッサムを繰り出した。
「ハッサム。スターミーを追うぞ。サツキさんを、連れ戻す!」
俺は仮面の男達のことは完全に無視し、その場から飛び立っていった。
――――
『……行ったか。こちらを阻むようならば予定通りサツキをこちらに戻すつもりだったのだが。むしろ好都合』
シュンがその場を去ったことを知り、仮面の男がポケギア越しにそう呟く。
仮面の男からすればたとえシュンがどのような行動を取ろうともサツキと彼を戦わせる予定だったのだ。相手が他のロケット団員ならまだしもサツキとなればまず邪魔立ては出来ないと考えていた。
結果的に敵が大きく遠ざかったのでホウオウに専念できるのは仮面の男にとって良い事だろう。
氷の体を失ってしまったのは痛いが、それでもこの男がいるならば問題はない。
『私は怒りのあまりこちらに向かってくると思ったのだが。――お前の教えがしっかりと刻み込まれているようだな?』
「…………」
『ふん。まあ良い。では、ホウオウの捕獲と行こうか』
黙秘を決めこむ男にはこれ以上追求せず、仮面の男は命令を下す。
今度こそ、ホウオウを手中に納めるのだと。
――――
ハッサムにスターミーを追ってもらいながら俺は腰につけていたモンスターボールを手中に納め、集中力を高めていた。
「――――ッ! ァァっ!」
胸が締め付けられるような、体が握り潰されそうな感覚を堪え、さらに力を解放し続ける。いつもとは異なり、一匹だけではなく五匹のポケモンにまとめてエネルギーを注ぐという荒業だ。気を一瞬でも抜けば意識を持っていかれそうだった。
時間でみればおそらく十秒も経過していないほどの短時間だろう。それだけの時間だというのに、終わった瞬間に押し寄せる疲労感は尋常ではなかった。呼吸は荒れ、頭は重く、汗も首筋から垂れていく。
(……大丈夫、だよな?)
ポケモン達の治療が完全に終わった事を確認し、安堵と同時に浮かんできたのは不安だった。
果たして今力を使ったことで一体どれだけ命を費やしたのかがわからない。
まさかこの戦いで命を落とすようなことにならないだろうか。思わず死という最悪の予感を浮かべてしまう。
だが、今はそれどころではない。
ポケモン達を腰のベルトへと戻し、そしてピジョットとヘラクロスの空を飛べる二匹を繰り出し、戦闘に備える。
そして同時にポケギアからある人物へと電話をかけた。
「早く、早く、早く!」
中々応答が得られず焦りや苛立ちが募ってしまう。
この間にもサツキさんを乗せたスターミーは飛んでいくが、いつ彼女が別の行動に移るかもわからない。
だから早く出てくれと、ひたすら祈って――祈りは、届いた。
『もしもし、シュン君かね!?』
「オーキド博士! よかった、ようやく通じた!」
相手、オーキド博士と通信がつながった。連絡が取れないままになってしまうかとも考えたが、どうやら最悪の展開は免れたらしい。
『今どこにおるのじゃ? 連絡がないから心配しておったのだが』
「……オーキド博士。時間がありませんので手短に要件を伝えます。お願いします」
『うむ、わかった。それで一体?』
「今俺がそちらに預けているポケモン達を、全員送ってください」
こちらの状態を察して口を挟まないのはありがたい。余計な説明をしなくてすんだおかげで、俺はすぐに要件を告げることができた。
サツキさんと――もしも戦うようなことになってしまえば、俺は正直勝てる予感がしなかった。
だからせめて少しでも勝算を上げておきたい。そう思ってオーキド博士に依頼する。
『ポケモン達を? よし、すぐに送るよう手配する』
「ありがとうございます。お願いします」
『じゃが君がそういうということは、まさか仮面の男が現れたのか!?』
「ッ……」
おそらくゴールド達から連絡がいっていないのだろう。
上手く話を伝えたいところだが、だがどう説明するべきなのか。正直に伝えて良いべきなのか判断に迷う。
正直な話、本当のことを伝えるのは心苦しいが、オーキド博士には状況を正確に把握してもらいたい。その為にはやはりありのままを伝えるべきだろうと結論付ける。
「……仮面の男は予想通りエンジュに現れました。やつの正体は氷で作られた塊、氷人形。こちらに来たのは偽者でした。そちらの方は迎撃したのですが、新手が現れました」
『なにっ!? では君一人で複数を相手にしておるのか!?』
「いえ、今は新手が現場を離れた為そちらを追っているところです。ただ、問題はその新手の人物が……」
『む? シュン君、どうしたんじゃ?』
抵抗を感じて言いよどむ俺を不審に思ったのだろう。
博士に問い返されて、何とか先の言葉を紡いでいく。
「サツキさん、なんです」
『……何? 今、何と?』
「さ、サツキさんが、仮面の男に操られ、現れました」
息を飲む音が聞こえた。呆然としているだろうことは映像が見えなくてもわかる。
「顔にやつと同じ仮面をつけています。おそらくこの仮面が他者を操り縛り付ける作用があるのだと思います」
『ば、馬鹿な。生きて、いや、それよりも!』
「必ず連れ戻します! だからこそ――その為にもポケモン達をすぐに送ってください」
『ま、待ちなさい!』
「頼みましたよ」
制止の声を遮り、俺はポケギアの通話を切った。心配はありがたいけれどこちらに割ける戦力はない。ゴールド達でさえ今はセキエイ高原の監視で忙しいのだから。
俺しかサツキさんを取り戻す戦力はいない。なら、これ以上の会話は無駄だ。
「……多分、無茶をかける。耐えてくれよ」
少し時間を置いて、カバンの中に入っている転送システムを通じてボールが送られてきた。
サナギラスにピジョット、サンドパン。先の戦いには参加していなかったポケモン達。皆体調は万全だ。
これでこちらの態勢は整った。
何としてもサツキさんを取り戻す。そう身構えて――開けた場所にスターミーとサツキさんは降り立った。
(周囲にロケット団員の姿は見られない。一人で、この場所で俺を止めるよう指示を受けているのか?)
「皆、俺達も降りよう」
周りに敵の姿は見えないことを確認して俺達も着陸した。
ハッサム達はそのままボールから出して置き、サツキさんと対峙する。
「……一体、どうしてこうなってしまったんですか?」
「――――」
「何で、サツキさん」
話しかけてみるが予想通り反応はない。俺の姿は見えているはずだが、まるで意識に入っていないような感じがする。そもそも今の彼女に自我というものが存在するのかどうかもわからない。
「無事だったって、安堵すればいいんですかね?」
瞬きだけはするけれど、それ以外は彼女の顔つきに動きが何も見られない。
「あんな気味の悪いクソ野郎の下についたってことを怒ればいいんですかね?」
操っているであろう者を侮辱しても、サツキさんは何も反応を示さない。
少なくとも『仮面の男に忠誠を尽くす』ように洗脳を受けているわけではないのだろう。
「挙句の果てに、何ですかその格好は? そんなボディラインがくっきる出るような服に身を包んで。恥も何もかも捨ててきたんですか? これじゃあまるでち――」
突如、俺の右横を強烈な水流が掠めていく。
発生元は既にボールから出ていたスターミーだ。おそらくは“ハイドロポンプ”だろう。
その水流は俺の頬に一筋の傷跡を作り、そして後方の大木をへし折っていった。
「…………えっ?」
大木が音を立てて崩れ落ちる。
おかしい。
確かに今放たれたのは“ハイドロポンプ”だ。間違いない。
だが、威力が、おかしい。少なくとも今までの特訓の時、先ほどの襲撃の時とは比べ物にならない。
「殺す」
驚き、硬直しているとようやくサツキさんが口を開いた。
しかし発せられた言葉は到底彼女のものとは思えない内容で。
洗脳されている、ということは確実になったのだがタイミングが悪すぎる。
「……あの、一つお聞きしますがサツキさん」
「殺す」
「まさか、とは思いますが。まさか自意識があったりするのでしょうか?」
「殺す」
「あ、はい。もう結構です」
彼女の中では全ての道が俺を殺す事につながっているようだ。
おかげで余計に判断がつかない。
考えられる事としては二つ。
一つは自我がなくてただ命令に従っているということ。
もう一つは自我があるが抑えつけられていて、そして一定の感情ばかりが発現しやすくなっているということだ。
どちらにしても厄介ではあるのだが、前者ならまだ洗脳さえ解けば何とかなるだろうけれど。後者の場合は洗脳が解けた後でも色々厄介ごとが出来る気がした。
「何れにせよ会話は通じないみたいですね。ならば――せめて力ずくであなたを取り戻します」
今は何時までも結論が出ない答えを考えていても仕方がない。
手持ちのポケモン達を全てボールから繰り出す。
一刻も早く彼女の正気を取り戻そうと、ポケモン達へと指示を飛ばした。
――――
「――駄目か! イエローも、ゴールドもクリス君も。皆つながらん!」
研究所ではオーキドが一人怒鳴り声をあげていた。
シュンの連絡を受けた後、オーキドはすぐに彼の手持ちポケモンを送信した後、他の図鑑所有者へと連絡を試みた。しかし現状自由に動ける三人とも連絡がつかない。グリーンは現在ジムリーダーとして動いているし、他の所有者達は何処にいるのかさえもわからない。
誰でも良いから誰か応答してくれと願うが、誰も応じることはなかった。
「いかん。シュン君一人をサツキ君と戦わせるわけにはいかん!」
オーキドとてシュンがそれなりの実力を身につけたということは知っている。
何人ものジムリーダーから力を認められ、仮面の男との戦いも経験した。今の彼の実力は並のトレーナーと一線を画していると言っても過言ではないだろう。かつてのレッド達と同等の力を持っているのかもしれない。
(頼む。どうか早まらんでくれシュン君。サツキ君は、彼女は――)
だがそれでもシュンがサツキに敵うことはありえない。
オーキドはサツキの実力を知っているからこそ、二人が戦えばどうなるか、その結末を容易に察してしまい彼の身を案じた。
(彼女は初代ポケモン図鑑製作の協力者。そして、前々回のポケモンリーグセキエイ大会で優勝を果たした実力者なんじゃぞ!)
レッドと同じ実力を彼よりもずっと前から持っていたというサツキの経歴。彼女と一対一で戦うようなことになれば、シュンも歯が立つわけがない――。
――――
エンジュシティでの攻防が一つの分岐路を迎えた頃、セキエイ高原でも大きな変化が生まれていた。
ジムリーダー対抗戦は滞り行われていく中裏では大きな陰謀が動いていたのである。
ガンテツを補佐していたイエローは何者かの襲撃を受けて意識を失い、今はツクシの控え室を借りて体を休めている。
一方、その知らせを受けて警戒を強めていたゴールドとクリスタルはロケット団の存在に気がつき、幹部と戦闘。無事に勝利を収めることは出来たものの、彼らのリニアカーをコントロールするという目的を阻止するには至らなかった。
しかも二人は幹部が示した映像でホウオウがロケット団の勢力に組しているものと戦っている光景を目にしている。これによりシュンが何らかの危機に陥ったのではないかと不安がよぎる。
二人はこの事態をすぐに他の者達にも知らせると同時に、オーキド博士へと連絡を試みた。
ゴールドは事態を会場のものへと伝達すべく繋がる回線を探し、クリスタルはオーキド博士へと連絡を行う。
クリスタルの方はオーキドが既に準備をしていたのか、すぐに連絡がつながった。
「もしもし! オーキド博士ですか!」
『おお、クリス君! ようやく出てくれたか! 待っとったぞ!』
「大変なんです! エンジュシティで仮面の男の手下と思われる人がホウオウと戦っているし、それなのにシュンさんの姿が見えなくて、連絡もとれなくて! こちらでもイエローさんが襲われるしリニアがのっとられたりと事件が起こってて!」
『く、クリス君落ち着いてくれ。そちらでも色々あったのじゃろうが、まずはこちらの話を聞いてくれ!』
何とかクリスタルを落ち着かせて、オーキド博士はシュンより伝えられた事情を説明しはじめた。
仮面の男が操っていたという氷人形の話。その人形を撃破後に現れたという敵の援軍。
そして最も衝撃的であった、サツキが敵として現れシュンと交戦しているという現状と彼女の経歴。知っている限りの事を話しつくした。
「そんな……!」
一通りの話を聞いてクリスタルは困惑を隠せなかった。信じられない出来事が連続してすぐに受け入れる事など出来ない。
無理もない反応だが、何時までも現実を拒絶してもらうわけにはいかない。オーキド博士は呆然とする彼女に話を続ける。
『辛いじゃろうが事実じゃ。そこで君達は一刻も早く――』
「状況は把握した。んじゃ、俺達はまずこのセキエイの騒動を収めさせて貰うぜ!」
「ちょっ、ゴールド!?」
『待ていゴールド! セキエイでもロケット団が動いておるようじゃが、今はそれよりも』
救出を優先すべきだと訴えるオーキド博士。しかしゴールドはその意見に耳を貸すそぶりさえみせず、メイン会場へ戻るべく走り始めた。
「待ちなさい!」
「……気にしすぎなんだっての」
「え?」
クリスタルも仕方がないとゴールドの後を追う。ゴールドの考えも間違ってはいない。まず目前に迫る脅威を退けるという事が重要というのも一つの意見だ。
だが、それとは別にセキエイの問題を優先しても大丈夫だとゴールドは笑った。
「シュン先輩が『任せろ』って言ってたんだ。なら俺達は任せてこっちの事を解決すべきだ。下手に手伝いにいったって足引っ張るかもしれない。そんなら俺達は今すぐに出来ることをやるべきだろ」
「……うん!」
熱くなって周りが見えなくなっているというわけではなかった。むしろその逆。
ゴールドの中でシュンという存在は非常に大きく、彼の感情を制御するブレーキとなっている。彼への確かな信頼がゴールドによい形で作用している。
クリスタルも実力は把握している。ならば今は彼の言うとおり自分達の役割を果たすべきだ。そのために此処に来て、任されたのだから。
そう信じて戦おう。
二人は考えを同じくしてメイン会場へと戻る。
しかし彼らの前にも巨悪の陰謀が待ち構えていた。
ロケット団はリニアを支配下に置くとすぐさま発進。ロケット団員を載せたままメイン会場内へと乱入する。幸いにもその場にいたジムリーダー達の奮闘により彼らを会場内へと侵入することは防ぎ、リニア内へと押し戻したものの、そこで異変が起こった。
ロケット団員、ジムリーダーがリニア内に載ったタイミングを見計らってリニアの扉が急に閉まり、そのまま走り出してしまったのだ。ジムリーダーはリニアに閉じ込められてセキエイ高原から離れていく。
突然のロケット団の登場によりセキエイ高原は大混乱に陥り、それを鎮める力を持つジムリーダーも去った。
「――ようやく、この時が来たか」
その時に巨悪が姿を見せた。
ゴールドとクリスタルが騒動の鎮静化に務めようと動いている最中、メイン会場の上空に仮面の男が現れた。
「長かった。だがようやく邪魔者どもを一掃し、願いを果たすことができる!」
その傍らに伝説のポケモンであるホウオウとルギアを従えて。
「てめえ!」
「おや、これはまた懐かしい顔ぶれだな。うずまき島以来か」
「此処に来るってことは、やっぱりシュンさんは……!」
「ああ。あの男か。中々勇敢な男だったよ。――最も、もう虫の息だがな」
「はっ。そんな挑発に乗るかっての。あの人がそう簡単にやられるわけあるか!」
食いつく敵を嘲笑うかのように振舞う仮面の男。
ゴールドの眉に一瞬力が篭るが、冷静さを失っては駄目だとかつての反省から踏みとどまった。あの人が易々と負けるはずがないと言い返し、得意げに笑う。
「――たいした信頼だな。だが、これを見てもそう言えるのかな?」
そんなゴールドの表情を見て何を思ったのか。仮面の男はデリバードに命令を下し、宙に浮かぶ氷のスクリーンを作らせた。
「これは……?」
クリスタルもスクリーンをじっと見つめる。しかし映し出されているのは開けた場所に森林が生い茂っているだけのものだ。決して何か異変がある様には思えない。
どうしてこんなものをこちらに見せるのかと疑問を覚えた直後。
――その木々の一部がなぎ倒され、切り裂かれている光景へと場面が変わる。
そしてその周囲にはサンドパンやバクフーン、エーフィといった彼女達が見知ったポケモン達が。シュンがつれていた自慢の手持ちポケモン達が力なく横たわっていた。
「なっ。そんな!」
「……シュン先輩?」
『カ、ハァッ……!』
再び場面が変わる。
ポケモン達の主であるシュンが、同じように地面に仰向けの形で倒れていて。
抵抗の出来ない彼をサツキが見下ろす形で踏みつけていた。