ワカバの導き手   作:星月

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第三十八話 vsヤミカラス のこされたもの

 結果論で言えば、シュンの体がボロボロになったことは不幸中の幸いとも言えた。

 ニドクインの“どくばり”を生身で受けてしまえば本来ならまず助からない。すでに毒が全身に回ってしまい、中毒死してしまっていただろう。だが循環器系統が機能低下したことで全身への毒の周りが遅くなった。

 これによりシュンは毒による死を遅らせ、サツキは無事に彼の解毒を済ませることができた。

 

(血が、止まらない。……血が!)

 

 だが、それは所詮彼の死を遅らせることはあっても、死を免れるようなことにはならない。結局彼の体は既に致命傷の域に達していたのだから。

 背中の木に体重を預けているシュン。彼の呼吸は時間の経過につれて浅くなっていく。

 サツキが必死に彼の未来をつなぎとめようと処置を進めても、彼の命は徐々に弱まっていた。自然治癒力はもう役割を果たさず、ボロボロの体からは少しずつ彼の血が外へと流れていく。

 

(お願い! 止まって!)

 

 『もう無理だ』とどんな名医が見ても答えるだろう。視覚の消失からも読み取れる。シュンの死期は近いと。

 サツキもそれくらいは理解している。だが受け入れられるわけがない。

 自分のせいでこのような目にあった少年をどうして見捨てられるだろうか。

 ――サツキは洗脳下にある間も意識は完全に消えていたわけではなく、記憶も一部ではあるが覚えていた。必死に自分の名前を呼ぶ声も、実力差を実感しながらも向かってくる少年の姿も。

 だからこそ、余計に辛かった。

 

「サツキ、さん……」

「駄目。喋っちゃ――いえ、ごめん。喋り続けて。寝ちゃ駄目だよ」

「その時は、起こしてくださいよ。俺があなたを起こしたみたいに」

 

 目が見えなくなってしまったが、聴覚はまだ残っていたので会話は出来る。掠れ声でありながらもまだ意識は残っていた。

 こんな時でも心配はさせないようにと、冗談交じりで返すシュン。いつものような口調で、いつもよりも弱々しい声は今にも消えてしまいそうな儚いものだった。

 

「――また、泣いて、るんですか? うっ!」

 

 『だとしたら、申し訳ない』とそう続けるはずだった言葉は吐血によって阻まれる。

 

「泣いて、ないよ。見えないから、シュン君がそう思っているだけで」

「嘘、ですね。サツキさんは……本当に、優しいから。嘘を……つ、けば……わかります、よ」

 

 せめてこれ以上彼の心が傷つかないようにと虚勢を張ったが、すぐに見破られた。

 本当はずっと涙がこぼれていた。

 枯れ果てるほど流したはずだったのに、まだ止まらない。彼女が流す大粒の涙は今も溢れ続け血の水溜りの中へと落ちていく。

 

「……ポケモン達、は?」

「皆無事よ。私のポケモン達がそれぞれ手当てをしている」

「無事、か。よかった。――普通の状態、なんですよね?」

「え? 普通? うん。傷は多少あるけれど皆動けるくらいには戻っているわ」

 

 場の雰囲気を変えようと思ったのか、シュンは少し離れた位置で治療しているポケモン達の事を尋ねた。

 今はポケモン達がお互いの傷を癒していた。もっとも重症であったスターミーも“しぜんかいふく”によって痺れを治し、薬によって傷を癒している。

 

「は、ハハッ。そう、か。やっぱり、な」

「どういうこと?」

 

 だが、シュンが知りたかったのはサツキが答えたことではなかったようだ。

 突如笑い始めたシュンに違和感を覚え、サツキは質問の意図を問い直す。

 

「俺、力の解除……して、ない……んです、よ」

「……え?」

 

 力、というのは彼が持つ特別な力のことで間違いないだろう。

 ただ解除していないというのはどういうことなのか。今までの治療や先の戦いで見た光はシュンの体からもポケモン達の体からも消えているのだ。解除もしていないのに消えるはずがない。

ならばどうして?

 

「嘘でしょう? だって今シュン君は」

「そう。力を使って、いるのに、できて、ない。つまりは……もう俺に、余力は……ない、という、こと……」

 

 答えは簡単だ。

 ――シュンの体には、他の何かに分け与える生命エネルギーが残っていないということ。

 力の持ち主の意志に反するエネルギー譲渡の中断。これが意味することはただ一つ、力の使い手の死期が近いという事だ。

 

「そんな!」

 

 あまりにも残酷な事実だった。彼はもうすぐ自分が死ぬという事を察して笑ったのだ。

 

「意志が強い人間は、それでも力を使い果たすまで続けることもあるそうですけど。どうやら俺には、そんな意志の強さも、なかったよう、えぁがっ!」

「シュン君!」

 

 自虐気味に続けることさえ出来ず、また彼の体から血があふれ出した。

 

「……ああ、少し疲れたな」

「頑張って」

「ちょっと、休んじゃ駄目ですか?」

 

 近づく死に気力も尽き果ててしまったのか、シュンは小さく笑って弱音を零した。

 サツキは不安に襲われ強い口調で言う。

 

「駄目。休むなんて絶対に許さない。頑張って」

「……ははっ。厳しい、な」

「そうだよ。私はただ甘やかすわけにはいなかいんだから」

「……」

「言ったでしょ? あなたも一緒に生きなきゃ駄目だって。ほら、旅に出たとき、事件が解決したらホウエン地方に行こうって約束だってしたじゃない?」

「……」

「だから――シュン君?」

 

 少しでもシュンの心を勇気付ける為に、サツキは声をかけた。

 旅の出来事を思い返しているとまた涙が出てシュンの頬に落ちた。そんな事にも気づかないまま話を続けて、ふと彼からの反応が無くなったことに気づいた。

 

「シュン君、しっかり! 寝ちゃ駄目!」

 

 嫌な予感がして頬を叩きながら名前を呼ぶ。

 

「……サツキさん」

「あっ、よかった! なに?」

 

 直後にシュンから返答があった。

 ひとまず最悪の展開が起きたわけではないということに安堵し、サツキは肩をなでおろす。

 

「サツキ、さん?」

「どうしたの?」

「そこに、いるんですか?」

「……シュン、君?」

 

 だが何か様子がおかしい。

 先ほどまで出来ていた会話が出来ていない。シュンの呼びかけにきちんと返しているはずなのに、まるで彼には届いていないようだった。サツキはすぐに彼の異変を感じ取り、名前を口にした。だが、シュンの返答は――

 

「もう、声が、聞こえない……」

「っ……!?」

 

 ――絶望した。

 彼にはサツキの声が聞こえなくなっていた。もう何を言ったとしても彼には届かない。

 シュンは何も見えていない瞳で、何もない空を捉えて、涙を流して、サツキへ尋ねた。

 

「俺は、まだ……この世界にいますか?」

 

 何も感じず、何も見えず、何も聞こえない。彼は自分が生きているのか死んでいるのかどうかも分かっていない。

 あらゆるものを失った少年は、うわ言のようにそう呟き、サツキがいると思っている、何もない空へと手を伸ばす。

 

「ここにいるから! あなたは、今も生きているから!」

 

 彼の手を掴んで、サツキは叫んだ。

 

「だから、生きて! 戻ってきて!」

 

 先ほどシュンが彼女を救ったときと同じように彼の心に訴える。

 ひたすら呼びかけ続けた。

 シュンは答えなかった。代わりに彼の右手は力が緩む、地に落ちる。

 

「……シュン君?」

 

 もう一度。

 呼び掛ける、返事はない。

 頬を叩く、反応はない。

 鼻と口を覆うように手を当てる、呼吸をしていない。

 脈をはかる、何も感じない。

 胸に耳を押し当てる、心臓の鼓動がない。

 

「……ぁぁっ!!!!」

 

 生命反応が消えていた。若い命の炎が消えてしまっていた。

 果たして彼は、最期の瞬間を理解したのだろうか。

 自分の生を感じることができたのだろうか。

 自分の死を受け入れることができたのだろうか。

 誰にもわからない。もはやそれを確かめる術は永遠に失われてしまったのだから。

 

「ごめん、ね」

 

 幼い導き手は、最期の最後まで孤独の運命に翻弄され続けた。

 

「……おやすみ。ここまでずっと戦いの連続で、休む暇もなかったから、疲れたでしょう? ゆっくり、おやすみ」

 

 せめてこれからはゆっくりと休めるようにと。サツキは手のひらでシュンの瞼をなぞった。

 

 

――――

 

 

「……ハッ! ハッ、クハハハハ!」

 

 セキエイ高原。

 瓦礫の山と化した戦場で仮面の男は一人高らかに笑っていた。

 ガンテツを脅し、“時を捕えるモンスターボール”の作成秘伝の書を手にした。邪魔者であるゴールドとクリスタルも蹴散らした。

 これでこの場に留まる理由は存在しない。

 早く目的の場所に旅立とうとして、彼にとっては吉報の知らせに仮面が大きく歪む。

 

「死んだ、か。サツキが洗脳から解かれるというのは予定外の出来事だったが。よく持ちこたえたものだ。貴様らの仲間を褒めてやるといいぞ」

「……ん、だと?」

 

 地に横たわっているゴールドを嘲笑うように告げる。

 『お前達の仲間が死んだ』と仮面の男は言った。この場にはいない仲間、つまりシュンのことを指しているのだろう。だが敵の言う事など信じられるわけがない。

 ゴールドは顔だけを起こして仮面の男をにらみつける。

 

「ふざけた事ぬかしてんじゃねえぞ。死んだだって? てめえ、シュン先輩が死んだって言うのか? 適当なこと言ってんじゃ」

「死んだよ。そもそも、以前から貴様は知っていたのではないか? あの男が力を使い果たすようなことがあれば、その場で力尽きるということを」

「なっ――!?」

「どうやらよほど追い込まれたようだな。限界まで命を使い果たしたようだぞ。文字通り命がけ、というわけだ。サツキと互角以上に渡り合うとは驚いた。先に仕留めておいて正解だった」

 

 追い詰められた人間が見せる捨て身の行動は読みきれない。

 だからこそ仮面の男はシュンに対してサツキを仕向け、消耗するように仕向けたのだと語る。

 全てが己の思惑通り。

多少のズレこそあるが、計画に支障はない。事が上手く進み、仮面の男は上機嫌の様子だった。

 

「ま、待てよ!」

 

 敵の様子から、おそらくシュンが死んだということは事実なのだろう。

 ゴールドも覚悟はしていた。最悪の予想はしていた。あの人ならば、大切な人のためならば命をかけてしまいかねない。

 だから本当にシュンが死んでしまったのかと半信半疑になり、それ以上に理解できないことに気づいて仮面の男へ問いを投げた。

 

「なんで、なんでテメエがシュンさんの力のことを知っているんだ?」

 

 本来ワカバタウンに伝わる力は所有者の希少性もあって全くといっていいほど知られていない。ましてシュンがその力を持っていると知っているのはかなり限られた人物だけだ。

 これまでのシュンが仮面の男と戦った時も、ワカバの力は見せていないと聞いている。

 しかし今の仮面の男は知り尽くしているような口調であった。一体何故この男はそこまで知っている?

 

「なんでだと? 決まっているだろう。やつが力を持っていると知っている人間に聞いたからだ」

「知っている人間?」

 

 そう言われても答えは出てこない。該当する人間は大体わかっているが、皆仮面の男と通じているとは思えない人物ばかりだ。

 ゴールドをはじめ、オーキド博士とウツギ博士、そしてシュンの母。四人とも彼の身を案じていて敵と通じているとは思えない。

 あるいはサツキを洗脳する前に尋問でもしたのだろうか? だが彼女は洗脳以前に生命の危機に瀕していたのだ。そんなことが出来るとは思えない。洗脳されたロケット団員の様子を見ると何もかも自由に操れるようには見えなかったため洗脳後に聞いたということもないだろう。

 だがそうなるともはや思い当たる人物はいない。あと知っている人間がいるとすれば、今は所在が明らかになっていない――

 

「……ま、まさか!」

 

 ひたすら考えて、ゴールドは正解にたどり着いた。

 

「その通りだ。よく知っている人間がいるだろう。私が聞いたのはシュンの父親――エイジだ」

 

 一人だけいた。行方不明となっているシュンの父親、エイジ。彼から仮面の男へと情報が渡っていた。

 ゴールドも行方がわかっていない事は知っていた。まさかこのような所で、敵の口からその存在が打ち明けられるとは思ってもおらず驚愕する。

 

「警察と連携して活動を行うポケモンレンジャーだった為か、やつは逸早くウバメの森で起こっていた異変を察知した」

 

 仮面の男が時間を捕える為に動き出したのは最近のことではない。数年もの時間をかけて挑み続け、しかし叶うことはなかったものだ。度々ウバメの森を訪れては挑戦し、願いを叶えようとしていた。

 その為には森に入って来る者がいれば邪魔になりかねない。かつてゴールドに仕向けたように自然現象に見せかけて侵入者を排除する必要があった。

 しかしその変化をポケモンレンジャーであるエイジによって発見された。

 

「事件が起こっているという確信はなかったのだろう。他の仲間には知らせずにウバメの森を調査し、私の存在に気づいて勝負を仕掛けてきたよ」

「……何をしたんだ?」

「私の邪魔をする可能性がある職に所つく者を、そのまま帰すわけがないだろう?」

「じゃあテメエが! テメエのせいで――どんだけ腐っていやがんだテメエは!」

 

 これほどの敵を相手に個人単位で挑むとすれば。その結果は語るまでも無い。

 エイジは捕えられ、情報をはかされたということだろう。そして仮面の男のせいで彼ら家族の関係は壊された。父親が消えてからの様子は聞き及んでいる。その為にシュンが心に負の感情を懐いていたということも。

それらも全てこの男のせいだとわかって、ゴールドは激昂を抑え切れなかった。

 

「――怒り狂うのは勝手だが、少しは感謝してほしいものだが。こちらはせめてもの気持ちで、シュンにはプレゼントを贈ったのだから」

「何を言ってる。プレゼントだと? 人のことを馬鹿にするのも大概にしろ!」

「ふっ。事実なのだがな」

 

 だから今のゴールドには仮面の男の真意は伝わらない。仮面の下で口角を下げた仮面の男は、数ヶ月前の出来事を思い出していた。

 ロケット団の首領としてではなく、表の顔としての副業をしていた時のことだ。

 エイジから預かっていた荷物の中にあったポケモンの卵。後にその親は彼がつれていた一体、バクフーンとわかった。

 その卵が少しずつ動き出したかと思えば、突如卵の殻に皹が入り始めたのだ。

 

「これは……!」

 

 卵の動きは大きくなり――ヒノアラシが孵った。

 仮面の男はかつてもポケモンを孵したことがあった。おそらくそういう素質があるのだろう。今回もまた一匹の新たな命を生み出したのだ。

 

「……フン」

 

 幼く弱いポケモンを従えても今からでは間に合わない。あるいは残された善意が働いたのかもしれない。

 仮面の男は部下に命じてワカバタウンにまで行かせて――そのヒノアラシを逃がした。

 後にこのヒノアラシはウツギ博士によって保護され、彼を通じてシュンの元に渡ることとなる。

 

 

――――

 

 

「皆、もう大丈夫ね?」

 

 エンジュシティの郊外で、サツキは準備を整えていた。

 ポケモン達はしっかりと回復を済ませていた。シュンの持ち物にあった回復薬も拝借したおかげで万全の状態。いつでも旅立てる状態だ。主の呼びかけに力強く頷く。

 

「あなた達はどうする?」

 

 続いてサツキはシュンのポケモン達の方を振り返った。

 ピカチュウ、バクフーン、バンギラス、ピジョット、サンドパン、ラプラス、ヘラクロス、エーフィ、ハッサム。九匹も回復を済ませている。戦力として出来ることならばついてきて欲しい。

 だが、皆がシュンを囲むようにじっと立ち尽くしている姿を見て、考えるまでもなかったことだと息を吐いた。

 

「そうね。あなた達は、シュン君を守っていて」

 

 意思を汲み取り、サツキからもお願いする。

 九匹は揃って静かに頷き、今一度シュンの顔を見つめた。

 

「……戻ってくるから、待っていてね」

 

 少し冷たくなった頬を優しく撫でる。

 シュンの体勢は先ほどと変わっていない。ゆっくりと誰にも邪魔されないように眠らせてあげたかったが、今も進行している仮面の男を止める為にはすぐに動き出さなければならなかった。

 だから必ずここに戻ってくることを約束して、サツキはシュンと別れた。

 

「行きましょう。スターミー、移動はお願いね。絶対に――ッ? え?」

 

 改めて決意を露にすると、足元を小さな力でつつかれた。

 彼女のすぐ後ろでシュンのピカチュウが呼び止めていたのだ。

 

「ピカチュウ? どうしたの? ……それは、メール? まさか私に?」

 

 ピカチュウが口にくわえていたのは“にがおえメール”。

 決戦の前にシュンが書き残していたものだった。

 リュックの中からメールを取り出すと、トレーナーの命令どおりにサツキへとメールを渡す。

 一体何が書いてあるのかわからなかったが、理由もなしにこのようなものを託していたとは考えられない。

 

「ありがとう。戦う前に読んでおくね」

 

 だから彼が残したメッセージはしっかり受け取るということを約束して、サツキはその場を後にした。

 

「……ピッカ」

 

 スターミーに乗って去ったサツキの姿を見送り、九匹は動かなくなったトレーナーともう一度向かい合う。小さく、震える鳴き声が木霊して、その後は静寂が空間を支配した。

 

 

――――

 

 

「やっぱり、あなたからよね」

 

 スターミーの体に乗ったまま、サツキはメールの中身を読んでいた。

 メールはやはりシュンからであった。

 一言一句読み落とさないように、しっかりと目に焼き付ける。

 

 

『――――サツキさんへ。

 この手紙はもし俺に何かがあった時、ピカチュウに渡すように指示しておきました。だからもしもサツキさんがこの手紙を読むことがあるとすれば、その時はおそらく俺はもうこの世界にはいないと思います。

 うずまき島の戦いでサツキさんが仮面の男に連れ去られ、オーキド博士もあなたの生存は望めないと語っていましたが、それでもあなたは生きていると、そう心のどこかで信じたくてこの手紙を残しました。

 俺はやはり仮面の男を許せない。平気で人の命を弄び、利用する悪の存在を野放しにしておけない。

 ゴールドに止められ、そしてきっとおそらくあなたも止めるでしょうが……俺はやろうと思います。絶対にあいつは生かしておけない。

 そしておそらく今の俺の、俺のポケモン達の力だけでは勝てないと思います。だからあなたとの約束を破り、力を行使することを決意しました。

 本当に申し訳ありません。あれほど固く誓った約束を破る事を、どうか怒ってください。これは俺が決めたことです。だから、どうか俺が消えたとしても悲しまないでください。

 最後に、ピカチュウには伝えましたが俺のポケモン達のことをお願いします。

 そしてもしもワカバタウンに寄ることがあれば母さんに俺は旅に出たと伝えてください。

 今まで本当にありがとうございました。どうかサツキさんは幸せになってください。

                                    ――――シュン』

 

 

 読んでいる途中から、サツキのメールを握る手が震えていた。

 彼は最初からこの戦いで命が終わることを覚悟していたのだ。巨悪を相手に自分ひとりでは敵わないかもしれない。だからその時は死を覚悟の上で敵を倒す。

 これは自分で決めた自分の意志だから、どうか傷つかないように。サツキだけは、生きているならば幸せになって欲しいと。

 

「……馬鹿!」

 

 手紙の中でさえ、他人への配慮ばかりであった。

 許しを乞う言葉さえなく、ただ後の心配ばかりして、自分のことを考えていない。そして自分が消えた後の周りの人間のことを考えていない。

 なぜ、わかってくれなかったのか。――いや、違う。

 本当はわかっているはずだ。わかっていたはずなのだ。

 ただそれが目に入らなくなってしまうほどに敵を許せなくなっただけ。

 

「謝るのは私の方、なのに。本当に、ごめんね……」

 

 全てはサツキがいなくなったことが原因。それにより再び彼の心が負の塊と化してしまった。

 謝る相手がいなくなってしまった今、償う事さえ出来ないけれど。せめて彼が救ってくれた自分が、彼の代わりに役割を果たさなければと自らを奮い立たせる。

 脇目も振らず決戦の舞台へ一直線に向かう。さらにスターミーは加速――彼女達の進路先に、突如ゴルバットとヤミカラスの集団が立ち塞がった。

 

「“エアカッター”!」

「“だましうち”!」

 

 ロケット団残党達のポケモンであった。

 仮面の男の命令により、邪魔者達を排除する役割を受け持っているのだろう。

 一歩も先を進ませないようにと一斉に襲い掛かる。

 

「邪魔しないで! スターミー、“10まんボルト”!」

 

 しかし彼らは彼女の足止めを果たす事は出来なかった。

 スターミーのコアより放たれた強烈な電撃はとりポケモン達を一挙に攻撃。その威力は強烈で、一撃で戦闘不能となり、ゆっくりと地上に落ちていった。

 

「行くわよ、スターミー。急いで――ウバメの森へ!」

 

 涙を払ってサツキは自慢のポケモンへと指示を飛ばす。

 

『よいな。私がホウオウを手にするまで、そしてほこらに光が舞い戻る今日の夕刻まであの少年を引き付けろ。抵抗するようならば――殺せ』

 

 行き先は、仮面の男も向かうと予測される場所。洗脳された時の命令から予測される、『ほこら』が存在するウバメの森だ。

 ジョウト全土を揺るがす物語が、結末を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

 

 主人公:サツキ

 持っているバッジ:16個

 

手持ちポケモン

 

 スターミー Lv88

 ニドクイン♀ Lv91

 ギャロップ♀ Lv83

 サンダース♀ Lv85

 キレイハナ♀ Lv86

 メタグロス Lv74

 

レポートに書き込みました!!

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