ワカバの導き手   作:星月

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第四十一話 vsメタグロスⅡ ならば悪友とともに

 セキエイ高原を発ったゴールドはバクフーンに全速力で走るように指示を出し、ひたすら仮面の男が目的とする場所・ウバメの森を目指していた。

 

「絶対に逃がしてたまるかよ!」

 

 体に負った傷は大きいが気迫はそがれていない。ポケモン達の回復もこの移動中に済ませた。

 準備は万端だ。追いついたならすぐに挑み、そして今度こそ倒してみせようともう一度覚悟を決める。

 そうして追いかけること数十分。

 

「——ハッ?」

 

 ようやくウバメの森へとたどり着いたゴールド。到着した彼は、突如上空に生じた異変に驚かされることとなった。

 

「なっ。なんだありゃ!?」

 

 空がゆがむような、歪な光景。

 すでにサツキと仮面の男の一度目の戦闘は終わりを迎えていたのだ。

 その場で立ち止まり、上空をにらんでいると、謎の巨体が空間へと吸い込まれていく姿が目に映る。

 

「まさか、あれが仮面の男だって言うのか!? 急げ、バクたろう!」

 

 ウバメの森で起こった謎の現象。

 おそらくは怨敵が関与しているのだろうと結論付けてバクフーンを再び発進させる。

 一度来た森だ。道順はある程度覚えている。

 ほどなくしてゴールドは森の中心部にある祠へとたどり着いた。その祠からはまばゆい光が放たれている。

 

「……あの時と、同じかよ」

 

 思い出したのは、初めて仮面の男と対峙した時の事。

 あの時仮面の男は突如祠の中から生まれた光を目にして動きを止めた。そして光が止むと興味を失ったかのようにその場を後にした。

 思い返せばわかる。きっと仮面の男はこの祠をずっと狙っていたのだ。こうして光がずっと輝きを保っているという事は、今日が敵が目的を果たすのに都合が良い日であるという事だろう。

 

(ただ、どうすればいいんだ? この祠が関係しているんだろうが、この光をどう対処すればいい? やつはこの中にいるのか?)

 

 見ると祠の内部には先ほど見た空と同じような歪な空間が広がっていた。

 何の準備もなしに入るのは危険な気がする。この予感がゴールドの足を踏みとどまらせた。

 しばし考え込むゴールド。すると、彼の頭の上に載っていたいたイエローのピチューがゴールドの頭をはたく。

 

「おっ? どうしたちびっ子?」

 

 ゴールドが衝撃に気づいてピチューに問う。するとピチューは祠を指さして周囲に電気を放つ。この電気が電磁浮遊を引き起こしたのだろう、ゴールドの体が宙に浮く。

 

「お、おいおい!?」

 

 突然の浮遊感に戸惑うゴールド。しかしピチューは放電を止めず、祠をジッとにらみ続けていた。

 

「まさか、本当に行くのか!? あの祠の中に!?」

 

 正気とは思えない。

 あの未知の世界に知識も準備もなしに突入して無事でいられるのか。

 ただ、このままでは何も解決しないというのもまた事実であった。

 

「……よしっ、行けっ!」

 

 ならば選択肢は一つ。ゴールドはバクフーンをボールへ戻すと、ピチューに突撃のサインを送る。

 指示に従い、ピチューの電撃は強まった。すさまじい加速を得てゴールドは時間のはざまの中へと侵入する。

 全身をピチューの電気が纏っているおかげなのか、体に違和感が生じるがそれ以上の事は起きなかった。

 そしてゴールドがまず目にしたのは、やはりサツキと同様過去の記憶の映像である。

 

「なんだこりゃ?」

『俺はゴールド。よろしくな』

『ポケモンの卵!?』

『俺は手段を選ばない。たとえ非合法と責められようとも』

「過去の出来事が、次々と現れては消えていく……?」

 

 かつて自らが経験したものだからこそ、彼もすぐその光景の意味を理解した。

 続々と流れていくかつての記憶。流れは順不同であって過去の出来事が前後しているものもある。

 中にはつい最近の事件の事もあり、唯々この現象について考え始めようとした頃。

 

『あ、あなたは! ——チョウジタウンジムリーダー、ヤナギ!』

『そうだ。私が仮面の男の正体だ』

「なっ!」

 

 自分の物ではない記憶に、目を奪われた。

 サツキの記憶か、あるいはヤナギの記憶か、その両方なのか。誰のものなのかはわからないが、これは間違いなく現実に起きたものなのだろう。今まで不明であった仮面の男の正体が明らかになり、ゴールドを驚愕に目を見開いた。

 

「ヤナギ!」

 

 この場にはいない巨悪の正体を知り、ギリッと歯を食いしばる。

 ポケモンリーグでのジムリーダー対抗戦から意識していた実力者ではある。ただ確信にまでは至らなかった。だからこそ敵の正体に驚きと怒りを隠せない。

 

『どけ! 私は未来を取り戻す!』

『させない! こんなやり方で人を傷つけた貴方を、これ以上好きにはさせない!』

 

 その間に映像はさらに続いていく。

 時間のはざまで発生した最終決戦。ヤナギとサツキの叫びが木霊する。

 二人の実力者が全力でぶつかり合い、そしてその戦いにより生み出された結果が——

 

「——はっ?」

 

 最後の映像が流れて、言葉を失った。

 これより新しい記憶は流れてこない。先ほどと同様、ゴールドの過去の記憶をさかのぼるだけだった。

 嘘だろうと呆然とするゴールド。信じられないまま時間のはざまの空間を浮遊して、そして決着の場にたどり着いた。

 

「おいっ。嘘だろ。こんなっ、こんな決着があるかよ!」

 

 思わずゴールドは叫びだす。鬼のような形相で絞り出した声が時間のほこらの中に響き渡った。

 仮面の男は、手持ちポケモン全てが倒され、時間のほこらの圧力に耐えられず事切れていた。

 サツキは、やはり手持ちポケモンが皆戦闘不能となり、氷の槍に貫かれて呼吸を止めていた。

 最終決戦の結末は相打ち。ヤナギは願いを叶える事が叶わず、サツキも巨悪を裁く事が出来ずにこの空間で力尽きている。あまりにも残酷すぎる結果だった。

 

「くっそっ! なんで、なんでこんな事に!」

 

 怒りの矛先をどこに向けてよいかもわからず、ゴールドはひたすら声を荒げる。

 せめてシュンの代わりに彼が救おうとした人を守り、敵の思惑を止めたかった。

 しかしそんな思いは届かず、ゴールドは最後の戦いに参加する事も出来ない。最悪の結果を全てが終わってから目にすることとなってしまった。目の前の現実をすぐに受け入れることなどできるはずがない。

 

「——ああ。やはり、こうなってしまったか」

「ッ!? 誰だ!?」

 

 茫然自失になりかけたゴールドの耳に、低い声が届いた。

 敵の新手か、警戒を強めて振り返るゴールド。

 

「……えっ」

 

 その声の主を見て、ゴールドは目を見開いた。

 呼びかけたのは40歳近くになるであろう男である。しかもその姿は先ほど、セキエイ高原で見たばかり。あの時は仮面のせいで顔を窺う事は出来なかったが、今はその仮面がはがされてその下にあった素顔が明らかになっていた。

 

「すまない。これはきっと私の無力が引き起こした結末だ」

 

 驚き、言葉を失うゴールドに男は淡々と話しを続けていく。

 

「そんな私が、君に大役を任せるというのは恥の上塗りであることは承知の上で、どうか頼む」

 

 男は伝説のポケモン、仮面の男も欲したセレビィを繰り出してゴールドに願いを託す。

 

「どうかあの子達を救ってやって欲しい」

「——あんた、まさか」

 

 最後まで言葉を続けることが出来ぬまま、セレビィの時間転送が始まった。

 ゴールドの周囲の空間がゆがむ。

 ふと強烈な浮遊感に襲われて。

 直後、この時代からゴールドの存在が消え去った。

 

 

————

 

 

 セレビィの時代を行き来する能力、ときわたり。

 過去、未来、あらゆる時代に飛ぶことが出来るセレビィはゴールドと共にある過去の一点へ跳躍していた。

 

「——う、おっと!?」

 

 突如自分を襲っていた謎の浮遊感が消え去る。

 ただでさえ特殊な空間にいたのだ。感覚が正常にもどった事で逆に戸惑う事となり、体がふらついた。転倒の寸前でバランスを取り、地面にしっかりと足をつく。

 足元には一面に地面が広がり、周囲には森が生い茂っている。どこか自然の多い土地に飛ばされてしまっようだが。

 

「どこだここ? 一体、あの人は俺に何をさせようってんだ?」

 

 先ほどの男、昔からの顔見知りの相手の話を思い出し、ゴールドは頬をかいた。

 救ってやって欲しいと彼は言っていた。この言葉から察するに、まず過去のどこかへ飛ばされたと考えるのは当然だろう。ただ一体何をすればよいのかはわからない。

 見ると、いつの間にかゴールドの腰には先ほどまでなかったセレビィの入ったボールがある。過去に飛ばされた事でおやが自分に移ったという事なのか。

 

「さすがにすぐにこのポケモンで元の時代に戻る、ってのは。……まあ、ありえねえよな」

 

 当たり前の事をつぶやいて、ゴールドは甘い考えを捨て去った。

 今から元の時代に戻ったところで仕方がない。すべての決着がついた時に戻ってはゴールドにとっても益はないと言える。

 むしろゴールドにとってもあの結末は変えたいもの。ならばそれを変える為にもまずはあの男の願いをかなえるべきだろう。おそらくはそれがゴールドにとっても最も良い結果につながるはずと考えた。

 

「とりあえず、現在地の確認からだな。あ、待てよ。ひょっとしてポケギア使えば場所だけじゃなくて飛ばされた時間もわかるのか?」

 

 良い考えだと自画自賛する。ポケギアは高性能のトレーナー補助支援器械だ。電話機能だけではなく地図としての機能や時刻の確認なども可能。つまり、これを見ればセレビィによって飛ばされた場所、時間すべてが把握できる。

 善は急げとすぐにポケギアを起動する。

 

「……えっ?」

 

 そして再び驚かされることとなった。

 今ゴールドがいる時代は、先ほどまでいた時代と全く同じ日。戦っていた為に時間間隔は確かではないが、一時間も変わっていない時代であるのだ。

 唯一大きく異なるとしたら、それは場所。セキエイ高原でもウバメの森でもなく、エンジュシティの郊外にゴールドがいるという事だ。

 

「この時間にこの場所。ってことは」

 

 まさか、と息を飲むゴールド。

 本当に自分の願いが叶うのではないかと目を見開いて。

 ——落石が生じたのではないかと疑うほどの轟音が響き渡った。

 

 

————

 

 

「がっあ……あああああぁっ!」

 

 痛みを抑えきることなど出来るはずもなく、口からは自然と叫びが発せられる。

 森林がかすかに和らげてくれたものの落下の衝撃は大きかった。

 感覚から察するに左腕が、逝った。それだけではない。肋骨もおそらくは。……まだ動けるところを見ると、臓器には刺さっていないはず。それだけが救いだろうか。

 

「ぴ、ピジョット……。すまん、戻れ」

「ピ、ジョォ……」

 

 苦しげに、呻き声を上げながらピジョットはボールに収まった。

 俺を庇ったせいか傷が酷い。おそらくはウバメの森で負傷したとき並にひどいだろう。

 何とかボールにしまうことは出来たけれど身動きは取れない。

 徐々に、こちらへと迫ってくる馬の足音が大きくなる。やがてサツキさんを乗せたギャロップが辿りつき、俺の目の前で停止した。

 俺を見つけるとサツキさんはギャロップから降りて俺の腹の上にまたがり、両腕を首に重ねる。

 

「――殺す」

 

 力を加えると同時に、また彼女に似合わぬ言葉を繰り返した。

 

「殺す」

 

 機械のように。

 

「殺す」

 

 人形のように。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

 呪いのように同じ言葉を繰り返して力を強めていって――

 

「ころころ、す……ころ……す……ぅっ……ぃ、ゃ……」

 

 彼女の目から涙が零れると、徐々に力は弱まった。洗脳に抗っているのだろうか。

 わからない。

 どうしてそんな顔をする。

 どうしてそんな悲しそうな表情で、俺を見る。

 どうして涙を流しながら、戸惑っている。

 俺はあなたを守れなかった身だ。だから俺を殺すことに戸惑う必要などないはずなのに。

 

「うっ、ぁぅ、ううううっ!」

 

 呻き声の直後、再び首を絞める力が強まった。

 抵抗しようとも仮面の男の洗脳はそう簡単には抜け出せないということなのだろう。

 

(……すみません。サツキさん)

 

 彼女の両手に手を伸ばすことさえ出来なかった。

 サツキさんは敵の力にも抗ったというのに、俺はもう抵抗の意志さえ消えてしまった。

 

(俺には――出来ない)

 

 駄目だ。

 もう、これ以上、この人と戦いたくはない。

 

「ギラァアアアアア!」

 

 突然響いた鳴き声。

 それは、俺のサナギラスのものだった。

 命じてもいないのにボールの中でサナギラスは暴れだし、自分のボールを地面にたたきつけて強引に外に出てきた。

 サツキさんへ体当たりし、彼女を俺の上から吹き飛ばす。

 

「ッ」

「サナギラス!?」

 

 ニドクインが彼女の体を受け止め、すぐさまメタグロスが彼女の前に立つ。

 警戒を強める敵に対し、サナギラスも闘争心を露にする。

 

「馬鹿。やめろ、サナギラス! もうお前は戦える状態じゃない。やめろ!」

 

 静止を呼びかけているのに、サナギラスは聞く耳を持たない。

 メタグロスに向かって突撃して――鋼鉄の腕にはじき返された。体の亀裂がさらに歪に広がっていく。それなのに、着地すると再びメタグロスへと向かって行った。

 いくら攻撃力が高いサナギラスといえど、敵は防御が硬い鋼タイプだ。ボロボロの状態で向かっていったせいで、攻撃したはずのサナギラスの方が傷ついていく。ついにサナギラスの体全身に亀裂が走った。

 

「サナギラス!」

 

 これ以上はもう見ていられない。強引にでもボールに戻さなければ。

 左腕が満足に動かせないせいで掴みにくい左腰のボールを手にし、サナギラスへ視線を戻す。

 ボールへ戻そうとして、サナギラスの体の亀裂から眩い光が発せられた。

 

「えっ。これはまさか」

 

 今まで何度か目にしてきた、進化の兆候。

 サナギラスが身に纏う殻を打ち破って――二メートルはあるであろう怪獣のような巨体、バンギラスへと進化を遂げる。

 

「進化。……バンギラス」

 

 今まで待ちわびていた最終進化が、このタイミングで生じた。

 バンギラスはメタグロスの鋼鉄の腕を受けきり、はじき返す。バンギラスが片腕を振るっただけだというのに、メタグロスは後ずさり、地響きが生じた。

 まるで動く災害。たったひと振りでその力強さを敵味方に示すバンギラス。

 

「バンギラス。お前……」

 

 先ほどまでボロボロだったはずなのに、バンギラスはこちらを振り返ると『任せろ』と言わんばかりに息を吐く。

 いや、バンギラスだけではない。

 ピカチュウもバクフーン達も、皆勝手にボールから出てきて俺の前に立った。

 

「皆、なんで……」

 

 なんでそこまでして戦う。

 俺の命令さえ無視して、どうして俺を守ろうとする。

 何も、わからない。

 

『どうしても守らなければ、救わなければならない存在ひとができたときだ』

 

 またしても父の言葉が脳裏をよぎった。

 

「……お前達も同じということか。俺を守ってくれるというのか」

 

 理解すると申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 先ほどまでは俺も同じ思いで戦っていたはずなのに、それさえ忘れて諦めて、ポケモン達に思い出させてもらえるなんて。

 

「みんな、すまない」

 

 こんな俺についてきてくれたポケモン達がボロボロの状態でまだ戦ってくれるというのに俺だけ諦めるわけにはいかない。

 覚悟が決まった。やはり、何としてもサツキさんは救わなければならない。

 

(だけど――)

 

 しかし同時に、冷静になって戦力差が大きすぎるという壁に再び衝突する。バンギラスはメタグロス達にも太刀打ちできるかも知れないが、他のポケモンはそうではない。最終進化を果たした状態でさえ皆呆気なく敗れたのだ。しかも回復が出来ていない。

 勝てる方法はまずないだろう。――たった一つを除いては。

 

「サツキさん。今一度あなたとの約束を破る事を許してください」

 

 本当は考えてはいけない選択肢だが、それでサツキさんを救えるならば。

 やるしかない。集中力を高め、辛うじて自由が利く右腕を前にかざし—— 

 

「——いいや。悪いっすけど、例えその人が許そうとも俺が許さないっスよ」

 

 その右腕が、背後から伸びた腕によって制せられた。

 

「……えっ?」

 

 まず、二人だけだと思っていたはずのこの場所に人が残っていたという事に驚かされた。

 次に、聞き覚えのある声と口調に目を見開いた。

 最後に、振り返り声の主である少年の姿を確認して、言葉を失った。

 

「ご、ゴールド? どうして!?」

「今回は間に合った。すべてを捨てて特攻だなんて無しだ。さあここから大逆転と行きましょうか、シュンさん!」

 

 ここにはいないはずの悪友、ゴールドがこの場に駆け付けていた。

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