ワカバの導き手   作:星月

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第四十四話 vsピカチュウⅡ 過去からの刺客

「どういう事? そんなことがあるわけが」

 

 ない、とは言い切れない。

 未来からやって来て、そして消失したゴールドという存在を思い返し、サツキはその先の言葉を紡ぐことは出来なかった。

 少年——いや、もはや成人したようにも見える顔つきの彼にこの表現は不適切だろう。相対しているシュンとよく似た顔つきの男は容姿だけでなく背丈も伸び、骨格もしっかりしている。たとえ時を渡ったという話が本当だとしても、少なくとも先ほどのゴールドのように時を渡ってすぐの存在、という事ではないのだろう。

 

「それがありえるんですよ。サツキさん」

 

 彼女のつぶやきを肯定したのは、まさにその大人びた男だった。

 シュンに対して向けていた殺意とは打って変わって親しい者に対して向けられる柔らかい笑みを浮かべている。どうやら彼の中でサツキをここで害そうという気持ちはないようだった。

 

「あなたも、私とは面識があるの?」

「もちろん。おそらくその点に関してはそこにいる俺とそう大差はないはずだ。——逃げ帰って来た俺は、あなたと共にこのジョウト地方を駆け巡り、調査をしたんですから」

「……逃げ帰ってきた?」

 

 果たして答えが返ってくるのか半信半疑の問いは、意外にもあっさりと返答がなされる。

 やはり予想通りの内容で、その中でただ一つだけ理解できなかった言葉が引っ掛かり、その言葉を反芻した。

 

「お前が、この時代に来たのはいつだ? そもそも、どのタイミングでこの時代に来たんだ?」

 

 新たに生まれた疑問が解決しないまま、シュンが未来から来たであろう自分へと質問を投げかける。するとまたしても表情が一変し、厳しい視線が彼へと向けられた。

 

「……この時間軸でいうならば、今からおよそ二年後の世界から来た、と言っておこう。二年後から、四年前のこの世界に」

「四年前」

 

 つまりシュンから見て目の前の男は六歳年上、二十歳の自分という事になる。

 やはり予想通り未来からやってきて、しかも今よりずっと過去の世界にやって来た。そっしてこの世界で成長していたという事は驚きの事実だ。

 加えて重要なのは、四年前という時間である。

 

(父さんが失踪した年——)

 

 それはシュンの父・エイジが姿を消した年と合致していた。

 

(それじゃあまさか、父さんが失踪したのもこいつの影響か……?)

 

 さらに推測が広がっていく。

 今まで父の失踪の原因は思い当たる点がなく、ずっと謎のままだった。仕事熱心で家族も大切にしていた父がそう簡単に消えるはずもない。家族よりも大切なものがあるのかと、憤りを抱いた事もあった。

 ——だが、もしもその家族から何かしらの要請があったとするならば話の展望も変わってくる。未来からやって来た、この世界では孤独の息子。信じるのは難しいだろうが、逆に信じれば父ならばきっと助けになるために動きだすだろうことは容易に想像できた。

 

「……わからないな。お前は『俺と大差はない』、『調査をしていた』と言った。ならばなぜその仮面の男に味方する? なぜサツキさんに俺を殺させようとした? お前の目的はなんだ? なんのためにこの世界に来た?」

 

 その一方で先ほどのセリフが正しいならば明確な矛盾がある。

 もしも相手の言葉通りならば、未来の世界の自分も同じように仮面の男と敵対し、調査をしていたはず。それにも関わらずこの世界に来て仮面の男を手助けするように父と行動を共にしていた。しかも親しいはずのサツキを操り、過去の自分を殺害させようとして。

 

「味方じゃない」

「はっ?」

「俺はやつの味方じゃない。一番の目的を達成したならばあいつも俺が倒す予定だった。できなければ後は父さんに全てを託すつもりだった」

 

 そう言って淡々と過去の自分の疑問を切り捨てた。大人の自分からの想像に反した答えにシュンは拍子抜けする。

 

「あいつを止める以上の目的があったというのか?」

「ああ。それ以降の問いに関しては……ここで言うつもりはないな」

 

 さらに問いを重ねるも、大人シュンはサツキを一瞥して言葉を濁すに留まり、未減を避けた。彼女がいる中で話すことはためらわれたのだろう。

 

「……サツキさん。一足先に仮面の男の下へと向かってくれませんか?」

「あなたはここに残るつもりなの? あちらは戦う気のようだけれど」

「今の俺の体では絶対に遅れが生じます。足並みを崩すわけにはいかない。それに、ここに残ることで情報が色々掴めそうなので」

 

 その様子を察し、シュンはサツキに先に行くように促した。

 どちらにせよ仮面の男の行く手を阻むために出発しようと考えていたのだから妥当な判断ではある。

 ただ、気になるのはやはり自分同士の戦いが繰り広げられようとするこの現場を放棄してよいのか、その一点だったが。

 

「私からも頼む」

 

 そんな彼女に、エイジが一歩前に出て嘆願した。

 

「息子が言ったように、少なくとも仮面の男を倒すという点に関してはこちらも目的は同じだ。私も同行するので、どうか彼ら二人だけにしてほしい」

「……その言葉を信じろと?」

「信じられないという気持ちはわかる。だがそれを承知の上でお願いしたい」

 

 敵であった者の言葉をそう簡単に受け入れられるはずもない。

 その気持ちを重々理解した上で、エイジは重ねて頭をさげた。

 

「もうあいつには、時間がない」

 

 エイジは大人シュンを一瞥し、悲しそうな声をあげる。

 告げられた情報に、シュンとサツキも視線を戻し、そして瞳を見開いた。

 大人シュンの体から小さな光がこぼれ始める。

 先ほども目にした、未来から来たゴールドと全く同じ現象が起こっていた。

 

「これは……!」

「……驚くことではない。時渡りの目的がなされないとしても、未来が変わった事で矛盾する存在が生じたとなれば消えるのは当然の事でしょう」

「未来が変わった……?」

 

 驚くサツキに大人シュンは静かな声で諭す。

 矛盾する存在というのは今の彼自身の事だろう。

 ただ、未来が変わったという点がシュンは引っかかった。

 

「こいつがいても、時間を遅らせるのがやっとか。——まあいい」

 

 腰のベルトに刺さったモンスターボールに視線を落とし、大人シュンは短く舌打ちする。

 だがそれも一瞬の事。すぐに表情を正すと、彼は目的を達成するべく標的を睨みつけた。

 

「消えるとしても、このままでは終われない。せめて最後に、お前はここで消し去る!」

 

 自分へ向けるものとは思えないほどの鋭い視線。

 ここで存在を抹消する事になんの躊躇いもない、覚悟を決めた気迫が籠った姿であった。

 

「行ってください、サツキさん。——父さん、信じるよ」

 

 その思いを真っ向から受け止め、シュンはもう一度サツキの出立を促し、そして久しぶりの再会でありながらほとんど言葉を交わせなかった父に、せめて最大限の気持ちを伝えようとシュンは真面目な口調で言った。

 

「……後からちゃんとついてきてね」

 

 二人の様子を察したサツキは手早くシュンのポケモン達の回復を行い、そしてメタグロスの背中に乗る。

 

「ああ。二人とも、こちらの事は任せてくれ」

 

 エイジも手短にそう告げるとヨルノズクに乗ってサツキ共々その場を後にした。

 こうして二人の同じ存在だけが残り、真っ向から向かい合う。

 どちらからともなく互いに自慢の先鋒・ピカチュウを繰り出し、臨戦態勢に入った。

 

「どうしても、戦うんだな?」

「そちらにその気がなくてもな」

「なら仕方ない。聞きたい事が山ほどあるんだ。情報を聞きださせてもらう!」

 

 和解の道はなく。その言葉を最後にピカチュウとピカチュウ、同じ個体がぶつかり合った。

 

「「“でんこうせっか”!」」

 

 瞬く間に加速し、黄色い光を残して突撃するピカチュウたち。

 ちょうど二匹の中間の地点で両者が頭から激突。

 威力は拮抗し、周囲には衝撃波が広がって————

 

 

————

 

 

 

 

『悪いな。母さんにもよろしく伝えといてくれ』

 

 そう言って調子のよい声色でゴールドがポケギア越しに新たに友達となったトレーナー・ゴロウへと告げる。

 ようやく探し求めていた家族のようなポケモン・ニョロモのニョたろうと再会できたのだ。喜びが声に籠められていた。

 

『もちろん。で、ニョたろうはどーするでやんすか?』

『それなー。今ジョウト地方全域で通信ができねえんだろ? 仕方ねえから連れ歩くしかねえな』

『そうでやんすねー』

 

 一方で、本来なら家にいるべきこのニョロモどうすべきかとゴロウに話を振られ、ゴールドは頭を悩ませた。

 二人の言う通り、まだジョウト地方ではポケモン・通信システムがシステムダウンの状態。少し前までのようにパソコンを使ってポケモンを送る・受け取るという事が出来なくなっていた。

 

『全くだ。通信システムさえ無事だったなら、俺もわざわざ出てくる必要なかったのかもしれないのに』

『ん?』

 

 彼らの意見に同調する声が近くの草むらから現れる。

 突然ではあるがどこかで聞いたようなことがある声の響きだ。

 ゴールドはゆっくりと後ろへ振り返り、声の主を確認して頬を緩ませた。

 

『しゅ、シュンさん!? シュンさんじゃないっすか! どうしたんすか!?』

『久しぶりだなゴールド。届け物だ。——ついでに、ちょっとお前に同行しようと思ってね』

 

 歓喜の声をあげる後輩トレーナー、ゴールドにつられるように、シュンも笑みを深くする。

 ここから彼らの旅は始まったのだった。

 

 

————

 

 

「ッ!? ……なん、だ? 白昼夢?」

 

 突如脳内をよぎった記憶にシュンは立ちくらみする。

 あまりにもリアリティにあふれた過去の記憶の再現のような映像だったが、シュンには全く覚えがなかった。見えたのはゴールドと自分がジョウト地方のどこかで再会したようなものだったが、二人が再会したのはうずまき島のはずだ。このような経験はしていない。

 

「今のは、まさか……?」

 

 突然の情報に流されかけたが、それでも何とか持ちこたえてピカチュウに新たな指示を飛ばす。

 このような幻覚に惑わされてたまるかと、体を引き締めた途端——再び、覚えのない情報の波が押し寄せた。

 シュンの知らないシュンの記憶が、再びシュンを招き入れる。

 今まで目にした覚えのないほど大量発生したギャラドスが所せましと湖の内外を暴れまわっていた。

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