ワカバの導き手   作:星月

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第五話 vsエアームド 戦士は空高く

「~~ッと!」

 

 朝日を浴びながら体を伸ばし、体内時計をリセットする。

 いつも寝ているベッドとはまた違う感触だったために少し寝づらかったものの、体のほうはきちんと回復している。今日ははじめてのジム戦で緊張はあるものの、万全の状態で臨めるだろう。

 

 ポケギアに目を向けると、今の時間は8時すぎ。朝ごはんは9時ごろに食べるとしてもまだ時間に余裕はあるな。

 のどが渇いたし、ピカチュウをボールからだしてホテルの自販機へと向かった。おいしい水を購入し、水分を補給。そしてそのままホテルから外に出て近くの空き地へと向かう。ボールから残りの三体も出し、皆の動きを確認する。

 

「……うん、大丈夫だ」

 

 ポケモン達もいつも通り――むしろいつも以上に動けている。初めての公式戦、しかも相手は実力者であるジムリーダー。……そして同時に仮面の男である危険性もあるために心配していたのだが、皆それに怯む様子は見られない。

 となるとむしろどのポケモンで挑むのかが問題だな。

 今回のジムリーダーはひこうタイプの専門家(エキスパート)と聞いている。ゆえにピカチュウなどの相性の良いポケモンで挑むのが上策ではある。だがしかし、バトルのルールはそのジムによっても異なってくるのでルールを聞いてから決めたほうが確実か。

 

「皆、もういいぞ。戻って来い」

 

 ピカチュウ以外のポケモン達をボールへと戻し、ピカチュウを肩に乗せてホテルへと戻っていく。調整はこれでいいだろう。あとはジムリーダーに挑むだけだ。

 

 調整を終えた俺はまず隣の部屋――サツキさんがいる部屋へと向かう。

 昨日はサツキさんにいらぬ心配をかけてしまい、きっと疲れているだろう。事実朝起きても俺に部屋にも来なかったし、ポケギアへの連絡もない。

 

「サツキさーん。シュンですけど、起きてますか?」

 

 ひとまず朝の挨拶と朝ごはんを一緒に食べるために、俺はサツキさんの部屋をノックする。

 しばらく返事がなかったためにまだ寝ているのかとも思ったが、その思考の数秒後、部屋の扉が開いた。

 ……開いたのだが、

 

「ふぁ~あ。ん~、……おはよう、シュン君」

「……おはよう、ございます」

 

 寝起きのサツキさんが今にも再び眠りそうな状態で姿を現した。おそらく今起きたばかりなのだろう、髪の毛もセットが崩れている。少し昨日の大人びた姿とは想像もできないのだが……それ以上に今の姿は色々とまずい。

 今のサツキさんの格好は、寝起きなので当然のことながらパジャマなのだが……

 

(パ、パジャマがはだけて……!!)

 

 そう。着ているパジャマは胸元が大きくはだけていて、サツキさんのその絶賛にも値する谷間がこんにちはしているのだ。……朝早くからこのようなご褒美とか、もはや気絶寸前ですよ!

 

「……って、そうじゃない! ここはホテルなんですから。……とにかく中へ!!」

「う~ん……」

 

 とりあえず今の姿のサツキさんを公衆の面前にさらすわけにはいかないのですぐさま部屋の中に入れる。サツキさんも文句を言わずに従ってくれたので一安心だ。

 ひとまず部屋の中を見渡すと、部屋の中は整っているもののベッドの周りは散らかっていた。おそらく扉を開けるときに散らかしてしまったのだろう。とりあえず乱れたシーツなどを綺麗にしていると、突如サツキさんがこちらに歩み寄ってきた。

 

「シュン君、まだ時間はあるよね?」

「はい。朝ごはんもまだ1時間くらいは余裕がありますけど……」

「じゃあごめん。あと1時間だけ寝る。おやすみ」

「へ? おやすみって……うおっ!!」

 

 突如俺の背中に重みが加わる。いきなりのことで支えきれずに、俺までベッドに倒れこんでしまった。……サツキさんに後ろから抱きつかれる形で。

 

(……え? 何、この状況!?)

 

 イレギュラーの連続で俺の頭が情報を処理しきれずにパンクしてしまう。

 そんな俺の状況を知ってか知らずか、俺が悩んでいる間にも背中に当たる二つの柔らかい感触と耳に直接触れてくる寝息が俺の鉄の心をゆるがせている。

 

(ちょっと待って!  部屋の鍵だってしてないんだけど! これで他の人に見られたら絶対誤解されるんだけど!!)

 

 年の近い男女が一緒のベッドで寝ていて、女性の方は服がはだけていて……やばいだろこの状況!

 俺はボールから出ていて唯一自由であるピカチュウに救援の視線を送るが、そのピカチュウは俺に向かって一礼して、部屋の外に出ていってしまった。

 

(ピカチュウゥゥゥゥ! なんでそこで空気を読むんだよ!!)

 

 最後の砦であったピカチュウに裏切られ、もはや打つ手がない。

 サツキさんにいくら呼びかけても寝息しか返ってこないし、というか寝付くの早い!

 いくら体を振り払おうとしても腕を放してくれない。以外に力があるうえに、乱暴には扱えない。こんな綺麗な白い肌を傷つけてたまるか!

 

 俺がどうにかして理性を貫き通し、この場を脱出する方法を考えようとするものの、何もいい案は浮かばず、俺はサツキさんがもう一度起きてくれるまでそのままの状況を保つこととなった。

 

 

――

 

 

「うん、ここのホテルの食事もおいしいね」

「……そうですね」

 

 昨日よりも何割か増しの笑顔で俺に話しかけるサツキさん。疲れが取れたのならばよかった。

 それに対して俺は激しい一戦を終えたかのように疲弊していた。パンをかじるもののあまり味が感じられない。牛乳で次々を流し込んでいく。

 ……大変だった。主に精神的な意味で。よく鋼の理性を保ったと褒め称えてもらいたい。常人だったならばあのままだいばくはつを起こしていただろう。

 

「でもわざわざ起こしにきてくれてありがとう。私、朝はどうも苦手でね。いつも寝起きはひどいのよ」

「いえいえ、それほどでもないですよ」

 

 本当はそれほどでもあったのだが、そこは言わぬが花。むしろあの時のことを覚えていなくて助かる。俺の記憶にはしっかりと刻み込んだけどね。

 しかし本当に先ほどは驚いた。サラダを取りつつ昨日と今日のサツキさんのギャップを振り返ってみるが……昨日のサツキさんの姿は本当に頼れるお姉さんのような存在だったので、こういう自然な姿も見れて嬉しくもある。それを考えると疲れた体が自然と安らぐ。

 

「サツキさん、今日の予定なんですけど……」

「昨日言っていたように、午前中にジムリーダーに挑むのよね?」

「はい。そして次の街・ヒワダタウンへ向かいましょう」

 

 サツキさんの確認に俺は首を縦に動かして肯定する。

 午前中にジム戦に挑み、時間があるならば今日中に次の街・ヒワダタウンへと向かう予定だ。

 キキョウシティはコガネシティ・エンジュシティ方面にも通じているのだが、ヒワダタウンにもジムがあるし、そちらのルートのほうが順序よく回っていけるのでヒワダタウンに向かうと昨日の夜にサツキさんと相談して決めたのだ。

 

(もっとも、ヒワダタウンに向かう理由はそれだけではないけどね……)

 

 サツキさんは知っているかどうかはわからないが、俺はヒワダタウンのすぐ傍にあるウバメの森が気になって仕方がない。だからこそヒワダタウンに向かうことを希望したのだ。

 あの森は、ゴールドが初めて仮面の男と遭遇した場所だと聞いている。となるとあの森にまだ仮面の男について何か手がかりが残っているのかもしれない。今は情報が少しでもほしいとき。些細なことでも見逃せないのだ。

 

「うん。でもまずはキキョウジムのことだけを考えてね? ……ひょっとしたら、キキョウジムのリーダーが当たりなのかもしれないから」

「……はい」

「私も万が一に備えておくけど、シュン君も油断はしないで」

 

 『当たり』か。忠告はもっともだ。いきなり仮面の男と遭遇するなど考えてもいないが、相手は正体不明の悪党だ。油断なんて見せるわけにはいかない。元よりジムリーダーほどの実力者相手にこちらは挑戦する身なのだから。

 朝食を済ませ、荷物をまとめながら俺はキキョウシティジムリーダーとの対戦に向けて意欲を燃やしていた。

 

 

――

 

 

「――ここがキキョウジムよ」

「……はい」

 

 サツキさんの案内でキキョウジムの目の前まで来た。

 ……先ほどまでは大丈夫だったけれど、いざ目の前までくると体が勝手に震えてしまう。扉一つしか空間の隔てがないというのに、こうも感じ取ってしまうとはな。これが戦いへの恐怖や緊張から来るものなのか、それとも勝負を目の前にして感じる武者震いなのかは俺にはわからない。

 だがどちらにせよ、俺には退くことなどできやしない。そのような選択肢など最初から存在しない。俺がすることはただ前に進み続けることだけだ。

 

 ポケモン達のコンディションをもう一度だけ確認し、そして俺は目の前の扉をあけた。

 

「すみません。キキョウジムに挑戦しに来た者ですが……うッ!?」

 

 ジムに挑戦しに来たことを告げようとした瞬間、ジム内に一陣の風が吹き荒れた。

 その風の威力に耐えられずに俺は腕を前で組み目を閉じてしまう。しばらくして風がやみ、ようやく腕を下ろして目を開けると……そこには自慢の鳥ポケモンを従えた、若い青年がいた。この男のポケモンが今の風を吹き起こしたのだろう。ピジョン、ヨルノズク、エアームド。普通のトレーナーでもよく知っているような有名なひこうタイプのポケモン達だ。そしてこのポケモン達のトレーナーがおそらくは……キキョウシティのジムリーダー、ハヤトだろう。『華麗なるひこうポケモン使い』と呼ばれるひこうタイプの専門家(エキスパート)

 だが威力が凄まじい。俺のポッポの“かぜおこし”とはまるで次元が違う。さすが専門家(エキスパート)とよばれるだけのことはある。

 

「やあ、よく来たね挑戦者(チャレンジャー)。俺がキキョウジムリーダーのハヤトだ。君がくるのを待っていたよ」

「……え?」

 

 やはりこの人がジムリーダーのハヤトだった。言われずとも、共にいるポケモンと彼から放たれている存在感で理解はできたことだ。

 ……だがしかし、『待っていた』だと? 俺が今日キキョウジムに挑むということを知っていたのか? 一体どこから情報がもれたんだ?

 

「不思議そうな顔をしているね。ひょっとして覚えていないかな? ……昨夜、31番道路で会ったじゃないか」

「…………あ! まさか、あの時の警察官!?」

「その通りさ」

 

 言われて納得だ。あの時は暗かった上に警察帽子をかぶっていたために気づけなかったが、……たしかに顔が一致する。ということは、俺はジム戦の前にジムリーダーと接触していたというのか。驚きだな。

 

「それじゃあ、ジムリーダーと警察官の二つの職を両立しているんですか?」

「ああそうだよ。もっとも俺の場合は元々が警察官で、ジムリーダーに就任したのはつい最近のことなんだけどね」

 

 ……ジムリーダーになったのがつい最近か。経験や実績では当然のことながら他のジムリーダー達には劣るだろうが、しかしそれでも十分疑いの余地はある。ジムリーダーほどの実力者ならば、一般トレーナーとは実力の差があるだろうからな。

 

(サツキさん、どう思います?)

 

 ハヤトに聞こえないように、小声でサツキさんに声をかける。

 サツキさんも俺の意図を察して余計なことは省いて小声で答えた。

 

(警察官という仕事上、動きに制限がかかるけれどその分逆に警察の動きをつかみやすくはなる。

 ……でも、シュン君が昨日会ったってことはおそらくは一地方の人であってそれほど高い役職ではないはずよ。地位もそれほど高くはないはず。

 警察官とジムリーダーとの両立は難しいし……可能性は低いと思う)

 

 なるほど。たしかに敵組織の情報を得やすいというメリットが警察官にはあるだろう。もしも大きな事件に発展してもその職の都合上、その場に赴いて証拠の隠滅も可能となる。

 だがしかし、ジムリーダーとの兼任は難しいことだし、地位が低いとあまり大きくは動けず、地位が高いと仕事に縛られることになる。となるとこの男がロケット団を率いている可能性はかなり低い、か。

 

(でも、油断はしないでね)

(わかってますよ)

 

 サツキさんに相槌を打って、俺は再びハヤトに視線を向けた。

 

「昨日はどうもありがとうございました。おかげで今日を最高の形で迎えられましたよ」

「それでいい。俺もジムリーダーとして君の挑戦、真っ向から受けて立つよ」

 

 視線が交錯するが、お互い一歩も譲らない。

 ……やはり、この人が仮面の男とは思えないんだよな。裏表がないというか、悪意を感じられないというか正直というか。本当に警察官の鏡みたいな性格のように思えるんだよな。

 

 

――

 

 

「それではキキョウジム戦を始めるよ。準備はいいかい?」

「ええ。いつでもかまいませんよ」

 

 俺とハヤトはバトルフィールドへと移動する。サツキさんは観客席で俺達の戦いを見ながら様子を伺っている。何かあればすぐに動いてくれるだろう。また、ハヤトの動きを観察するために、ビデオを常にまわし続けるそうだ。

 

「それではまずルールについて説明する。

 バトル形式は2対2のシングルバトルだ。交換はあり、一体でも手持ちのポケモンが倒れたらその時点で勝負あり。いいね?」

「わかりました」

 

 2対2のシングルバトルか。相手の手持ちは先ほどの三体でまず間違いないはず。だがハヤトにも昨日の時点でこちらの手持ちはばれている。……最も、昨日の手持ち(・・・・・・)の話だが。

 

「改めて自己紹介しておこう。俺はキキョウジムリーダーのハヤト。エキスパートタイプはひこう!」

「……俺はワカバタウンのシュンです! 初めてのジム戦、勝利で飾らせてもらいますよ!」

 

 自己紹介は終わり。ここからは本気の戦いだ。お互いが腰のボールに手をかけ、バトルフィールドへとポケモンを繰り出す。

 

「いでよ、ピジョン!」

「行ってこい、ピカチュウ!!」

 

 ハヤトが繰り出した一体目はピジョン。ポッポの進化系だ。

 それに対して俺が出した先鋒はピカチュウ。これは最初から決めていたことだ。タイプ相性でも、ひこうタイプのピジョンにでんきタイプのピカチュウは有利!

 

「……なるほど。セオリー通りでんきタイプで来たか」

「ええ。相手のことをきちんと考えるのはトレーナーの常識ですからね」

「その通り。よく理解しているな。だがしかし、それだけでジムリーダーに勝てるとは思わないことだよ。……ピジョン、“かぜおこし”!」

 

 開始早々、ピジョンが空中へと飛び上がり、その翼を力いっぱい振るってフィールド内に強烈な風を吹き起こす。風はゴウッと凄まじい音を立ててフィールド内を包み込む。

 ……ッ! 先ほどもそうだったが、ただの“かぜおこし”でさえもが桁違いの威力だ。体重の軽いピカチュウは吹き飛ばされないように踏ん張るのが精一杯の状況でへたに動けない!

 

「けちらせ、“つばさでうつ”!」

 

 こちらが動けないという絶好の好機を感じ取ったのか、ピジョンが急降下、こちらへ一直線に向かってくる。だが攻撃が中断したおかげで風はやんだ。

 

「迎え撃て、“でんきショック”!」

 

 すかさずピカチュウに迎撃の指示をだす。

 ピカチュウの体から“でんきショック”が放たれた。昨夜の修行のおかげで電気技の威力は上がっている上に、あたれば効果はばつぐんだ。致命傷を与えられるだろう。

 ――そう俺は甘く見ていた。

 

「その程度の攻撃で、大空を舞う鳥ポケモンを捕捉できると思うな!」

「なにっ!?」

 

 だがピジョンはよける動作を見せず、むしろさらに勢いを増して突っ込んでくる。

 そして今にも命中しようとしたそのときに体を旋回させ、攻撃をよけた。でんきショックは狙いを外れて空高くに消えていく。そして攻撃後で隙ができたピカチュウをピジョンの翼が襲った。

 

「ピカチュウ!」

 

 直撃し、後方へと吹き飛ばされてしまう。受身は取ったものの、ダメージは残っているだろう。

 しかしいまだに攻撃の手はやんでいない。ピジョンは再び空に舞い上がり、そしてこちらに向かってきた。

 

「くっ……ピカチュウ、“でんじは”を……」

「遅い、“でんこうせっか”!!」

「なっ……!」

 

 ピジョンの動きをまずは止めようと思ったが、俺が指示を出す前にすでにピカチュウは攻撃されていた。

 ……速い! 空中から勢いをつけた上での“でんこうせっか”。これでは反応することさえ難しい。

 

 しかも、今の一撃はかなりピカチュウに効いたようだ。戦闘不能まではいかないが、足元がふらついているように見える。

 

「いくらタイプ相性で勝っていても、攻撃があたらなければ何の意味もなさない。そうだろう?」

「くそっ……!!」

「シュン君、早く体勢を立て直して!」

 

 サツキさんの声がいつも以上にあせっているように聞こえる。……やはり、今の俺はそれだけ追い込まれているのだろうな。

 わかってはいた。ジムリーダーがそこらへんのトレーナーとはまったく別の領域にいるということくらい。だが俺の予想以上にはるか高みに彼らは立っている。ポケモンを知り尽くしている。

 

「そろそろ君のピカチュウも限界のようだな。次で決めさせてもらう。……ピジョン!」

「まずい……!」

「シュン君!」

 

 空中で臨戦体系に入っていたピジョンが再びピカチュウ目掛けて急降下する。

 どうする。“でんきショック”はかわされてしまうし、“でんじは”だって通用しない。かといってあの速度をも捉えられるような全体攻撃なんてピカチュウにはまだできないし……

 ……まてよ。全体への技? いや違う、あるな一つだけ! 実践で試したことは一度もないが、ここは一か八かだ!

 

「ピカチュウ、“フラッシュ”だ!!」

「なっ!? くっ……!」

 

 ピカチュウの体が突如、眩しく光り輝く。その光はバトルフィールド全体へと広がった。

 これにはさすがのハヤトも目を封じられた。ピジョンは接近していただけにその影響も大きく、あっという間にその体制を崩し、空中でふらついていた。

 

「いまだ、“でんきショック”!!」

 

 そしてそんなチャンスを逃すわけにはいかない。

 すかさずピカチュウの体から電撃が放たれ、そのまま空中で右往左往しているピジョンに命中した。

 相性が良い上に、強力な電気で麻痺したのだろう、ピジョンはなんとか空中で羽ばたこうとするが、どんどん高度が下がってくる。

 

「ピカチュウ、“でんこうせっか”だ!」

 

 そんなピジョンに向かってピカチュウは勢いよく向かっていく。

 力の限りに速度を出し、ピジョンに向かっていった。かわすことはできずに、ピジョンはバトルフィールドに落ちてくる。

 

「くっ……もどれ、ピジョン!」

 

 それでもまだピジョンは戦闘不能にはいたらなかったが、立ち上がることもやっとの状態で戦闘続行は難しい、戦闘不能寸前の状態だった。ハヤトもそれを判断し、ピジョンをボールへと戻す。

 ……これでピジョンはもう出てこれないだろう。実質2対1だ。数の面では俺が圧倒的に優位に立っている。

 

「……“フラッシュ”、か。長老からいただいたのかい?」

「ええ。昨日の修行を達成した祝いにいただきましたよ」

 

 いただいた秘伝マシンは昨日のうちに早速ピカチュウに使った。普段はあまり役に立たないかとも思っていたのだが……まさかこうして今日の戦闘の助けになるとは思わなかった。

 ハヤトは(てき)に塩を送りすぎたな。修行場所を提示してくれた上に、その修行場所で俺達は新たな技まで覚えてきたのだから。

 

「褒めておくよ。今まで俺に挑んできたトレーナーは数多くいたものの、俺に二体目まで出させた挑戦者は中々いない。それだけ君の実力が本物だということだ」

「……ありがとうございます」

 

 うぬぼれなどではなく、実際そうなのだろう。

 現にピカチュウのような相性で勝っているポケモンでさえハヤトのピジョンに苦戦を強いられたのだ。普通に挑んでは勝利を得ることは難しい。

 

「だが、俺もジムリーダーとして負けるわけにはいかない。……いでよ、エアームド!!」

 

 ハヤトの二体目はエアームド。鋼に包まれた硬い翼を持つ、珍しいポケモンだ。

 ……ピカチュウでも変わらず相性は良いのだが、先ほどのピジョンとの戦いでの傷が残っている。このまま戦わせるのは危険だろう。

 

「戻れ、ピカチュウ。……きっちり仕事を果たしてくれたな。休んでいてくれ」

 

 そう判断するや否やピカチュウをボールへと戻す。先鋒としては十分すぎるほどの働きだった。勢いもこちらにある。

 俺の二体目、鋼の体を持つエアームドの相手に任せるのは……やっぱり、こいつだよな。

 

「行ってこい――マグマラシ!」

 

 ボールから出てきたのは昨日までのヒノアラシではなく、ヒノアラシから進化を遂げ、新たな姿に生まれ変わったマグマラシ。

 

「なに? ……マグマラシだと?」

「え、昨日までは進化なんてしていなかったのに。……いつの間にヒノアラシは進化を?」

「昨日の修行の間にですよ」

 

 ハヤトやサツキさんが驚くのは無理もない。

 昨夜のマダツボミのとうでの修行を行っている間にヒノアラシも成長し、進化に至ったんだ。

 

「修行の成果、か。なるほど、君も本気で強くなろうとしているようだね」

「当たり前でしょう。だからこそ、あなたにも負けはしない!」

「それはこちらも同じことだ! エアームド、“スピードスター”!」

「“ひのこ”で迎え撃て!!」

 

 エアームドの口からは星型の光線が、マグマラシの口からは炎が噴出した。

 お互いの技は真っ向からぶつかり合い、そしてドンッ、と音をたてて爆散した。エネルギーの衝突によって生まれた煙がフィールドに広がる。

 ……力はほとんど互角。あるいはこれでもまだ相手のエアームドのほうが上だ。マグマラシに進化したことで力も大幅に上昇しているはずだが、それでもまだレベルの差があるということか。

 

「エアームド、まきびし!」

「なっ……」

 

 煙がまだ晴れない中、マグマラシの足元に多量のまきびしが撒かれた。

 エアームドは空中に飛んでいるために容易にできたのか。……煙が晴れるまでは攻撃しないと思っていたが予想が外れた。

 だがこれでうかつに移動やポケモンの交代ができなくなってしまった。

 

「“みだれつき”だ!」

「マグマラシ!」

 

 そしてそんな身動き取れないマグマラシに空中からの怒涛の攻撃が迫る。するどいくちばしが何度も何度もマグマラシの体を傷つける。

 

「“ひのこ”でやり返せ!」

 

 マグマラシはもう一度“ひのこ”を発射するが……エアームドは舞い上がり、再び宙に逃れてしまう。

 なるほど、こちらの動きを制限して徐々に攻撃を仕掛けてくる。そして反撃が来る前に回避行動にうつる――ヒットアンドアウェイ方式か。

 まずいな。“ひのこ”も空中に飛んでいる相手には命中しにくいし、かといってあの鋼の体に物理攻撃はほとんど効果をなさない。ピカチュウに交代したとしても|同じ手(フラッシュ)はすでに通じないだろうし、あまりうまくいかないだろう。

 

 ……となると、当初の予定通りにするしかないか。

 

「マグマラシ!」

 

 俺の声に応じて振り返る。しかし俺は何も言わずにただ頷いてだけ見せた。

 他の人たちには何も理解できなかっただろう。だがマグマラシだけはしっかり俺の意図を理解して、笑って頷いた。

 

「何を考えているのかはわからないが、そう簡単にやらせはしない! エアームド、“スピードスター”!」

「マグマラシ、“ひのこ”だ!」

 

 再び二つのエネルギーがぶつかり合う。しかも先ほどよりもお互いに威力が増していた。

 技が相殺され、煙が再びフィールド内に充満する。まさに、先ほどの攻防と同じように。……だがこれでいい。すでに作戦は始まっている。

 

「……先ほどのことで押し切れないということはわかっているはずなのに、まだ技の相殺を狙うか。

 しかし、そちらは下手に動けないだろうがこちらは違う! エアームド、一気に決めろ。――“ドリルくちばし”!!」

 

 まだ煙が晴れない中、エアームドが空中から加速して煙の中へと突っ込んでいく。

 ……驚いたな、まさかいきなり俺のご希望通りに動いてくれるとは。こうなるように誘おうと思っていたのだが、これは嬉しい誤算。

 

 エアームドの体が煙の中をどんどん突き抜けていく。煙が晴れ、マグマラシの体を見つけるまで。

 ……だがしかし、それは間違いだと気づくべきだったな。エアームドがマグマラシに攻撃する前に、ガキッ、と鈍い音がフィールドに響いた。

 

「なっ……エアームド!?」

 

 エアームドのくちばしが地面に思いっきり激突した。

 煙が晴れたと思ったらそこは地面だったのだ。それも仕方のないこと。衝突によって生まれた煙に、マグマラシの出した煙幕を混ぜたんだ。相手が接近してきてくれて助かった。接近すればするほど煙に気づきづらくなるから。

 まきびしと地面に加速した勢いでぶつかったことで、防御力が自慢の鋼タイプといえど大きくダメージを受けたことだろう。ならば今こそが決め時だ!

 

「マグマラシ、“でんこうせっか”!」

 

 痛みにもだえているエアームドの体にマグマラシがたいあたりを仕掛ける。

 ひるんでいるところに横から不意打ちを受けたことでエアームドはバランスを失い、そのまま地面に倒れた。

 さらに、倒れたエアームドの背中にマグマラシが乗り移る。これで空中に逃げようと思ってもマグマラシの追撃を受けることになる。

 

「やれ、“ひのこ”だ!!」

 

 零距離からマグマラシの“ひのこ”が炸裂する。

 エアームドはよけることはおろか防御の構えさえとることができないまま、背中に炎を受けた。

 ズウンッ、相性抜群の攻撃を直に受けたエアームドの体は音を立てて静かに沈み、そして身動きを取らなくなった。

 

「エアームド!!」

 

 ハヤトがエアームドの元へと駆け寄る。俺もマグマラシを体から降ろしてボールに戻した。

 鋼鉄の体は熱を通しやすい。ゆえにマグマラシの炎はエアームドには天敵ということだ。

 

「……エアームド、戦闘不能。僕の……負けだ」

 

 そしてハヤトの口から試合の終了を告げられる。サツキさんからも健闘を称える拍手がされた。

 それはつまり俺の勝利を意味している。……ああ、これで……ジム戦が終わったのか。俺が、勝ったのか……!

 

「よしっ!!」

 

 その場で小さくガッツポーズをする。

 正直危機の連続が続いたために、不安でいっぱいだったが今は勝利の喜びしかない。

 俺は……ジムリーダーに勝ったんだ!!

 

 

――

 

 

「それではシュン君。君にこれを授ける。キキョウジムリーダーに勝利した証――『ウイングバッジ』だ」

「……はい。喜んで受け取らせていただきます」

 

 ハヤトからキキョウのジムバッジを受け取り、バッグに取り付けた。

 バッジはジムリーダーと戦って勝ったことをあらわす勲章であり、その人の実力を示すものである。俺もトレーナーの中でも実力を持っているということが証明されたということだ。

 

「久しぶりに熱い勝負だった。君のような挑戦者はジムリーダーに就任して以来はじめてかもしれない。感謝するよ、シュン君」

「そんなことありませんよハヤトさん。こちらこそ、ありがとうございました」

 

 最後に握手を交わし、彼と別れると俺はサツキさんと共にポケモンセンターへと向かった。

 ……俺自身も、ポケモン勝負であそこまで真剣になったことは初めてだった。あそこまで勝利に執着したことは初めてだった。

 仮面の男のことは関係なしにしても、これからもジムリーダー達のような実力者と戦ってみたいと、不謹慎ながらにそう感じてしまった。それほどまでに、俺は今回の勝負を楽しんだのだ。

 俺にはそのような望みなど、叶うわけがないことだとわかりきっているというのに……

 

 

 

 

 

 

ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………

 

 

 主人公:シュン

 持っているバッジ:1個 (ウイングバッジ)

 

 

 手持ちポケモン

 

  マグマラシ♂ Lv17

  ポッポ♀ Lv14

  ピカチュウ♂ Lv19  

  ヨーギラス♂ Lv25

 

 

 

 レポートに書き込みました!!

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