ワカバの導き手   作:星月

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第四十八話 vsバクフーンⅡ 覚悟の差

 あまりにも衝撃的な光景の連続だった。

 自分が経験していないとはいえ、自分や親しい人たちがたどったかも知れないというもう一つの未来(IF)

 鮮明な映像は実際に目にしたかのような感覚を刻み込み、シュンの心に少なくない影を落とした。

 先のゴールドとの一件はもちろん、もう一人のシュンの抱く強い怒りの本気度から今さら真実かどうかを疑うことはしない。全ての体験を目撃して相手の怒りの理由も察したからこそ、シュンは今一度目の前の敵をあり得たかもしれないもう一人の自分として理解して、

 

「ふざけるなよ」

 

 そして強い怒りを露にした。

 確かに共感できる点もある。もしも自分が全く同じ立場に立ったならば同じことをしていたかもしれない、そんな予感を脳裏をよぎった。それだけサツキという存在を大切に思い、その強さの裏返しとして憎しみが激しくなったという理論は理解できる。

 だが、たとえそうだとしても、シュンには許せない点があった。

 

「暴れろ、バンギラス!」

「おんがえし!」

 

 もう一人のシュンがくり出すバンギラスが見境なく〝あばれる〟のをシュンのバンギラスが迎撃する。巨体をその場で抑え込んでいる間に、さらにシュンのハッサムが飛び出し――

 

「メタルクロー!」

 

 鋼鉄の両腕が敵のバンギラスの右膝を殴打した。

 弱点をついた一撃にその体が大きくよろめくと、一瞬の隙を逃さずバンギラスが敵を地面に叩きつける。

 さらに追撃を、とシュンが指示をくり出そうとした、その時。

 

「ギャラドス、アクアテール」

 

 もう一体の大型ポケモン、ギャラドスの体が大きくしなり、その尻尾がハッサムごとバンギラスを側面から叩き飛ばした。

 

「受け止めろ、エーフィ!」

 

 宙に投げ飛ばされ、無防備になった二匹をエーフィの念で受け止める。

 やはり年季で上回れているぶんレベルは相手の方が上。技の威力も比例して向上していた。

 休む間もなく、今度は素早い動きで空を自在に舞うクロバットが突撃してくる。

 

「さいみんじゅつ!」

「しんぴのまもりだ!」

 

 クロバットが口から敵の眠気を誘う波動を繰り出すと、エーフィはそれを無効化する空間を展開して防ぎ切った。

 得意の攻撃を受け切られたクロバットはそのまま宙に浮かびつつも今度は高速で翼をはためかせる。

 

「エアカッターで吹き飛ばせ!」

「ピジョット、つばめがえし!」

 

 そして鋭い風の刃をエーフィめがけて打ち出した。

 凄まじい速度の斬撃。くらえば他のポケモンたちも被害を受けてしまうであろう一撃。

 これをピジョットが高速旋回を行い、自慢の翼で全ての攻撃をはたき落とした。

 

「バクフーン、かえんほうしゃ! ラプラス、れいとうビーム!」

 

 すかさず反撃の指令を命じるシュン。

 バクフーンの炎がクロバットを直撃し、ラプラスの冷気をまとった光線がギャラドスに命中する。

 まともに受けてしまった二匹の体が大きく仰け反り、後退する。

 

「チイッ! スペックではこちらの方が上のはずなのに!」

 

 何年も年齢が下である忌々しい自分という存在の奮闘に、もう一人のシュンはたまらず舌を打った。

 この時代に来る前も、来てからも励んで来た年月は確かにレベルとして効果を示している。それでも今、打倒する相手を圧倒できない。確かに戦うポケモンたちの数の差もあるだろう。この世界の自分はかつての自身よりも多くのポケモンたちを捕まえ、鍛えてきた。

 だがそれでもここまで善戦されるとは思いもよらなかった。

 

「同じ自分だとしても、違う道のりを辿ったのならばそれは別人だ。確かにお前の気持ちは理解できなくもない。――ただ一点を除いて。俺も、その一点に置いてお前を許さない!」

 

 シュンの鋭い視線が未来の自分を射抜く。逃しはしない、と言外に告げるその目に当てられ、もう一人のシュンはわずかに気後れした。

 

「ただ一点? なんのことだ?」

「なぜだ。なぜお前は俺を彼女に、サツキさんに殺さそうとした!」

「――――」

 

 それは先ほどの戦いの顛末そのものだ。

 あの戦い、本来ならばシュンはあの場で死んでいた。

 他でもないサツキとの戦いで。

 そしてそれを仕組んだのは紛れもないもう一人の自分だということは明白だ。

 

「――彼女には、俺を殺す理由があった。だから!」

 

 かつての時間で自らが犯した罪。その意趣返しなのだと、そう告げるもう一人の自分に。

 

「ふざけた事を言ってんじゃねえよ! 本当にお前が俺なら、そんな事しようとするはずがない!」

 

 容赦のない怒声を浴びせる。

 これこそがもう一人の自分との確実な差異だ。自分ならばたとえ同じように時間を巻き戻したとしても、それだけはしなかっただろうとシュンは口にする。

 

「大切な人を死に追いやって、後悔しておきながら、同じ気持ちをあの人に味合わせるなんて。自分の事しか考えてないだけだろうが! お前は戦うのも、死ぬのも怖かっただけの、ただの臆病者だ!」

 

 語気を強めてそう訴えた。

 戦うのを恐れて巨悪との戦いから逃げて。

 死ぬのを恐れて力の行使を避けて。

 結末を恐れて自らとの決着にも他人を利用して。

 ただ逃げてきただけだと己に告げるシュンに。

 

「……黙れ」

「そんなやつに負けてやるものか。所詮お前は、自分の我儘で戦っただけの」

「黙れよ!」

 

 もう一人のシュンはどす黒い炎を燃やした。相手の言葉を途中で遮り、血が出るほど拳を強く握りしめる。

 

「エレキブル、かみなりパンチ!」

「かわらわりに、ブレイククロー!」

 

 エレキブルが雷を纏った拳を振り上げると、ヘラクロスがその腕をかちあげ、隙ができた胴体にサンドパンの鋭い爪が襲いかかった。

 強力な一撃を受けたエレキブルが膝から崩れ落ちる。

 そして先ほどまでエレキブルの頭があり、隙間となったその空間から飛び出したのは先ほどもシュンのポケモンたちを吹き飛ばしたギャロスの尻尾。

 アクアテールが絶え間なく襲いかかった。

 

「バンギラス、受け止めろ!」

 

 同じ轍は踏まない。

 すでに技を一度見ていた今度はバンギラスが正面から受けきった。苦手であるギャラドスの攻撃だがトレーナーの信頼に応えて堪えたバンギラスはそのままギャラドスを地面に叩きつける。ギャラドスの口から大きく息が漏れる中。

 

「ラプラス、かみなり!」

 

 ラプラスが点高くから振り下ろした雷がギャラドスに降り注ぐ。

 弱点である高威力の大技が致命傷となり、ギャラドスの体は完全にその動きを止めた。

 

「ギャラドスまで……! クロバット! かみつく!」

「遅い! でんこうせっか!」

 

 ここで反撃の芽を繋ぐべく、もう一人のシュンはクロバットに攻撃の指令を下す。

 しかし素早さ自慢のクロバットをさらなる速さで突撃したピジョットによりその攻撃は中断。大きく跳ね返されて、

 

「打ち落とせ、サイケこうせん!」

 

 エーフィの念が纏った一筋の光がクロバットを撃ち抜いた。

 凄まじい速度で放たれた一発を前にクロバットも地面に沈む。

 

「……くっそ! なぜ!」

「終わらせる!」

『ピカチュウ10万ボルト! バクフーンかえんほうしゃ!』

 

 手持ちポケモンの消耗が激しくなる中、二人の指示が完全に一致した。

 勝負を決める場面でピカチュウとバクフーン、シュンの手持ちポケモンの中でも特に彼との繋がりが強い二匹が前にでる。

 そしてピカチュウの電気袋から放たれた電撃とバクフーンの口から飛び出した炎が激突した。

 同じポケモンが繰り出した同じ技。四匹のちょうど中間地点で拮抗した状態でせめぎ合う。

 

「っ」

 

 しかし、徐々にシュンのポケモンたちが繰り出した電撃と炎が、もう一人のシュンのポケモンたちの技を押し込んでいく。

 

「どうして、ここまで差が……!」

 

 決して実力で劣っているとは思えない。年齢の分だけ戦闘経験はもう一人のシュンの方が上のはずだった。

 

「負けられない! 自分自身に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

 差があるとするならば、これまでの経験の内容の差だった。

 シュンはこれまで多くの強敵との戦いを経験してた。仮面の男との直接対決はもちろん、パーバスやロケット団をはじめとした難敵たちを相手に如何に突破口を見出すかという経験を積んだ。

 冒険の過程で覚醒したシュンの図鑑所有者としての力。従来ならば一人のトレーナーが持てる一番バランスの良い数字である6体という枠組を超え、多くのポケモンたちを勝利という一つの結果に導く能力。これはもう一人のシュンに足りないものだった。

 加えてこれまでシュンが酷使してきたワカバの力も影響している。確かに瞬間的な回復及び強化は一時的なものに過ぎない。だが、その力に引っ張られるように、体に刻まれた感覚が努力の値としてポケモンたちの力となっていた。

 

「行け、ピカチュウ! バクフーン!」

 

 最後の一押しと言わんばかりにシュンがパートナーたちに声援を送る。

 するとその声に後押しされたように。10万ボルトとかえんほうしゃの威力はさらに増して――相手のピカチュウとバクフーンを降りかかり。さらにもう一人のシュンをも捉えたのだった。

 

「――ちっ。ここまで、か」

 

 自慢の相棒であるポケモンたちと全く同じ姿の敵から得意技を受けて終わるとはなんという皮肉か。

 電撃と炎に身を包まれる中、もう一人のシュンは悔しげに歯を食いしばった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一人のシュンとの手持ちポケモンの相違点

 同一個体

 ・ピカチュウ…出会いの流れまで同じである唯一のポケモン。

 ・バクフーン…同一個体ではあるが、エイジが失踪していないためにエイジから直接バクフーンの卵を預かり、孵している。出会った順番も手持ちポケモンの中では二匹目となった。

 ・バンギラス…出会った場所は同じだが、この世界線では普通の治療を行なっていたために最初は懐くのが遅かった。

 ・エレキブル…こちらでは手持ちポケモンとして同行。時渡り後、エイジとの通信交換を経てエレキブルに進化した。

 

 その他

 ・クロバット… シュンがゴールドと合流するために旅立ったその道中でゲット。折角の機会と言うことで新たなポケモンとの出会いをしたかった模様。

 ・ギャラドス…いかりの湖のギャラドス大量発生時に捕獲。

 

 ゲットしなかったポケモン

 ・ピジョット…時系列がわずかにずれたことで遭遇がなくなった。

 ・サンドパン…同上。

 ・ラプラス…この世界線では普通の治療で終わったためにラプラスも群れと行動を共にした。

 ・ヘラクロス…情報の漏洩がないためウバメの森で仮面の男の襲撃が行われず、そもそも出会う機会が喪失。

 ・エーフィ…手持ちポケモンに空きがあるためオーキド博士からマサキへの要請がなく、コガネシティの滞在期間も短かったために遭遇せず。

 ・ハッサム…むしとり大会に不参加。




自分との戦い、決着……!
次回からまた物語はさらに動いていきます。
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