シュンがラプラスを手に入れたことにより、彼の手持ちポケモンは合計六匹――ひとりのポケモントレーナーが手持ちとして連れ歩くことができる最上限数へと至った。六匹という数はトレーナーがポケモン達を平等に愛情を注ぐことができるバランスの良い数値であり、ポケモン協会が定めていることである。六匹のポケモンがいれば戦略も広がり、公式戦における全面対決――『フルバトル』も可能。
個人のパーティを組めることになり、これによってシュンも一人のポケモントレーナーとして認められるようになる。数が多ければよいということではないが、それでも六匹のポケモンを連れ歩いているということ自体にもそれなりに意味があるのだ。
そのトレーナーのベストメンバーを象徴する手持ちポケモン。大抵の実力者達は必ずと言ってよいほど六体のポケモンを連れ歩いている。ジムリーダー、四天王、チャンピオン。各々が鍛え上げた自慢のポケモンをバランス調整の意味でも、またどんな戦いにも対応できるようにという意味でだ。
シュンがどんなバトルにも対応できるようになったことで、これから先の公式戦などでも多様なルールに挑戦することもできる。
……だがしかし、これは同時にシュンにとってこれから先の手持ちポケモンの交代や野生ポケモンの捕獲が容易ではなくなったことをも意味する。
現在ジョウト地方の全域にてデータ通信が不通となっており、ポケモン転送システムの使用も不可能となっている。つまり、ポケモンを捕まえたとしてもそのポケモンをパソコンから送ることもできず、逆に誰かに送ってもらうこともできないということだ。
それゆえにこれから先、シュンはシステムが回復するまでの間は今の六匹で凌ぐしかない。新たにポケモンをゲットしたら連れ歩くしかなくなってしまった。
果たしてこれがシュンに影響を及ぼすのか、どのようにかかわっていくのか……
――――
俺は新たに手持ちポケモンに水タイプのラプラスを加え、再びヒワダタウンを目指してつながりの洞窟を進んでいた。正確に言えば来た道を少し戻っているのだが……まあ大差はない。
つながりの洞窟はバトルを仕掛けてくるようなトレーナーも少なかったために、地下から戻ってきてからは順調に道を進んでいる。 “フラッシュ”を覚えているピカチュウもいるために暗い道も何も問題はない。
10分ほど歩いたところで洞窟の内部へと一直線に進んでくる眩しい光が見えてきた。――つまり、つながりの洞窟の出口だ。ようやく暗闇から開放されて外に出れるということで、サツキさんも喜びから急ぎ足に変わる。俺も遅れないように駆け足で一気に光へ向かって行った。
「~~~~よかったッ! 洞窟を抜けたわ!」
「つながりの洞窟、突破ですね」
「うん、無事に抜けられて良かったね」
先ほどまでのおびえた表情が嘘であったかのように笑顔を見せるサツキさんに、俺も一言「そうですね」と笑って返す。個人的にはあのサツキさんの表情をもっと見ておきたかったが……下手に刺激しないでおこう。
だがたしかに洞窟を抜けられてよかった。明るい人工の光、街灯の下で俺は安堵の息を吐く。すでに周囲は暗くなっており、時刻も夜の8時になろうとしていた。さすがに今日はジム戦もせずに休んだほうが良いだろうな。元々今日はヒワダタウンに到着することを目標としていたのだから、予定に支障はでないだろう。
「おおっ! なんだ、君達も洞窟を抜けてきたのか?」
「あら、こんばんは」
「こんばんは。ええ、旅の途中でヒワダタウンに行こうと思っています」
すると出口付近にて小休憩を取っていたのであろう、
この人も今つながりの洞窟を抜けたばかりなのだろうか、顔に若干の疲労の色が伺える。しかしそれでも旅に慣れているのか、その疲れを隠し切るような力強い声だ。
「旅か。それはとてもすばらしい。……となると、君もポケモントレーナーなのかな?」
「ええ、これでもそれなりの実力を持っていると思いますよ?」
「こう見えても彼、キキョウジムリーダーに勝利してジムバッジを手に入れたくらいですから」
自分のことのように自慢げに話すサツキさんの話を聞いて山男はさらに驚愕し、そして興味深そうな目で俺を見てくる。……一般トレーナーではジムリーダーの勝負を見たことさえないという人が殆どだし、この反応は当たり前か。
「これはこれは。それほどまでの実力とはな。なるほど。……どうだい? ここで私と一つ
俺の実力を知りたくなったのだろう、山男は勝負を提案してきた。
別に断る理由もないし、トレーナーである以上は申し込まれた勝負から逃げるわけにはいかない。サツキさんに許可を貰い、俺はこの山男――ツトムの勝負を受けることにした。
「いいですよ、それじゃあさっそく
「ジムリーダーを破ったというその実力、見せてもらおうか! 洞窟を抜けたばかりとはいえ、まだまだ元気十分だぞー!」
――――
そうして始まったシュンと山男のツトムの戦い。サツキはいつも通り少し離れた場所に立ってこの戦いを見届けることにした。
シュン達もつながりの洞窟でのバトルにおけるダメージは残っているものの、それは相手も同じこと。条件はほとんど同じと考えてよいだろう。
……だからこそ、この戦いでシュンがどれほど成長したのか――強いて言えば一般トレーナーとどれほど差ができたのかを見極める機会である。ポケモン達の、そしてシュン自身のトレーナーとしての実力を。
「イシツブテ、行けッ!」
「行って来い、ヨーギラス!」
相手のツトムがまず最初に繰り出したのはイシツブテ。頑丈な石の体の持ち主で、硬い防御力と高めの攻撃力を合わせ持ったポケモン。
対するシュンが繰り出したのは切り札とも言えるヨーギラスだ。先のキキョウジム戦でこそ出番はなかったものの、これまでの戦いでレベルは十分なほどに上がっている。現在のシュンの手持ちメンバーの中では1,2を争うほどだろう。
「イシツブテ、“いわおとし”!」
先に動いたのはイシツブテ。
周囲に転がっている石をつかみ、ヨーギラス目掛けて投げ込んでいく。しかも一つだけでは足りず、次から次へと反撃の機会を与えないように投げ込んでいく。
「“いわくだき”で破壊しろ!」
それに対しシュンは回避の指令ではなく、――むしろ迎撃の指令を出した。その命に応じ、ヨーギラスは己が両手を握り締め、力を込める。
ヨーギラス目掛けてそれることなく一直線に迫りくる無数の岩。どんどん近づいてくるにもかかわらず……ヨーギラスはあせる事無く、構えた。
そして今にも命中しようというところでヨーギラスはその拳をまっすぐ突き出す。すると……ヨーギラスの拳は、岩を一撃で粉砕した。
「おおっ!?」
「……上手い」
ツトムとシュンの口から自然と驚愕と感嘆の声が生じる。
ヨーギラスは投じられた岩すべてを無駄のない最小限の動きで砕き、技を完全に防ぎきった。
「くっ……ならばイシツブテ、“ころがる”!」
その丸い球体を上手く利用し、イシツブテは高速で回転しながらヨーギラスへ突進を仕掛ける。
さすがにこれは“いわくだき”で受け止めるには難しいだろう。もしも“いわくだき”を使うならば、一撃で仕留めない限りはその回転によって生じる摩擦の威力にヨーギラスがやられてしまう。
だが考えている猶予はない。そう言っている間にもイシツブテはどんどん速度を増してヨーギラスに迫った。
「……動きをよく見ろよ、ヨーギラス」
「……」
それでもシュンに焦りの色は見えない。ヨーギラスも
速度を増して突っ込んでくるイシツブテ。もはや今から回避行動をとっても間に合わないだろう。
「……よし、“かみつく”!」
――だからこそ、シュンは攻撃の指令を出す。防御ではなく攻撃の指令を。
ヨーギラスは体を横へ流し、イシツブテの体を自分の体から流して、その腕に噛み付いた。
「なっ!?」
「うそ。……あの速度を捉えたの?」
完全に両腕などの体が丸く収まっていたわけではなかった。わずかに丸くなった対面から出ていた右腕にヨーギラスは噛み付いていた。しかも“ころがる”ことで加速していたイシツブテの動きを見極めて、その威力を相殺して、だ。
ヨーギラスは大きな山一つを食べつくしてしまうというほどの大食いであり、そのために顎の力も発達している。その力は計り知れない。
「そのまま地面にたたきつけろ!」
これで完全に攻守は転換となった。接近戦ならばヨーギラスの
ヨーギラスはイシツブテを口に銜えたまま飛び上がり……勢いよく首を振るってイシツブテを地面へと叩きつけた。その威力は相当なものであり、たたきつけた地面は軽く凹みができていた。
「イシツブテ! 大丈夫か!?」
ツトムが声をかけるものの、すでにイシツブテは戦闘続行は不可能――戦闘不能の状態だった。それを確認してツトムはイシツブテをボールへと戻す。
一撃で勝負を決めたヨーギラスはそれでも驕る事無く、シュンの賞賛に笑って頷いた。
(……確かに強くなっている。シュン君も、ポケモン達も……)
サツキはシュン達のそんな様子を嬉しそうに見ていた。
中でもシュンの成長具合が凄まじい。トレーナーとして求められている冷静な判断力、そして決断力。これは
ひょっとしたら彼は相当なトレーナーに成長するかもしれない、とサツキは誰にも聞こえないよう心の中で呟いた。
「すごいな、まさか一撃でイシツブテを倒すとは……」
ツトムの言いたいこともわかる。イシツブテはその硬い防御が自慢のポケモンなのだが、それを一撃で倒したのだから。レベル差があるとしても、真っ向から力で捻じ伏せたのだからこれは賞賛に値することだ。
「ならば次はこいつだ、ワンリキー!!」
続いてツトムが出したのはかいりきポケモンのワンリキー。格闘タイプで力が強いのが特徴的だ。岩タイプでもあるヨーギラスには相性が悪い。疲労を考えると退くのも一手ではあるが、この流れに乗ってヨーギラスに突破させるという手もある。果たしてどうするのか――
「戻って来い、ヨーギラス。よくやってくれた」
――シュンが取った決断は交代。無理はさせないで他のポケモンに任せることを選んだ。
手持ちポケモンが六匹いるということにはこういう利点もある。一匹を引っ込ませてもまだ五匹もいるという安心感が生まれるということだ。多ければ良いというわけでもないが、それでも少ないよりは断然良い。
「次はお前だ、ポッポ!」
シュンの繰り出した2匹目はポッポ。タイプ相性からしても飛行タイプであるポッポが有利だ。セオリー通りに弱点を突く、望ましい戦い方である。
「ワンリキー、“からてチョップ”!」
「“でんこうせっか”だ!!」
ワンリキーが右手に力をこめ、走り出す。
ポッポも空中へと体を羽ばたかせ、一気に加速した。
お互いが接近戦を仕掛けた。間合いに入れば後は攻撃に移るするまでの『早さ』が鍵となる。
10メートル、5メートル、2メートル……お互いが詰めるために数秒でその距離はなくなる。
――もうすぐ射程範囲にはいる、そう確信したワンリキーは地面を蹴り上げて空中へ跳び、右腕を振り上げ、空中より迫るポッポの頭へと腕を思いっきり振り降ろす。
ドガッ!
……響いたのは一つの音だけ。ポッポがワンリキーの腹へと突っ込んだ音一つだけだった。
ポッポの方が逸早くワンリキーの体に突撃した。
「ワンリキー!」
「……ッ!」
直撃を受けたものの、ワンリキーは何とか体勢を整えて地面へと着地した。
……しかしやはりダメージはかなりのもののようで、すぐに膝をついてしまう。
「ポッポ、“かぜおこし”!」
だからこそ、体勢を整えられる前にシュンは一気に勝負を決めにかかる。
ポッポは思いっきり自分の両翼を動かして強い風を起こす。足元がふらついているワンリキーは自分の体を支えられず、あっという間に体を持っていかれた。そのままワンリキーは後ろの木へと激突し……そして戦闘不能となった。
「……ワンリキー! くそっ……」
「どうしますか? まだ勝負を……」
「いや、わしのポケモンはこの二匹のみ。……彼の、勝ちだ」
「……試合終了。シュン君の勝ちね」
「まいった。君も、君のポケモン達も元気いっぱいだな! それでこそジムバッジを手に入れただけのことはある!!」
サツキがツトムに歩み寄って勝負の継続を尋ねるが、返ってきたのは不可能という言葉。ツトムはワンリキーをボールへ戻し、シュンに一言かけて握手した。
これによりこの勝負は終了。シュンが勝利を収めた。しかもシュン達は相手の攻撃を何一つ受けていない。完全に流れを最後まで渡す事無く勝利した。
――――
ツトムとのバトルを終えると、ツトムは一足先にヒワダタウンへと向かった。手持ちのポケモン達は皆戦闘不能となってしまったし、少しでも早くヒワダタウンに行って休ませたかったのだろう。
「動きが良くなったわね、シュン君」
「そうですか? 自分ではあまり実感ないですけど……」
「そんなことないよ。ジム戦のときと比べても、ずっと成長しているわ」
ふむ、サツキさんがそう言うのだからそうなのかもな。自分ではわからなくても、第三者の視点からのほうがわかるということがある。サツキさんはいつも俺の
「ありがとうございます。こいつらもバトルを繰り返してますから、もっと……うん?」
「ん? どうかした? ……あら?」
先ほどのバトルで活躍してくれたポッポとヨーギラスへと視線を移す。もっと強くなりますよ、と言おうとしたのだが、2匹を見た瞬間言葉が出てこなくなった。そんな俺を不審に思ったのか、サツキさんも視線を2匹に移す。そして俺と同じように固まった。
「どうした、お前達?」
「これってひょっとしたら……」
二匹の体が極度に震えていたのだ。両腕(ポッポは両翼)で体を抱え、震えを抑えようとしている。
先ほどのバトルでの疲労とか、その後の技の後遺症とかでは断じてない。たしか、これはあの時と同じ……
「サツキさん、この状況はヨーギラスとポッポが……」
「うん、シュン君。ポケモン図鑑を出してみて!」
「は、はい!」
サツキさんに言われるがまま、俺はポケモン図鑑をすぐさま取り出して開いてみせた。
図鑑には『……おや!? ポッポの様子が……!』 『……おや!? ヨーギラスの様子が……!』 と表示されている。これはやはり、あの時と同じ現象だ……!
「あの時、マダツボミの塔でのヒノアラシとまったく同じ!」
「……『進化』よ!」
数多くの戦いを経験することである一定の経験値を得たり、一定の条件をクリアすることでポケモン達が成長し、その姿を変える現象。――『進化』。俺のヒノアラシがマグマラシに進化したように、今またポッポとヨーギラスもその姿を変えようとしている。
……時間にしてわずか数秒。
その数秒の間に、ポッポとヨーギラスは『進化』を終えて、その姿を変えていた。
「……進化、した」
「ここまでレベルも上がっていたってことね」
「……『ピジョン』。そして『サナギラス』」
新たに生まれ変わったポケモン達の姿を確認した後、図鑑にもう一度視線を移す。画面には『おめでとう! ポッポはピジョンに進化した!』 『おめでとう! ヨーギラスはサナギラスに進化した!』 と表示されている。
ポッポがピジョンに、ヨーギラスがサナギラスへとそれぞれ姿を変えていた。変わったのは何も姿かたちだけではない。ヒノアラシがマグマラシへ進化したときと同じように、その能力も大幅に成長していることだろう。
しかも今回は二体同時にだ。これほど喜ばしいことはない。仲間が本当に強くなっているということの証でもあり、ここまでの旅が本当に意味があるということを実感できるのだから。
「……そっか。これがお前達の新たな姿なんだな」
「シュン君。やっぱり、少しさびしい?」
「いえ、そんなことはないですよ」
完全にないといえば嘘になる。だけど、俺はサツキさんの問いを否定した。
今までの姿に何一つとして思い入れがなかったわけではない。初めて出会ったときの姿がポッポとヨーギラスであったわけだし、ここまですごして慣れているということもある。特にヨーギラスと過ごした時間は長かった。
……それでも、こいつらが俺のポケモンであるということには何も変わりない。姿が変わっても俺たちの関係が変わってしまうということは何一つないのだから。だから喜ぶことであっても後悔するようなことではない。
「これからまた、改めてよろしく頼むな。――ピジョン、サナギラス」
二匹を胸元へと呼んで、そして抱きかかえる。以前よりも大きく成長したな。前までは軽く収まっていたというのに、今ではもういっぱいの状態だ。なんだかもうすでに懐かしく感じてしまう。
――本当に頼もしくなったな。大きくなった体を見て、そう思える。こいつらとならこれから先もどうにかなるのではないかと思えてくる。
……いや、違うな。どうにかなるのではなく、俺たちの手でどうにかするのだから。自分達の力で道を切り開くのだから。
「……それじゃあ、落ち着いたところでヒワダタウンへと行きましょうか」
「ええ。行きましょう」
ピジョンとサナギラスをボールへ戻し、俺たちは再びヒワダタウンに向かって歩き出した。
……大丈夫。またジムはあるけれど、俺たちならなんとかできる。そう信じる。そう信じよう。
一人じゃない。
ここまでの活躍をポケモンレポートに書き込んでいます…………
主人公:シュン
持っているバッジ:1個 (ウイングバッジ)
手持ちポケモン
マグマラシ♂ Lv18
ピジョン♀ Lv18
ピカチュウ♂ Lv20
サナギラス♂ Lv30
サンド♂ Lv15
ラプラス♀ Lv32
レポートに書き込みました!!