CDFE   作:remono

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  epilogue 2

 

 

「――ずっと待っていたわけじゃないんですよ。何度もあなたのことを忘れそうになりました。それに私のことをずっとほったらかしにしておいて、まだ自分のことを愛してくれていると思っていましたか? 大きな間違いです。私はそこまで馬鹿じゃないですよ。好きな人、たくさん作りました。何人かはあなたより好きだったかもしれません」

 相手は困ったように手を広げる。

「それに酷いです。いまさら現れて、あなたはいったいどうしようと言うのですか? あなたさえ返ってくれば、私が幸せになれると思っていましたか? そんな気持ちで帰ってきたのですか? あなたじゃないと駄目なんて、そんなこと、全然ありません。そんな気持ちで帰ってきたのなら、またあっちの世界に行っても構いませんよ。今度は待ちませんから。早く行ってください」

 相手は何も言わなかった。

「だいたいあなたは何をもたもたしていたのですか? 折原さんはあなたより遅く旅立って、もう帰ってきましたよ? あなたはその折原と言う人の名前知らないでしょうけど。こっちはこっちで時間が流れているんです。あなたの知らない人と知り合いになることぐらい、本当によくあることなんですから」

 相手は困惑した表情を見せる。

「それとここも随分変わったでしょう。前は空き地でしたからね。驚いたんじゃないですか? なんと丸二年経っているんですよ。驚きましたか。反省とかしませんか? 私をここまで待たせておいて。あと少し遅かったら見捨てるつもりでしたよ。本当に見捨てるつもりだったんですよ。……運がいいですね」

 相手は照れたように頭を掻く。

「……好きな人作ったと言うのはうそです。できませんでした。みんなあなたのせいです。ずっと寂しかったのも。幸せじゃなかったことも。つらかったことも。全部あなたのせいです。できれば償ってください」

『どうすればいい? ……どうすれば償える?』と、くごもった声。

「感謝してください。あなたがここに帰ってこれたことを感謝してください。

私は感謝しています、あなたに今ここでまた会えて、言いたいことが言えて。

……まだ好きだったと言うことがわかって」

『わかった、感謝しよう。でも、誰に――』そんな声。

 里村茜は空を見上げ、どういうわけか彼女にもわからぬままに溢れてきた涙を拭うと、静かに言った。

 

 

「できることならば、私達に出会い、別れ、忘れてきた全ての人たちに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  epilogue 3

 

 ……甘い。久しぶりに食べたワッフルは酷く甘く、俺は慌てて用意しておいた烏龍茶の缶を開け一息に中身を啜る。

 むせて咳をした。でももう一口食べる。またお茶を飲む。それを繰り返す。

ゆっくりと楽しむように。

 ふと顔を上げる。良く知った人、ずっと会いたかった人の顔がすぐ側にあって、俺は声を出す。

「里村さん……?」

 俺が覚えているよりも幾分大人びた顔の少女、いや、もう少女とは呼べない女性が静かに俺の顔を覗き込んでいた。そして優しげな口調で言った。 

「――いつの間にか戻ってきたんですね。薄ぼんやりですがあなたのことを思い出しました。何か色々と言いたいことがあったはずなのですが、とりあえず歓迎します。おかえりなさい」

「……ありがとう」

 俺は答える。

「あなたは約束を果たしてくれた様ですね。帰ってきましたよ。二人とも」

 そんなことを言われたが正直、実感はなかった。本当に自分のせいなのだろうか。良くわからない。

「……そう、……長森さんはどうしている?」

「あの二人なら幸せそうですよ。傍から見ていると恥ずかしいぐらいに」

「そうか、ならよかった」

 胸をなでおろす。それが一番の懸案事項だった。そして視線を落とす。

「……諦めきれないと思ったから戻ってきたんだ。自分のことを諦められなくて戻ってきたんだ。……なんだか恥ずかしいな」

「いえ、それでいいと思いますよ?」

 俺はその言葉に顔を上げる。訊いてみた。

「里村さんの方は幸せか?」

「ええ、おかげさまで、自分が思っていたよりも幸せです」

 良い答えが帰ってきた。

「そうか……」

「どうします?」

 里村さんが尋ねる。

「みんながみんな、幸せなのなら、横から入り込んでその幸せを突き崩したくは無いな」

「……あなたが私のことをもっと幸せにできるのならば、私はあなたを選ぶかもしれません」

「難しいな」

 俺は言った。

「ええ、正直私も難しいなと思います。でもこういうのは案外後から来た人のほうが強かったりするんですよ?」

 そうなのか。それは知らなかった。

「それとも誰か他の人を紹介しましょうか? 詩子以外の友達も増えましたし」

「いや、里村さんがいい」

 ――できることなら。こんな俺でいいのなら。

「長森さんでは駄目ですか?」

「……そうだな。……やっぱり駄目だ、向こうもこっちも色々と意識しそうで、なんだかぎくしゃくしそうだ」

 言葉を続ける。

「……それに里村さんのほうがいいや」

 似たもの同士、馬が合うんじゃないだろうか。そんなことを考える。

「……そうですか。でも本当にそうなら、もうちょっと言い方を考えたほうがいいと思いますよ?」

 そんなことを言う。俺は少し考える。どうすればいいか。どうすれば自分の気持ちが伝えられるだろう。どうすれば自分は幸せになれるだろう。

「……。……里村さんじゃなきゃ駄目だ」

「……あまりやる気が感じられませんね」

 正解ではなかったようだ。やはり難しい。俺は俯く。

「……慣れてないんだ、こういうの」

「……そうですか。まあ、仕方ないですね。最初ですから大目に見てあげます」

「すまない」

 俺は謝る。

「いいんですよ」

 里村さんはそう言ってくれた。そして俺に手を差し伸べる。俺はその手をそっと掴み、ゆっくりと立ち上がった。

「……」

 俺は里村さんの顔を見つめる。これからどうしたらいいのかわからない。困っていると里村さんが『本当に仕方ないですね』といった感じで微笑む。

「――では、また最初から始めましょうか。……あなたの名前、教えてください」

 

 

[the never ending rainbows] FINE

 

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