仮面ライダー THE ANIMA ~陰の実力者になりたくて……~   作:ロードすらいむ

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第三話 黒いホッパー

「だ、誰か! 誰か警察を読んでくれェェェ」

 

 真夜中の高架下に、男の絶叫が響く。しかしその声は誰にも届かぬまま、闇の中へと沈んでいった。

 

 男は全速力で走るが、男を狙う " それ " はまるでその様をせせら笑うが如く悠長な歩みで、一歩、また一歩と自身の影を広げてゆく。

 

「逃げても無駄ですよ。貴方は我々【ショッカー】を裏切った。ショッカーは、裏切り者を絶対に許さない」

 

 やめてくれ。頼むから、俺のことを解放してくれ。

 

 そう懇願しながら走る男は、高架下のシャッター街を抜け、人のいない公園を突っ切って、気が付けば大手運送会社の倉庫棟の中にいた。

 

 ここまでくれば、奴らも追ってはこれまいだろう。そんな希望も、次の瞬間には打ち砕かれてしまっていた。

 

 爆発音だった。

 

 耳を劈くような音と共に、一台の中型トラックが、シャッターを突き破り倉庫の中に侵入する。

 

 奴らが、来たのか……?

 

 コンテナの影から、男はトラックの方を見る。

 

 ガシャン。

 

 丁度タイミングよく、荷台の扉が開け放たれた。中から誰か出てくる。

 

「───蟻が一匹、コンテナの裏ね」

 

 それは女の声だった。暗闇のせいでその風貌はわからないが、口ぶりからしてショッカーの戦闘員であることは間違いない。とすると、奴は〈スネーク〉か? それとも〈リザード〉か……。

 

 男は記憶にある女性型改造人間の名を口にし、それと同時に絶望した。

 

 スネークもリザードも、両者共に戦闘能力に長けた改造人間だった。生身の人間が相手にできるような連中ではない。

 

 ……逃げよう。ここから、一刻も早く。

 

 そう決心し、男はコンテナの影から倉庫の裏口に向け走り出した。

 

 

「やれ、〈ホッパー〉。裏切り者を始末しろ」

 

 

 女の命令が、暗闇の中で冷たく反響する。

 

「ほ、ホッパーだと!?」

 

 男は思わず声を上げた。しまったと後悔してももう遅い。

 

 男は足を止め、その場に留まる。───いや、留まらざるを得なかった。

 

 

「お前か。組織を裏切った、愚者という名の蟻は」

 

 

 天窓から射す月明かりに照らされて、男の正面に現れた者の全貌が明らかとなる。

 

 黒のライダースーツ。

 

 胸部や関節部を覆うプロテクター。

 

 そして何より特徴的な、蝗を模った不気味なヘルメット。

 

 肌の色は首元からしか見えず、それがより一層得体の知れない緊張感を纏っていた。

 

「ホッパー型改造人間……だと? しかし、一号も二号も未だ逃走を続けているはず」

 

「それは一号でもなければ、二号でもないわ」

 

 男の背後から、今度はさっきの女の声が聞こえる。

 

「あなたの正面にいるそれは、試験的に開発された次世代型の改造人間。初めてナノロボットとの適合に成功した、新しいホッパーよ」

 

 「まぁ、まだまだプロトタイプの域を出ない未完成品ではあるけれど」と付け足して笑う女の姿も、男にとっては未知だった。

 

 おそらくは女の方もナノロボットによる改造手術を採用した次世代型。蝗の怪人をホッパーと呼ぶなら、女は〈ラプトル〉だ。リザードとよく似ているが、その細部は異なっていた。

 

「少し、おしゃべりが過ぎたわね。───ホッパー、やりなさい」

 

 ガシャン。

 

 と、ラプトルの命令に呼応するように、ホッパーの赤い複眼が点灯する。

 

「く、来るな! この化け物がッ!!」

 

 男は胸ポケットから拳銃を抜き、トリガーに指をかけた。

 

 パンッ!

 

 乾いた銃声が短く鳴る。白銀の弾丸は真正面に向かい射出され、ホッパーの丁度眉間を撃ち抜いた。

 

 かのように思われたが。

 

「……この一発が、かつての俺にとってはとても大きな脅威となっていたのかと考えると笑えてくるな」

 

「な、何だと?」

 

「この弾の動き、今の俺には止まって見える」

 

 そう言って、ホッパーは男に向かい何かを投げた。

 

 それは男の足元に落ち、コツンとつま先に触れた。銃弾だった。それも、男が使ったものと全く同じの。

 

 

「たとえ一瞬だとしても、その余所見は命取りだぞ」

 

 

 ハッとしたその時には何もかもが遅かった。

 

 男が足元を見た瞬きの間に、ホッパーは間合いを詰めて獲物の首を掴んでいた。

 

 ホッパーの手にグッと力が入り、その度男は苦しそうにうめき声を上げた。

 

「お、お前は……一体何者なんだ……」

 

「量産型蝗怪人零号───〈ゼロホッパー〉だ」

 

 首の骨が折れるような音が鳴ると同時に、男は動かなくなってしまった。

 

「ふん、陰の実力者たる俺の正体を知ったんだ。死んでもらわないと困る」

 

「その通りですよ、ホッパー。我々ショッカーの姿を見た者は、誰であろうと殺さなければならない。裏切り者も、同様に」

 

 嫌に甲高い声と共に、奥からもう一人戦闘員が現れる。高架下で裏切り者を追っていた〈レイヴン〉だった。

 

 ホッパーやラプトルと同様、強化服にヘルメット姿で顔こそは見えないが、バイザーの下では下手な笑みを張り付けているに違いない。この男は、そういう奴だ。

 

「気分はどうだね?」

 

「最高の気分だ。これ以上の喜びはない」

 

「よろしい。……ラプトル。ゼロホッパーの運用は任せたぞ」

 

 「お任せください」と、ラプトルはナチスを彷彿とさせるショッカー流の敬礼でレイヴンに応える。

 

「基地に戻るわよホッパー。お前にはまだまだ調整の余地がある」

 

「……了解だ」

 

「変身を解除してトラックに乗りなさい」

 

 ラプトルの指示を受け、ホッパーは顔を覆うマスクに手をかける。

 

 ───が、その時。

 

「ちょっと待ちなさい。……そこに誰かいるわ!」

 

 ラプトルの視線の先で微かな足音がした。

 

「どうやら覗かれていたようね。ホッパー、追いなさい。そして確実に殺すのよ」

 

「俺たちの姿を見た者は死ななければならない。当然だ」

 

 そう言うとホッパーは闇へと消え、瞬く間に男の死体も、ショッカーの戦闘員たちの姿も見えなくなっていた。

 

 倉庫内のカビ臭く冷たい空気だけが残されている。

 

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