こだわり派喰種の人肉評論記   作:コーヒーはアイスコーヒーしか飲めない

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一皿目

 

 諸君、突然だが肉は好きか?私は大好きだ。昨今は霜降り肉が評価されがちだが、私としては赤身肉の方が好みである。ある程度の固さがあってこそ「肉を食べている!」という気分になれるというものだ。

 

 さて、なぜ急に肉について語り出したかと言うと、今私の手元にかたまりのモモ肉があるからである。もちろん赤身だ。今からこいつを調理していこうと思う。

 

 まずは、モモ肉にフォークで数カ所穴を開け、タコ糸で縛り形を整え、コーヒーにつけ込む。固さのある肉が好きとはいえ、それはある程度の話。下処理を怠る理由にはなりえない。この工程があることによって、肉が柔らかくなるだけでなく、余計な臭みも消してくれる。おまけにコーヒーは、火を通した時に美しい焼き色を着けてくれる。

 

 肉を漬け込んでる間に、自己紹介とこの肉の紹介といこう。

 私の名前は清石 竜ノ介(くよし りゅうのすけ)、まだ見ぬ味を求める喰種だ。このモモ肉は、工藤くん。趣味はマラソンという28歳会社員だ。普段から走り込んでいるだけあって、余計な脂身の無い上質なモモ肉だ。思わずこのまま齧り付きたくなってしまうが、今回はローストにしていきたい。余計な手は加えず、新鮮なうちに丸齧りというのも趣があるものだが、やはり部位ごとに適切な調理をしてこそ、肉の味というのは引き出されるものである。昔このことを神代とかいう喰種に言ったら鼻で笑われたが…まあ、好みは個々人によって分かれるものだ、私は気にはしない。

 

 では、調理へと戻ろう。事前にこそぎ落としておいた工藤くんの脂身をフライパンにひき、コーヒーから取り出した肉を、全面に焼き色がつくまで強火で熱する。食欲を掻き立てる良い香りがしてきたところで火からおろし、アルミホイルで肉を包んだのちに120℃のオーブンで25分焼いていく。天板の上にクッキングシートを敷くことを忘れずにな。

 

 今のうちにソースも作っておこう。先ほど使ったフライパンに、これまた先ほどまで肉を漬け込んでいたコーヒーと、血酒を適量加えて中火で熱する。肉の旨みがたっぷり溶け出したこのコーヒーを使うことで、調和のとれたソースに仕上がるのである。

 

 そろそろ肉が焼けた頃合いだろう。オーブンから取り出し粗熱を取るため、20分ほどおく。ここで逸って肉を切り分けてしまうと、せっかくの肉汁が流れ出てしまう。ソース作りで残った血酒を楽しみながら待つとしよう。

 

 さて、20分が経過し粗熱も取れたようだ。いよいよ盛り付けといこう。アルミホイルを剥がし、タコ糸を外し、肉を薄切りにして…

 美しい。赤身とのコントラストが実に美しい焼き色だ。薔薇の形に盛り付けようと考えていたがやめだ。この色を最も際立たせられるのは扇形以外ありえない。奥に1番高いものを置き、立てかけるように盛り付けていく。色合いと高さの2種類のグラデーションが白の皿に良く映える、見事な出来栄えだ。最後に上からソースをかければ完成である。

 

 では、いただくとしよう。

 美味い。たった一切れでありながら、赤身肉の確かな旨みとソースの芳醇なコクが合わさり、私に確かな満足感を与えてくれる。食感も、柔らかさの中に噛みごたえがあり、噛むたび溢れ出す肉汁は、濃厚ながらもクドさは感じられず、いくらでも飲んでいたくなる。鼻腔をつく芳ばしい香りも、食欲を高めてくれる。嗚呼、思わず下品にかきこんでしまいたくなるな。

 

 あっという間に残りは半分ほどとなってしまった。では、ここからは血酒と共に食そうか。まずは肉を咀嚼し飲み込み、風味が残ったうちに血酒を流し込む!

 ベストマッチとはまさにこの組み合わせのことを指すために生まれた言葉なのではないだろうか。舌に残った脂を血酒の酸味がさっぱりさせてくれ、この対比が肉と酒の両者をより高みへと引き立てる。

 

 交互に食べているうちに完食してしまった。この充足感とちょっとの名残惜しさの同居は、良き食事の証拠と言えよう。贔屓目なしに素晴らしい一皿だった。工藤くんには感謝しきれんな。

 

 明日はどんな味に出会えるだろうか。

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