【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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89球目 根回し

 

 

 

___バッ、ガツ

 

「惜しい! でも前に落ちたな!」

「次は止めます!」

 

スライダーを取る練習をしている北瀬と由井。

まずは前に落とせるようにする練習だが、しっかりキャッチするのも狙って頑張っている。

 

 

___バシッ!

 

「ナイスキャッチ!」

「ありがとうございます!! 思ったよりボール1つ分位、下に曲がってますね……!」

 

和気あいあいとキャッチング練習をしている北瀬達。

そこにズカズカと奥村がやって来て、北瀬にこうお願いした。

 

 

「北瀬先輩、俺もボール受けたいので、よろしくお願いします」

 

その言葉に若干嫌そうな顔をしている北瀬と由井。

真田先輩に喧嘩を売った奥村がかなり嫌いな北瀬は、少し冷たい声で奥村のお願いを拒否した。

 

 

「えっ、俺今練習してるんだけど」

 

断られたのはタイミングではないと、分かっているのかいないのか。奥村はやれやれといった声色で、次の提案をした。

 

 

「なら後で良いです」

 

後で良いと言われると困ってしまう。絶対に出来ない様な理由は、特に無いのだ。

流石にお前が嫌いだから嫌だとは言い出し辛い北瀬は、どうにか言い訳を絞り出した。

 

 

「……いや、由井とのキャッチング練習以外にも、バッティング練習もしなきゃだし……」

「じゃあ、いつなら良いんですか」

 

単刀直入に聞いてきた奥村。

これは曖昧に断るのは無理だと、困った顔をしながら北瀬は酷い事を言い始めた。

 

 

「えー、悪いんだけど……お前と自主練習でまで組みたくないんだよな」

「は?」

 

大エースからのあからさまな拒絶に、思わず困惑する声が出た奥村。先輩に対して、「は?」はちょっとどうかと思うが……

自分に言われた事ならあまり気にしない北瀬は、ボソボソと奥村とは組みたくない理由を述べていった。

 

 

「いや俺、お前が真田キャプテンに喧嘩売ったの、間近で見てたんだけどさ

お前のこと、人間的に好きになれないし、そもそもバッテリー組むプレイヤーは、3人も要らないから……悪いんだけど、そういう事で

……由井ー、そろそろ練習再開しようぜ」

 

「はい!」

 

 

 

北瀬からすれば、高校野球は楽しむ為にやるもの。

相手が仮に世界一のキャッチャーであろうと、人間性が合わない奴とは組みたくないという考え方をしていた。

流石に監督達から通常練習で組めと言われたら組むが、自主練習の時間まで奥村と顔を合わせたくないのである。

 

気持ちは分からなくもない話だが、甲子園優勝投手としてその考え方はどうなのだろうか……

彼は野球選手として、かなり未熟だった。

 

 

由井は大エースに拒絶された奥村に少し同情しつつも、自業自得だと気にしない事にしたらしい。

入学して1週間位で、キャプテンに対して「そんな事言ってるから、アンタは何点も取られるんですよ」なんて挑発した噂は、由井にも届いていた。

 

そりゃ人望のあるキャプテンに対してそんな事を言ったら、怒る上級生も出てくるよね。

エースの北瀬さんに拒絶された事に多少は同情するけど……身から出た錆って所かな。

 

どうしてもエース贔屓に考えてしまうキャッチャーの由井は、そうやって自分を納得させていた。

 

 

 

 

 

 

キャッチング練習を再開した北瀬と由井。

失敗を繰り返しながらも、着実に1歩先へ進もうとしている。

 

 

___バッ、ガシャン!

 

「惜しい、ドンマイ!」

「……次お願いします!」

 

 

___バッ、ガツ!

 

「……多分、ミットを動かしちゃってたかな?」

「なるほど。どうしても、ボールの軌道に合わせて手を動かしてしまってますね……」

「手を動かさないのって、そんなに難しいのか? いや、俺がキャッチングに詳しくないから思っただけなんだけど」

 

北瀬が、少し不思議そうに尋ねた。

由井はその言葉に対して、「うーん……」と困りながらこう答えた。

 

 

「と言うより、ピッチャーは構えた所に完璧には投げられないので、キャッチャーが修正するのが普通なんですよね

北瀬さんは完璧にミットに投げてくると頭では分かっていても、つい手を動かしてしまうというか……」

「あーなるほど、昔からの癖って感じなんだ。そりゃ直しにくいよね……っていうか、俺って割とコントロール良いのか?」

 

北瀬さんの言葉に驚きながら、由井は熱心な声でこう語った。

 

 

「気付いてなかったんですか?! 北瀬さんのコントロールはめちゃくちゃ良いですよ! というより、もし北瀬さんのコントロールが悪かったら、俺は全く取れないと思います……」

「へーそんな物なんだ、ありがとう。じゃあ次も、スライダー行くよ!」

「はいっ!!」

 

 

 

 

北瀬と由井のキャッチングを見ていた奥村は、イライラしながらこう考えていた。

 

 

(俺がキャッチングをしていたら、もっと上手くやれるのに……!)

 

実際、由井よりもキャッチング能力が高い奥村。

打撃能力などは由井の方が上なので、選手として総合的に見れば互角と言えるが……

実際、北瀬という剛速球投手と組ませるなら、性格の相性を考慮しなければ明らかに奥村との方が良かった。

 

 

だが北瀬先輩は、俺と組む気がないと言う。

俺は間違った事を言っていないのに……下級生の態度が悪いからって、キャッチング練習までやらせないって言うのか?!

彼は、仲の良い奴を野球まで優遇する様な、卑怯な奴が嫌いだった。

 

勝つための野球なのに、嫌いだから組まないなんてありえない。

それに真田キャプテンと話した時に、最後彼は納得してたんだ。何で関係ない奴が、キャプテンとの関わり方で野球の邪魔してくるんだよ!

 

 

奥村の考えている事は、一部正論である。

甲子園優勝を目指す強豪校として、お前が嫌いだから組まないと言う感情論を、一部員が勝手に決めてしまえるのは不味いだろう。

 

だが……奥村の言い方もかなり悪かった。

甲子園優勝校のキャプテンに対する口の聞き方では無かったというよりも、弱小校ですら問題になりかねない喧嘩腰だったとすら言えるだろう。

 

言い方さえ違えば、上級生達からの印象が悪くなる事は無かったが、彼は口が上手くないのである。

そういった所も含めて、彼をよく知っている人達からは面白れぇ男だと思われているのだが……

 

 

言っている事が正しければ納得して貰えると思っているのは、まだまだ若い。

高校生だから仕方ないとはいえ、奥村はもう少し人付き合いを学んだほうが良いかもしれない。

 

 

……いや北瀬に拒絶された所で、他のピッチャーのボールを受ける事は出来るから問題ないかもしれないが。

由井はエース係、奥村はそれ以外のピッチャー係で棲み分け出来ている現状が、もしかしたら部にとっては1番良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

日課になっているバッティング練習を中断して、飲み物を取りに来ている北瀬。

薬師野球部には、スポーツウォーター置き場が各地に設置されているので、簡単に飲む事が出来るのだ。

 

 

ベンチでひと休憩している北瀬に、瀬戸が言い難そうな顔をしながら話しかけていた。

 

 

「あの、北瀬先輩」

「ゴキュッ……ん、どうした? 瀬戸」

 

スポーツウォーターを飲み込んだ後、優しく尋ねる北瀬。

瀬戸の事は、1軍のベンチ入りメンバーとして知っていた。

性格まではあまり詳しくないが、明るくて良さげな1年生だと言う事位は記憶にあったのだ。

 

 

「……光舟が色々すみません! ホントあいつ面倒な所があるというか、理想に煩い所があるというか……」

「はぁ……っていうか、何で瀬戸が謝るんだ? お前関係なくね?」

 

普通に、何で瀬戸が謝っているんだろうなと不思議に思っている北瀬。

その言葉に対して、奥村本人に謝らせろという意味に受け取った瀬戸は、冷や汗をかきながら言い訳をしてみた。

本人が謝れよというのは、かなり理屈が通ってるよなぁと感じつつも、奥村が自分で謝れるとは思わなかったからである。

 

 

「まあ、それはそうですよね……アイツに直接謝らせた方が良いのは分かってるのですが……」

「いや責めてる訳じゃなくて。奥村の発言を、なんでわざわざ瀬戸が謝りに来たんだって不思議に思っただけだよ?」

 

北瀬さんの言葉を聞いて、そういう意味かと少し安心した瀬戸。

日本最強クラスのエースから嫌味を言われるなんて、同じチームの1年生からしたら恐ろしい事この上ないのである。

 

 

「あっ、そういう事ですか……

奥村は、関わってみると面白い奴なんですよ! だから俺は、奥村の事親友だと思ってるんです

口は悪いんですけどね……思ったら一直線っていうか。意地っぱりな奴だから北瀬さんに謝りに行けないと思ったので、俺が代わりに謝りに来ちゃった感じです」

 

その言葉を聞いて、北瀬はしばし考え……決心したかの様な声で返事を返した。

 

 

「へー……奥村も良い親友がいるんだな。アイツの事、少し見直したわ

自主練習の時まで一緒にやりたいとまでは言えないけど。あいつの事を、もう少しちゃんと見るようにしてみるから」

「ありがとうございます!」

 

瀬戸は、北瀬さんは奥村の事を完全に許してくれた訳じゃないけど、イメージを変えられて良かったと安堵していた。

自分までうざがられかねない、危ない橋を渡った成果は出たという事だ。

 

……まあ北瀬の中で、好感度が大きく上がったのは奥村ではなく瀬戸だったのだが、それを彼は知らない。

というか、今の話で好感度が大幅に上がる日本最強ピッチャーは、少しちょろすぎるのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

関東大会から数日が経過し、2年生5人が、監督室に呼ばれていた。

監督室で話す事には慣れているので、普通の顔をして入室した彼らは、イスが足りないので全員立っていた。誰が座れば良いのか分からなかったらしい。

 

そんな部員達を見ながら、轟監督が驚きの発言をした。

 

 

「あー……1週間後に行われるU-18の合宿、お前らに行って貰う事になったから」

 

その言葉に非常に驚いた三島と秋葉。

 

だが、それ以外の選手はU-18に思い入れがない為、良くわからないなという顔をしていた。

特にボケーっとしているのは、U-18を知らない伊川。北瀬と目を合わせて、U-18についてテレパシーで質問してみていた。

 

(ユー18って何だ?)

(ああ、U-18っていうのは18歳以下の野球選手が10ヶ国位から集まって戦う試合で、今年は9月あたりにキューバ? で開催される予定らしいよ)

(思ったより詳しいな?)

(後輩に教えて貰ったからな!)

 

 

北瀬と伊川が、今更そんな事も知らないのかという当然の知識を確認している中、秋葉が困惑した様な声で質問した。

 

 

「あの……今までU-18の合宿って、1回しか無かったですよね。どうして今回は、2回も行われる事になったんですか?」

 

その質問に対して、轟監督はまるで普通の事を話すかの様な声で回答する。

 

 

「そりゃあ、今年は絶対勝ちたいからだな。今までU-18で日本が優勝した事無いだろ?

北瀬達がいる間に勝っておきたいんだとよ。わざわざ俺に、いつなら合宿に参加させられるか連絡が来た位だからな」

 

つまりそれは、たかが1つの学校の都合に野球連盟が動いたという事である。

練習試合をする大学側の都合も合わせなければならないし、今回だけ合宿を2回やるなど、お硬い組織としては有り得ない異例の対応だ。

 

 

「そんなに色々な荷物は要らないと思うけど、代表に選ばれるまで日本代表ユニフォームは貰えないから、ちゃんと野球部のユニフォーム持っていけよ

……後、今回の合宿ではプロの2軍と戦えるらしいらしいから楽しみにしておけ! こんな機会、滅多に無ぇぞ!!」

 

『……?!』

「カハハハ……凄い!! 楽しみ!!」

 

 

 

まさかの、プロと戦える機会が来てしまった薬師野球部の2年生達。

彼らの長打力は、プロに通用するのだろうか?

そして、酷い守備は大丈夫なのだろうか……その答えは、合宿になるまで分からない。

 

 

 

 

 

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