【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
混乱させてしまったらすみません
今日は新聞部兼野球部マネージャーの佐藤から、北瀬と伊川が校内新聞の取材を受ける日だ。
美術部の写真好きである佐藤も連れてきたらしく、校内新聞に写真も掲載する予定らしい。
ちなみに同じ名字なのは偶々ではなく、彼らは兄妹である。
「こんにちは、薬師新聞部の佐藤です。よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします』
最初はかしこまった挨拶から始まったインタビュー。佐藤はチームメイトの特権で、色々な事を聞いていった。
「北瀬さんと伊川さんが所属する薬師野球部は、凄い強豪校ですよね! それなのに、彼らは学校に入学してから勧誘されて入ったと聞いています!
……お2人は、そんな薬師野球部の事をどう思っていますか?」
その言葉に、北瀬はニコニコした笑顔で、伊川はキリッとした表情で質問に答えた。
「皆凄く良い人達ばかりで、居心地が凄く良いです! 野球部に入って良かったと思います」
「打撃力は日本一だと言って良いと思います。そんなチームでクリーンナップを任せて貰えて、光栄です」
北瀬は、チームの人柄の良さをアピールした。
先輩達の良さを、少しでも称賛されて欲しかったのである。
ちなみに珍しく北瀬から取材に答えているのは、彼は友達相手なら普通に話せるからだ。
数ヶ月部活で一緒にやってきた佐藤相手なら、取材でも普通に話せるのだ。
対して伊川は、チームの強さについて話した。
先輩達を取材で褒めまくるのが少し照れくさかったのと、北瀬の発言と被ったらつまらないかなと思ったからである。
「なるほど、凄く良い人達ばかりなチームなんですね! 楽しそうです……!
確かに打撃力は日本一ですよね! 私も試合を間近で見させて貰って、凄く感動しました!」
「いや間近で見たというか、試合に出てたよな……」
取材に不慣れな佐藤は、確かにそうだよなぁと思いながらも話を広げられず、伊川の独り言を無視して次の話題に移った。
「……では次の質問に移ります、好きな食べ物を教えてください!」
「あら汁です!」
「ハンバーグです」
「北瀬さんは渋い趣味してますね……伊川さんのハンバーグは鉄板ですよね! 中々嫌いな人はいないと思います!」
好きな食べ物というしょーもない話題を挟んで、次は佐藤が1番気になっている質問をする。
佐藤は北瀬・轟・伊川の隠れファンなので、普通に話している時はし辛いこの質問は、絶対にしたいと思っていたのだ。
「では次に、将来はどんな選手になりたいか教えてください!」
「チーム全員が、コイツになら任せられると思ってくれる様なプレイヤーになりたいです!
青道高校の降谷さん、稲城実業の成宮さん、巨摩大藤巻の本郷くんみたいな凄い選手に……!」
「……器用な選手になりたいですね。大体の場面でそこそこ使える、いると役に立つような感じの」
北瀬は熱心に、精神的なエース像を語っていた。
チームを背負って立つという気持ちが、1年生が入って来たことで強くなったのである。
昨年秋なんかは、薬師野球部は実質12人しかプレイヤーいなかった。
だからチームで1番重要とも言えるエースナンバーを貰っても、そもそもピッチャー専任の選手いないしなぁといった感じで、イマイチ凄さが分からなかった。
けれど今年は1年生が121人も入って来た事により、北瀬にもチームを背負っているという自覚が芽生え始めていた。
その辺も記者に説明出来れば良いのだが、北瀬はあまり話す事が得意ではない為仕方ないだろう。
逆に珍しく酷い回答をしてしまったのは、特になりたい選手像などは無かった伊川。
何とか捻り出した回答は、地味な器用貧乏な選手の姿だった。
とても打率9割の選手とは思えない微妙な回答に、佐藤は勝手に話を盛って話し始める。
「チームの皆さんには、きっと北瀬さんになら任せられると思われていると思いますよ!
伊川さんは……今も確かに打撃も守備も出来る、ユースリティな選手ですから、そういった特徴を活かして行きたいという事ですね!」
「ありがとうございます!」
「……そんな感じですね」
1番聞きたかった事を聞いた後、佐藤は読者ウケを狙ってセンセーショナルな話題を出した。
「それと……北瀬さんは、メジャーから5年120億の提示があったという噂がありますが、本当ですか?」
「本当です。凄く高い評価を貰えて驚いてるし、期待に答えられるかは分かりませんが……頑張って活躍したいと思ってます」
ちなみに佐藤は北瀬が高卒でメジャーに行く事を既に知っているが、取材の為に聞き直しているだけだ。
知ってたと思いながら、話した事を記事にする為に驚いたフリをする。
「本当に凄いですね! 高卒メジャー行きは、日本人初の快挙ではないでしょうか!
……これからも俺は、北瀬さんや伊川さん達の事をリサーチしていきたいと思っているので、宜しくお願いします! 本日はありがとうございました!!」
『ありがとうございました!』
佐藤が書いた記事はこの後、校内中で読まれたどころか大手新聞にも記載されたらしい。
北瀬が公式でメジャー行きを表明したのは始めてだったのだ。
あの薬師高校のストレート165kmの大エースがメジャー行きという事で、野球ファン以外の所でもかなり話題になっていた。
ちなみに、この記事が出た辺りから北瀬にアタックする可愛い女子も1人いたが、彼は受け入れようとはしなかった。
……いくらなんでも、金に目が眩んでいるのが丸わかりだったらしい。
今日の練習が終わり、北瀬の部屋で雑談している北瀬と真田。
北瀬は最近、由井とピッチング練習ばかりしているけど、それでも最低限の打撃練習と守備練習は欠かしていないと話した。
真田がそんな時間があるのかと聞くと、由井は1日中受けられる訳じゃないから空いた時間を使っていると言う。
最終的には、真田にオーバーワーク気味じゃないかと少し注意され、仕方なく練習量を減らす事にした。
北瀬は鉄人能力を持っている為怪我にはかなり強いのだが、そんな事を真田は知らないから仕方ない。
まあもしかしたら、元々長かった選手寿命が更に伸びる効果は合ったかもしれないが……
対して真田は、最近は奥村と良くピッチング練習をしていると話した。
足の怪我を考えると長時間は出来ないが、それでも段々と強くなれている気がすると、笑顔で話している。
その言葉に驚いた北瀬。
真田先輩をバカにして来たアイツと、何回も練習するなんてどういう事ですか?! 真田先輩優し過ぎますよ! でもアイツなんて赦さなくて良いじゃないですか!
と、内心ドツボにはまりながら聞き返した。
「あの……奥村って真田先輩に、そんな事言ってるからアンタは何点も取られるんですよ、なんて凄い酷い事言ってましたよね……赦したんですか?」
北瀬の言葉に対して、そんな事もあったなぁと笑いながら、もう気にしていない真田は答えた。
「まーあの時は図星を指されて参ったけどなぁ
俺の事を優秀なピッチャーだって言ってくれたり、俺が自分の事を才能無いなって思ってたのを反論してくれたりしたし、悪い奴って感じはしねぇからかな」
真田の言葉に、奥村の奴が真田先輩を優秀なピッチャーって言ってたのか……と不思議がった北瀬。
いや、真田先輩が優秀なのは俺も分かってるけど、アイツも分かってたんだなぁと思ったのだ。
そして真田先輩が、自分の事に対して才能がないと思っていた事が判明。
そんな筈がないと、具体例を出しながら反論した。
いくら真田先輩が言う事でも、彼本人を貶す事は我慢ならなかったのだ。
「そう……ですか……? いやでも……
いやそれよりも、真田先輩も才能あるに決まってるじゃないですか!
……俺だってU-18の日本代表に選ばれましたし、同じ薬師の先発の真田先輩だって日本代表クラスの選手に決まってます!」
むちゃくちゃな理論を振りかざす北瀬。
真田先輩の事を、優しくて格好良くて天才な完全無欠のプレイヤーだと思い込んでいるらしい。
俺が所属しているチームのエースがU-18に選ばれたからって、俺が彼と同等の選手だという理屈はおかしいだろ。まあ嬉しいけどさ。
真田はそんな感じで、北瀬が慌てて目茶苦茶な擁護している事を笑いながら、俺の事を想ってくれて嬉しいと心がほんわかしていた。
「流石にそれはねぇかなー。でも、サンキュー!」
真田の発言で、奥村に対しての好感度が多少戻った北瀬。
意外とアイツ、真田先輩の事を尊敬してるのか? いやでも、それならあんな事普通言うか? 真田先輩騙されてる可能性がないか?
まあ、真田先輩が許してるなら、俺も許すべきかな……心象的には許したくねぇけど。
そんな事を考えながら、一応奥村を赦す方針で行こうかなと考え始めている北瀬。
彼は、仲の良い人の言う事なら大体信じる質だった。それで騙された事は何回もあるが、性分なので仕方ないのである。
というか、素直な事が美徳にならない極亜久中学は相当マズい。
……ちなみに伊川には、今話していた真田先輩の意見が伝わっていないので、奥村を恨んだままである。
北瀬より伊川の方がヤバイ奴なので、早くなんとかした方が良いのではないだろうか?
まあ伊川はピッチャーではない為、嫌われていても練習拒否という選択肢が取られないだけマシかもしれないが。
いつもの日課で、由井とピッチング練習をしていた北瀬。
普段通り、普通に投げている最中に轟監督が近付いて来たので、にこやかに挨拶をする。
「轟監督、ちわっす! 何か用っすか?」
「うーん、用があるのはお前じゃなくて由井だな……
___おい、手を見せてみろ」
渋々由井が指をみせると、親指が赤黒く変色していた。
「えっ……?」
「こりゃ突き指してるな……由井お前、分かってて放置しただろ。怪我は早期発見が大事なんだから、次はちゃんと報告しろよ
……じゃあ俺は由井を病院に連れて行ってくるから、北瀬はバッティング練習でもしとけ」
キャッチングに失敗した時に突き指してしまったのを、自覚していた由井。
彼は少しでも多く練習したくて、指の怪我を黙ってしまっていた。これ位なら、時間が経てば治るだろうと思ってしまっていたのだ。
確かに治る可能性も無くはないが、北瀬の剛速球により更に怪我を悪化させる可能性の方が大きかったと思われるが……
早く取れるようにならなければという焦りで、冷静な判断が出来なかったのである。
北瀬が由井に、申し訳なさそうに謝っていた。
「由井……俺、気付いてやれなくて悪かった。ボール取るの、痛かっただろ?」
「いえ、俺がもっと練習したかっただけなので……多分1週間位、一緒に練習出来ないと思います……地方大会が近いのに、まだスライダーしか取れないのに、すみません」
由井が話した1週間という日数は、突き指の具合が1番軽かった場合の話である。
彼は少しでも早く練習に復帰したいと思い、無意識の内に過小報告気味な宣言をしていた。
彼の悲壮な表情を見て、怪我をして痛いのは由井なのに、俺に謝らなくても良いのにと考えた北瀬。
薬師高校のエースとしてある決意をして、由井に話し出した。
「いや、そうだな……
もし変化球が、由井の手に負担が掛かるなら___俺が全部何とかして見せるからっ! 薬師野球部のエースとして、俺が!!
……だから由井は、安心して怪我を直して欲しい」
「…………はい」
北瀬は100%善意で言っていたが、彼の言葉は由井のプライドを大きく傷付けた。
由井はキャッチャーとして、ピッチャーの優れている所を活かす事を誇りにしていた。
……なのに現実は、エースの変化球が取れず、本人に気を遣わせる始末。
最近ようやく取れるようになったスライダーも、キャッチャーが取れなくて怪我をするなら要らないと言わせてしまった。
確かに北瀬さんなら、ストレートだけでも勝ち続ける事が出来るだろう___でも、ピッチャーの足を引っ張るキャッチャーなんて、相棒だと言える訳がない。
俺の事を期待してくれていたって、分かってるのに……そう考えてしまう由井は、苦しそうな顔を隠せなかった。