【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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活動報告で、試合の展開をくださった読者様ありがとうございます!いつもありがたく使わせてもらっています…展開が変わってしまったりしてすみません


97球目 弱小校

 

 

 

 

西東京夏の地方大会まで残り2週間になった頃、対戦相手を決めるクジを、轟監督と真田キャプテンが引いてきていた。

 

薬師部員達は、彼らの帰還をドキドキしながら待っていた。

どこと当たっても勝つつもりではいるが、なるべくなら弱い所と当たりたいのが人情だろう。

 

 

 

真田先輩と轟監督が、皆が待ち構えている寮の食堂まで帰ってきた。

なんだか、凄くゲンナリしている気がする。

 

副キャプテンの平畠が、皆を代表して質問した。嫌な予感はするが、聞かない訳には行かなかったのである。

 

 

「抽選、どんな結果になりましたか?!」

 

その言葉に、目が死んでいる監督がボソボソと答えた。

 

 

「えー、厳選なるクジの結果なので、キャプテンを恨まないでください……

 

2回戦は十中八九由良総合工科。2代前の青道の監督が務める学校という事しか、情報がありません……仕方ないだろ? ぶっちゃけ勝てる相手だし

 

3回戦は……多分明川学園。コントロールの良い楊が出てきてた学校ですが、外国人選手なので今年は出れません! まあココは普通に考えたら勝てるな

 

4回選は仙泉学園。夏の大会ベスト8常連校で、2メートルのピッチャーがいます。なんでここで当たるんだよ……

 

5回戦は青道です。154kmの降谷暁とか、天才キャッチャー御幸一也とかがいます。強打で有名だったチームです

 

準決勝は市大三高。天久光聖という、絶好調なら成宮クラスのピッチャーが戻って来たらしいです。ちなみにこちらも強打で全国クラス

 

決勝はどう考えても稲城実業。高校3大ピッチャーの成宮を筆頭に、超優秀な選手が揃っています。守備が硬いです

 

……以上!」

 

『うげぇ!!』

 

 

 

あまりのくじ運の無さに、変な声が出てしまった野球部一同。

地方大会ベスト4レベルのチームに3連続で当たって、ついでにベスト8のチームにまで当たるって最悪過ぎないかと頭を抱えていたのである。

前回真田キャプテンのくじ運は割と良かった気がするが、今回振り戻しが来たのだろうか?

 

 

 

真田キャプテンは、監督が話している時は割と申し訳なさそうな顔をしていたが、直ぐに気を取り直して監督に質問した。

 

 

「すんません、なんか色々……で、監督。ちなみにピッチャーはどういう采配で行く予定っすか? 北瀬の3連投?」

 

監督は少しの間、今答えて良いのか悩んだが……まあ良いだろという適当な考え方がありありと分かる表情で、予定を説明してしまう。

彼は野球狂いだが、緩める所は緩めて良いと考えている人間だった。流石に適当過ぎる気もするが…

 

 

「んーそうだな……まあ教えてもいっか

今考えた予定だから普通に途中で変える可能性はあるが、2回戦は先発パワプロ、3回戦は先発友部、4回戦は先発真田

5回戦は先発北瀬完投。準決勝は先発真田、決勝は先発北瀬完投。コールド勝ち出来なかった場合は、基本的にリリーフ友部か三島で行く」

 

「アザーズ! ……俺、また市大三高と戦うんスね」

「嫌だったか?」

「違います! ……薬師の先発として、10点以内に抑えて見せますよ」

 

真田は自信ありげにそう言ったが、10点取られるというのは守備崩壊ではないだろうか?

……実際、薬師野球部の守備は崩壊しているから、そう言ってしまうのも仕方ない話なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

薬師野球部員達は、ほぼ普段通りに地方大会までの時間を使っていた。

普通ならベンチ外の選手を動員して大会に備えるだろうが、薬師野球部はどうせ殆ど打撃しか練習しないからボール出しとか要らないのである。

 

なんか自主的にボール出しを名乗り出た3軍の数人以外は、通常通りに練習に励んでいた。

……3軍の数名は、自分の能力を上げようとしなくて良いのだろうか?

まあ多分、入部した頃から春のセンバツ優勝校に入りたいという動機しかない、野球部員として不真面目とも言える選手達だったのだろう。

流石に自分に見切りをつけたと言うには、たった2ヶ月じゃ早すぎると思われる。

 

 

 

くじ引きから2週間が経過して、東京都地方大会の開幕式。薬師野球部の彼らは、ぞろぞろと人の群れをかき分けて歩いていた。

 

 

「今歩いてるの、あの薬師高校の選手達じゃないか?! めっちゃムキムキマッチョじゃん」

「あ、あそこにいるの165kmの北瀬じゃん! 写メっとこ!」

「薬師高校の20番知ってる?」

「知らねー。隠し玉?」

「瞬発力の強そうな選手達だな……だからスタミナが無いのか」

「お前何目線だよ」

 

 

 

人々から注目されながら、居心地悪そうに会場に向かっているが……元から有名だった1年生は堂々と歩いているが、他の面子はキリッとしようとして失敗したような顔をしていた。

基本的に、薬師野球部のメンバーは近くでジロジロ見られる事に慣れていないのだ。

 

 

 

春季大会で優勝した、稲城実業のキャプテンらしき人物が選手宣誓をする。

真田は、大勢の人の前で格好いい旗を受け取っているのを見て、少し羨ましげな顔をしていた。

……プロで活躍したらいくらでも目立つ機会はあるだろうに、そんな事はあまり考えられていないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

つまらない式典が終わって1週間後、公式戦2回戦目が始まろうとしていた。

薬師野球部はシード校なので、実質初戦である。

 

 

 

相手は、片岡監督の恩師である榊英監督が教える、由良総合工科。

2回戦にしては強敵と当たってしまったと言えるが、薬師高校の轟監督は気にせず4番手ピッチャーのパワプロをぶつけようとしていた。

 

 

観客達は、初戦から1年生に投げさせるのかよと少し困惑している。

 

場の空気が掴み辛い初戦というのは、強豪校でもコケやすいタイミングだ。

それなのに、高校の公式戦で登板した事がないパワードを持ってくるとは……轟監督はかなり豪胆な性格をしているな。まあ知っていたが。

観客達の空気は、大体そんな感じになっていた。

 

 

 

 

 

1回表、由良総合の攻撃。

薬師高校のピッチャーは、20番のパワード・プロスキー。

掲示板の数少ない目撃情報によると、ノーコン速球派投手らしい。

 

 

「ボール、フォア!」

「ボール、フォア!」

 

1年生で145kmという恵まれた速球でやる事が、初っ端から2連続ボール。

ああ……劣化降谷かと、観客達は微妙な顔をしていた。

 

いや1年生で145kmは確かに凄いのだが、魔境西東京地区では北瀬・降谷・成宮・天久・真田に次ぐ6番手になってしまうのだ。

わざわざ実質勝敗の決まっている試合を見に来た奇特な薬師高校ファンが、白けてしまっても仕方ないだろう。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

だがその後、パワプロくんは立ち直り1失点に抑えた。

敵味方問わず投壊させる薬師野手陣を背負っている1年生と考えると良くやっている方なのでは無いだろうか?

 

 

 

1回裏、薬師高校の攻撃は1番伊川。

由良総合のピッチャーは公式戦初登板の左腕、北方。

 

 

___カッキーン!

 

データにない投手で相手を驚かせたかったんだろうが、ノーデータでも打率9割以上を維持出来る伊川は初球ホームラン。

 

 

「良いぞ伊川ー!」

「伊川さんナイスです!!」

「幸先が良いな……!」

「始がホームラン狙うの珍しいな……」

 

 

幸先の良いスタートダッシュを決めた薬師高校は、2番瀬戸が右中間真っ二つの三塁打を放つと、3番奥村が低めの変化球を難なく掬い上げ、中間守備を破るポテンヒットで2点目。

4番北瀬・5番雷市・6番秋葉・7番三島・8番山内が、由良総合なんて眼中にないと言わんばかりに5者連続場ホームランを出し、ノーアウトのまま北方を攻略。

相手の変則左腕ピッチャーは半泣きになっていた。

 

 

 

……

 

 

 

なんか初回のうちに打者3巡したようで、アウトは全て9番パワプロ。戦略とかでは対応出来ない圧倒的な打撃力を、観客達に見せつけていた。

 

ちなみに初回の連続フォアボールはアレだったが、パワプロもそれ以外の回はホントに公式戦初登板か疑いたくなる好投。

何点取られてもよいという開き直りの姿勢が、むしろ由良ナインを萎縮させていた。

 

 

 

4回裏、敵エース東山も燃やし、点差は40-5。

最後もパワプロは3人ランナーを出しながらも、その後は三者連続三振で試合を締めた。

 

由良総合の榊英監督は、自分が離れた間にこんなに西東京の高校野球は変わったのかと寂しさを覚えていたという。

……この惨状で心が折れないのは強すぎる。

 

 

 

試合後、榊英監督と片岡コーチと酒を飲み交わしていた。

大雑把に言うと、お互い凄く大変だけど頑張ろうねという話である。

今の立場は大きく違えど、尊敬する恩師の言葉によって大分片岡コーチはリフレッシュ出来たらしい。まあ、精神的な話でしかないが。

変換期の強豪校な上に、指示を出すべき監督がテキトーというのは、物理的に片岡コーチの体力を相当削っていた。

 

今は苦しいだろうが、裏方の仕事がマトモに出来る彼がいないと、薬師というチームが成り立たないので頑張って欲しい。

 

 

 

 

 

 

2回戦を難なく突破した薬師高校。次の3回戦は、明川学園と戦う事になる。

 

 

 

「薬師ィ! ここでコケたら許さんぞ!!」

「頑張れ友部ェ!」

「ガンガン打てー!」

「絶対勝てるぞぉ!!」

 

なんか変なおっさん達の応援を一身に受ける薬師高校だが、慣れている上級生達は全く気にしていない。

高校野球はこういう物だと思っているのである。

 

 

 

 

1回表、薬師高校の攻撃は1番雷市……なんか、今回はホームランバッターから並べてみた打線らしい。

 

 

___カキーン!

 

初っ端からツーベースヒットを放った雷市だが、ベンチは不満げな顔をしていた。

中堅校以下の明川相手なら、ホームランじゃなければ許されないらしい。

 

 

___カッキーン!

 

2番北瀬がホームランを放ち2得点。

 

 

___カキーン!

 

「アウト!」

 

3番火神は鋭い打球を放ったが、運悪く守備に取られてワンアウト。

 

 

___カキーン!

 

4番三島が長打を放ち、ワンアウト2塁

 

 

___カキン!

 

5番伊川がヒットを打ち、ワンアウト2・3塁。

 

 

___カキーン!

 

6番秋葉がツーベースを打ち、4点目でワンアウトランナー2塁。

 

 

___カッキーン!

 

7番瀬戸がヒットを放ち、ワンアウトランナー2・3塁。

 

 

 

___カキン!

 

8番友部は運悪く守備に阻まれ、ツーアウトランナー2・3塁。

 

 

 

___ガギ

 

9番奥村が案の定ゴロを打ち、スリーアウトチェンジ。

 

 

 

1回4失点と、普通なら炎上と言えるピッチングを見せた明川ピッチャー。

だが寧ろ、打撃だけならプロ級の薬師打線相手に、よく4失点で抑えたと温かい拍手が鳴り響いていた。

 

……本気で勝ちに来ている明川学園一同は、渋い顔をしていたが。

 

 

 

 

1回裏、明川学園の攻撃は1番センター二宮。

俺達でピッチャーを援護して、楊を胴上げしてやるとやる気に満ち溢れている。

 

 

___ガギ

 

彼は初っ端からゴロを放ってしまうも、打球なサードに飛んだ事により、案の定送球ミス&捕球ミスが出る。

鈍い当たりで3塁まで進めてしまった事に1番驚いていたのは、明川打線だった。

 

 

 

ノーアウトランナー3塁で、打席には2番サード橋本。

強豪校のピッチャー相手とはいえ、当てれば何とかなるさと考えて実行しようとしている。

 

 

___バシっ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

だが、当てる事すら出来ずにアウトにされていた。

まあ相手は野球推薦まである格上チームだから、仕方ない面が大きいと言えるだろう。

 

 

 

ワンアウトランナー3塁で、打席には3番ショート大西。

どんな形でも良いから兎に角バットに当ててやると、闘志を燃やしていた。

 

 

___ガギッ!

 

高くファースト方向に打ち上げた大西。

三島が案の定落球した事により、3塁ランナーは帰り犠打を放った事になった。

あまりにも酷い守備陣だ。いっそ三島が1塁をアウトに出来た事を褒めるべきな気すらしてくる。

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打順は4番セカンド対馬。

俺がチャンスを作るってみせると、楊がいる方向を見ながら決心していた。

 

 

___ガギン!

 

「アウト!」

 

だが運悪くセカンドにボールが飛んでしまい、あっけなくアウト。

伊川方向にゴロを飛ばしてしまった場合、勝機はほぼ無いと言って良いのである。

どんなに優しく送球しようとも、ボールを受けている選手が落球しないとは言っていないので、勝機は「ほぼ」無いというのがミソである。

 

 

 

……

 

 

 

何度かバットの端にかすって出塁はするものの、以降も点差が付き続けて既に4回終了時には既に38-7となっていた。

既にコールド3回分以上。

 

既に勝つのは絶望的。

それでも……ここまで部に尽くしてくれた楊が見ている前で、このまま終わるわけにはいかないと、明川学園は死にものぐるいで立ち向かい続ける。

 

 

___カッキーン!

 

遂に芯でとらえた当たりが出た。

薬師高校に一方的に打たれた続けたが……最後の最後、遂に待望のホームラン―――と思われたその瞬間、飛び出した北瀬によってキャッチされてしまい敢えなくコールドとなる。

 

4番バッターの対馬は、起きた現実を受け止められず……ただ呆然となり崩れ落ち、嗚咽を漏らす。

 

 

 

 

 

 

「38-7で、薬師高校の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

元々、ほとんどの観客達は薬師野球部を応援しに来ていた。

……だがどんなに格上であろうと、最強の打撃陣を前に一歩も引かず最後まで勝つことを諦めなかった誇り高き選手達に、観客達は思わず盛大な拍手を送っていた。

 

しかし、最後のバッターになってしまった主砲の対馬は、選抜優勝校を相手によく頑張ったという慰めも、最後まで戦い抜いたという名誉も要らないと涙を零していた。

ただ楊の見ている前で、明川が負けるところを見せたくなかった、報いたかった、勝って、自分達が甲子園に行く姿を見せたかったのだ。

……こうして、明川学園の夏が終わった。

 

 

 

ちなみに薬師野球部はその頃、晩飯と新作のゲームの話で盛り上がっていたという。

 

 

 

 

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