【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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7球目 凶運

1週間あった、楽しい試合ばかりのゴールデンウィークが終わり、俺達はまた地獄の筋トレに励み続けていた。

 

そして、その努力が実る日がやって来た! 今日は、監督とキャプテンが、対戦校のくじを引きにいく日だ。今日から大体、1週間とちょっとで試合が始まる事になる。

やったあ! 只管筋トレしてるより、やっぱり試合をした方が楽しいし、楽しみだなぁ。

監督は甲子園とか言ってるけど、それは無理でしょ。ベスト8位ならもしかしたら行けるかな、でも高望みかな、まあいいや。俺達がやる事は、全力で戦って完全燃焼する事だけでしょ!

この夏で引退の先輩達の為にも、俺達は頑張らなきゃな。

最後に出してあげれば良いのに、轟監督は完全実力主義で行くって明言してるんだよなぁ。いや、強豪を出し抜く為に俺と北瀬は本来のポジション以外をやって打撃は手加減させて、雷市は強豪相手まで出場させないけどさ。

そのルールじゃ絶対出られない先輩いるんですけど。折角20人ぴったりでベンチに全員入れたんだから、全員出してくれれば良いのに。どうせ強豪には勝てないって、どうせ。

 

危ないし休憩も取りたいからって事で、今日の練習は轟監督が帰ってくるまで無し!

待ってる間暇だから、俺と北瀬で箱アイスを買いに行って、部員全員に配った。子供に会いに来ないのはどうかと思うけど、お金が自由に使えるのは凄く便利なんだよなぁ。

 

 

監督とキャプテンが近付いて来る。監督は普通の顔してるけど、キャプテンは顔面蒼白って感じだ。え、何かヤバいのか?

 

「えー厳正なるくじ引きの結果、3回戦で市大三高、6回戦で青道、決勝で稲城実業と当たることになりました!

……まー、お前らの実力なら何とかなるだろ! 決まった事は仕方ない。くじを引いたキャプテンを恨まず! 正々堂々勝ち上がって甲子園に出場しましょう!」

 

野球ド素人3人組以外は、一瞬でヤバさを悟った。

それつまり、三強全部と当たるって事ですよね……ジャイアントキリング3回もしなきゃいけないんですか??

 

「……それ、地区内全ての強豪と当たってません?」

「ちょっキャプテン! 何してくれたんすか!」

「あまりにもヒデー!」

 

北瀬と伊川は内心あんまり甲子園とかに興味が無いので、へえふーん位の浅い頷きで終わった。ここまで無言だった雷市は、部員が騒いでいる最中、急に大声で笑い出した。

 

「カハ、カハハハッ! ツエー奴と沢山戦えるっ! 楽しみ!!」

「ふっ、そうだよな! どうせ甲子園に行ったら強エェ奴らと沢山当たるもんな。

絶対、俺達なら勝てる! だから甲子園までの肩慣らしって感じで行こう」

 

轟達クリーンナップに全幅の信頼を置いている真田は思った。

よく考えたらこの3人がいるチームってだけで勝てるんじゃないか? 仮に3人以外全員無安打でも、10点くらいは取ってきそうだよな。

ならピッチャーは9点までは取られても良いって事だ。野手陣だって、取れそうなボールは取るだけで勝てるだろ。紛れアウトが取れれば良いんだ。だって絶対、轟達は点を取ってくる。

ついでに俺達も打てたらラッキー、彼らに早く打席を回すだけで良いんだ。それに、3人以外の打撃も悪くないもんな!

 

 

 

 

 

試合初日も2日目も、20点近く点差を付けて5回コールド。弱小相手とはいえ、クリーンナップ無しでも十分戦えた事は自信に繋がった。

 

主軸メンバーは公開していないとはいえ、目敏い自称評論家達はジャイアントキリングを成し遂げられる可能性があると考え、薬師高校に少しだけ注目した。

 

 

「薬師強くね? 弱小相手とはいえ、20点も点取ってるぞ。今回は良い所まで行くかもな」

「でも貧打チーム相手に8失点。特に、セカンドとライトの守備が酷すぎる。打撃は面白いんだけどな」

「ピッチャー温存してるのかな、エース1度も登板してないぜ」

「ていうか、何で2番手ピッチャーが13番なんだろ。他にも色々温存してたりして……」

「なんにせよ、次の相手市大三高らしいぜ。無理だろ」

『そりゃ無理だわ』

 

偽エースの真田は膝を痛めているし、エースの北瀬は強豪相手に連戦して貰う隠し玉の為、三島と三野が交代で完投していた。

ただでさえ2番手以下のピッチャーを使うのに、主軸は隠したまま。だから目茶苦茶な試合になってしまった。

真田はズルをした訳でも無いから気にしなくて良いのは分かるけど、早く彼らを世間に知らしめたい。だからなるべく早く出してくれないかなぁと思っていた。

 

ついでに、俺はいつになったらピッチャーとして出ますかね、次から三強連打ですよ。まさか出場無しだったりしないよな……怪我してるから?

なんて、ちょっとだけ不貞腐れていたりもした。練習を重ねてきて実力もあるのに出してくれないのでは、小言の1つ2つ言いたくなるのも分かるだろう。

そんな思考は、帰り支度の最中に吹き飛ばされる事になる。

確かにピッチャーとして出たいとは思ったけどさ、そこまで大舞台でやりたいとは思ってねーよ! と。

 

 

 

市大三高の試合の偵察から帰る最中、自信過剰な節のある三島が、急に変な事を言い出した。

 

 

「おおっ! 今、俺達の話題が聞こえなかったか?」

 

これくらいで薬師の話題が上がる訳無いだろうと、大体の部員が思った。主軸3人を隠して、ピッチャーも4番手を使った。これじゃあ俺達が強い事なんて、分かる筈が無いと考えた。

実際の所、ここまで強いと思った訳では無いが強豪校候補を嗅ぎつけている人は少しだけいたのだが。

なぜなら、妙に打撃レベルの平均が高すぎる。タレント揃いとは違う気がするが、上位打線から下位打線まで打撃力が高過ぎる気がする。

これはマグレじゃない。打撃だけ、目茶苦茶教えるのが上手い奴でもいないとこうはならない。新しい監督でも入ったか、と目が肥えている極一部の観客は直感していた。

実際の所、薬師高校の打力はピッチャーの北瀬と真田のボールを打つ事で。また、北瀬・轟・伊川の打撃に触発される事で大幅に上がっていたから、全くもって正しい。

 

「気のせいだろ、そんなに注目されるような事してないし」

「いや、23対8ってけっこう凄くね?」

「投壊って意味では凄いね」

 

野球では強豪同士が戦った場合、10点取られる試合なんて中々考えられる事では無い。弱小校同士でも、いや弱小校だからこそ、バットをぶんぶん振り回して空振りロースコアゲームになりがちだ。

それなのに、23対8……試合を見ていた観客は、薬師は打撃の時間を1時間位削って、守備を頑張っていたら強かったのになぁと残念に思った。

 

特にセカンドとライトの守備が酷すぎる。打撃自体はそんなに悪くないが、下位打線なのにゴミ守備ってどういう事だよ。他の部員と入れ替えれば……いや、これ以下しかいないんだろうなぁと残念に思った。

違う。守備がもっとマトモな奴はいる上で、それでも本来の彼らの打撃の方が魅力的なのだ。打撃では弱者ステルス出来るし、守備は実践形式で練習させた方が良いから出場させているだけなのだ。

まあ、何を言った所で彼らの守備が酷いのは、紛れもない事実なのだが。

 

 

「結局、相手弱かったしなぁ……」

「俺らも点取られてたし」

「仕方ないだろ。エース使ってないし、秘密兵器だって……」

「先輩! それをこんな所で言わないでください!!」

「ちょっ、三島こそ声がデケェよ」

 

 

秘密兵器という言葉が聞かれていても強豪校まで伝わったとは思えないが、野球部にとって極秘情報なのでまだ話そうとしている連中を慌てて止めた。

……三島の声も大きかったので伊川が注意した。

 

「まーそんな事より、次の相手は市大三高じゃん。どう思うよ、雷市」

 

真田は秘密兵器から話題を逸らそうとしたのか、純粋に気になったのかは知らないが、急に雷市に市大三高について話を振った。

 

「カ、カハハハッ、マナカ! ぶっ飛ばしてぇ!!」

「おい! 声大きいぞ!!」

「三島もな」

 

ふむふむと頷きながら、やっぱりなァという顔付きの真田。主砲の1人に聞いたから、次は実質エースに聞く番だと、空気を読みつつ割と自由人な彼は北瀬に尋ねた。

 

「雷市はやっぱそー言うよな。北瀬はどう思うよ」

「えっ、俺すか? ウーン……普通に勝てそうっすね」

 

何となくで入部した、野球に対する敬意が微妙に足りない北瀬は、だからこそ自分の実力を客観視してそう思った。

 

「まじか、言うねぇ〜!」

「いやだって向こうのエース、真田先輩より断然弱そうじゃないっすか。俺達なら打てるでしょ……」

 

ちょっと真田先輩に失礼な物言いになってしまったかとビビったが、真田先輩は確かになぁという納得した顔をして笑った。

 

「そうだな、そう言われてみると勝てそうだわ」

 

 

 

 

 

学校に一旦戻り、明日の試合の為に帰り支度をしようとしていた。その最中、轟監督が珍しく重々しい声で口を開いた。

 

「割と、結構悩んだんだが……」

「監督どうしたんすか?」

 

驚いた顔をして真田が尋ねる。轟監督が深刻な顔をしているのが、とても珍しかったらしい。

 

……シリアスな空気は何処へやら。コミカルな、まあいっか。みたいな顔付きに戻った監督が、衝撃の一言を話す。

 

「いやぁ、悩んだんだがな? やっぱり明日の先発は、真田で行くわ!」

『えぇー?!』

「いや、ヤバかったら北瀬に交代するけどよ。折角優秀な真田を使わないのは勿体ないし、イケる気がするんだよなァ」

 

 

神妙そうな、でもちょっと嬉しそうな硬い顔で、真田はこう口に出す。

 

「いや、態々そんな理由で、デカいリスクを侵さなくても……」

 

もうオッサンの癖に子供みたいに口を尖らせながら、監督はぶつぶつ話す。

 

「いや、まあ俺だって迷ったんだよ? 北瀬に頼れば余裕で勝てそうな感じするしさ。でもよ? 甲子園を勝ち抜くなら、ピッチャー鍛えといた方が良くない? 真田は実質2番手エースかリリーフエースなんだしさー」

「ちぇーっ。俺も市大三高相手に投げたかったっすよ」

「流石に三島じゃ厳しいだろ」

 

急に真顔になった監督は、現実的な予想を無慈悲に口に出す。

それを聞き、三島は憤慨した。

 

「えぇーっ! ンな事無いっすよ、俺はエースになる男ですから!」

「いや、うん。マジで三島の事尊敬しそうだわ」

「北瀬に勝つのは難しくねー」

 

MAX157km変化球も一級品の左腕、こんなのに勝とうとする三島のメンタルは見習った方が良いかもしれない……いや流石に無謀が過ぎるだろ。

 

上級生と下級生にスタメン枠を殆ど取られている2年生達は、一瞬三島の事を尊敬しかけた。無茶でも努力出来る奴が強いのかなと考えかけ、やっぱ無謀過ぎないかと我に返った。

 

 

 

皆グダグダ話している内に時間が過ぎ、慌てて帰ってぐっすり寝たら直ぐに当日になった。

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