【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
2連続で大差を付けて勝利した薬師野球部。
次の対戦相手は、2メートルのピッチャーがいる仙泉学園だ。
噂によると、青道高校行きを熱望していたとか何とか……ちなみにこの情報は、案の定真田母が調べて来ていた。
なぜそこまでたった2週間で調べられたのだろうか……?
実際の所、多方面にセンスを見せる真田の母らしく、彼女も諜報能力が元々かなり高かったという事らしい。
試合目前のこの場面で、轟監督が舐めプ発言を飛ばしていた。
「相手は西東京ベスト8! 春のセンバツ優勝校の俺達なら、多分勝てる相手だ!
……だからって、バッティングで手ぇ抜くんじゃねーぞ! 5回コールドで、リリーフの友部を休ませときてぇからな
___行くぞ!!」
『おうっ!!』
一方その頃、仙泉学園の鵜飼監督はある意味普段通りな、長々とした発言を繰り広げていた。
「相手は甲子園優勝校、めちゃくちゃ強いしエースなんて打てる気せんし、もし出てきたらどないせいっちゅう話や
なんやねん165kmって、高校生どころか日本人とは思えんわ。それが同地区なんて、運がないにも程があるやろ
ちゅうか何やねんこのオーダー。ほぼ全員3年生っておかしいやろ、ワシら相手に思い出登板させるつもりか?
……でも勝負ちゅうのは、やってみなきゃ分からん。最初から結果が分かるのなら、誰も戦ったりせんわな
後、相手は明らかにこっちを舐めとるで。何点取られても打撃で押してきたチームや。多分、何があってもエースを登板させてくる事はないやろな
つまり、絶対勝てない相手じゃないっちゅう事や! お前らが甲子園優勝校に勝つ所を、ワシに見せてくれや!!」
「……はいっ!!」
鵜飼監督の無駄に長い話を、一応ちゃんと聞いていた仙泉学園の部員達。
ちょっと反応は遅れたが、大きな声で返事を返していて、気合十分だ。
まあ、だからと言って薬師に勝てる可能性は殆ど無いのだが……
1回表、仙泉学園の攻撃は1番森山。
そこそこの走力を持つ、良くも悪くも西東京ベスト8だなという感じの選手である。
___バシッ!
「ストライク、バッターアウト!」
心のどこかで、真田の事を2番手ピッチャーだと舐めていたバッターは、実際の投球を見てビビっていた。
(ヤバい、何てボールだ?! 150km近く出てんじゃねーの? コレが145kmとか嘘だろ!)
実際、この大会までで真田の球速は149kmまで上がっているので、事前情報の145kmというのは古い情報である。
恐らく仙泉の監督は関東大会の時の球速を参考にしていたのだろうが、真田はパワプロ能力によって球速が大幅に上がっていたのだ。
彼は三振した後ネクストバッターズサークルにいたバッターに、情報を話したが……あまり為になる内容とは言えなかった。
「このピッチャーかなり速いぞ、多分150km近くあるんじゃないか!?」
「マジかよ?! 2番手ピッチャーのレベルじゃねぇぞ?!」
実際真田の球速は、高校球児全体の中でも余裕で10位以内に入っていた。
単純に考えると、甲子園でベスト8位のエースになれる実力である。なんで昔は元弱小校のピッチャーをやっていたのか、全く意味が分からない。
高校に入る前に、何かしらのスポーツで才能を見出されたりはしなかったのだろうか……?
真田本人は否定しているが、ネットでは轟監督が連れてきたのではと噂されていた。
ワンアウトランナー無しで、次のバッターは2番日高。
パワーと肩力が自慢の外野手である。そうは言っても薬師3軍の太平と同じ位である、パワーEでしかないのだが……まあ薬師の打力の平均値がおかしいだけだと思われる。
___バシッ!
「ストライク、バッターアウト!」
試合前に想定していたよりも速いだろうと、早めにバットを振ったが……真田のボールが持つキレに翻弄され、バッターは当てる事が出来なかった。
何だよこのボール、マジかよ?! という顔をしながら、彼はベンチに戻っていった。
ツーアウトランナー無しで、打順は3番八木。
パワー型のキャッチャーで、ぶっちゃけ由井の下位互換な選手である。
___バシッ!
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!!」
3連続で真田が三振を取って、スリーアウトチェンジ。
彼もまた、真面目に練習してからたったの2年で、パワプロ補正有りとはいえドラフト上位指名される天才なのだ。
地方大会ベスト8程度の選手相手なら、こんな事もあるだろう。
目の肥えた観客達は、真田キャプテンの圧倒的な実力に唸っていた。
「思ったより真田キャプテン良いな」
「まだ4回戦だから球速表示されてねぇけど、150km近くあるんじゃねーの?!」
「轟監督ってやっぱスゲェんだな。守備を教えるのは駄目っぽいけど……」
「いやいや、一点特化の指導をしてるんだから当然だろ! 素晴らしい監督に決まってる!」
ちなみに、まだ4回戦だというのに会場のベンチは割と埋まっている。
あの投壊野球薬師を一目見ようと、コアな野球ファン達が大勢集っているのだ。
強豪校相手となると、座席が取れるか分からないので……
1回裏、薬師高校の攻撃は1番センター平畠。
なぜか、秋葉を差し置いてセンターが平畠になっている。
……というか、何故か今回の試合、3年生7人全員を起用しているのだ。ナメプにも程がある。
そして、2年生達は1人も起用していない。
実業団入りを狙っている米原や森山の為にも、彼らに目立つ機会を与えてやろうと考えたらしい。2年生3人衆を出すと、3年生が目立たなくなってしまうからである。
真田の実力ならそんなに打たれる事はないだろうし、手塩にかけて育てた3年生達なら取られた以上に打てるだろうと考えているのだ。
まあ危なくなったら代打で雷市達を送れば良いだろうという、目茶苦茶な対応だった。
___カキン!
2メートルの巨人真木相手に初球打ち、しっかりと1番としての役割を果たしていた。
「平畠先輩! もっとホームラン狙って良いですよー!」
「ヒット狙いは甘えだぞー!」
「ナイスヒットです、平畠さん!」
「福田はホームラン頼むぞ!」
まあ、薬師ベンチは気に食わなかった様だが……平畠本人も、慎重になりすぎたかなと思っていた。
ノーアウトランナー1塁、打順は2番福田。
パワーヒッターを自称する以上、狙いはホームランだけ。そう考えながら、バットを長く持っていた。
___ガギン!
「アウト!」
残念ながら、タイミングが合わずにアウトになってしまった福田。まあ初回だから、2メートルピッチャーに合わせられなくても仕方ない。
「惜しいぞ福田ー!」
「ドンマイです福田先輩!!」
「ナイスホームラン狙い!」
「次は行けるぞー!」
よく最後までホームランを狙ってくれたと、薬師ベンチは暖かく迎え入れていた。
薬師高校には、ホームランさえ狙っておけばOKという風潮がある。1校だけホームランダービーを開催しているのだ。
楽しんで全力で野球をしたいと思っている上級生は多いが、それは本当にホームランを狙うだけで良いのだろうか?
守備が一向に上達しないせいで、ピッチャーの成績が可哀想な事になっているが……
ワンアウトランナー1塁の場面で、打席には森山。
地味に実業団入りを狙っている、薬師野球部3年生の中でも上位に入る打力の持ち主である。
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
……2メートルからあっさりホームランを打ってしまった。
パワーAミートCとはいえ、そんなあっさりと打ててしまえる物なのだろうか?
いや……彼の能力値自体は、プロ入りすら挑める打力なのだ。薬師スタメン達の打力が異常なだけで、森山は相当優秀なバッターなのである。
これで薬師高校は、2点先取した。
ワンアウトランナー無しで、打席には4番米原。
パワーBミートBと優秀な打撃力の持ち主である。まあ案の定、守備は酷いが……
___ガギーン!
鈍い音を立てながらも外野まで持っていった打球は、運良く右中間に上がってツーベースヒット。
打った本人はホームランを打てなかった事に不満を持っていたが、結果的には良い当たりだった事に変わりない。
ワンアウトランナー2塁で、打席にはピッチャーの真田。
打者としては、チャンスと後半に強いパワーヒッターである。
___ガギ
「アウト!」
残念ながら、2メートルから放たれる145kmの速球を掴めずにゴロを打ってしまった。
実力的には初回から打てても全然おかしくなかったが、まあバッティングというのはそういう事もあるだろう。
「惜しいっすよ真田先輩!」
「次はホームラン行けますよー!」
「ドンマイです真田さん!」
「まあ初回0点に抑えたからセーフだろ!」
ベンチから温かい声が届くも、真田は悔しそうな顔を隠せなかった。
せっかく久しぶりにバッターボックスに立てたのに、俺って不甲斐ないなと考えていたのである。
そもそもこれだけ打てるピッチャーというのが、野球界全体としてはおかしい話なのだが……まあ確かに、西東京地区には妙に多い。
ツーアウトランナー2塁で、打席には福田。
ミートBパワーCと、割と優秀な打撃力の持ち主である。
他の強豪校ならクリーンナップを任されていてもおかしくない選手なのだが、春のセンバツ優勝校である薬師野球部ではベンチ入りが精一杯だった。と人からは解釈されている。
実際の所は、打撃を大きく成長させまくるパワプロ能力に関係があるのだが。
___カキン!
彼は上手くバットに合わせられて、ヒットを放った。
案の定ホームランが打てなかったと悔しそうな顔をしていたが、そもそも初回から地方大会ベスト8相手にヒットを打てるだけ優秀な選手である。
ツーアウトランナー1・3塁で、打席には山内。
薬師野球部の3年生と考えると控えめな、ミートCパワーCの持ち主だが、他校なら全然スタメン起用もあり得た選手である。
___ガギン!
「……アウト!」
残念ながらチャンスを物に出来ず、ギリギリの所でアウトになってしまった。
バッターは悔しそうに頭を抱えている。
「ドンマイドンマイ!」
「次は打てるぞー!」
「惜しかったです! 山内さん!」
「次はホームラン行こうぜ!!」
薬師ベンチは、それでも暖かく彼を迎え入れている。
結果に拘らない、元弱小校らしい反応と言えるだろう……まあそもそも初回で2点先行しているので、割と結果は出しているとも言えるのだが。
……
その後も仙泉学園は、真田の150kmの大台に迫る球速と球質の重さ、ツーシームに加えカットボール、シュートの強力な変化球の暴威によって、甲子園優勝校の投手キャプテンとしての貫禄をまざまざと見せつけられることになる。
150km近い豪速球とインコース攻めを相手に一歩も引かずその闘志で立派に振り込むことは出来ている。
それだけでも練習の成果は大きく出ているが……打てるかどうかは全くの別、タイミングが、バットの照準がまるで合わないのだ。
何度かバットの端にかすって出塁はするものの、以降も空振り三振を奪われ続けてしまった。
「試合終了! ……4-16で、薬師高校の勝ち! 礼!!」
『ありがとうございました!!』
5回表終了時には、4ー16となり試合終了。
むしろ、彼相手に4得点出来た事が奇跡と言っても良い位だ。薬師野球部の崩壊守備に、一応助けられていた。
「クソッ……分かってはいたんだ……」
「こんな舐められっぱなしで、俺の野球は終わるのかよ……」
試合終了後、仙泉学園一同は静かに涙を零していたという。
ちょっとやり過ぎじゃないかと内心思っていた薬師野球部員達は、居心地が悪かった。
まあ数分経った後、心境は次の青道戦に完全に移っていったらしいが。なんか薬師野球部の特性として、めちゃくちゃ思考の切り替えが早い所があった。
3年生に思い出出場させる余裕はあったとはいえ、一応薬師は2番手ピッチャーを切らされています
後3年生を大量投入したのは、連日の試合の疲れを取るという理由もある裏設定です