【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
明日の青道高校戦の為に、スタメン組は殆ど練習無しで休めと轟監督に言われていた。
実際、今日は通常練習すら殆ど命じされていない。
その指示に渋い顔をしている選手も多かったが、北瀬や伊川は喜んで遊ぼうと考えていた。
基本的に、彼らは練習が嫌いなのだ。
まあ体力を使う遊び、具体的に謂うならタケノコ掘りなどは禁止されていた様だが、休みが嬉しい事には変わりない。
だが最終的に、伊川は同室の火神の為に1対1で勉強会を開くと意気込んでいた……赤点を連発していて、彼はまだ1年生なのに進級すら怪しいらしい。
小学生レベルすら分かっていない箇所もあり、あまりにも学力が低かったのだ。
北瀬は人の勉強を見れる程頭が良くないので、邪魔にならない様に部屋から出ていった後、何をしようかなと考えながらほっつき歩いていた。
「北瀬先輩! 今って練習見てもらう事は出来ますか?!」
「いいよ、どうせ暇だったしな!」
その場面に居合わせた、たまたま現れたパワプロくん。
彼は積極的に先輩達に練習を教わろうとしているので、思い切って大エース北瀬に話しかけてみた。
北瀬はパワプロの事をあまり知らないが、別に断る理由も無かったので快諾。
練習を見るのは2回目な事もあって、普通に練習に付いていった。
雨天練習場に付いた北瀬達。別に今日雨が振っている訳ではないが、普通に日陰で練習したかったらしい。
「あっ、今日はバッティングを見てほしいんですけど……多分大丈夫ですよね?」
「良いけど、俺って多分バッティングそこまで上手くないぞ?」
「いや北瀬先輩は上手いですよ! 春のセンバツ決勝での5連続ホームランとかあったじゃないですか!!」
北瀬がそう言うと、パワプロくんはいやいやそれは無いですよと否定した。
まあこのタイミングでは否定するほかないだろうが、実際北瀬は打撃が上手いのである。
「そうか? あの時は調子が良かっただけだと思うけど……まあいいや、俺って何をすれば良い?」
パワプロくんはしばし悩んだ結果、北瀬先輩が打席に立った時の事について聞くことにしたようだ。
「……じゃあ、北瀬さんが立つ打席特有の威圧感について教えてください!」
「威圧感? そんなのあるか?」
「はいっ、あります! 練習で打席に立たれると、なんか打たれる恐怖が襲って来て投げ辛いというか……」
北瀬はパワプロくんの質問を聞いて、それが本当ならどうしてだろうと考えた結果、ある事を思い付いた様だった。
「うーん、合ってるかは分かんねぇけど……もしかしたら、絶対に打てるって思ってるのが相手ピッチャーからすれば怖いのかもな」
「北瀬先輩は、絶対に打てると思ってるんですか?」
「多分そうだな。俺達薬師野球部って打撃のチームだろ? だから俺も、ホームラン打てるだろうなって感じがするんだよなぁ」
なるほど。彼の実力と実績と自信によって、相手バッターが威圧されているんだなと納得したパワプロくん。
お礼を言いながら、自分がやるならどうすれば良いかと考え始めた様だ。
「俺もホームラン打てるって考え方ですか……覚えておきます、ありがとうございます!」
パワプロくんはこれで、威圧感のコツを覚えた。
今はまだミートEパワーEだから使えないと思うが、そのうち恐怖の薬師打線に相応しいピッチャーになっているかもしれない。
しばらくパワプロくんの練習を見ていたら、何人もの下級生達が集まってきたので、纏めて練習を見ていた北瀬。
この短い練習の間に、パワーが大きく上がった選手がいたとかいないとか……ちなみに、太平の事である。
北瀬から彼への好感度が非常に高いので、パワプロ能力の恩恵を受けやすかったのだ。
一方その頃の伊川は、火神の勉強を見ている途中、手伝いを申し出てくれた数人の下級生達と、図書館に移って勉強をしていた。
少し休憩するかと椅子を離れると、いつの間にか1年生の誰かがコップに飲み物を継ぎ足してくれたらしい。
彼らは、あまりにもパシリに慣れ過ぎている気がする。
伊川はせかせかと動く彼らを見ながら、少し離れた所でぼうっとしていた。周りに世話を焼かれ続けるのは、少し居心地が悪かったのである。
そんな彼に気付いて近寄ってきたのは、1軍ではあるがベンチ入りは出来ていない田中。
彼は野球推薦入学者だが、ある程度学力があるので割と仲の良い伊川先輩に頼んで、一緒に勉強させて貰っていたのだ。
多少は勉強をしないと今の成績が維持出来ないので、周りと一緒に勉強がしたかったのである。
「伊川先輩、悩み事ですか?」
田中の言葉を聞いて、悩み事とか不思議に思っている事を言うか迷った伊川。
まあ言っても良いかと結局言う事にした様で、緊張しながらこう話していた。
「いや、そうだな……なんでお前らは、無駄にパシってくる俺達に構うんだ?」
「えっ? すみません、どういう事ですか?」
「最初はさ……群がってくる慣れない下級生が邪魔で、ぶっちゃけ無駄にパシってたんだよ」
パシる内容が無くなると、わざわざ1個ずつ別の人にコンビニに走らせたりしていた伊川は、おかしい嫌われないと不思議に感じていて、仲のまあ割と良い後輩に聞いた。
無駄だと思わなかったのか、なぜ俺達に構ってくるのか、最近は嫌と言う程では無いが疑問視していたのだ。
何も考えず脳死で買い物をして来た後輩もいたが、接触する後輩の数が多すぎて困っているかもしれないと気づいている後輩も、実は少しはいた。
積極的な排除まで彼はしていなかったので、尊敬する先輩達に構って欲しいと考えたのか見ないフリをしていたが……
そもそも買わせ過ぎたオヤツを買い取ってから、後輩達にも偶に無料で分配していたせいで、不自然がる人が殆ど居なかったらしい。
内心に気付いていたのは殆ど3年生だけだ。
「その、俺達に嫌われようと思ってやってたんです?」
「最初はな。最近はコミュニケーション半分だけど」
「いやぶっちゃけそれなら、伊川先輩達のやる事なす事が生温いっすね。アレ位だと割と強豪校では普通ですよ
というか、目の前で買ってきたプリン投げつけた馬鹿の代金まで払ってたじゃないすか……アレで嫌えとか言われても……無理っすね」
むしろ伊川達から同級生が減れば、競争率が下がると考えた田中が事もなげにいう。
ちなみにプリン投げつけた馬鹿とは、おっちょこちょいな奴が先輩を喜ばせようと思い、お使いしてきたプッチンプリンに勝手に生クリームを乗せ皿に出して運び、盛大に転んで伊川の身体にぶち撒けた花坂の事である。
なんて事をしてしまったんだとガチ泣きしている馬鹿を、伊川先輩は勝手に買ってきた生クリーム代も含めて後輩に料金を払いながら慰めていたのだ。
仕方ない、誰にでもミスはある。怪我はまぁ、軽いし、ちょっとした怪我だ。困らないし問題ない。そんなに泣くなよ……じゃあ代わりに、次は美味しい生クリーム付きのプリンをプレゼントしてくれ。美味そうで食いたかったんだよな。
なんて格好いい事を言いながらだ。
普通の強豪校ならどれだけ殴られてイビられても仕方ない行動をした、たかが2軍の後輩を逆に慰めた伊川。
この事で、ぶっきらぼうだけど優しい先輩ランキングの上位に君臨していた事を彼本人は知らない。
「まじで??」
「はい」
「そうか……」
メリットがデカいならやるが、根本的には他人を害する事がそこまで好きではない伊川にはどうしようも無い現状だった。
他人に迷惑をかけるのも気が進まないのに、自分の後輩だと考えたらやり辛い。
それに後輩達は恐らく、あくまで俺達の邪魔をしようとして来ている訳じゃない。先輩達にも沢山構って貰ったのに、俺だけ後輩を邪険にするのはなんか違うかな。
元来の性質的には真面目に入る伊川は、先輩達から受けた歓迎の態度を出来れば後輩にも返したいと思ってはいた。
そもそも1年生をパシったりして、若干だが申し訳ないとも思っていたのだ。これ以上邪険には出来なかった。
田中の発言によって、割と自分を慕っているかもしれない後輩がいるんだと自覚した伊川。
これによって、彼の持ち合わせている世話焼き体質が後輩にも大きく発揮される様になり、最終的に多数の後輩のミート力が上がった。
……地味に田中のファインプレーかもしれない。本人はそのつもりで言った訳ではないが。
「待て待てミッシーマ、明日試合だからな? ピッチング練習するにしても、後にしてくれ」
「でも真田先輩! こういう時に練習して北瀬や先輩に追いつかないと、俺はいつまで経ってもエースになれないっス!!」
その頃、真田キャプテンは奥村を連れてピッチングをしようとしている三島を見つけて慌てて止めていた。
明日は青道戦で、どう考えても彼はファーストとして出場するのに、ここでスタミナを使ってどうするのかという話である。
怪我防止に細かい轟監督の思想を、真田もよく受け継いでいた。
「……今日練習して怪我に繋がったら、その分だけ時間を無駄にするぞ。それに足に爆弾が付いたら、俺みたいに完投できなくなるし……とにかく、今日は休め。な!」
「……分かりました」
ガッカリした顔をしている三島を見ながら、真田は奥村にも注意をした。
恐らく誘われただけであろう奥村からすれば理不尽に聞こえるかもしれないが、ちゃんと注意しなければと考えたらしい。
「後奥村、今日はスタメンを休ませろって監督言ってただろ? 先輩相手じゃ注意し辛いと思うけど、そういう時は止めてくれ」
「すみません……どうせ投げるなら、俺が受けたいと思って許可してしまいました」
奥村はクールな顔を崩さないまま、真田先輩に謝っていた。
ちなみに彼は、三島先輩に辞めたほうが良いのではと1度ちゃんと助言している。
それをちゃんと言えば良いのではとも思うが、結局止めきれてない上に乗ってしまったから意味がないと考えているらしい。
「なるほどなぁ、まー次から気を付けてくれよ!」
確かに三島のピッチングもけっこう良いし、受けたくなるのは分かるよと、今回は仕方ないと納得した真田。
当然、奥村が1回止めている事は気付いていない。
1・2軍の1年生は練習し過ぎな気もするし、キャプテンとしてちゃんと気を付けないとな、なんて考え始めた真田。
彼は人望はあってもキャプテンとしての活動はあまりしないタイプなので、今まで後輩の行動まで制限する事はなかった。
地方大会真っ最中なこの時期に、ようやくキャプテンとしての資質が開花し始めたのかもしれない。
まあ、元々口は上手かったが……
___ブォン! ブォン!
「カハ……カハハ……」
一方その頃、雷市は雨天練習場の隅でバットを振っていた。
彼に話しかけたかった1年生も多かったが、彼の無心にバットを振り続ける姿を見ていると話しかけ辛かったのである。
1人で笑いながらバットを振り続けている彼は、見ていてぶっちゃけ怖かった。
彼は小さい頃から父親とバットを振り続けていたので、笑い声を注意する人がいなかったらしい。
偶に合流していた三島や秋葉も、まあそれも雷市の持ち味だしなぁとスルーしていたのだ。
薬師野球部に入って来たあたりでも、彼の圧倒的な打撃力や野球に対する執着心を見ていると、高笑いが当たり前の様に感じてしまったのか誰も指摘しなかった。
……多分彼は、一生バットを振り続けて笑っていると思われる。
時が過ぎて引退する年になっても、彼は野球から離れられないだろう。
___雷市は、一生を野球に捧げる事しか出来ない。
野球の神様に愛されているのか、呪われているのか、分からない選手だった。
多分彼は、例え片腕が無くなったとしてもバットを振り続ける様な、どこかイカれているプレイヤーである。
そんな彼を、薬師野球部員は尊敬しているのだ。