【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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展開の提供ありがとうございます!一部本編にそのまま使いながら、楽しく書きました!


102球目 過去

 

 

 

 

 

 

市大三高との試合前日、真田は、北瀬と伊川を集めて3人で雑談をしていた。

 

 

「……で、多分明日の俺登板するだろ?」

「そっすね!」

「楽しんで投げてくださいね!」

 

2番手ピッチャーである真田が投げようと、勝ちを疑わない北瀬達につい笑みを零しながら、彼らにこう話した。

 

 

「まぁ天久相手じゃ、俺だけの力で投げ勝てるかは自信無くてさ……お前らのホームランに、試合は掛かってると思うんだ___頼むぜ!」

『ハイッ!!』

 

自分が頑張らなくてもチームは勝てるだろうと、いつも無気力に打席に立っている伊川は、この言葉に奮起した。

そうか、真田キャプテンは自信が無いのか……なら頑張って、俺達が援護しないとな……!

 

明日の伊川は、ツーストライクを取られるまで長打を狙う、長距離砲になった。

ミートSパワーBの本領が、遂に示されるのだ。

 

ちなみに今回主砲の雷市が呼ばれなかったのは、彼は期待に応えようとすると空回りしかねないと、真田キャプテンが考えたからである。

そもそも打撃への飢えが有り余っている人物だから、チームメイトへの思いという不純物は要らないのだろう。

 

 

 

 

 

 

準決勝の薬師高校vs市大三高戦を見に来ている、市大三高の元3年OBである真中達。

昨年夏の敗戦自体は、何故か相手にプロレベルの選手が3人混じっていた事と、こちらに天久がいなかった事が合わさって半ば諦めが混じっていたらしい。

だが、幼馴染件ライバルの丹波率いる青道が敗れた事もそうだが、北瀬が投手としてメジャー級の力を持ちながら市大戦で温存されていた事を知った時は……流石にショックを隠せなかった様だ。

 

 

「どんなに派手に他の奴等が俺達を追い抜いていったって、お前の価値は変わらねえ。頑張れよ光聖……」

「俺達があんな負け方しちゃったからなぁ、まだ本領を発揮してなかった薬師相手に……アイツらには、頑張って欲しいよな」

 

昨年夏、市大三高はまだ今程強くなかった薬師高校に、エースを温存されたまま7回コールド負けを喫している。

当時薬師高校の実力が知られていなかった頃は、観客やOB達に屈辱的な言葉を掛けられていたのだが……そんな無念を晴らすべく、彼らは精力的に後輩達を応援していた。

 

それに1年前彼らが引退した秋大会でも、無名の鵜久森高校にまさかの敗戦をしてしまっているのだ。

そろそろ大恩ある監督の首が怪しくなっているという噂もある為、どうしても後輩達には甲子園に行って貰わなくてはならなかった。

まあ薬師高校や稲城実業に勝つのは、甲子園を優勝するレベルで大変そうではあるが……

 

 

 

 

 

 

試合開始20分前に、対戦校のメンバーが発表された。

薬師高校の先発ピッチャーは、天久の予測通り、2番手ピッチャーの真田。

 

一発勝負の戦いで、運が悪ければ負けかねない強豪校相手にエースを出したい気持ちは強かった。

だが、轟監督はギリギリまで悩んだが、やはりここは真田を先発させる事に決めた。

北瀬に3連投させる事はしたくないという思いも有るし、真田にも強豪校相手に投げさせてプロ入りを応援したいという気持ちもあったのだ。

 

この判断に、市大三高の選手達はホッと安心していた。

青道を無失点に抑える北瀬相手に完投されたら、勝てる気がしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

試合前の時間、轟監督は相手をある程度認めながらも、こうやってチームを鼓舞していた。

 

 

「相手は、元西東京3強と言われた市大三高! 打撃力はあるし、なにより天久はハマれば強力なピッチャーだろう……

だけど、お前らの方が更に強い! 大好きなホームランを打ちまくって、真田を援護してやれ!」

『はいっ!』

 

真田キャプテンを援護して気持ち良く勝ってやると、スターティングメンバー達は大真面目に考えていた。彼は、薬師高校で1番人望があるのだ。

……ちなみに片岡コーチは、まだあまり関わっていない部員に怖がられまくっているのでランキングから除外されている。

 

 

 

 

対して市大三高の田原監督は、大切に育ててきたチームを信じてこう話していた。

 

 

「彼等との戦いは、嘗てない程にデンジャラスなバトルになる。しかし! 今の君たちならビクトリーを掴み取れると確信している! GO!!」

『ハイッ!!』

 

市大の部員達は、大きな声で返事を返して勝利を誓っていた。

試合前にも拘らず天久は、前々から思ってたけどなんで監督ってルー柴みたいな喋り方なんだろうな、なんて考えていたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が始まり1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

市大三高のピッチャーは、当然エースの天久である。

 

 

___ガギーン!

 

「アウト!」

 

天久は立ち上がりに難があるのと、強打者に対し全力投球する代わりにそれ以外には気を抜きがちな悪癖がある。

だが今回の、薬師高校の大砲を揃えたマシンガン打線を相手にするという条件から、天久の癖が出てしまう事は最後まで無かった。

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打線には日本が誇る最強の安打製造機の伊川。

 

 

(真田先輩は、自信が無いって言ってたな……ならホームランで援護して、気持ち良く投げて貰わないと!)

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

2番伊川は、初回からまさかのホームランを打ってしまった。

彼はやる気のないままに望まれた以上の成果を出す選手だが、こと真田先輩が投げるとあれば、全霊を尽くすことも吝かではなかったらしい。

まあそういった面含めて真田の「勝ち運」というヤツかもしれないが、とにかく1点。

 

 

「良いぞ伊川ー!!」

「その調子で、バンバン狙ってくれー!!」

「普段からその打ち方してくれよぉ!」

「次北瀬も頼んだぞー!」

 

 

初回からホームランを打たれた天久は、それでもこんな事を考えていた。

 

 

(うお、すっげぇ! アレが高校最強バッターの伊川か……! 面白れぇ! コイツ抑えたら、どんな顔するかな?!)

 

 

 

 

ワンアウトランナー無し1得点の場面で、打席には甲子園5打席連続ホームランの北瀬。今日はライトでの登板。

 

 

(絶対ホームラン。真田キャプテンの為には、それしかない……!)

 

___カッキーン!

 

真田先輩への尊敬を、相手ピッチャーへの闘志に変えて、全力で打ちに行った北瀬。

彼は伊川の様に普段から手抜きをしている訳ではないが、それでも打たなければという使命感は、北瀬の打力を一時的に向上させていた。

 

 

満杯まで埋まっているスタンドの観客達は、大きな声を出しながら薬師打線を称賛していた。

 

 

「良いぞ薬師ィ!」

「天久相手でも2連続ホームランかよ?!」

「北瀬最強!」

「やっぱ薬師打線が最強なんだよなぁ!!」

 

 

2打席連続でホームランを打たれた天久。だが彼にとってソレは予想範囲内だったのか、ちょっと悔しそうな顔をしただけで終わった。メンタルが強い。

まあ推薦入学した部活から逃亡しておいて、戻ってこれる様な精神構造をしているから当然なのかもしれないが……

 

 

 

 

そんな大歓声の中で薬師高校の主砲、轟雷市が打席に立つ。

投壊薬師打線の中でも、1番ホームラン数が多い化け物バッターの彼は、威圧感を撒き散らしながら高笑いしていた。

 

 

「カハハ……カハハハ……! 天久、打つ!!」

 

そんな轟に対して、2連続ホームランを打たれたにも拘らず落ち込んでいない天久は、野球に関係ない妙な事を考えていた。

 

 

(あーヤダヤダ。このバット猿、せっかくイケメンも多い薬師打線の顔面偏差値下げてるよなぁ……三島とか秋葉とかもだけど)

 

彼のこれは、現実逃避ではない。通常運転である。

飄々とした掴み所のない性格をしている天久は、よく野球に関係ない事を考える悪癖があった。

 

 

「ストライク!」

 

それでも彼は、調子が良い時ならMAX151kmをアウトローに決められるコントロールを持つ。

 

 

「うおおぉぉ! アマヒサ強えぇ!!」

 

雷市はそんな優れたピッチャーを相手にして喜びながら、楽しげな表情をして、ボールが来るのを今か今かと待ち構えていた。

 

 

___カッキーン!

 

そして、場外への特大ホームランを出してしまう。

これには天久ですら一瞬、マジかよという苦笑いをしていた。

 

観客達のボルテージは、上がりきったまま戻らない。

 

 

「轟鬼強えぇ!!」

「薬師打線は最強なんだ!!」

「トッドロキ! トッドロキ!!」

『トッドロキ! トッドロキ!!』

 

 

 

 

既に会場は、薬師圧勝ムード。そんな中で打席に立つのは、5番バッター三島。

 

 

「ガハハハ! これは流れに乗って、俺もヒーローになる場面!!」

 

味方の3連続ホームランにテンションが上がっている三島は、ここで俺もホームランを打ってやると意気込んでいた。

 

 

対して市大三高のエースである天久は、内心こんな事を考えていた。

 

 

(まあ3連続ホームラン出た時は流石に焦ったけど……よく考えたらランナーいなかったから、薬師相手にまだ3点じゃん。焦る必要無いんじゃね?

後は3連続で抑えりゃ1回表は3失点だし、傷は浅いな)

 

 

___カキーン!

 

鋭い当たり過ぎたのか、市大三高のセンターが直ぐに拾って送球した為、バッターは2塁まで進めず。

 

 

「クソぅ! ミスった!!」

 

「ドンマイ三島ー!」

「次はホームラン打てよー!」

「打球低いぞー!」

「ナイスです三島さん!」

 

ヒットを打ったにも拘らずミスだと宣言する三島に、野次を飛ばす薬師ベンチ。

彼らからすれば、ヒットは評価に値しないらしい……彼らだけホームランダービーでも開催しているのだろうか?

 

 

 

 

ワンアウトランナー1塁の場面で、打席には6番火神。

 

 

「よっしゃー! テンション上がって来た!!」

 

強力なピッチャーに対して、闘争心を出しながらバッターボックスに立っている。

 

 

___カキーン!

 

良い当たりの打球を放ったと思われたが……運悪く直接セカンドにキャッチされ、ゲッツー。スリーアウトチェンジ。

 

 

「クッソー、すみません!」

 

「惜しかったな!」

「今の取るのスゲーな……伊川なら行けるか?」

「俺? そうだな……運が良ければ?」

「次はホームラン打ってくれよな!」

 

ベンチは運の悪かった火神を暖かく迎え入れた後、渋々守備に向かった。彼らは未だに、割と守備が嫌いなのだ。

 

 

 

 

1回裏、市大三高の攻撃は1番千丸。ミート力と肩力の高いライトである。

 

 

___ガギン!

 

芯は外れてしまった物の、意外と強い当たりで打球はサードに飛んでいく。

 

 

「カハハ! アッ……」

 

ボールに飛び込んだ雷市。だが勢い良く飛び出し過ぎたせいで、ボールよりファースト方向へ行き過ぎてしまった。

 

打球は、レフト火神の所へ転がっていくが……

 

 

「あ、やべっ!」

 

火神も後ろに逸らしてしまった。

それを、センターにも拘らずレフト方向に極端に寄った守備をしている秋葉が、慌ててフォロー。

 

 

「……セーフ!」

 

だがランナーは、最終的には3塁に進んでしまう。

 

 

「ドンマイドンマイ! 次は頼むぜ!」

 

「……ハイ!」

「スンマセン! アザーズ!」

 

 

たった1球のゴロで3塁まで進まれてしまったのを見た観客達は、ため息を履きながらこう零していた。

 

 

「アカン……やっぱり薬師の守備はアカン……」

「これが無ければ無敵なんだけどなぁ……」

「超偏重育成だから仕方……ないのか?」

「もう少し真面目にやれやー!」

「てか、地味に真田147km出てんじゃん。けっこう速くね?」

 

 

 

 

薬師の守備が弱いだけで、市大三高が強い訳じゃない。

そんな感じの空気が流れる中で、次のバッターはサードの森。

足の遅さ以外の能力は、全て甲子園選手レベルに達している優秀なプレイヤーである。器用貧乏とも言えるが……

 

 

___ガギーン!

 

彼はボールを高く打ち上げ、打球はライト北瀬真正面。

 

 

___バ、ガシャン!

 

伊川と組んでいた頃のクセで、フライをキャッチした後直ぐに、北瀬はホームに向かって全力ストレートを投げてしまった。

当然、こんな剛速球がコントロール良くミットに向かって飛んでくると考えていなかった奥村は取り零す。

 

「セーフ!」

 

当然3塁ランナーはホームイン。これで、ツーアウトだが市大三高は1点返す事が出来た。

 

 

「ぶん投げちゃった、悪い奥村!!」

「いえ……取れなかった俺の方が悪いです」

 

謝る北瀬に対して、奥村は悔しげにそう返していた。

北瀬はちゃんとコントロールしてボールを返してくれたのだから、取れなかった自分が悪いと反省していたのである。

 

まあ165kmストレートのピッチャーから、ランナーが来ている状態で全力で投げられたら、殆どのキャッチャーが取れないと思われるが……奥村にとって、そんな事は関係ないのだ。

キャッチャーとして、今のプレーは怠慢だった。もっと精進しなくてはと考えていたのである。

 

そもそもそこを治す前に、言葉が足りない癖をどうにかした方が良いと思われるが……

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打席には宮川。

ミートBパワーBと、薬師高校下位打線並の打力を持つ選手だ……下位打線並というのは、褒めている事になるのだろうか?

 

 

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

そんなバッターに対して、普通に真田は三振を取った。

真田は元々の性能で言えばゴロ型のピッチャーだが、薬師高校の野手陣に色々な意味で鍛えられた事によって、三振も多く取れるようになっているのである。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打席には星田。

パワー型の選手ではあるが、泥臭いヒットも放てる執念を持つプレイヤーだ。

 

 

___ガギーン!

 

バットの根本近くに当たりながらも、彼のパワーによってギリギリ外野まで運ばれたボール。

 

だが、残念ながらボールはセンター方向に飛んでいく。

 

 

___バシッ!

 

「アウト!」

 

そこまで守備に不安のない秋葉によってキャッチされ、スリーアウトチェンジ。

結局市大三高打線は、1回1得点に終わった。

 

……普通、1回1得点というのは良い事だと思うのだが、薬師相手だと残念としか言いようがない。

最近では、彼らに勝つには最低限2桁得点必要では? と言われている打撃力なので。

 

 

 

……

 

 

 

天久はストレートで最速151kmを連発し、変化球のキレも最高に達していながらそのコントロールも過去最高の、完璧な状態となっていた。

全国に名を知られる強豪であろうとも、ただ1点を取ることも難しい圧巻の投球だろう。

 

___だが相手は薬師打線、この先百年は塗り替えられる事なき高校野球史上最強軍団。

そのクリーンナップは全てのレジェンド選手を過去にするであろう怪物三人。力及ばず、長打やホームランを決め続けられて行く。

 

 

だが、何度打ち込まれようと、それで天久が怯むことはない。市大打線が呑まれることもない。

メジャー級投手が相手であろうと、それが市大が誇る天才天久の名を全国に知られぬまま消える事を許す理由にならないのだから。

 

一時期天久の部活復帰問題で揉めていた彼らだが、今では一致団結して試合に臨むことが出来ていた。

 

 

 

並の守備であれば反撃一つ許されず鎮圧されたであろう市大の攻撃は、全面大穴によって「前に飛ばせばなんとかなる」という希望によって繋がれていた。

酷い話だが、実際それで点は取れている。

 

 

だが……回を追う度に、市大三高はじわじわと離されていく。

確かに去年の夏よりも、薬師が桁外れの打撃力を身に着けていたことも要因として挙げられる。

だが1番の原因は天久ではなく、誰よりも消耗していた捕手である高見だった。

天久のキレすぎる球の捕球に疲弊していたこともあるが、そのうえで尚如何なる場所に投げ込もうと平然と打ち返す打線によって、ある種のイップスに陥っていたのである。

 

 

高見はあまり主張しないタイプの捕手だが、主張しないことと迷うことは違う。

後は薬師打線の玩具箱。市大三高、7回無念のコールド負けとなる。

 

 

 

 

 

 

「16-8で、薬師高校の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

 

 

市大の選手達は今持てる総てを出し切ったと、監督はワールドクラスの相手に良くぞここまでファイトをしたと、悔し涙と共に讃え合い抱きしめ合い、整列と礼の後その場を去った。

 

 

 

だが終わった後に試合の熱が引いた天久の頭を駆け巡るのは、ピッチングの良し悪しではなく、試合の反省点、ターニングポイントでもなく

___1年半前の自分の過去の行いだった。

 

なんであんな馬鹿なことをしちまったんだろう?

待ってる仲間がいたのに、頼りになる先輩が居たのに。

 

あんなすげえ奴等が1年も前からいたのに、こんな真剣にこのチームに向き合ってた奴等が俺を待っていたのに。

 

 

 

……春の選抜後の逃亡が、皆の1年半を台無しにした!

自分がいれば、真中さんがあそこまで崩れたりしなかった。後ろの自分に任せてくれって言ってやれた……それだけであの人は普段の力を出せた筈だ。

のこのこ戻ってきてチームに不和を招いて、秋に薬師を目の前にして鵜久森に負けるなんて有り得なかった。

 

……ここにいる皆と一緒に、あいつらと本当はもっと戦えたのに。

 

 

 

天久はこれから先、もう自分がどれだけ悔やんでも戻ってこない掛け替えのない日々と、何よりも大事な仲間たちを置き去りにしたあの頃を後悔するだろう。

 

いずれ世界最強と言われるメジャーリーガー達の顔を見るたびに、彼等とたった一度相見えたあのマウンドの高揚感と共に……

 

 

 

 

 

 

 




今回のピッチングで、天久はドラフト2位指名に決まりました。
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