【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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104球目 天才

 

 

 

 

6回表、ノーアウトランナー無しで、薬師高校の攻撃は7番結城。

ちょっとブンブン振りすぎな所も見受けられる、超長距離バッターである。

 

 

___バシッ!

___ブォン!

 

「ストライク!」

 

凄まじい音を立てながらスイングしているが、全くバットが合わずにツーストライクまで追い込まれていた。

 

だが、彼は全く焦らない。

次はホームランを打つ。それだけの事を考えて、全力でバットを振り切ろうとしていた。薬師野球部適正がめちゃくちゃ高いと言えるだろう。

 

 

___カキーン!

 

そして……マグレ当たりが出た。

ブンブンブンブンとバットを振り回していたので、当たった時は当然デカい。

彼は2塁打を放ち、6回表0-0ノーアウトの場面で値千金のツーベースヒットを放った。

 

 

「おっ! 割と良いアタリ!!」

「良いぞ結城ー!」

「ナイスツーベース!!」

 

普段はホームランじゃないと褒めてくれない薬師ベンチも、流石に成宮にここまで抑えられていたので、今回は褒めてくれるらしい。

 

 

(クソ……もう少し強く当てられていたらホームランだった。次は打つ!)

 

だが、本人は全く満足していなかった。

順調に、ホームラン以外は価値がないという強烈な思想を固めていたのだ……実は薬師高校に来る前から、長打しか打ちたくないという思想の持ち主だったらしい。

あまりにも薬師適正が高すぎる。

 

 

 

 

「代走のお知らせをします……結城くんに代わりまして、疾風くん、疾風くん……」

 

ここを勝負所と見た轟監督が、代走に12番疾風を投入。

打力はそこら辺の弱小校レベルだが、走塁と守備が得意な薬師らしくないプレイヤーである。

 

実は今回の地方大会でも青道相手に、勝負が確定した後に守備固めで出されていたりする。

だが今回は、勝敗を決めかねない重要所。1年生ベンチの選手である疾風は、プレッシャーに耐えられるのだろうか……?

 

 

「頑張れ疾風ー!」

「大丈夫だ! 失敗しても俺達が打つ!!」

「そもそも俺達、殆ど盗塁の練習してないしな……」

「いや、アイツは自主練習でやってたぞ?」

 

 

 

薬師ベンチは疾風に応援らしき物を掛けているが、打撃ではない為具体的な指示は出てこない様だ。

特に上級生達は、走塁はともかく盗塁の練習なんて殆どしていない。どうせ味方が打つからと考えていて、危険をおかして1つでも塁を進めようという発想が無いのである。

 

 

 

 

 

 

ザワザワしている薬師ベンチだが、出場している疾風はあくまで冷静だった。

こういった緊迫した場面で送られる可能性を待ち望んでいた為、内心寧ろ喜んている。

味方が打ってなくてラッキーとは絶対言えないが、ぶっちゃけそんな心境だった。

 

 

 

ノーアウトランナー2塁で、次の打席は8番瀬戸。

1年生ながらミートCパワーBと、才能の片鱗をみせるプレイヤーである。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

残念ながら彼は、ぐうの音も出ない程綺麗に三振させられてしまった。

今までの成宮の実績を知っていても、確変なのかと疑いたくなる様な変化球のキレに翻弄されていたのである。

 

変化球の曲がり始めが大幅に遅くなる驚異の切れ味に、2ストライク時に投手能力がかなり上がるドクターK。

そしてまとう風格により相手打者を萎縮させることがある、エースの風格を纏った成宮は正に無双だった。

 

 

 

 

ワンアウトランナー2塁で、打席には9番由井。

北瀬との友情トレーニングにより、1年生ながらミートCパワーAを手に入れた長距離砲である。

 

 

___ガギーン!

 

打球はファーストとライトの間に落ち、懸命に由井は走っている。

 

 

「……アウト!」

「バックホーム!!」

 

1塁に向かった由井は、タッチの差でアウトにされてしまう。

……だが2塁にいた疾風は、その隙に3塁を回ってホームに突っ込んだ!!

 

 

「…………」

 

ギリギリのタイミングで、稲城実業捕手のキャッチャーミットにボールが届いた。

今まで騒ぎまくっていた観客席も、判定を聞こうと静まり返っている。

 

審判は、セーフかアウトか暫し悩み……

 

 

 

 

 

 

「……セーフ!!」

『おっしゃあぁ!!!』

 

判定は、セーフ!

これで薬師高校に、6回表にようやく待望の1点が入った。

 

 

「ナイス!! 疾風!!」

「ナイス疾風くん!!」

「救世主ー!!」

「暴走列車かよー! でもナイス!!」

「スゲー!!!」

 

 

 

今まで全くホームランが出ない所か、得点すら入らなくてフラストレーションが溜まっていた薬師ベンチは爆発。大騒ぎで1年生の疾風を迎えていた。

すごく楽しそうに見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クソッ!!」

「鳴、悪い……」

 

一方その頃、エース成宮は荒れていた。

明らかに自分達には得点が入りそうにない状況で、1点取られてしまったからである。

 

___これは、北瀬相手では致命傷に近い。

ヒットが一本も出ない所か、15打席連続で三振を食らっている稲城実業は、薄々負けを察し始めていた。

 

別にライトが1塁をアウトにした対応は、ワンアウトのタイミングで博打を仕掛けてくる疾風が可笑しいだけだったので、必ずしも間違いという訳では無かった。

……だが、結果論だけで言えば失敗だった。

 

 

 

 

___カキン!

___カッキーン!

 

そして、成宮の短気な所が出始めてしまったのか……1番秋葉にヒットを打たれ、2番伊川にホームランを打たれて3点差になってしまった。

 

 

 

 

 

 

ここで稲城実業の監督が、成宮を鎮める為にタイムを取った。

今回の試合で3回目のタイムになる為、ここから先は取れなくなってしまうが……仕方ないだろう。

 

伝令に福井キャプテンがやって来て、成宮にある事を伝えた。

 

 

「監督から、伝令だよ

『最後まで、稲城実業のエースであってくれ』

……だって」

 

監督から伝えられた言葉を、エースの成宮がギラギラした目をして否定する。

 

 

「……何それ。俺達に、勝負を諦めろって言ってる訳?」

 

成宮の強気な言動を聞いて、キャプテンは安心した様に笑いながら、監督から伝えられた言葉を付け加えた。

 

 

「……監督。鳴はそう言うと思ってたってさ!

『試合に100%なんて無い。勝利の為に、お前がやるべき事は分かっているだろう?』とも言ってたよ」

 

その言葉に虚を付かれた成宮。

一瞬目を丸くした後、確かに監督が諦める訳ないよね、そういう事だったんだと納得した。

 

 

「……そうだよね

___皆! 俺は勝負を、まだ諦めてないよ! 確かに3点も取られちゃったし、こっから先も取られないとは言えないけどさ

……皆なら、打ってくれるって信じてるから!!」

『おうっ!!』

 

成宮の言葉に奮起され、大きな返事を返した稲城実業。

日本最強であろうとも俺達は打ってみせると、大きく頷いていた。

……まあ、そもそも3点取られたのは成宮のメンタルに問題があったのだが、そもそも彼じゃなければ5回無失点とは行かなかったので仕方ないだろう。

 

 

 

……

 

 

 

そして試合は9回表に入った。

 

 

 

薬師高校は追加で4点取って、合計7得点。

稲城実業は、結局今まで1度も打てずに24連続三振にされてしまっている。

 

……やる気だけでメジャークラスの選手からヒットを打とうとする事は、やはり無理があったのだ。

そもそも稲城実業はどちらかと言うと守備型のチームなので、打撃系のチームである青道高校が1点も取れないのなら、彼らが打てないのは当然だろう。

 

 

 

 

7番神宮寺も8番江崎も三振にされてしまい、最後であろうバッターはエース成宮。

最近はピッチング練習に専念していて、一切自主練習ではバッティングをしていないプレイヤーである。

 

 

『あと1人!! あと1人!!』

『あと1人!! あと1人!!』

 

 

 

 

決勝戦での完全試合を願う観客達から、大きな大きな声が届いている。

 

___だが、成宮の目は死んでいない。

 

強豪校エースの意地か。それとも、3年生としてのプライドだろうか。

分からないが……大きな逆境に抗う都のプリンスの姿は、観客達の目にも焼き付いていた。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

『わあぁぁ!』

 

 

___バシッッ!

 

「……ボール」

「頑張れ北瀬ー!!」

「完全試合まで目前だぞー!!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!!」

『わあぁぁ!!』

『あと1つ! あと1つ!!』

 

 

 

 

ツーストライクまで追い込まれた成宮鳴。

それでも、普段通りにバットを持ち、今までの努力を信じてヒットを狙っていた。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク! バッターアウト!!

……試合終了!!」

『わああぁぁ!!』

 

 

どんな決意を抱いていたとしても、どれだけの努力を積み重ねていても……圧倒的な才能の前では無力。

 

こうして西東京決勝戦は終わり、目前で完全試合を達成されたまま彼らの夏は終わった。

 

 

 

 

 

 

「7-0で、薬師高校の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

試合後の挨拶をして、そそくさと帰ろうとする北瀬。

なんか、相手チームの泣いている所が見たくないらしい。試合で無双しておいて、勝手な思考である。

 

 

そんな彼に、稲城実業ベンチ入りメンバーの中で1人だけ泣いていない成宮が、大きな声で呼び止めた。

 

 

「北瀬っ!」

「なんスか……?」

 

「完敗だよ、個人としても、チームとしても

___だけど……次は負けない。俺も絶対、いつかメジャーに行くから! その時まで、俺の事忘れんなよ!!」

 

強気な成宮の言葉に、かつてあんなエースになりたいと憧れていた北瀬は、真面目な顔をしてこう返した。

 

 

「分かりました。メジャーでまた、成宮さんと戦う日を楽しみにしています

……でも、何で俺がメジャー行くのを知ってるんです?」

「そんなの、高校球児なら誰でも知ってるし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の最後に締まらない話をした後、両校のエースはグラウンドを去った。

 

 

「ううっ……ぐすっ…………」

 

ライバル達が居なくなった後、ようやく稲城実業のエースは涙を零し始めた。

___彼のプライドは、敵の目の前で泣く事を許さなかったのだ。

 

 

「……鳴さん。俺も……俺も勝ちたかったです……っ!」

「そんなの、知ってるよ……っ! お前らは、アイツらに勝てよ……!」

 

 

 

 

 

 

薬師高校、3回連続の甲子園出場決定。

 

この知らせは、全国各地の強豪校を絶望させる事になる。

……当たった瞬間、勝てたとしても部員がボロボロになってしまうだろうと。

 

 

 

 

 

 




秋葉の成績 4打席2安打
伊川の成績 4打席2安打1ホームラン
北瀬の成績 4打席1安打
雷市の成績 4打席1安打1ホームラン
火神の成績 4打席1ホームラン
三島の成績 4打席2安打
結城の成績 3打席1安打
疾風の成績 1打席
瀬戸の成績 4打席1安打
由井の成績 4打席1犠打

位のイメージです、伊川は初回以外は普通に打てました。

この試合を見てみたスカウト達は全員、成宮の1位指名を強く主張しています。
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