【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
大阪桐生相手に8-0と圧勝した薬師高校。
まあ薬師野球部からすれば、ホームランがあまり出なかった事が不満だった様だが。
準決勝の相手は、薬師高校と同じレベルで超打撃力偏中育成をしている烏野高校。
1回戦は才谷商業高校を20-5、2回戦では埼玉堺高校を18-7、3回戦ではつくばみらい正栄学園を24-9、4回戦では青森安良高校を17-11で破っている。
薬師野球部の言えた事ではないが、馬鹿げた打力に守備をしているのだ。
噂によると……ボランティアで監督をやっている鳥養さんが、薬師高校のミート力に憧れて練習改革をして成功してしまい、バカ試合を連発しているらしい。
試合直前、灼熱の太陽に照らされながら、轟監督は真剣な顔をしてこう語っていた。
「今日の試合は……めちゃくちゃ長い試合になるかもな
故障を出す訳には行かねぇから、駄目そうだったら直ぐ言ってくれ! 交代要員は9人もいるんだからよ!
注目選手はU-18にも出てる強気な王様キャッチャー影山飛雄と、小さな大エース日向翔陽!
___全力で打ち切って、全力で勝ちに行け!!」
『おうっ!!』
対して烏野高校の鳥飼監督は、部員達に力説していた。
「相手は、春のセンバツ優勝校の薬師……165kmとか打率9割とか、スゲェ選手が沢山いるチームだ。
でも! お前らだって安打数では負けてねぇ!!
___殴り合いを制せ!!」
『おうっ!!』
1回表、烏野高校の攻撃は1番日向翔陽。一瞬で塁に出る走力Sと、ミート力Aが売りの選手である。
対して薬師高校のピッチャーは、149kmとキレのある変化球が売りの真田。2番手ピッチャー兼キャプテンである。
___カキン!
「日向ぁ! ナイスヒット!」
「カッコいいよー!」
『行け行け烏野、押せ押せ烏野!!』
強力なピッチャー相手から、簡単に安打を打った日向。
目を輝かせながらバットを振っていて、少し微笑ましい。顔付きもどこか幼く、目が離せないピッチャーだ。
ノーアウトランナー1塁で、打席には2番西谷夕。ミート力が売りで、彼のミート力は甲子園上位のAである。
……元々は守備力がウリのショートだったのに、見る影もなくなってしまったが。
___バッ
___バシッ!
「ストライク!」
「……セーフ!」
ストライクは取られたが、俊足ランナーの盗塁で2塁まで進まれてしまった。
奥村も優秀なキャッチャーなのだが、走力S盗塁Aを止めるのは無理があった様だ。
___ガギ
「?!」
「セーフ!」
雷市がぼってぼてのゴロを何とか捕球したと思ったら、2塁ランナーが俊足で3塁を回ったのを見て動揺し、キャッチャーの奥村が明らかに取れない場所へ暴投してしまった。
当然日向は帰塁に成功。バッターもその隙に3塁まで到達して、またチャンスを作っていた。
ノーアウトランナー3塁で、打順は3番山口。元々は平凡な選手だった筈だが、ミートBに守備難という特徴的な選手になってしまっていた。
___ガギーン!
フラフラっと上がった打球は、レフト火神真正面。
……当然の様に彼は落としてしまい、その隙に2塁ランナーは帰還。
そして、肩力Cとそこそこ速い速度で、セカンドに送球☓を見せつけるあからさまな悪送球をしてしまった。
「マジか?!」
守備職人である伊川も流石に取れず、ボールは点々と転がっていく。
「セーフ!!」
バッターの山口は、その隙に3塁を回ってホームに突っ込んでいた。当然の様にセーフである。
有り得ない形で、薬師高校は初回ノーアウト3失点まで来てしまっている。
___カキーン!
「セーフ!」
___カギ!
「セーフ!」
___バッ!
「セーフ!」
___バシッ!
「アウト!」
___ガギン!
「セーフ!」
……
___バッ!
「セーフ!」
___バシッ!
「アウト!」
この回、薬師高校はエラーが積もりに積もって11失点をしてしまった。
烏野高校の平均ミート力はB。甲子園上位クラスのプレイヤーが、山程いるのである。
薬師野球部の守備力では、太刀打ちが出来なかった。
基本的にメンタルが強い真田キャプテンだが、流石に落ち込んで謝っていた。
「いや……悪い……」
「気にしないでください!」
「カハハ……20点取る!!」
「俺達の打撃は最強なんで、全然大丈夫ですよ!」
だが、ここまで1回で点を取られても、薬師野球部上級生は気にしていなかった。
こんな事もある! ホームランで取り返せば問題無し!! 大体そんな心境だった。
1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉。
ミート力が高い弱点のないプレイヤーであり、薬師に必要不可欠な選手である。
相手のピッチャーは、小さな大エースを名乗っている日向。
小さな巨人と言われた、昔烏野高校にいたピッチャーに憧れているプレイヤーである。
……ちなみに過去の烏野のエースが巨人と言われていたのは、威圧感で身体が大きく見えていたかららしい。
___ガギ!
「セーフ!」
キレキレの変化球が打てずに、あえなくアウト……かと思いきや、烏野高校のショートがトンネルしてセーフ。
駄目だこりゃと思ってちんたら走っていた秋葉は、慌てて走って1塁で止まった。
全力で走り続けていれば、2塁まで行けただろうに……こういう事があるから、怠慢走塁は駄目なのである。
ノーアウトランナー1塁で、薬師高校の打順は2番伊川。
公式打率9割超えの、化け物バッターである。
___カキーン!
彼は簡単に長打を放った上……烏野野手陣は鋭い打球に全く対応出来ていない。
ランナーコーチャーから次に進めという指示が出続け、伊川は困惑しながら走っている内にホームインしてしまった。
そう、ランニングホームランである。
(ランニングホームランって、マジで出来る物なんだ……やられる事はあっても、俺達がやった事は無かったんじゃね?)
「……ナイス伊川!」
「ランニングホームランってアリかよ?!」
「次も決めろよ!」
「流石に次はねぇだろ……」
薬師野球部の上級生達は、地味にフラグを立てながらも伊川を褒めていた。
ランニングホームランって、ホームラン扱いで良いのかな? なんて考えながらである。
ホームランに脳みそを焼かれている彼らにとって、ホームランであるかどうかは重要なのだ。
どちらにしろ、点数が入っている事に変わりはないのだが。
その後、薬師高校が1回裏だけで12点も得点してから攻守が変わった。
ただでさえ打撃力は日本一と言えるレベルなのに、相手の守備が崩壊しているのだから、当然と言えば当然である。
___投壊野球vs投壊野球。あまりにも可笑しな試合になりそうだ。
……
8回表、烏野高校の攻撃が始まる頃、78-139という意味不明な得点数になっていた。
これは最早、バスケの試合だとしても点が入り過ぎなのではないだろうか……?
ただでさえ守備が苦手な両チームの野手陣は、スタミナが尽きてほぼ棒立ちになっていた。
だから、更に試合が長引く。
薬師野球部はリリーフに三島と友部とパワプロを投入しても全員スタミナが付き、遂に昨日登板していて明日登板予定の北瀬を守護神として登板させる事になってしまった。
エース北瀬を出そうとも、烏野打線は止まらない。
……なぜ165kmを打てるのか意味不明だが、カス当たりからのエラーで得点出来てしまっていた。
多分、1回戦の疲れで由井が早々に離脱し、伊川にキャッチャーが変わってしまった事が大きいだろう。
烏野高校のピッチャーは完全に枯渇し、何故かU-18に選ばれたキャッチャーである影山が投げていた。
……野手陣から緊急登板させるなら、送球が速い影山にやらせるのが1番マシだと烏飼監督は考えたらしい。
当然の事ながら投壊薬師バッターに敵う筈もなく、ボッコボコに打たれている。
薬師部員達はどれだけスタミナが枯渇しようとも、大好きな打撃の為なら死力を尽くして身体を動かせるのだ。
というか、両チームが交代要員を使い切っている。
試合があまりにも長引き過ぎて、鉄人の北瀬や伊川すら疲れ始めていた。
___試合時間、実に8時間19分。
歴代記録を大幅に超える試合時間によって、灼熱のスタンドでは倒れる人が続出していた。
そして、烏野高校の攻撃。
フラフラと打席に歩いて来た2番手キャッチャーの及川が、目を回して倒れてしまった。完全に熱中症である。
「…………フォーフィッテッドゲーム! 試合終了!」
既に烏野には交代要員がいない為、甲子園準決勝、烏野高校対薬師高校は没収試合となって終わってしまった。
「……0-9で、薬師高校の勝ち。礼!」
『ありがとうございました……』
この激闘に勝利した薬師高校だが、挨拶をぼそぼそと言ってしまっていた……疲れすぎて、大きな返事をする気力な無いのである。
そんな状況の中、影山が伊川に近付いて来て、汗をかきつづけながらも真剣な顔をしてこう話した。
「薬師には2回負けちまったけど……次は負けねぇ! 後、キャッチングでもお前に勝つ!」
「そうか……俺は、烏野とは2度と戦いたくねぇよ……」
げんなりした表情をしながら、一応伊川は影山に言葉を返した。
凄く疲れているから話したくもない気分だが、一応友人なので返事をしたのである。
彼は、友情には割と熱い人種だった。
試合が終わった後、すぐさまレポーター達が薬師高校野球部に駆け寄ってコメントを貰おうとしている。
「轟監督! 今日の長丁場の試合は、明日の試合にどう響くと思いますか?」
「轟雷市くん! 試合に出場した時に代打を送られたのは始めてだと思いますが、今の感想をよろしくお願いします!」
「真田キャプテン! 今回の試合について、何か感想をお願いします!」
「すみません! 選手達は疲れてるんで、また後日よろしくお願いします……!」
疲労困憊といった顔を隠せない轟監督だが、選手達の盾になって彼らをホテルまで逃がした。
監督も、灼熱のベンチの中でずっと指示を出し続けていて疲れている。
だが、明後日に決勝戦があるプレイヤー達をこれ以上疲れさせる訳にはいかないのだ。
両校合わせて200点超えという超投壊野球や、ランニングホームラン7回、両校がベンチメンバー全員を使ったド迫力試合についてのコメントを貰いたかった記者達。
だが流石にこの惨状で無理やりコメントを貰って、一般人から非難される訳には行かないと渋々帰っていった。
疲れ切った彼らの動画は、ちゃっかり取っていったが……それ位なら仕方ないだろう。
そして___ベンチ入りメンバーの内14名が、試合の後に熱を出してしまった。
今日の気温は、最高気温34度。
合計8時間も試合をしたら、体調を崩しても当然だろう。
元々、薬師野球部員のスタミナはけして多くは無い。高過ぎる打撃力の弊害か、ガス欠が早いのだ。
そこに、こんな長時間の試合が来てしまったら……彼らの身体は、耐えられなかった。
熱中症は、内臓に大きなダメージを与える。
選手達の事を考え、1日悩み続けた片岡コーチは結局、明後日の試合の辞退を野球連盟に伝えた。
轟監督も、熱を出して寝込んでいたからである。
___こうして、試合無しで甲子園優勝校が決定。
薬師野球部の夏は、不戦敗で終わってしまった。
何台か借りているバスで野球部の寮に帰る最中、部員達は重い空気に包まれていた。
仕方なかったと分かってはいるが、まさかこんな結末を迎えるとは思っていなかったのである。
このバスには、ベンチ入りメンバーを含めた30名が乗っている。
切り替えの速さに定評がある薬師野球部だが、流石にこの状況下で、2日で完全に切り替える事は出来なかった様だ。
3人ほど病院行きになっていた事も大きい。
北瀬が重い空気の中、ギリギリで甲子園のベンチ入りメンバーから外れてしまった山内先輩と増田先輩に、準優勝のメダルを渡そうとしていた。
「その……これ、俺と伊川のメダルです。本当は優勝校のメダルを渡したかったんですけど、これしか手に入れられませんでした。貰ってくれませんか?」
『…………』
山内と増田は、目を合わせながら考えた。
これは、試合に出場した彼らに貰う権利がある物だ。本当に、これを貰ってしまっていいのだろうか?
悩んだ後、増田先輩はメダルを一旦受け取った後、彼らにこう言った。
「ありがとう、一生の宝物にするよ……それでさ、北瀬と伊川、それに雷市も三島も秋葉もサインを書いてくれないか?」
「……記念メダルに、チームメイトの名前なんて書いちゃって良いんですか?」
「ああ___チームをここまで導いてくれた、お前らのサインが欲しい」
「俺も!」
「えっ、じゃあ俺も!」
こうして彼ら3年生は、将来WBCに出場する5人の選手のサイン入り記念メダルを手に入れた。
大切な野球部の思い出として、そして伝説を残したプレイヤーの希少なサインとして、子や孫に代々受け継がれていく宝になるだろう。
いつも感想くださる方ありがとうございます!
ちょっとご指摘に心が折れてしまったので、暫く投稿休みます。すみません
評判が悪かったので、この話はIFにして書き直しています