【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
甲子園準々決勝まで行った薬師野球部だが、微妙な空気のまま簡素な3年生引退式を行った。
教師兼監督の林先生が、誇らしげな様な、自分には関係ない事の様な微妙な声で話し出す。
「はい、まー我々? は甲子園ベスト8まで行きました
ここまで来れたのは、日々の努力……のお陰だと思います。ありがとうございました」
『ありがとうございました!』
3年生が引退していく所を見ても、特に何も感じていなかった北瀬と伊川。
ぼけーっとしながら取りあえず頭を下げ、内心では次に覚えたい変化球についてしか考えていなかった。
「キャプテンは、真田が絶対やりたいって言い出したから真田に決まりました……はい、拍手」
___パチパチ
何にもしてない案山子がキャプテンやるなんて、罰ゲームだよな……何で真田はやりたかったんだろう?
不思議だけど、まあ俺にキャプテンが回ってこなくてラッキーだし、まあいっか!
そんな事を考えている上級生達。
だが真田は、全員が思いもよらなかった事を言い出した。
「今まで俺達は、真剣に野球をやって来なかったけど
___俺は、悔しかったよ
天才達2人を、俺達で負けさせたのが……!!
だから、今日から練習を厳しくしていく! だから皆、これからは頑張って欲しいんだ
そして北瀬と伊川……頼む、俺達に野球を教えてくれ!」
『…………?!』
皆が驚いている中、伊川は冷静にこう言い放った。
「確かに俺達だけで甲子園を優勝するのは難しいから、ちゃんと練習してくれるなら教えますけど……
俺、けっこう厳しいですよ? それで何人も辞められる位なら、立ってて貰うだけの方がありがたいんですけど」
真田キャプテンは伊川の言葉に対してそりゃそうだよなと頷きながら、1つの提案をした。
「そりゃそうだよな……じゃあ1週間後に、本気で練習する奴としない奴に部員を分けよう。やらない奴は、今まで通りの練習だけで良い
___やりたい奴だけ、2人に練習をお願いしよう」
真田キャプテンはそうやって、やる気のない奴の切り捨てを選択した。
確かにそれでも、普通に部活には来れる。
だが天才達やキャプテンと別の練習をしろと言うのは、もう別の部活に所属している様な物だろう。
「いや、俺はやりたくないかな……悪い……」
「俺も……ごめん……」
『俺も……』
次々と嫌がる部員が出てきて、結局伊川達が教える部員はキャプテンしか残らなかった。
真田キャプテンは、この惨状を見て項垂れている。
「全く残らないなんて……悪い、俺のミスだ」
だが伊川と北瀬は、そうは全く思わなかったらしい。
「いえ。やる気のない人の為に、俺達の練習時間を削るなんて嫌でしたから
___逆に、沢山居なくなってくれて良かったです」
「だよな、伊川! 俺達、甲子園で目立てたからプロ入り確実だと思うんですよねー
後の試合結果なんて割とどうでも良いんで、やりたい人だけ頑張れば良いですよ!」
北瀬と伊川からすれば、甲子園優勝はできたら良いね位の感覚だった。
それよりも己を高めるのが重要だと考えているので、ぶっちゃけ他の選手に教えるのは、無償ボランディアかなぁと考えているのである。
無理にやらせるのは面倒だし、教えるのも面倒。
どうせ才能ある選手なんて紛れてないだろうし、時間の無駄感あるよな……
だから、やる気がありそうなキャプテンだけしか残らなくて良かった!
彼らは、本気でそうやって考えていた。
……
___バシッ
「もうちょっと球速を出すなら、下半身鍛えた方が良いかもしれないですね……もしやるなら練習メニュー渡しますけど、どうしますか?」
伊川は真田キャプテンの為に、追加でキツい練習メニュー考えていた物を渡して、やるのかどうかと聞いていた。
今までも割と頑張ってきたから、やらなくても良いけど……キャプテンは、どうするかなと思ったのだ。
「やる! ……俺、最近割と強くなって来てるよな?
中堅校相手なら、俺でも投げられるんじゃないか?!」
「薬師野球部の守備は酷いですけど……
___代わりに俺というキャッチャーがいます
もちろん真田先輩も、完璧に活かして見せますよ」
今までのチームメイトと違い、真剣に野球をやってくれる真田キャプテンに、段々と伊川は情が湧きつつあった。
……
「お前らのピッチングの時、バッターボックスに立たせてくれてありがとな!」
「別に……3人でやるなら、これが最善ですから」
「俺も代わりに、キャプテンのボールを打たせて貰ってますし。普通ですよ」
彼らの言葉に、それは無いだろうなと思った真田キャプテンが話し始める。
「いや、俺はお前らとの実力差があるからさ
___練習に参加させて貰えて、感謝してるんだ
お前らの野球って、すげぇ刺激になるからさ。本当に今、凄く野球が楽しいよ!」
真田キャプテンのストレートな褒め言葉に照れた北瀬達。
キャプテンの人誑しの才能によって、順調に懐きつつあるかもしれない。
……今まで真剣に関わってきた先輩達が殆ど不良だった事もあり、真田キャプテンが素晴らしい人間に見えるという事も大きいだろう。
「……真田キャプテンは、実際才能ありますよ。守備が酷くなかったら、甲子園でも投げられたでしょうね」
「てかさ、1回強豪校相手に投げて貰ったらどうだ? 真田先輩なら、実力を見て貰えればプロ行けんじゃね?」
「一発勝負で、俺が投げて負けたらどうするんだよ……」
「俺は気にしないっすよ? どうせプロにはなれるし」
……
「真田先輩! 見てください、163km出ました!!」
「おおっ! やっぱり北瀬は凄いな!」
「へへっ、ありがとうございます!」
秋季大会が始まる頃になると、真田キャプテンに対して北瀬と伊川は完全に懐ききっていた。
伊川は取材でチームについて聞かれると「真田キャプテンは凄い成長したんですよ! 後の部員……? 何してるのか知らないんで、分かんないっすね」としか言わない。
北瀬も「真田キャプテンは本当に才能があります。プロも狙える位! めっちゃ人柄も良いし、素晴らしい人格者だと思います!」と真田の事しか話さなくなるのだ。
まあ、他の部員とは全く関わっていないから仕方ないかもしれないが……
真田キャプテンは真田キャプテンで問題がある。
彼は北瀬と伊川の才能に脳が焼かれていて、他の部員の事を全く気にしなくなったのだ。
まあ甲子園出場校なのに練習しない奴らが悪い気もするが……取り繕ってはいるが、完全に無関心になっていた。
……
秋季大会で戦うと思われる強い対戦相手は青銅高校と、成孔高校か稲城実業の2校である。
くじ運は、割と良い方だろう。東東京最強の正孔と、西東京で2番手の稲城実業が潰し合ってくれるのだ。
青銅高校と当たりはしたが、寧ろ真田キャプテンをアピールするいい機会な気もする。
……めちゃくちゃ当たりクジだったかもしれない。
「青銅高校のエースは川上かぁ……これ、真田キャプテンが投げても勝てそうですね!」
「だよなー……真田キャプテン、1回戦のザコと4回戦の青銅戦はお願いします!」
「え、良いのか? 負ける可能性もあると思うけど」
真田キャプテンがそうやって問うと、北瀬は一点の曇りもない澄んだ瞳をして、こう話した。
「俺と伊川はプロへのアピールに既に成功してますし、甲子園も後4回ありますし!
別に他のチームメイトは立ってるだけなんだから、気にしなくて良いと思います!
だから今回は、真田先輩をアピールして行きましょう!」
こんな事を言って、強豪校相手に真田キャプテンを登板させる事に決めた。
ちなみに監督には、特に報告していない。彼らが勝手にスタメンを決めて、直前に提出させている。
……
___カキーン!
『最後は2番真田のホームランで逆転! 試合終了!! 薬師高校は最後までエース北瀬を温存したまま、青銅高校に勝ちました!!』
『いやぁ、2番手投手の真田くんも良いですねー! 北瀬くんと伊川くんが指導していると聞きますが、指導者としての才能にも満ち溢れているんでしょうか?!』
『ここぞという場面で青銅高校で頼れるピッチャーが、エース川上くんしか居ないのが敗因と言えるでしょう
彼は完投するにはスタミナが足りないのですが、無理を押して登板させるしかなかったですからね……』
……
何やかんやで秋季大会を勝ち進んで行って、薬師野球部は春のセンバツへの出場が決まった。
北瀬や伊川が元いた世界より、相手チームに優秀なピッチャーが少ないのが大きいだろう。
『薬師は、最後までピッチャーの真田が完投しました! 7-6で、薬師高校が勝ちました!!』
『エースの温存でしょうね! ギリギリの戦いでもリリーフをエースに任せようとしなかった、伊川くんの戦略眼が光ってますね……!』
『巨摩大藤巻相手に大エース北瀬は圧勝! 本郷くんの引退により、ここまで差が付くとは思いませんでした!』
『MAX163km北瀬くん相手だと、1点取るだけでも至難の技ですからねぇ……今大会打率10割の伊川くんも、非常に強力ですよ!』
『薬師高校! 完全試合を達成しました!』
『いや……これはヤラれてしまった西邦高校を擁護したいですね。163kmのコントロールが良いストレートとか、現役時代の僕でも打てませんよ』
『県立の星、烏野高校が遂に負けてしまいました!』
『相手は優勝候補本命ですからね……この展開を予想していた人も多かったでしょう。私としては、北瀬くんをまだ見れるという事が嬉しいですね……!』
『薬師高校! 大阪桐生を完全試合で破って、紫紺の大優勝旗を受け取ります!』
『いやー……まさか実質3人で甲子園優勝を成し遂げてしまうなんて、前代未聞の事態ですよ!』
『日本の一等星と呼ばれている北瀬くん、彼の才能に、強豪校もひれ伏せられてしまいました』
『彼だけではなく、キャッチャーの伊川くんにも注目したいですね! 163kmを軽々と捕球してリードも非常に良く、今回の甲子園では打率10割ですからねぇ!!』
野手陣には全く頼らず、実質3人だけで優勝してしまった薬師野球部。
殆ど何もしないで甲子園優勝をしてしまった部員達には、ネットで非難が殺到していた。
……ぶっちゃけ部員達は野球部を辞めたかった人も多いが、世間からのバッシングを恐れて出来なかったらしい。
「真田キャプテン……! 俺達3人で掴んだ、紫紺の大優勝旗ですね!」
「キャプテンのお陰で、北瀬と2人でやってた頃より面白い野球が出来てます! ありがとうございます!!」
「北瀬、伊川……! 俺も、お前らと会えて良かった! 後半年間、よろしくな!!」
『…………』
目の前で勝手に感動シーンを作り上げられている、練習に参加していない部員達は、微妙な顔をして突っ立っていた。
優勝した直後も駆け寄ったり出来る勇気がなく、3人で喜んでいる所をぼうっと眺めているだけだったのだ。
「明日、3人で打ち上げしましょうよ!」
「それ良いなー! どこでする?」
「普段通りに俺達の家でも良いですけど、やっぱり外食も良いですよねー!」
「焼き肉とかどうだ? 打ち上げって感じするだろ!」
『…………』
微妙な空気が漂っている部員達をガン無視して、3人はキャッキャと騒いでいた。
北瀬や伊川は兎も角、今まで一緒に練習して来たであろう真田はもう少し気にしてあげても良い気がするが……
ダラダラ部活をしていた1年半より、天才達と一緒に部活をした半年間の方が遥かに大切だったのだ。
真田キャプテンは基本的に空気が読めるタイプの人間だが、案外薄情な所があったらしい。
彼は、甲子園優勝を北瀬や伊川と一緒に喜ぶのに忙しかったので、他の部員達の反応なんて知った事では無かった。
6人残ってれば、適当に立っててくれれば良いし……という考え方をしていたのだ。
才能マニアの資質が開花しつつある真田キャプテンは、完全に北瀬と伊川の思考が移り始めている。
真田キャプテンは友情トレーニングが毎日発動している事もあり、最終的には異世界の真田と同程度まで成長しました