【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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IF 並行世界Ⅲ

 

 

 

 

 

実質3人で春のセンバツを優勝してしまった薬師野球部。

どうせ今年中に1年生が沢山入って来るだろうからと、3人以外は全員退部してしまうらしい。

 

 

「残念だな、お前らがいなくなっちゃうなんて」

「悪いな……俺には甲子園出場チームとか荷が重すぎた」

「お前の応援には行くからな!」

 

真田キャプテンは内心そこまで悲しんではいなかったが、流石のコミュ力で円満に分かれを告げていた。

 

 

「あーあ、春季大会は人数不足で出れないな」

「俺らはU-18合宿に呼ばれるから出れなかっただろ? どうせ帰って来たら負けてたって!」

「そりゃそうか」

 

 

 

 

 

 

グラウンドでピッチングをしている真田と伊川と、近くでシャドーピッチングをしている北瀬。

真田が投げている所を見ながら、北瀬がこう声をかけた。

 

 

「真田キャプテン、どんどんボール早くなってるッスね!」

「おう、ありがとな! ……ってか、別にキャプテンとか呼ばなくて良いぜ? どうせ3人しかいないチームだし」

「そうですか? ……じゃあ何て呼べば良いですかね」

 

 

真田キャプテンは伊川の言葉を少し考えて、ニヤッと笑いながらこう答えた。

 

 

「じゃー真田で良いよ」

「いやいや、真田キャプテンは先輩じゃないっすか! ……マジで良いんですか?」

 

 

北瀬の言葉に対して、急にスンとした顔になった真田。

普段笑顔のイケメンの真顔に、北瀬と伊川は内心ビビった。

 

 

(え……俺何か悪い事言った?)

(怒るほどの事じゃないよな……地雷踏んだのか??)

 

「いや、正直さ……お前らみたいな天才達に敬われる態度取られるの、けっこう気不味いんだよな。そもそも俺、教えてもらってる立場だし。

だから、もー敬語とか要らねぇから!」

『えぇ……??』

 

実は真田は、世界最高峰の天才達に敬語を使われる事を割と嫌がっていたのだ。

なんというか、自分如きに敬語を使う北瀬と伊川が解釈違いだったのである。

 

慕ってくれてるのは分かるんだけど……俺はお前らと違う凡人なんだ、格下なんだよ。

どうせ今の所3人しかいないんだし、俺にもタメ口で話して欲しいんだけど。つうか、俺だけ他人みたいな扱いされると寂しいじゃん!

 

大体、真田はそんな事を考えていたらしい。

幼馴染で兄弟の北瀬と伊川と居る時に、少しだけ疎外感を感じていたのである。

 

 

「分かりました……いや、分かったよ真田!」

「マジすか…………分かった、真田にもタメ口使うな!」

 

この出来事によって、将来1年生が入って来た時、大層困惑させる事になる。

いくら北瀬さんと伊川さんが天才だからとはいえ、キャプテンにタメ口使うんですか?

どれだけ真田先輩をナメてるんですかね……意外と仲は良いみたいだけど。

 

……将来の1年生達は対応にかなり困るが、そんな事を今の彼らは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

偶に練習を見に来る監督が、なんか草臥れたおっさんを連れて来ていた。

彼ら薬師部員3人は疑問に思い、北瀬と伊川はアイコンタクトでアイツは誰だと話し合っている。

 

 

 

(林先生の隣に立っている草臥れたおっさん、誰だよ?)

 

(さぁ___いや、あの人見覚えあるな……!)

 

「えー、重大な発表なんですけど……新しく外部から決まった、轟雷蔵監督です。よろしくお願いします」

「おーしお前ら、よろしく! 俺を甲子園決勝に連れてってくれ!! ……つか、今3人しか居ないの何で?」

『…………?!』

 

 

変なおっさんが、南ちゃんの様な事を言い出して困惑している真田達。

いやまあ、北瀬と伊川がいるから行ける気がするけど……大丈夫なんですかねこの人。

 

若干酷い事を思っている真田と北瀬だが、伊川は妙にニコニコとして嬉しそうに、轟新監督にたいして話しかけた。

 

 

「あの、もし違ったら申し訳ないんですけど……轟監督って、実業団で活躍してた事ありますよね?!」

「おっ、よく知ってんじゃねーか! プロじゃねーのに、よく知ってるな!」

 

伊川の一言で真田と北瀬はは、くたびれたおっさんというだけじゃなくてちゃんと実力者が来たのかなと認識した。

 

 

「小さい頃、日本ガスの試合をよく見てたんで流石に分かりますよ! そっか……! 俺昔は、轟さんみたいなホームランバッターになりたかったんです!!」

「お、おう。そうか

甲子園打率9割の伊川に言われる程、凄いバッターって程だったかは微妙だけどよ、そう言われると嬉しいぜ!」

 

 

実は伊川は、轟雷蔵のファンだったのだ。

だから中学生の頃、薬師野球部に轟監督が就任したと聞いて、薬師野球部に入る為に猛勉強したのである。

 

 

噂を聞いてのはたった3ヶ月で入試が始まる時期だったのに、北瀬と伊川の偏差値は30強位だったのだ。

薬師高校の偏差値は50弱なので、15位上げなければならなくなってしまっていた。

 

ヒーヒー言いながら勉強して、どうにか薬師野球部に受かったらしい。

別に轟雷蔵に全然興味がない北瀬は、何回も諦めたくなっていたとか。

 

まあ彼らは残念ながら平行世界に来てしまっていたから、あまり彼らにとっては意味がない事だった。

いや、結局轟監督は就任したから問題ないかもしれない。

 

 

「てか、マジで何で3人しか居ないんだ?」

「優勝してから、俺ら3人以外は辞めちゃったんですよねー。まあ新学期始まったら新入生来るだろうから、あんまり問題ないと思いますけど!」

 

伊川はなんてことない事を話すかの様に、部員3人という悲惨な現状を話した。

野球は最低限9人はいないと、練習すら碌に出来ないと思われるのだが……

もとから2人で練習していて、最近真田が合流して3人で練習し続けてる彼らにとってはどうでも良い事だったらしい。

 

 

「マジかよ! それじゃ春季大会どーすんだ?!」

「あー……その時期は俺も北瀬も伊川もU-18合宿に行くんで、もし部員がいたとしても無理ッスね」

 

頭を抱えている轟監督に対して、真田が普段通りの顔をしてそう告げた。

 

その言葉にまあ納得した監督。

確かにコイツらがいないと、どうせ勝ち進むのは出来ないしなー。練習試合を組むなら相手の補欠を借りてくりゃ良いし、まあ良いか……

そう思い、割と悲惨な現状から目を逸らした。

 

 

「そーいう事ね……まあ良いや、今までの練習内容とか見してくれ。訂正した方が良い所とか書くから」

「あっ、俺書いてきますね!」

「任せた!」

 

轟監督が全盛期の頃に日本ガスを応援していた伊川は、嬉しそうな顔をして走っていった。

 

 

「……伊川が居なくなったらピッチング出来ないじゃん、真田ーどうしよっか?」

「まーバット振ってりゃ良いだろ……あ、監督もソレで良いですか?」

「良いんじゃね? とりあえず、普段通りやってみろ!」

 

 

 

 

 

 

伊川から練習内容を受け取り、轟監督はこう考えた。

 

 

(まだ筋トレ室が整備されてなくて3人しか部員が居ねぇって考えたら、けっこうアリな練習してんな

……つか俺がサポートに入っても、春まで4人しか居ねーのかよ! マジで困るんだけど?!)

 

「へー、けっこう良い練習してんじゃねーか! 誰が考えたんだ?」

「ありがとうございます、一応俺が考えてます! とは言っても、ネットで調べた奴をほぼパクってるだけですけど」

 

伊川は尊敬する元選手に褒められて照れながら、自分だけで考えた訳じゃないと謙遜した。

轟監督はそれを聞いて、ちげぇだろと話し出す。

 

 

「いや、調べた内容が正しいか判断したのは伊川だ

ちゃんと練習について分かってるって事だよ! まあお前も、そんぐらい分かってるだろうけどな」

「アザース!」

 

 

 

 

 

 

轟監督が来て暫く経った頃、メジャーのスカウトが来て北瀬と伊川を青田買いしようとしていた。

 

 

「コンニチハ、私はマリナイズのスカウト、エディー・C・ヘンソンです。コチラは通訳兼護衛のニコラ・J・キャンベルです。ヨロシクネ」

「ニコラとお呼びください。北瀬さん、宜しくお願いします」

『よろしくお願いします!!』

 

喜びながら挨拶をする彼ら。

元々、自分達の才能はメジャーでも通用する可能性があると考えていた為、素直に喜んでいるのである。

 

 

「単刀直入に言おう。北瀬と伊川をメジャーリーグのマリナイズにスカウトに来た。我々は、君達の求める条件の多くを飲む準備がある

私達は、君達の持つ圧倒的素質に敬意を示すつもりだ。最低でも1年20億円、複数年契約なら更に支払ってみせよう

___君達の才能を、最高峰のリーグで活かしてみるつもりはないか?」

『お願いします!!』

 

北瀬と伊川は大まかな金額を聞いて、即決でメジャー行きを表明した。

最高峰のリーグで戦える上に金銭面も問題ないなら、行かない理由は無いと考えたのだろう。

 

 

「即決だね……何か欲しい条件とか無いのかね?」

「そうっすね……出来ればですけどマイナーリーグに落とされない権利とか、日々のサポートをしてくれる人材を派遣して欲しいという感じですね」

「俺は二刀流がやりたいです!」

 

彼らの言葉を聞いて、エディーはちょっと迷いながらこう返答した。

 

 

「うーん……二刀流を試させてくれるかどうかは、俺は監督じゃないから分からない。

君達の実力なら、それ以外は呑めるが……3年生の甲子園が終わった辺りでワシントンに来てくれ。その時契約しよう」

『はい!!』

 

こうして彼らは、高卒メジャー行きが決まった。

 

 

「まさか、メジャーからもうスカウトが来るなんてな!」

「7年は日本でやると思ってたからな、運が良い!」

 

彼らは珍しく、キラキラした目をして喜んでいた。

世界最高のリーグでやれるという事は、どんな野球人にとっても喜ばしい事だからだろう。

 

 

「どうしたんだ? お前らめっちゃ喜んでるじゃん」

「真田! 俺達、メジャーからスカウトが来たんだよ!」

「マジで嬉しいんだ! 高卒で行けるなんて思わなかった!」

 

彼らの言葉を聞いて、真田は複雑そうな顔をしながらも喜んでくれた。

 

 

「おめでとう、そりゃ良かったな!! でも、お前らが遠い人になったみたいで寂しいな……」

「真田もプロに行った後、メジャーに来ればいいじゃん!」

「だよな! 俺達待ってるから!!」

 

2人の熱心な言葉を聞きながら、真田は流石に無理だろ……と考えていた。

 

 

「いやいや、そもそも俺ってプロになれるかも怪しいんだけとな? 話はそれからだろ」

「スカウト沢山来てるじゃん! 絶対成れるって!」

「来ても実際指名してくれるかは分かんねぇんだけど……」

「実際真田も実力あんじゃん! 大丈夫だろ!」

「そうかな……?」

 

彼らの話題は直ぐに移り変わって、いつの間にか違う話になっていたらしい。

多分真田にとって、プロ行きなど夢の話でしか無かったからだろう。さり気なく話題を逸らされた事に、北瀬達は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

4月になり、新入生が入部してくる季節になった。

明日から新入部員が入って来る事に割とワクワクしている真田は、ふとどんな部員が来るのか気になって轟監督に尋ねた。

 

 

「監督、そういやどんな部員が入って来るのかって分かってるんスか?」

「さぁ? 俺が就任した頃じゃ、推薦制度を作るのは間に合わなかったからな……どんな奴が入って来るのかは、全く知らねー」

「あー、やっぱり。そうなんじゃないなと思ってました!」

「誰でも良いから、最低限練習してくれる奴が入りゃ良いんですけどねー」

 

北瀬が真田達も会話を聞いて、夢も希望も無い発言をした。

彼は野球が大好きなのに、不良達のせいで小学生の頃から6年間も公式戦に出場出来なかった事で闇落ちしている。

 

 

「それくらいの奴は入って来るだろ、なんせ甲子園優勝校だからな! それに、スタメンが6人も開いてる強豪校なんて他にねぇし!」

「そうだと、良いですね……」

 

夢も希望も無い様な地区で暮らしてきた伊川が、微妙そうな顔をしてそう答えた。

彼はかなり、他人の行動に期待するだけ無駄だと考えているのである。

 

北瀬と伊川の性格が悪いのは、常に周りが理不尽だらけだった環境のせいだと言えるだろう。

親は浮気して離婚するし、中学まではヤンキーしか周りにいない様な環境では、まあそうなって当然だ。

 

大切な野球道具も、何回遊びで壊された事か……元々の性格はかなり良かった北瀬すら、環境に合わせて畜生化していた。

初めて信頼出来ると思った真田すら、割と性根が才能主義だから全く注意しないのだ。これでは彼らの性格が治らなくて当然である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます!! 北瀬先輩!! 伊川先輩!!」

「チワース!! よろしくお願いします!!」

「163kmの北瀬先輩だ……! カッケェ!!」

「10割打者の伊川先輩だぁ! 俺、ホントに薬師野球部に来たんだ……!!」

 

「お、おう……おはよう」

「どうも……」

 

新入生が入学して来た日、周りの圧倒的な熱量を持った挨拶に、北瀬と伊川は内心怯えていた。

なんなんだコイツラ、妙にギラギラした目で見てくるんだけど……

 

褒められ慣れてない彼らは、自分達を強さを自覚はしていても気不味くなっていた。

褒められる事すら受け取れないとは、可哀想な人間だ。

 

 

……それだけ、今までの環境が悪過ぎたのだろう。

北瀬と伊川は、なんの罪も犯していない先輩達を追い出した自覚はあった。

 

今まで楽しくやって来た人達だろうに、自分達の都合で振り回した自覚はあったのである。

だからどれだけミスしようとも、全く練習に来なくなっても悪感情は抱いていなかった。

 

薬師高校の先輩達への罪悪感や、社会への恨みを抱えて生きている北瀬達にとって、明日への希望を持った新入生達はあまりに眩し過ぎた。

だから彼らは、目を逸らしてボソボソと返事をするしか無かったのだ……彼らの態度は、後輩達を俺が何かしてしまったのかと慌てさせていたらしい。

 

 

 

 

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