【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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IF 並行世界Ⅳ

 

 

 

 

新入部員達も含めてグラウンドに集まり、新入生達の前に立った轟監督が話始めた。

 

 

「俺が最近監督になった、轟雷蔵だ! 見ての通り上級生は3人しかいないから、試合にもガンガン使って行く、覚悟しとけよー……じゃー真田、伊川、北瀬! 新入生達に挨拶な」

「うっす! 俺がキャプテンの真田俊平です。とは言っても、3年生俺しかいないからなんですけどねー

1年生がめっちゃ入って来て驚いてます! 半年間よろしくな! じゃー次は伊川が自己紹介する番な」

 

天才2人に囲まれ続けて生活したせいで、自分を過小評価しまくる癖が付いた真田。

連取してからたった半年間で、21世紀枠相手とはいえ甲子園で投げられる程度には彼も優秀なのだが、北瀬と伊川に感覚を狂わされまくっていた。

 

 

「おー……俺は伊川始、キャッチャーです

これからチームメイトになる皆さんと、仲良くしていければ良いなと思っています。よろしくお願いします」

「俺は北瀬涼、ピッチャーです。よろしくお願いします」

 

北瀬達の自己紹介を聞いて、監督が呆れた顔でこう言った。

 

 

「おいおいお前ら、もうちょい何か無いのかよ! ……まあしゃーねぇ。1年も右前の奴から順に、自己紹介していってくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

1年生達の自己紹介が終わった後、監督は真っ先に爆弾を投下した。

 

 

「よし、これで自己紹介全員終わったな!

……ちなみに明日から上級生3人はU-18の合宿に行くから、春季大会は1年生だけで戦う事になる! 厳しいとは思うが、なるべく勝ち上がって行こうぜ!」

『……??!』

 

地方大会のシードを決める、重要な試合を1年生だけでやらなくてはならないと言う衝撃の展開に、新入生達は慌てふためいていた。

 

だが上級生達にとっては、知った事ではない。

どうせ負けるんだから、好きにやれば良いんじゃないか? という反応である。

 

春のセンバツ優勝校が弱小校に負けるなど、どんな事情があってもセンセーショナルな話題になってしまうだろうが、そんな事は全く気にしていなかった。

実質3人で甲子園優勝という事で大層騒がれていたので、感覚が麻痺しつつあるのだ。

 

入部2日目から強豪校の看板を背負って戦う事になる1年生は、可哀想としか言いようが無いが……

 

 

 

 

 

 

新入生達が入部して来た次の日、北瀬達はU-18の合宿に来ていた。

たった1週間の合宿によって、U-18日本代表メンバーが決まるのだ。

 

北瀬と伊川は、絶対に生き残ってやろうと決意していた。

メジャーへのアピールの側面もあるが、単純に強い相手と戦いたいという闘争心もあったらしい。

 

対して真田は、俺が日本代表に選ばれるのは厳しいだろうけど、何で呼ばれたんだろうな……北瀬と伊川の補助役か? などと考えていた。

実際の所、日本代表候補を選出した人は真田のコミュ力など知らないので単純に野球の実力で呼ばれていたのだが、そんな事を彼は知らない。

 

真田本人のプライドの低さはそのうち何とかしないと、彼が持つ才能を最大限発揮する事は難しいままかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「北瀬涼です、よろしくお願いします」

「伊川始、U-18日本代表でも正捕手を狙って行きます」

「俺は真田俊平、聞いたことあるようなスゲェ選手ばかりでビビってるけど、少しでも強くなって帰りたいと思ってます……よろしく!」

 

軽く自己紹介をしたり、ピッチングやバッティングで実力を見せつけたりして過ごした数日後、有名な大学の選手達と戦う事になった。

 

 

「やっぱ俺が先発か……当然だよな!」

「真田もリリーフ登板予定で良かったな! 日本代表入りはほぼ確定じゃね?」

「そうかな……? そうだといいな!」

 

 

 

 

そんなこんなで迎えた、U-18日本代表を決定づける大切な試合。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

 

北瀬は無双していた。

12連続三振した上に、ホームランも一発放っている。

 

 

「やっぱスゲェな! 北瀬は!」

「ありがとう真田! お前も打ち取りまくって、3人で日本代表になろう!」

 

北瀬と真田の楽しげな会話を聞いているU-18日本代表候補達は、本当にそれで良いのか? と困惑していた。

 

 

(おいおい、下級生相手にタメ口使われてるじゃねぇか……どんだけ舐められてるんだよ!)

 

所詮弱小校育ちの北瀬や真田と違い、ガチガチの体育会系育ちの彼らからしたら有り得ない態度だった様だ。

 

確かに実力だけ言えば、世紀の天才の北瀬相手では真田は劣るとしか言いようが無い。

いや十分に才能はあるピッチャーなのだが、甲子園決勝で完全試合をする様な奴と比べても仕方ないだろう。

 

だからって、普通上級生なのにタメ口を許容するか……? プライドって物が無いのかよ!

 

 

そう考えるU-18日本代表達は、真田からタメ口で良いと言い出した事を知らなかった。

まあ、真田に野球人としてのプライドが存在しない事も確かだが……

 

 

 

 

___カキン!

___カッキーン!

 

伊川と北瀬に打順が回ると、毎回得点する展開が続いた。

年齢が数歳上程度の相手では、彼らを止める事は出来なかった様である。

 

5回と6回は、リリーフの真田が投球した。

結果は2回1失点と、良くもなければ悪くもないピッチングである。

まあ大学生相手と考えれば、かなり健闘したと言えるのかもしれない。

 

 

「あー……やっちまったな」

「ドンマイ! まー1失点なら大丈夫だって!」

「悪くないんじゃないか? だって相手は大学生だし……」

 

真田の投球に対して、実質3人で戦ってきた為、大量得点は難しい環境にいた薬師野球部員達は微妙な顔をしていた。

まあ悪くはない、悪くはないけど、日本代表として選ばれるかは微妙だな……という雰囲気である。

 

別世界の真田なら「やった! 2回1失点とかけっこう凄くね?!」なんて言いそうだが、彼らにとってはそうでは無かった様だ。

 

基本最少失点で切り抜ける薬師部員にとって、この点数は良くなかったらしい。

北瀬も伊川も気を使って慰めていたが、内心では真田が代表に選ばれるかどうか不安に思っていた。

 

 

対して、U-18日本代表候補達は顔を引き攣らせていた。

北瀬も伊川も強すぎないか? 2番手ピッチャーの真田もかなり強いってどういう事だよ?! 全く元弱小校出身にはに見えねぇんだけど?! という反応である。

 

やる気のある1年生が沢山入って来た事により、薬師野球部の守備はどんどん改善していくと思われる。

漫画みたいな実力のあるプレイヤーは北瀬達以外にはいない今の世代が、薬師野球部に勝つのはかなり難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

U-18日本代表候補合宿が終わり、帰っていく北瀬達。

3人は別々の部屋割りになっていて知らない人と同じ部屋になっていたが、北瀬と伊川は交友関係を広げる事は無かった。

 

基本的に「そうですね」とか「分かりました」と言った肯定や了承しか話さなせなかったのである。

彼らは元不良校で浮いていた事や、高校でもチームメイトとの交友関係を広げる事が無かった事もあり、コミュニケーションを取るのが苦手だったのだ。

 

 

「日本代表合宿終わったな……」

「真田も選ばれると良いけど……」

「まあ俺が選ばれなかったとしても、候補として選ばれたってだけでも凄くね?」

 

真田の選ばれる事を半ば諦めている様な言葉に対して、北瀬と伊川は反論した。

 

 

「真田のポテンシャルは、絶対選ばれるだけのレベルだし!」

「確かに俺達は実践経験が足りないけど、それを覆すだけの才能は持ってるだろ」

「そうか? そうだと良いなー」

 

そんな会話をしながら、北瀬達3人は帰宅していった。

薬師野球部には寮がないので、今日は普通に自宅に帰る予定なのである。

 

ちなみに後日、真田を含めた3人はU-18日本代表に選ばれたらしい。

真田は「マジで俺が選ばれるとは思わなかったわー」と話していた。北瀬も伊川も、内心そう思っていたらしい。

彼らの野球に対する感覚は、基本狂いまくっている。

 

 

 

 

 

 

代表候補合宿が終わり薬師高校に帰った彼らは、後輩達にワラワラと群がられていた。

 

 

「お疲れ様です! 北瀬先輩、伊川先輩、真田先輩!」

「お荷物お持ちします!」

 

「えっ、マジ? ……じゃあお願いしようかな?」

「……結構です」

「自分の荷物は自分で持つんで……」

 

後輩達に群がられる経験のない彼らは困惑していたが、割とノリが良い真田は適当に任せていた。

後輩は、喜んで甲子園優勝チームの立役者である先輩の荷物を受け取った。

 

本人は自覚していないが、真田は下級生から尊敬されるに値する実力を兼ね備えていた。

相手は21世紀枠とはいえ、マトモに練習していない野手陣を背負いながら甲子園で1勝しているのだ。

唯一の3年生という事もあり、彼の影響は薬師野球部ではかなり大きかった。

 

ちなみに北瀬と伊川が荷物を渡す事を断ったのは、中身が盗まれる事を警戒しての事である。

極亜久中学は他人に荷物を渡す方が馬鹿扱いされる環境だったので、その感覚が抜けていないのだ。

 

 

「監督、そういや春季大会の結果はどうなったんですか?」

「あー……青銅高校相手にボロ負けだよ。まー入部して数日の1年生達じゃ当然だけどな」

「俺らが帰ってくる前に青銅と当たったのは、マジで運が無かったですねー」

「まあ甲子園と直結してる大会じゃないし、別に良いんじゃないですか?」

 

春季大会でシード権を得られないまま敗退したという事実を、軽く流した上級生3人。

青銅と当たったのは運が悪かったけど、どうせ北瀬と伊川が居ないなら負けてただろうなという反応である。

 

 

 

 

 

 

愛知私学四強の一角、西邦高校との戦いで先発している真田は善戦していた。

 

 

___ガギン!

___バシッ!

 

「アウト!」

 

「瀬戸、助かったぜ!」

「いえ! 真田先輩もナイスピッチです!」

 

 

 

 

多少の失点はありつつ9回裏、4-4と同点の場面で打席には3番真田。

彼はチャンスに強いバッターなので、適正を考えて北瀬や伊川の後ろに置いている。

 

今の所、打撃力に優れている訳でもない1年生達の打撃力は期待せず、伊川・北瀬・真田の3人で点を取ろうという思惑の打線らしい。

 

 

(3塁にランナーが居るって事は、俺が打てば勝ち! 強豪校相手と戦うのは、やっぱ燃えるわ……!)

 

エースが強すぎる影響で、あまり強豪校と戦う事が出来ない真田は闘志を滾らせていた。

スタミナ切れという概念がない北瀬なので、公式戦では2番手が投げる機会が少ないのである。

 

……それに、今までは練習試合もマトモに組めなかった事が大きい。

轟新監督が来るまではやる気のない教員が監督をしていた為、ちゃんと練習試合を組んでくれたりはしなかったのである。

チームを運営しようという意識のない監督が彼らを率いていたから、野球部が崩壊していた側面もあるのだ。

 

 

___カキン!

 

「よっしゃ!!」

「真田、ナイス!」

 

チャンスの場面に強い真田は、自分がピッチングをさせて貰えているという喜びもあってか、あっさりヒットを打って試合を決めた。

真田は、守備が悪い訳でもないのに4失点か……と思いつつ、素直に勝ちを喜んでいた。

 

今回もヒットで試合を決めた彼の打撃力は、ピッチャーとしてはかなり優秀なのだが、彼は気付いていない。

北瀬と伊川のどちらかは敬遠される事が多いので真田が試合を決める事も多いのだが、今の所その事実に気付いていなかった。

 

 

北瀬と伊川も、西邦高校に勝った事を割と喜んでいる。

公式戦ではないが、やはり勝つという事は嬉しいに決まっているのだ。

 

 

 

 

程々に喜んでいる上級生達と違い、下級生達は皆こんな事を考えていた。

 

 

(俺達は全然援護出来なかったのに……やっぱり先輩3人は強すぎる!!)

 

今までの薬師野球部と比べたら上手い守備をしているが、やはり彼らはまだ1年生。

薬師というチームで戦う歴が浅い事もあり、ファインプレーなどは一切出てこなかった。

 

打撃力も甲子園優勝校としてはあまりに心許なく、こんな野手陣が6人も混じっていて甲子園クラスのチームに勝ててしまうのは、非常識と言っても良い位だ。

 

 

 

このチームに来て良かったと思いつつ、俺って勝つのに要らないんじゃね? と少し思ってしまう結果だった。

 

北瀬や伊川、それに真田の才能が有り過ぎて、後輩達のやる気を地味に下げつつあるらしい。

どうせ俺達が何をやったって、あの人達には敵わねぇよ……と思わせる一幕だった。

 

 

 

 

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