【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

127 / 288
展開をくださった方、ありがとうございます!
どうやって決勝戦まで薬師野球部を持っていこうか悩んでいたので、凄くありがたかったです!


107球目 投壊vs投壊

 

 

 

 

大阪桐生相手に8-0と圧勝した薬師高校。

まあ薬師野球部からすれば、ホームランがあまり出なかった事が不満だった様だが。

 

 

 

準決勝の相手は、薬師高校と同じレベルで超打撃力偏中育成をしている烏野高校。

 

1回戦は才谷商業高校を20-5、2回戦では埼玉堺高校を18-7、3回戦ではつくばみらい正栄学園を24-9、4回戦では青森安良高校を17-11で破っている。

 

薬師野球部の言えた事ではないが、馬鹿げた打力に守備をしているのだ。

 

 

 

噂によると……ボランティアで監督をやっている鳥養さんが、薬師高校のミート力に憧れて練習改革をして成功してしまい、バカ試合を連発しているらしい。

 

 

 

 

試合直前、灼熱の太陽に照らされながら、轟監督は真剣な顔をしてこう語っていた。

 

 

「今日の試合は……めちゃくちゃ長い試合になるかもな

故障を出す訳には行かねぇから、駄目そうだったら直ぐ言ってくれ! 交代要員は9人もいるんだからよ!

 

注目選手はU-18にも出てる強気な王様キャッチャー影山飛雄と、小さな大エース日向翔陽!

___全力で打ち切って、全力で勝ちに行け!!」

 

『おうっ!!』

 

 

 

 

 

 

対して烏野高校の鳥飼監督は、部員達に力説していた。

 

 

「相手は、春のセンバツ優勝校の薬師……165kmとか打率9割とか、スゲェ選手が沢山いるチームだ。

でも! お前らだって安打数では負けてねぇ!!

 

___殴り合いを制せ!!」

 

『おうっ!!』

 

 

 

 

 

 

1回表、烏野高校の攻撃は1番日向翔陽。一瞬で塁に出る走力Sと、ミート力Aが売りの選手である。

 

対して薬師高校のピッチャーは、149kmとキレのある変化球が売りの真田。2番手ピッチャー兼キャプテンである。

 

 

___カキン!

 

 

「日向ぁ! ナイスヒット!」

「カッコいいよー!」

『行け行け烏野、押せ押せ烏野!!』

 

強力なピッチャー相手から、簡単に安打を打った日向。

目を輝かせながらバットを振っていて、少し微笑ましい。顔付きもどこか幼く、目が離せないピッチャーだ。

 

 

 

 

ノーアウトランナー1塁で、打席には2番西谷夕。ミート力が売りで、彼のミート力は甲子園上位のAである。

……元々は守備力がウリのショートだったのに、見る影もなくなってしまったが。

 

 

___バッ

___バシッ!

 

「ストライク!」

「……セーフ!」

 

ストライクは取られたが、俊足ランナーの盗塁で2塁まで進まれてしまった。

奥村も優秀なキャッチャーなのだが、走力S盗塁Aを止めるのは無理があった様だ。

 

 

 

___ガギ

 

「?!」

「セーフ!」

 

 

雷市がぼってぼてのゴロを何とか捕球したと思ったら、2塁ランナーが俊足で3塁を回ったのを見て動揺し、キャッチャーの奥村が明らかに取れない場所へ暴投してしまった。

 

当然日向は帰塁に成功。バッターもその隙に3塁まで到達して、またチャンスを作っていた。

 

 

 

 

ノーアウトランナー3塁で、打順は3番山口。元々は平凡な選手だった筈だが、ミートBに守備難という特徴的な選手になってしまっていた。

 

 

___ガギーン!

 

 

 

フラフラっと上がった打球は、レフト火神真正面。

……当然の様に彼は落としてしまい、その隙に2塁ランナーは帰還。

 

そして、肩力Cとそこそこ速い速度で、セカンドに送球☓を見せつけるあからさまな悪送球をしてしまった。

 

 

「マジか?!」

 

守備職人である伊川も流石に取れず、ボールは点々と転がっていく。

 

 

「セーフ!!」

 

バッターの山口は、その隙に3塁を回ってホームに突っ込んでいた。当然の様にセーフである。

有り得ない形で、薬師高校は初回ノーアウト3失点まで来てしまっている。

 

 

___カキーン!

 

「セーフ!」

 

 

___カギ!

 

「セーフ!」

 

 

___バッ!

 

「セーフ!」

 

 

___バシッ!

 

「アウト!」

 

 

___ガギン!

 

「セーフ!」

 

 

……

 

 

___バッ!

 

「セーフ!」

 

 

___バシッ!

 

「アウト!」

 

 

 

この回、薬師高校はエラーが積もりに積もって11失点をしてしまった。

烏野高校の平均ミート力はB。甲子園上位クラスのプレイヤーが、山程いるのである。

薬師野球部の守備力では、太刀打ちが出来なかった。

 

 

 

 

基本的にメンタルが強い真田キャプテンだが、流石に落ち込んで謝っていた。

 

 

「いや……悪い……」

 

「気にしないでください!」

「カハハ……20点取る!!」

「俺達の打撃は最強なんで、全然大丈夫ですよ!」

 

だが、ここまで1回で点を取られても、薬師野球部上級生は気にしていなかった。

こんな事もある! ホームランで取り返せば問題無し!! 大体そんな心境だった。

 

 

 

 

 

 

1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

ミート力が高い弱点のないプレイヤーであり、薬師に必要不可欠な選手である。

 

相手のピッチャーは、小さな大エースを名乗っている日向。

小さな巨人と言われた、昔烏野高校にいたピッチャーに憧れているプレイヤーである。

……ちなみに過去の烏野のエースが巨人と言われていたのは、威圧感で身体が大きく見えていたかららしい。

 

 

___ガギ!

 

「セーフ!」

 

キレキレの変化球が打てずに、あえなくアウト……かと思いきや、烏野高校のショートがトンネルしてセーフ。

 

駄目だこりゃと思ってちんたら走っていた秋葉は、慌てて走って1塁で止まった。

全力で走り続けていれば、2塁まで行けただろうに……こういう事があるから、怠慢走塁は駄目なのである。

 

 

 

 

ノーアウトランナー1塁で、薬師高校の打順は2番伊川。

公式打率9割超えの、化け物バッターである。

 

 

___カキーン!

 

 

 

彼は簡単に長打を放った上……烏野野手陣は鋭い打球に全く対応出来ていない。

 

ランナーコーチャーから次に進めという指示が出続け、伊川は困惑しながら走っている内にホームインしてしまった。

そう、ランニングホームランである。

 

 

(ランニングホームランって、マジで出来る物なんだ……やられる事はあっても、俺達がやった事は無かったんじゃね?)

 

 

「……ナイス伊川!」

「ランニングホームランってアリかよ?!」

「次も決めろよ!」

「流石に次はねぇだろ……」

 

 

 

薬師野球部の上級生達は、地味にフラグを立てながらも伊川を褒めていた。

ランニングホームランって、ホームラン扱いで良いのかな? なんて考えながらである。

ホームランに脳みそを焼かれている彼らにとって、ホームランであるかどうかは重要なのだ。

どちらにしろ、点数が入っている事に変わりはないのだが。

 

 

 

 

その後、薬師高校が1回裏だけで12点も得点してから攻守が変わった。

ただでさえ打撃力は日本一と言えるレベルなのに、相手の守備が崩壊しているのだから、当然と言えば当然である。

 

___投壊野球vs投壊野球。あまりにも可笑しな試合になりそうだ。

 

 

 

……

 

 

 

5回表、烏野高校の攻撃が始まる頃、32-53という意味不明な得点数になっていた。

 

ただでさえ守備が苦手な両チームの野手陣は、スタミナが尽きてほぼ棒立ちになっていた。

だから、更に試合が長引く。

 

 

薬師野球部はリリーフに三島と友部とパワプロを投入しても全員スタミナが付き、遂に昨日登板していて明日登板予定の北瀬を守護神として登板させる事になってしまった。

 

エース北瀬を出そうとも、烏野打線は止まらない。

……なぜ165kmを打てるのか意味不明だが、カス当たりからのエラーで得点出来てしまっていた。

多分、今までの試合の疲れで由井が早々に離脱し、伊川にキャッチャーが変わってしまった事が大きいだろう。

 

 

 

烏野高校のピッチャーは、既に4番手ピッチャーの木下が投げているが……

当然の事ながら投壊薬師バッターに敵う筈もなく、ボッコボコに打たれている。

薬師部員達はどれだけスタミナが枯渇しようとも、大好きな打撃の為なら死力を尽くして身体を動かせるのだ。

 

 

 

というか、両チームが交代要員を使い切りかけている。

試合があまりにも長引き過ぎて、鉄人の北瀬や伊川すら疲れ始めていた。

 

試合時間は、6時間を超えている。

歴代記録を大幅に超える試合時間によって、灼熱のスタンドでは倒れる人が続出していた。

 

 

 

そして、烏野高校の攻撃。

バッターは、この試合で捕手をやり続けている影山。

伊川の指示で、北瀬は全力ストレートを投げた。

 

 

___ガッ、ギィン!

 

「痛ってぇ……!」

 

影山は、指がバットとボールの間に挟まって骨折してしまった。

 

 

 

 

……そして結果的にはその怪我が勝負を決めた。

 

烏野高校のバッターはそれを見て腰が引けてしまい、先程までと同様には打てなくなってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……試合終了! 39-81で薬師高校の勝ち。礼!」

『ありがとうございました……』

 

この激闘に勝利した薬師高校だが、挨拶をぼそぼそと言ってしまっていた……疲れすぎて、大きな返事をする気力な無いのである。

 

 

 

そんな状況の中、怪我をしている影山が何故か伊川に近付いて来て、汗をかきつづけながらも真剣な顔をしてこう話した。

 

 

「薬師には2回負けちまったけど……次は負けねぇ! 後、キャッチングでもお前に勝つ!」

「そうか。俺は、烏野とは2度と戦いたくねぇけどな……というか、怪我は大丈夫なのか?」

「骨折はしてるな。試合が終わったら病院で確認する」

 

 

 

 

 

 

試合が終わった後、すぐさまレポーター達が薬師高校野球部に駆け寄ってコメントを貰おうとしている。

 

 

「轟監督! 今日の長丁場の試合は、明日の試合にどう響くと思いますか?」

「轟雷市くん! 試合に出場した時に代打を送られたのは始めてだと思いますが、今の感想をよろしくお願いします!」

「真田キャプテン! 今回の試合について、何か感想をお願いします!」

 

「すみません! 選手達は疲れてるんで、また後日よろしくお願いします……!」

 

疲労困憊といった顔を隠せない轟監督だが、選手達の盾になって彼らをホテルまで逃がした。

 

監督も、灼熱のベンチの中でずっと指示を出し続けていて疲れている。

だが、明後日に決勝戦があるプレイヤー達をこれ以上疲れさせる訳にはいかないのだ。

 

 

 

両校合わせて100点超えという超投壊野球や、ランニングホームラン5回、ベンチメンバーをほぼフル活用したド迫力試合についてのコメントを貰いたかった記者達。

だが流石にこの惨状で無理やりコメントを貰って、一般人から非難される訳には行かないと渋々帰っていった。

 

疲れ切った彼らの動画は、ちゃっかり取っていったが……それ位なら仕方ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校との激戦が終わった薬師野球部の選手達は、速やかに片岡コーチの手配でメディカル・チェックを1人1人受けていた。

 

 

 

その結果、常識的な範疇での疲労離脱だった由井や、並外れた頑強さと体力を持っていた火神に結城はそこまで問題無かったらしい。

……だが肩を酷使しすぎたパワードと友部にはドクターストップが出てしまった。

 

特に友部の肩には炎症が確認されたため、治療まで練習そのものを禁止。

それに三島や真田にも、これまでの試合の影響も含めかなり肩に疲労が蓄積していた。

結論としては、野手であればともかく投手として何度も投球することは認められないとの事。

 

 

 

___つまり薬師野球部の投手は、北瀬以外全滅。

また、元々野球部員としては食が細く1年生のため体力が低い方だったにも関わらず、炎天下で何時間もスタメンとして出場し続けた1年生達。

奥村・瀬戸・守備要員で起用され過労死枠だった疾風の3人は、決勝戦を見ることすら出来ずに病院送りとなってしまった。

 

 

 

その他上級生達は、高校生の回復力であれば丸1日休めば、1試合する程度なら問題ない程度に回復すると言われてはいた。

 

だがとてもベストコンディションとは言い難いので、普段のような圧倒的打力は全く期待できないだろう。

 

特に主砲の雷市は、打撃と守備でのハッスルプレーが災いしていた。

長時間の激し過ぎる体力消耗によって、1日の回復では並の強豪校の主砲程度にまでしか打力が戻らなかったのだ。

 

 

 

因みに……フル出場していて、本来なら1番疲労してるであろう北瀬と伊川。

彼らは確かに一度ガス欠を起こしたりはしたが、1日休んだらもうすっかりと全快していた。

 

甲子園近くの病院に薬師野球部達は連日訪問していて、ちょっとした掛かり付けとなっていたので、春甲金属バット頭部直撃事件の時と同じ主治医が担当する事になった。

到着する頃には炎症1つ無いどころか疲れの欠片も見せない北瀬の姿に、医者はやっぱコイツおかしいだろという顔をしていたらしい。

 

 

 

 

 

 

完全療養とされた決勝戦前日、轟監督と片岡コーチは奥村他数名のダウンした1年生1人1人に、無情の出場禁止を言い渡すこととなった。

 

何があろうとも、明日の試合には出さない。

つまり、例え人数不足で試合が終了しようとも、お前を試合に出す事は出来ないと伝えたのだ。

 

 

 

___彼等の反応は様々だった。

泣く者、言葉を失うもの、絶望する者、宣告を呑み込めない者……

 

そしてスタメンじゃなくていい、代打でも代走でも違うポジションでもいいから出して欲しい。

そうやって皆、同じ様に出場を望んでいた。だが監督達は、その嘆願を飲む事は出来ない。

 

……しかし元甲子園投手を努めた片岡コーチも、現役時代その土すら踏めなかった轟監督も、痛いほど気持ちは分かった。

だから、無茶はいけないと一応口頭での注意はした物の、必要以上に彼等を責めることは出来なかったという。

 

 

 

___甲子園に1度出るだけでも、一体どれほどの困難があることだろうか?

 

血の滲む想いを、練習をひたすらに、切磋琢磨した仲間達から選手の座を勝ち取り。

本戦では、同じ想いをしてきたであろう者達を相手取り、何度も何度も足場に。そこまでしても、一生に一度巡ることさえ夢の舞台。

___それが全ての球児の憧れ、甲子園。

 

 

 

確かにその結末を、なにやら訳のわからない珍記録で終わらせられた高校も本大会では生まれていたが……

だが、薬師野球部に在籍する彼らにとって、そうやって巡ってきた夢の大舞台。

選手として選ばれ、その優勝旗を掛けた最後の1戦。

 

 

 

もし自分が、全ての球児が憧れる甲子園決勝の舞台に勝ち進めたにも関わらず、「貴方は疲れ過ぎなので出てはいけません」なんて言われたら?

もし当時の自分が、彼らの立場だったとしたら……?

 

___恐らくどんなにコンディションが最悪だとしても、泣いて喚いて果ては暴れてでも出場を懇願しただろう。

 

しかし彼等を預かる責任者として、指導者として、試合参加不能と判定した選手を試合に出場させるわけには断じていかない。2人は心を鬼にするしかなかった……

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。