【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
1番 秋葉・センター
2番 伊川・セカンド
3番 北瀬・ピッチャー
4番 火神・レフト
5番 結城・ライト
6番 雷市・サード
7番 三島・ファースト
8番 米原・ショート
9番 由井・キャッチャー
不調&絶不調となった上級生、リリーフ陣は全滅、2番手の真田は野手埋めにしか使えない。
___つまり、どんな試合展開であろうとも、勝つには北瀬が完投しなくてはならない。
コールド規定が存在しない甲子園戦では、コールドで勝つこともそして負けることも許されない。
つまり最悪でも、それらしく切り上げて帰るという手段も取れない。
「1回……1回の中継ぎでも構わないんです! 監督! コーチ!」
「親父が、決勝出るって言ったら喜んで、有給今年分全部取ってくれたんです……せめて、せめてベンチには……」
「代打でも、代走でもいいんです! 別のポジションだって構いません!」
「決勝、もう先輩達だってギリギリなんでしょう!? だったら自分がいなかったら、余計駄目じゃないですか! 監督、お願いです!」
……本当は今からでも、今すぐにでも試合の辞退を宣言するべきなのかもしれない
監督としてこの試合の勝敗の責任なら、敗北の責任なら取れる。
だが甲子園決勝まで辿り着いたこの18人の選手達を壊した責任なんて、たかだか元実業団の中年親父が取るなんてできる訳がない。
だから……
「確認しますが……本気ですね、轟監督」
「ええ……全ての非難は俺が引き受けます
この試合、もし北瀬の投球数が万が一140球を超え、その回でゲームを終わらせられないと判断した場合、我々がどんな優勢だったとしてもその時点で審判団に……
___薬師高校の試合放棄、降参を宣言します」
それが最善の形なのだと、そうやって彼らは自分を誤魔化すしかなかった。
北瀬は、こっそり病院の一室に足を運んでいた。
薬師の絶対的エースである彼は、特に待機して一日たっぷり飯食って寝て体力を戻せと監督に言われていたが……
中一日どころか一晩寝て回復しきった彼は、それはもう完璧に監督達の指示を無視していたらしい。
「北瀬です、失礼します」
「どうぞ……って北瀬さん? 出場組も待機療養になってるって聞いてたんですけど。意外と上級生の試合の疲労って、そんな程度なんですか?」
北瀬が訪れた病室の中には、入院組の奥村がいた。瀬戸や疾風はどうやら別室らしい。
「俺と伊川はな……真田先輩を始めとして、他の先輩方はもう一人残らずへっとへとだよ
元々体力あった秋葉はマシな方だけど、リリーフもやった普段声のでかい三島はでかい全身に湿布貼られてダンゴムシみたいに寝込んでるし……
主砲の雷市に至っては、空回す元気もない。もー見事にからっけつだよ」
苦笑いをしながら薬師の惨状を話す北瀬に、奥村は沈痛な面持ちを浮かべなならどうにか返事をした。
「そう、ですか……」
「あとは決勝までどれぐらい体力を戻せるかだけど……あの調子じゃ全快には届かないだろうな
部員がベンチの枠より多くなってたから、もう秋大や選抜みたいなことは起きないと思ってたんだけど。まさかそれよりもひでーことになるとはなー」
「…………」
奥村はその言葉ですっかりと押し黙ってしまった。
北瀬は、なんか言いたいことがあるなら普段通りズケズケと言えばいいだろうにとは思ったが、流石に怪我人相手にこの状況でそんな事は言えなかったらしい。
「あー……でさ、お前脱出騒ぎ起こしかけたって?
ちょっと変な奴かなとは思ってたけど、とんでもねーな……お前」
「……なんだ、もう知ってたんですか」
「監督が言ってた。まー言ってたって言うより、たまたま聞こえちゃっただけなんだけど……」
奥村は熱中症と甚大な疲労により試合参加不能と判断され、戦力外通告を監督とコーチから受けた一人だった。
だが通告を受けた奥村は、なんと目の前で病院から退院手続きしてでも試合参加しようとしたのだ。
最もそんなことをしても、別に出場させてもらえるわけもないのだが……
当然彼にそんな体力など残っている筈もなく、結局監督達の目の前で試合参加不能なコンディションであることを証明・自覚しただけに終わってしまった。
奥村は、微妙な顔をしてベットの前に立っている北瀬を見ながら、こう話し出した。
「北瀬先輩……俺が、地区大会前に背番号受け取るときに宣言した事、覚えてますか?」
「あー、真田先輩と一緒に俺を超えるってやつ? そりゃ覚えてるよ」
「ええ___そう散々息巻いておいて結局はこれだ。一番肝心な時には役立たずと来てる、笑って良いですよ」
「いやなんでだよ、笑うところじゃないだろそれ」
今の話のどこに笑いどころがあったというのか、正直見直してたぐらいなだけに北瀬は困惑していた。
というより、基本彼は奥村のことを気に入らないとは思ったことはあっても、役立たずと思ったことはない。
本来何でもないことが自然に口から皮肉や嫌味の様に出力されている奥村が、何故かこの状況においては無限自虐マシンに変わっている。
正直適当に塩対応すれば良かった前までと違うので、余計に北瀬は返答に困っていたらしい。
「っていうか別に試合があんな長引いたのは俺達全員のプレーの結果であって、別にお前一人の責任じゃないし」
「……元々、打撃特化の守備難のチームであることは承知の上で入ったんです
それに真田先輩のピッチングには何の問題もなかった。打撃が売りのチーム相手でも、貴方のように三振を取ってもっと早く試合を終わらせることが出来た筈なんです!
どれだけ先輩方が援護してくれたってこれじゃ意味がない。俺は、チームを崩壊させる原因を作っただけ……!」
北瀬は奥村の悲鳴混じりの発言を聞いて、病院脱出騒ぎの理由を確信。そういう事だろうと、奥村に確認する。
「なるほどなぁ……それでお前は、この事態が自分のせいだって責任感じてたって事か」
「……はい」
流石の北瀬もここまでくれば、3強の内2人と確執を生む原因となった、あの暴言の裏の意図にある程度気付いていた。
だからもう、既に彼への怒りは無かった。
まあ、それをああ言ってしまうのか? 口下手にも限度があるだろうとそれはそれで引いていた部分もあったが……
「去年の夏はさ、俺達薬師は甲子園ベスト4まで行ったんだ……って、多分知ってるかそのくらい」
「……ええ。西東京に市大、青道、稲実と並み居る強豪名門を薙ぎ倒した超新星高校が現れたって、当時俺のいたチームでも語り草でした」
そしてその話題の中心には、今まさに目の前にいる高校野球史上、いや日本最強のエースである北瀬がいた。
今年の新入生の何割かが入学した原因は、冗談抜きに彼の存在ありきと言っていいだろう。
「あんときゃ凄かったなぁ……取材もめっちゃ来たけど、俺とか雷市って口下手だし全然面白いこととか言えないから、その時から真田先輩が捌きまくっててさ」
「……そういえばテレビとかでも、前主将とか真田先輩が話すばっかりで、北瀬さんはあまり喋ってませんでしたね
貴方程のエースなら普通、もっと大きい扱いをされる筈だとは思ってたんですが……そういうことだったんですか」
北瀬は奥村の発言を聞いて、ちょっと驚いたらしい。
コイツでも、自分が出てない試合のテレビとか見てるんだなーと意外に思っていた。
流石に薬師高校に来ておいて、北瀬について調べない奴は殆どいないと思われるが……奥村なら有り得そうだと思っていたのだ。
「え? なんだ、そういうの見てたんだ。奥村も」
「自分が入る学校の事ぐらい調べますよ」
「…………そうだな、本当に大事なことだと思う」
何故か妙に間が空いた北瀬の発言に、奥村は少し違和感を覚えていた。
しかし「それならもうちょっと格好良い事とか、取材用に考えておくんだったかなー」なんて今更な事を恥ずかしそう話していた為、その話題には突っ込まなかった様だ。
「んでさ、その時準決前に真田先輩怪我で出れなくなっちまってさ
___誓ったんだ、真紅の大優勝旗貰ってくるって
そんときゃ俺達、バカすぎて深紅が何色だとか、優勝旗は個人じゃなくて学校に送られるもんだとか、そういうのちゃんと分かってなくて……まあでも、結局勝てなくてさ
春でも真田先輩、怪我で決勝には出場できなかったから、初めて最後の甲子園最後の試合をあの人と一緒にやることになる
だから___絶対勝ちてえんだ、あの人と一緒に
だからこそ、お前は秋に向けて……」
「北瀬さん」
「ん?」
「___お願いします、一緒に薬師を甲子園連覇させてください。真田キャプテンに……真紅の大優勝旗を持たせてください」
「……おー、任せてよ」
「……ってまあ、奥村とはこんな感じだったよ……伊川の方はどうだった?」
「こっちも同じ感じで、試合出れないことを死ぬ程謝られた。別に1年生達が悪いわけじゃないと思うけどな……でも、奥村がそんなこと言ってたのか」
監督達に脱出して見舞いに行ったのがバレると面倒なので、時間がなかった北瀬と伊川は、手分けをして彼等の容態の確認とお見舞いに行っていた。
最も伊川の方は口周りの良さでなんとかしていたようだが、北瀬は自分があまり上手く言えたとは思わなかった様だ。
「はあ……少しは先輩らしいことでもしようと思ったけど……やっぱり俺達、真田先輩みたいになるのは無理なのかなぁ?」
「俺らには一生かかっても無理だろ、それ。それより北瀬、そろそろ戻ろう。監督達に見つかったら面倒臭い」
___明日、試合が例えどんな結末を迎えたのだとしても真田達3年生は引退してしまう。
もう二度と、彼らと公式戦を共にすることはない。
甲子園決勝が終わった次の日から野球部の最上級生となって、2年生5人は100人を超える1年生を導かなくてはならないのだ。
「試合よりもそっちのほうが余程憂鬱だよ、マジで……」
遂に始まった、甲子園決勝戦。
先行は薬師、巨摩大藤巻のピッチャーは本郷。
彼ら薬師野球部に負けた、青道・稲城実業・市大三高の生徒達も固唾をのんで見守っている。
ノーアウトランナー無し、甲子園最後の舞台で最初にバッターボックスに立つのは、1番秋葉。
___ガキーン!
「ファール!」
(何だ……? ボールが、異様に重い?!)
初回から、ファールとはいえ盛大に飛ばした秋葉。
だが彼は、異様にバットやボールに重さを感じていた。
やはり、疲労が腕に残っていたのだろうか……?
秋葉は打席に立ちながら、本郷が投げたボールの強烈な重さについて考えていた。
(いや、疲れとかじゃない。この感触は、何か覚えがある
___まさかとは思うが……)
そう思っているうちに、3ストライクでバッターアウト。
続けて2番バッター伊川、本郷の投球を初球打ちで挑む。
軌道、球速、打つのに必要なタイミング全てを完璧に割り出していた、ただ一つ見誤ったのはその『重さ』
___カキンッ!
___バシッ!
流し打ちで長打になる……と思いきや打球に微かに勢いが足りず、その上巨摩大藤巻の野手陣に伊川の想定以上の動きをされて、無念のゴロアウトになってしまう。
「___いやいやいや、俺ちゃんと打ったんだけど?!」
「ドンマイ伊川ー」
「そんな事もあるでしょ!」
「次はホームラン打てよー」
この打席で、薬師一同は確信する。
速度こそ大きく違うが___本郷は北瀬を超えたノビで、北瀬と同じ怪物球威のストレートを投げている事を。