【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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薬師側コンディション
不調 北瀬 伊川 結城 由井 秋葉 火神
絶不調 平畠 米原 森山 福田 
超絶不調 真田 三島 雷市
試合参加不能 パワプロ 友部 奥村 瀬戸 疾風


109球目 夢の犠牲

 

 

 

 

「___ハア!? 日本で160km投手とか、聞いたことねえぞ!?」

「しかもこのノビにコントロール……プロ野球どころかメジャーとかでしか見たこと無いんだが??」

「まじかいな……そんなんが高校野球で出て来るんか……」

 

 

『北瀬がいなければ、本郷はドラ1確実だったのになあ』

 

 

 

自分が及ばない男がいることを知った。

だが遅れを取ったままになってやるつもりも、試合で負けてやる気もなかった。

再戦することになったときも夏の甲子園のように、もう一度倒してやると意気込んだ。

だが……

 

『北の怪童、本郷正宗ここに散る! エース対決を制し、決勝に駒を進めたのは薬師高校! 21世紀枠が史上初の選抜決勝進出を……』

 

更に高くなった頂点の前に、現実を知った。

 

 

 

___強くなりたかった。

 

見続けた、あらゆる試合の北瀬の投球を。全試合一球一球食い入るように。

 

初めて味わったのは昨年の夏。

打ち込んだとき味わった、鉄を打ち付けたと思うようなあの感覚。

160km超えであるというだけでは説明の付かない、あの隕石のような球。

 

 

 

___欲しかった。

俺も、あんな球が投げたかった。

 

リリースするタイミングを、指の形を、動きを真似た。

そうして投げた球は、我ながら呆れてしまうくらい全く使い物にならなかった。

 

球速は遅い、軌道はふらつく、あらぬ方向に変化が加わることもある。

その度に北瀬の投球を見直し、指の動き1つ1つ、力が加わるポイントを分析し直した。

 

あわや故障まで行きかねない程ひたすら夢中で投げ続け、監督に見つかって怒鳴られて、半ばふん縛られる形で練習を禁止されたりもした。

それに対して腹が立ち、無視して続行し、無理やり部員達に止められた事もあった。

 

そして___何百という試行錯誤の果てに。

遂に速度をそのままに、その副産物で北瀬涼を超えたノビに、更に重い球質を加えることに成功した。

 

 

「おい……やったじゃん本郷! これなら……!」

「違う」

「えっ……? 違うって……いや、そりゃスピードは違うけどさ?」

「___違うわ、アホウ……

アイツの、北瀬涼の球が、こんな軽いわけあるかっ!!」

 

 

そう。確かにその投球に、重い球質を加えるところまでは成功していた。

だが……その完成度は、理想としたあの境地には達していなかったのだ。

 

 

 

なぜだ、何が違う?

やり方はこれで合っている筈だ、何が足りていない?

なにを見逃している? 何処の変化……いやそれとも筋力、瞬発力が足りていないのか?

 

既に殆ど完成させていながらも、どうしてもあと一歩の所で、最後のピースが見つからなかった。

 

 

 

本郷は、絶望の淵にいた。

既に並み居る強打者が太刀打ちできないボールを作り上げていたが、彼はそこで妥協できなかった。

___どうしても諦められなかった。

 

 

「本郷、お前にU-18合宿の再招集がかかっとる……今回は例の薬師のエース達も来るそうだ、どうする?」

 

だから、その誘いに足を運ぶことに躊躇いは無かった。

そこで同室になった北瀬の口から出てくるのは、与太と思いそうなことばかりだった。

 

甲子園出場した野球部に選抜まで誰も入ってくれなかったから、他部の人間を騙し討ちで入れたとか。

最後の決め手になったテニス部が1人、しかも1週間しか練習してなかったとか。

甲子園に行けなかった他校の球児が聞けば目眩がしそうな事を、まるで自慢話の様にするものだから。

 

……だからなのかは分からないが、合宿中に2人きりになった時、無意識に思わずこんな言葉が口をついた。

 

 

「北瀬……お前の投げてるボール、どうやってるのか教えてくれんか」

 

そこで本郷は生まれて初めて、己の口にしたことに、しまったと感じた。

幾ら共に戦うことになるとはいえ、夏の大会前に秘訣を教える訳が無い。

自分の言ってることが酷く馬鹿馬鹿しく感じ、「今のは忘れてくれ」と取り消そうとして……

 

 

「ん? いいよ!」

 

 

 

こうして本郷は、怪物球威を投げられるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして___

 

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

 

自分をこの高みに導いた北瀬には、感謝している。

……己の持つ最高の球で、全力の薬師打線と戦いたかったという思いもある。

 

しかし、だからこそ手は一切抜かない。

それが不器用な本郷正宗という男が一球児として返せる、最大限の礼儀だった。

 

 

「これは……稲実の時と同じ投手戦になりそうですね」

「そうだな、由井

___行こう。真紅の優勝旗を、取りに行こう……!」

 

1回裏 

薬師高校エース北瀬涼出陣

残り投球可能数 140球

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

「ストライク! バッターアウト!」

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

初回から由井の好リードもあり、初回から北瀬は巨摩から三者連続三球三振で終わらせていた。

 

(あと131球……この調子でいけるなら多少ボール球で揺さぶっても問題ない筈だ

……でもあれ、本気でやるつもりなんですか、監督……?)

 

 

由井が気がかりだったのは、今朝のミーティングで監督が言いだしたある一言が原因だった。

 

 

「えっと、あのー監督……今なんて言いました?」

「各々色々と言いたいことはあるだろうが……

さっきも言った通り、今日の決勝、俺は北瀬の投球数が140を超えた回でゲームが終わらないと判断したら、その時点で降参を宣言する」

 

轟監督の甲子園決勝とは思えない指示に、薬師部員達はざわめいていた。

 

 

「いやいや監督、何いってんすか!?」

「今までもおかしなことばっかだったけど、輪をかけておかしいですよ!?」

「最悪俺等野手がリリーフに入ればいいでしょ! いや抑えられるとは全然思ってませんけど!」

「……普段なら、俺だってこんな馬鹿みてーな制限設けたりはしねえよ

けど北瀬以上に、今の時点で体重そうにしてるお前らが長時間の試合に耐えられるとは到底思えねえんだ……」

 

 

 

 

 

 

その轟監督の言葉を聞いていた片岡コーチは、昨日の轟との会話を思い出していた。

 

 

「轟監督、貴方一人が泥を被る必要は無いと思いますが」

「……言い出したのは俺で、やるのも俺だ」

「貴方がどういう意図でこの計画を考えたかは理解しているつもりです

しかし全国放送、かつ満員の甲子園決勝での途中降参。百歩譲って1回戦や2回戦ならいざしらず、そんなことをしてただで終わる訳がない」

 

 

その悪影響は、恐らく実行者である轟雷蔵が退陣しないかぎり続く可能性が高い。

……いや、退陣したとして既に彼自身の名は全国に名を知られてしまっている。

世論がどう転ぶか確実なことは言えないが、もしそうなったらそれは社会的な抹殺に等しい。

 

___それぐらいは彼自身分かっている筈だ。

 

 

「秋大会……言ってはなんですが、あの時は降参や没収試合による敗北が許される土壌があった

元々の部員人数が12人、最強打者達と最強投手、しかし元弱小部であるがゆえの無念という物語性……」

 

そしてそれこそが、21世紀枠というセンバツ出場枠の獲得にも繋がっていた。

 

 

「しかし今回は、ベンチメンバーが全員埋まっている

『全国最強投手北瀬と万全の最強打線薬師』の戦いを、全国から様々な人達が観に来ています

前の試合で選手が何人か入院し、他の選手も体力が戻りきってない事を勘案してもらえるほど『観客』という存在が利口じゃないことぐらい貴方は……」

 

 

 

 

 

「それがどうしたっていうんです?」

 

そうハッキリ言い切った轟に、片岡は言葉を失ってしまった。

 

 

「……まあベンチとリリーフ使い切った所は昨日見せたし

ベンチ全員出して、北瀬が200球以上投げて明らかに不調になったところでも見せれば、その時点で降参負けも許されるとは思いますけどね?

でも___生憎顔も知らない連中の納得の為だけに、あいつらの野球人生を食い潰すような真似はしたかない」

 

甲子園では『今日で野球人生が終わっていい』なんて思いで投げる投手だって少なくは無い。

まさしく片岡がそうであったし、それで壊れていった選手だって少なくはない。

いや投手に限った話ではない。つい先日、戦力外通告を渡した選手全員が同じ想いだっただろう。

 

 

リリーフ選手と、リリーフを兼任している選手全員がリリーフ起用不能という事態になってしまった以上。

そして、出場選手の半数が疲弊しているこの現状……たとえ北瀬の体力が持ったとしても、それ以上の守備に他の人間が持つとは考えにくい。

 

その上でどうしても甲子園決勝に出たいという気持ちと、選手生命の両方を取るのなら……こんな強引なやり方しか轟には思いつかなかった。

 

 

「第一そうなったら、結局俺は一生の大恥を抱えて生きることになるのは変わらない

それを俺だけが被るか、それにあいつら全員のこの先人生全部を巻き込んでそうなるか

 

___これはそういう話ですよ

それにアイツラが勝てるなら……いや何事もなくこの試合が終わると言うなら、それで問題は全くないんです」

 

「…………」

 

 

好きなことだけ生きていく。人としてそれ以上に傲慢な生き方は無いと思ってる。

そして野球人なんてのはそんなやつらの集まりだとも。

 

ただ……

 

 

___貴方達の人生の、犠牲になるつもりはありません

 

思い出すのは、嘗ての別れの言葉。

あれが今の自分がやろうとしていることを見たら、果たしてどう思うのだろうか?

 

 

(いっそあいつらがあれくらい俺に言ってくれりゃ、まだ楽だったんだがねえ…………)

 

 

「万一……そうなったとしてもどっちつかずの半端野郎が選んだ結果だ、切り捨てて下さい」

 

 

 

 

 




「戻ったぞ……ジジイ」
「どうだ正宗、例の球は……なにかコツは掴めたのか」
「教えてもらったぞ、北瀬に」
「___正直に言え、何人人質に取ったお前」
「殺すぞジジイ」

巨摩大藤巻の監督は真面目に、北瀬からコツを教わる為に本郷は何をやらかしたのだろうか? と慌てたとか……


ちなみに本郷との友情トレーニングで、北瀬は北瀬で怪童のコツを得ました。
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