【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
2回表、薬師高校の攻撃。
苦戦しつつも、なんとか5番結城がヒットを打った。
だが……普段は圧倒的な打力で援護する雷市三島だが、疲労が抜けきっておらず思う様にバットが振れない絶不調であることもあり、今の本郷相手は分が悪かった様だ。
並の甲子園投手相手であれば、それでもそれなりに長打を打つことが出来たのだろうが……
『投げました、米原振って……あっと伸びない!
セカンド捕ってアウト! これで3アウトチェンジ! 2回薬師の攻撃を無失点で抑えました!!』
薬師高校が、ここまであからさまに抑えられる事は今まで無かった。稲城実業の成宮相手ですら、毎回得点圏までは進めていたのだ。
そんな薬師野手陣を知っている観客達は、今日の本郷の恐ろしさに恐れ慄いていた。
「また無失点で抑えた?!」
「この大会三桁点を2回取った薬師打線が、ここまで機能しねぇとは……!」
「つか、これで本郷通算無失点何回続いてんだよ! もう過去最高記録超えてんだろ!!」
「打球の勢いを考えたら、北瀬もそれくらいできる筈なんだがな? おかしいなぁ……」
「てか、轟と三島はどうしたんだ? 今日だけ打順下げられてるし普段の元気がないし」
「そりゃまあ、一昨日あんだけ動いてりゃなぁ……」
出塁自体が全く出来ていないという訳では無い。
体力の残っている者達で再編成された上位打線組は、並の強豪校を凌駕する強さを保っている。
如何に完封試合を量産した怪物本郷が相手といえど、高校レベルを遥かに超えた打撃力と精度でヒットを取ることが出来ているのだ。
だがここまで得点に繋がらないのは、長打を抑えこまれているのも確かにあるが……
___だがそれよりも、巨摩が薬師と違い怪物球威の最大の強みたるゴロ、ゲッツー量産を完璧に活かせる守備態勢をしている事が大きい。
そのせいで、打線の接続が完全に切られているのだ。
まあ元々繋がりなどを考えていない、ざっくばらんなホームラン狙いばかりしている事も大きいだろうが……
誰かが打っても、それが続かなければ意味が無い。
いやまあ本来は北瀬も奪三振ショーに加え、こういった要素が加わるはずなのだが。
2回裏あっさりと北瀬が三者凡退に抑えて、続く3回表。
由井は全く撃てる気配が無く、続いて下手なミート打ちは逆に打ち取られると判断した秋葉が、珍しく強振を選択。
それでも、外角ストレートからのキレのあるスプリットで三振してしまった。
次は、前回珍しく討ち取られている9割打者の伊川。
___カキン!
___バシッ!
「アウト!!」
完璧にジャストミートした筈の打球を、何故かショートに捕球されてアウト。
「どうなってんだコレ?!」
「伊川ー! 仕方ねぇ、実力不足だー!!」
伊川のボヤキに対して、親友の北瀬は一刀両断した。
薬師野球部員の多くは、連続で薬師が誇る最強の安打製造機が打ち取られた事実に衝撃を受けているが……
しかし神童と謳われる1年生、由井薫は、余りの走り出しの速さにハッキリと違和感を覚えたらしい。
「監督……今相手の野手達、伊川さんがバットを振ろうとした瞬間、全員それぞれ別の方向に走ろうとしてませんでしたか……?
なんか、全然関係ない所に走ってた人もいたような……」
そんな核心を突いた由井の一言で、轟監督は先程一体何が起きていたのかを把握した。
「あ……あいつら……!
___伊川の打つ打球を、完全に予想しやがった……!」
巨摩大藤巻が1番警戒したのは、無論エースの北瀬涼だ。
だがあの高校史上最強打線も、そう簡単に崩せる相手ではないことは分かっていた。
一つ下手を打てば、今の本郷を以てしても立て続けに本塁打や二桁得点を奪われてしまうのは容易に想像がつく。
黄金世代と呼ばれる2年生、特に薬師三強は間違いなく世界を獲るであろう最強打者達。
故に、あらゆる公式戦のデータを収集し続けていた。
中でも究極の安打製造機である伊川始の、圧倒的打率を生み出す秘訣、如何なる状況に於いても完璧にヒットさせる絡繰について穴が空くほどに調べていた。
あわよくばその打法を、自分達にも組み込もうとした。
___まあ結論だけ言うと、何も分からなかった。
辛うじて分かったことと言えば、彼は投げた瞬間に相手の投球のコースを完璧に割り出し、かつ打球の方向を完璧に操作することが出来るという事だけだ。
彼の実力を示すデータは、全ての相対する投手にとって絶望的な事実だった。まるで意味がわからない。
そうやって皆で頭を抱えていた時、1人の偵察班が衝撃的な事実に気付いた。
「……おい、ちょっと待て!
こいつが打った時の球種、それと相手の守備シフトのデータを過去20戦分集めてくれ!」
「え?」
「やっぱりそうだ!
伊川は___打球の紛れが無さすぎる!!」
実は伊川の打球は、ほぼパターン化されていた。
鬼才と言える打撃センスを持つ彼だろうと、相手ピッチャーが投げてからミットに届くコンマ何秒で最適な打ち方をしながら何処に打つかを決める事は、不可能だったのだ。
___故に本塁打でも打たれない限り、コースや落下地点を絞ることは容易だった。
とは言っても……完璧に塁間を抜いたジャストミートなど打たれた場合、どうしようも無い。
北瀬直伝の怪物球威による打球速度と飛距離の減衰を加味しても、追いつく事などどんな好守備の選手でも不可能。
だが見る前に、つまり振った瞬間に走り出せば話は別だ。
あらかじめ事前に決めた球種と、守備シフトで誘い出し、予め予測していたポイントをいくつかに絞って振った瞬間に全員が移動。
それが、世紀の天才伊川始を打ち取る唯一の手段だった。
しかし、ポイントを予め決めて振った瞬間移動を行うという事には、当然大きなリスクがある。
伊川のほんの気紛れでずらされた日には、本来取れて当たり前のフライやライナーに出遅れ、薬師並の特大エラーを引き起こしかねない。
常識的に考えるならば、絶大なリスクを背負っての分の悪い博打行為であると言える。
だが相手は元より、打率9割超えの最強安打製造機。
即ち……
「実質ノーリスク、決まれば最高の超ハイリターン作戦って事だ! やってくれる……!」
流石に北瀬と同じ怪物球威を持つピッチャーの対策など要らないと考えていた、轟監督が吠える。
ちなみに監督達は、北瀬が何も考えずにライバルにピッチングのコツを教えてしまった事を知らなかった。
今回負けたら、完全に彼が戦犯だろう。
……最初の打席は不意打ちの球威で、そして2打席は決め打ちのピンポイント守備。
1年夏甲子園9割超え、春甲子園打率10割、本大会でも打率9割の超アベレージヒッターである彼が立て続けに封殺された事実は、チームに大きな影響を与えてしまう。
この局面で、大きな精神的アドバンテージを渡してしまった事実に轟雷蔵は歯噛みした。
「……どうやら流石に、向こうも気付いたみたいですね」
「これをやると決まった時は一体どうなることかと思ったが、どうにか2つの賭けには勝てた様だな……
流石に次は通らんだろうが
___気ぃ抜くなお前ら!
これで漸く五分の勝負、本番はここから……!!」
「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」
『これが薬師の大エース!
これが日本最強のピッチャー、北瀬涼!!
この3回裏、巨摩大藤巻の攻撃を___たったの10球で抑えました!!』
「___結局、あいつの球を打てなきゃ勝ち目はねぇ」
4回表の攻撃、先程の伊川封殺が響いたか? 疲れが残っていない様に見える、本日実質主砲の北瀬は全く打てず。
続く火神結城も球威を意識しすぎたか、場外に叩き込む勢いで強振したバッティングを読まれたスライダーに封殺。空振り三振となる。
その裏は1度エラーで得点圏にランナーを出すも、北瀬は続く打者を空振り三振で凡退させる。
3塁方向に打ち上げた轟が取るはずのフライを、投げているピッチャー本人が取って終わらせていた。
『打ち上げました!
これはサード轟……ではなくピッチャー北瀬が走ってきてキャッチ、アウト! これで3アウトとなりました!!』
観客達は、エース北瀬のスタミナを生かした、縦横無尽に動き回る守備を見て口々に囁いた。
「なんか……北瀬の守備範囲どんどん広がってるな……」
「おかしいな、褒め言葉の筈なのに涙が出てくる……」
「もう誰か助けてやれよ!
___あの悲しきモンスターをよぉ!!」
5回表、ノーアウトランナー無しで打席に立つのは、薬師3強の1人、轟雷市。
こういった場面では彼の豪快な一発が望まれる。
しかし……
(さっきも思ったがこいつ、春の時より
___いや、前の試合までの気迫がまるでない。もう完全にガス欠を起こしとる……)
前の試合の消耗を引き摺り既に脅威でない。
最強スラッガーをハリボテと看破した巨摩大バッテリーは、立て続けにスプリットで三振。
続く三島、米原もあっさりゴロで打ち取られてしまった。
「おい雷市、三島
___お前らさては、完全に空っけつになってるな」
無論それを見逃すほど、轟雷蔵も甘くはない。
痩せ我慢と空元気を強引に振りかざして、精々他の3年組と同程度の不調に見せかけていた彼等。
だが、この回の時点ですでに満身創痍の消耗具合だった。
「カハハハ……! まだ、まだやれる……!!」
「鏡見ろや、お前らそれで今更誤魔化せるわけねーだろ!
……仕方ねえ、平畠! 福田! 準備しろ!!」
轟監督の決断に、思わず三島がタメ口で言い返した。
「ま、待ってくれ雷市の親父! 今俺らが抜けたら!!」
その言葉に、最上級生の平畠達が大胆不敵に発言した。
「……おいおい、俺だって薬師野球部の副キャプテンだ
こういうときぐらい頼ってくれてもいいんだぜ?」
「それにお前らは、日本代表として戦うって大舞台が控えてんだろうが。今ここで潰れもらったら困んだよ……!
つか最後位、俺等にも良いカッコさせろっての!」
尊敬している3年生達の言葉に、轟と三島は俯いた。
薬師高校を、チームメイト達を勝利に導くのは俺だ! そう思って、この1年半バットを振り込んで来た。
___だが、今は。
「すいません、先輩方……お願いします!」
「カハハ、ハ___オネガイシマス、センパイ!!」
『応よ!!』
「……うっし! 俺達をここまで連れてきた頼もしい後輩たちの為に、一丁体を張ってやろうじゃないか!」
「ああ……3年生最後の意地って奴、見せてやろうぜ!」
万雷の拍手と声援を背に、平畠、福田出陣。
5回裏、0対0
薬師残りベンチ 2人
北瀬涼残り投球数 93球
「……ところで、何で俺がサードなんですか?」
「守備位置なんて、どうせ雷市の代わりなんだから誰入れたっていいだろ? 別に」