【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「ストライク、バッターアウト! チェンジ!」
「くっそ……掠りもしねえでやんの……!」
既に北瀬の奪三振は13回。
5回裏、エラーで試合を混乱させつつもチームを支え続けた三島と雷市が交代するという事があったものの、一切そのピッチングに影響を及ぼすことはなかった。
とは言っても、北瀬自身に一切の動揺が無かったのかと言えば、そうではない。
というより監督の言葉の意味を理解しつつあった、
(これは……確かにちょっとヤバくね? 監督が140球までとかいう制限をつけた理由が、何となく分かってきた
今回普段通りの点の取り合いをしたら、多分俺じゃなくて皆が先にダウンする。そうなったら去年の秋の人数負け再来……いや、それよりも酷い事態になるんだろうな
とにかく今は、試合に勝たねーと……)
投球数の増加、即ちそれは、ただでさえ消耗した選手が炎天下の中で動き回る時間がより長くなるということ。
なんとか一日の回復期間で体力を戻しきった秋葉、火神、結城、前試合で早めに離脱して回復に入れた由井、そして鉄人組は大丈夫だが……
本来は野球部と言う名のなんちゃってお気楽運動部のつもりで入ってしまったが為に、中学時代の下積みが全く無かった3年生の体力は限界に近い。
特に怪我持ちなのに馬鹿試合の先発をやらされてしまった真田は悲惨なものだった。
……もし罷り間違って連日試合になろうものなら、即不戦敗の道を選んでいたに違いない。
「お前ら……とにかく水分、塩分の補給だけは怠るなよ! 一生悔いを残すハメになりたくなかったらな」
「不調を感じたものは直ちに報告するように」
轟監督も、片岡コーチも、とにかく今は勝敗よりも選手たちの体調が気がかりだった。
甲子園を連覇してくれとは言わない。
このまま意外な程に、何事も無く終わってくれ……
片岡も轟も今はただ、それだけが望みだった。
6回、由井はゴロアウトとなり、秋葉は飛び出したセカンドに捉えられアウト。
そして2アウトの状態で、伊川始が第3打席に入る。
2打席目まで初めて無安打となる彼だったが……
(まさかこんな抑えられるハメになるとはなあ……てかなんで北瀬の『コレ』投げれんのコイツ)
(あー、それ俺が教えた! まさか守備が凄い学校だと、こんな強いとは思わなかったよ)
(ええー……まあいいけどさ。確かに俺も今日、初めてこんなに強いって知ったし)
伊川は何故か夏大会前にライバル校を強化した北瀬に、謎のテレパシーでツッコミを入れつつもバットを握り。
(___そうだと分かってれば、多少重かろうがたかだか150kmちょっとなんてどうにでもなるしな)
恐ろしいほどに至極あっさりと打ち返し、3塁頭上を超えた打球を打ち込んでいた。
先程は遅れを取りはしたが、元々北瀬との経験もあり既に適応しつつあった彼は減衰による補正を計算して打ち込むことが出来ていた。
既にポイント狙いも割れていたこともあり、監督とコーチからいくつか変更するコースを指示され、その注文通りに打ち込んでいた。
とはいっても何故本当に指示通り出来るのか、超能力者さながらの精度に監督達2人も正直困惑していたが……
続く北瀬、火神もヒット、2アウトから立て続けに打ち込み、一気に満塁となった。
「打つ……絶対打つ……!」
ここで打者は結城、まさかの1年生に託された甲子園決勝、お互い同点の2アウト満塁という場面。
外角ストレートとスプリットであっという間に2ストライクとなるが、チームの為、先輩達の為に絶対に打ち抜いて見せるとギラつかせながら……
その圧倒的怪物球威を正面から、圧倒的パワーで持って一点に撃ち抜きライト方向へ一気に飛ばしていった。
さて、甲子園球場というのはホームランが出にくいと言われている。
その理由として、浜風と言うライトからホーム方向への 強烈な風が吹いてる事が多く右方向への打球は浜風に押し戻される傾向にある事が最大の原因である。
つまり……
「……なんだと?」
『結城君これは不運! 本塁打を確信した者も多かったであろう当たりでしたが、まさかまさかの甲子園に吹く強烈な浜風によってフライで討ち取られてしまいました!』
「はああぁぁ!?」
「嘘だろ!? あとほんの2メートルちょっとだったじゃねえか!」
「最後ほぼ真っすぐ落ちてったぞ!」
流石にこの場面満塁のチャンスを逃してしまった事には、流石に切り替えの早い結城も響いたのか落ち込んでいた。
「……すいません」
「気にすんな気にすんな! まだ試合は続いてんだ」
「バッティングは悪くなかったぞ!」
その裏は北瀬があっさり三者凡退に抑えた
6回終了後、実は一昨日の超長時間による観客達選手達がダウンした試合によって給水時間、所謂クーリングタイムが急遽試験的に導入されていた。
プログラムの混乱や観客の大量ダウンによる余波による皺寄せやらなんやらが、他にも休養日の増加による2連戦回避や朝夕2部制の試験導入やらが彼等の存在によって大幅に早まるきっかけとなるのだが……まあ少なくとも今は何の関係もない話である。
(しかしこれは気休め程度、この10分の休憩でフル出場組の体力がどれだけ繋がるものか……)
再開で7回、平畠がヒットを打つものの福田が続けず、米原が打つも由井が空振り、秋葉はセンターのファインプレイに阻まれてフライアウトとなってしまう。
裏では一度に2回のエラーを起こし3ベースとなるも、丁寧に三振して無失点。
結果両者7回まで無失点の形となった。
試合が動いたのは、8回裏。
___遂に、均衡が破られた。
最初のきっかけは、遂にマグレ当たりでシングルヒットを打たれたことだった。
そして次の打席ではファーストのエラーによりノーアウト1・2塁。
「うっ……!?」
ここで動揺が出てしまったのか、由井が後逸してしまい、ランナーがスタート、2・3塁へ。
一気にピンチの場面となってしまう。
「はぐっ……!?」
続くバッターの打球をショート米原がゴロ処理に挑もうとするも、目測を誤り脇腹にバウンドした鋭い打球を受けてしまう。
「米原先輩!?」
「い……今は……ボールを……」
しかしボールは後ろに転々と転がってしまい、なんとか秋葉が捕球し送球するも間に合わず、結果2ベースヒットの形となってしまい、一気に2点を奪われる。
しかも負傷した米原を変えるため、交代を出さなくてはいけない。
(どっちだ、どっちを出すべきだ? 残った控えは両方外野、まだ負傷者が出ないとは限らない……先に体力の残った森山を使うべきか?)
「俺が出ます、監督」
その中で声を上げたのは薬師野球部キャプテン、真田俊平だった。
「真田……お前何回くらいならいけそうだ?」
「……投げなくていいなら全力で動いて2、3回ってとこっすかね。少なくとも他のフル出場してる連中かはギリ動けると思いますよ」
「___本当に、いけるんだな?」
「もしどこか不調を感じたら即言え、恥ずかしいなど思うなよ」
「というわけで最後にして初のショートだ、よろしくな皆!」
「真田先輩……いけるんすか!?」
「秋から春のときに一応一通りはやったからな……頼むぜ、北瀬!」
「ハ……ハイ!」
ピッチャーの北瀬も、セカンドの伊川も、サードの平畠もこの起用には驚愕していた。
尊敬するキャプテンを背に、気合を入れ直した北瀬。得点圏に走者がいるこの状況をしっかりと鎮圧。
9回表、回は変わって薬師の攻撃に移る。
だが薬師高校のベンチは、重い雰囲気に包まれていた。
いつも当たり前のように如何なる強豪名門が相手だろうとも大量得点を取るこのチームが、薬師の打線がここまで封殺されたことは黄金世代の入学以降初めてのことだった。
無論途中までそうなったことはある。
だが稲実戦、成宮との地区決勝での最終決戦においては最終的に薬師の打線が爆発し、また北瀬が完全試合で抑え込んでいた。
だが北瀬が自責無しとはいえ失点し、打てず、打ってもそれがまるで点に最終回まで繋がらないというのはこの1年半初めてのことだった。
一昨日の試合の疲れも合わさり、薬師ベンチが重く暗い雰囲気になってしまう事は仕方ないと言えるだろう。
「いける……いけるぞ本郷! 薬師に、北瀬涼に、勝てる……!」
「あと1回抑え込めば、甲子園優勝……!」
『一体誰がこのような展開を予想したでしょうか……現在0対2、怪物本郷正宗、高校野球史上最強と言われたこの薬師を8回まで完全に封殺しています!
その公式戦連続無失点記録は、地区大会と合わせて71イニング。この夏、甲子園決勝の舞台で伝説の誕生が今まさに起ころうとしています!』
「本郷おおおおおおおお!!」
「怪童伝説をみせてくれええええ!」
「甲子園決勝で完封……本当に……!?」
そして反面、巨摩と甲子園球場に詰め掛けた満員の観客のボルテージは、既に最高潮に達していた。
確かに今大会、圧倒的薬師打線と最強投手北瀬を目当てに全国あらゆるところから観客が押し寄せていたが……
だが今彼等は無失点最高記録を、薬師を前に尚更新し続ける本郷正宗に目を奪われていたのだ。
その最後の回最初の打者は、薬師ショートである8番米原に変わって、薬師キャプテン真田俊平。
怖いくらいに頼もしい後輩たちによって、甲子園のセンバツ優勝校のキャプテンとなった男だった。
(……北瀬、伊川、雷市、秋葉、三島……お前らと監督がウチに来なかったら俺は、そのへんの山も谷もねえなんちゃって野球部の一員だったよ)
(こんな激アツな体験、1割だってありゃしなかった。少しぐらい……最後くらい……俺にも恩返しさせろってんだ!!!)
全身を襲っている不調など押し返すかのような、キャプテンとしての意地を見せた強烈なバッティングと走塁で、なんとかギリギリヒットになった。
続くバッターは、キャッチャーである9番由井薫。
「……『自分のヘマで取られた分は自分のバットで取り返す、それが薬師流』、でしたよね」
由井はその言葉の通り、先程の失態を取り返す為バットを握った。
___いや失態と言うならば、北瀬先輩と組んだ時からそうだ。
鳴り物入りで国1番の投手と組んだはいいが……投手をより輝かせる、活かすというのが優れた捕手であると言うなら、俺は間違いなくそんな捕手じゃない。
ましてや要求した通りのコースに飛んでくる変化球が取れないなんて、大恥も良いところだ。
だから……
「せめて、ここで少しでも取り返す……!」
意地を見せた由井、なんとか1ボール2ストライクの状況からヒットを打つことに成功する。
(この場面……下手に狙って併殺が1番キツイ
すまん……お前らちょっと頼むわ)
無死1・2塁、最高峰の強打者として知られる秋葉。
だが現在の本郷との相性が余りにも致命的に悪かった為、伊川とパワーヒッター達に託す形で見逃し三振となる。
「よっと」
続く伊川はもう完全に適応しきっており、あっさり打ち込んでいた。
恐らくもう1打席あればツーベースを自在に打てたであろうそのあり得ないバッティングを見て、ドラ1指名を固めたスカウトもいたが……
彼はマイナーリーグに行くと思われるので、何の関係もない話だろう。
これでヒットで満塁となった。
「そろそろ俺も、かっこいいところ見せないとなあ」
ここで満を持してバッターボックスに立つのは日本最強投手、北瀬涼。
2ベースを打てれば、一気に同点となるこの場面。
彼は2塁にいる由井と3塁の真田先輩を、それぞれ一目見据え……
「真田先輩みたいにはなれねーって、自分でも思ってるけどさ……」
北瀬はバットを強く、強く握りしめた。
「やっぱ先輩らしくいいとこ見せてやりてえって、思っちまうよなぁ!!」
迫る白球、それを北瀬のスイングは完璧に捉えた。
怪物球威も、威圧感すら捻じ伏せる本郷正宗の猛る闘志も、甲子園に吹く押し返す逆風の浜風さえも全て纏めて突き破る観客席への打球。
観客総立ちの文句なしの本塁打、グランドスラムだった。
『こ……今試合初のホームラン、由井薫と伊川始、そして真田俊平、二人の相棒とキャプテンに応える天を突き破る流星の如き一振り!
これで試合は、一気に逆転! なんとこの場面で4対2となりました!!』
代わって9回裏、球数の問題は既にほぼクリアしている。
最初の打者は巨摩大藤巻の絶対エース、本郷正宗。
今、彼の胸中にあったのは、自分への怒り、敗北への焦り、渾身の球で逆転されたことの悲憤……?
いや、そのどれでもない。
最強の投手となるためにあらゆる強豪名門をその剛腕で捻じ伏せてきた。
その桁違いの器量で、勝利を掴んできた。
だが今、最大の壁が本郷正宗の前に立っている。
___彼が確信していること、それはこれまでの全てがこの男を超える為にあったということだ。
バットを構え、迫る白球を迎え撃つ姿勢を取る。
そして最後のエース対決が始まった。
「ストライク、ワン!」
第一球はいきなり直球、北瀬涼の代名詞怪物球威。
その脅威は、それに込められた怪物球威の使い手となった今だからこそ真に理解している。
「ストライク、ツー!」
第2球は緩急とノビを付けた直球、高めに手が出てしまった本郷はスイングしてしまい、ツーストライク。
最後の決め球か、それともスイングアウト狙いか。
そう両ベンチが考える中、由井から送られてきたサインを見て、北瀬は表情をグローブで隠しつつも驚愕していた。
北瀬は、キャッチャーのリードの事なんて全く分かっていない。
いないがしかし、それが絶大なリスクを持った博打であることは理解していた。
由井薫が出したサイン、それは___
(由井……お前『それ』今投げろってか?)
(こうなったらとことん喧嘩してやりましょう、先輩)
(いや、お前……本当に止められんのかよ)
(大丈夫、絶対に止めてみせます)
(この場面、手加減なんかできねえぞ?)
(全力で、最高の球をここにお願いします)
彼等の間に、言葉はない。
絶対に今ここで成功させると、どんな言葉よりも雄弁に語るその姿に、北瀬に躊躇いを無くした。
(ああ……なんていうんだっけ、これ___)
北瀬涼は最高の高揚感と、17年の人生の中で初めて浮かべる獰猛な笑みと共にボールを握り。
「激アツじゃん……!!」
そして、放った。
(来る、どっちだ)
本郷はあの怪物球威であろうとも、真っ向から本塁打で打ち返すつもりでいた。
下手に手を出すなとは言われたが、いざマウンドに立つ彼を目の前にすればそんな考えは一瞬で吹き飛んだ。
打ち返す! スライダーだろうと内だろうと外だろうと、日本史上最速の165kmの球だろうと。
本郷は飛んできた変化球を、スライダーと反射的に判断。
強振したバットはその球を完璧に捉え、フェンス直撃の長打を返した。
「ストライク! バッターアウト!!」
それが、本当にスライダーだったのなら。
少なくともそれは、本郷の頭には一切無いボールだった。
由井がサインで北瀬に要求したボール、それはこの9回まで、いや夏の大会で、いや……由井薫が相方となってからは公式戦で1度たりとも投げなかった球種。
___フォークボールだった。
「今のはフォーク……? まさか……」
「あいつら、とんでもねえ博打打ちやがった……!!」
轟監督と片岡コーチは、彼等が何をしたのかをすぐさま理解した。
今までの有り様で、スライダー以外の変化球を昨日今日確実に取れるようになった……?
(やった、やった、なんとか捕れた……!!)
___そんな訳が無い。
つまりはそういうことだ。
彼らは、後逸する可能性が高い球種である事を承知でそれでも投げた、投げさせた。
「隠していたボールをここへ来て解禁した」という演出の為に。
無論単純に打たれるだけならまだしも、捕球自体をしくじればその企みは不発するばかりか、球を絞られ、再び巨摩を調子づかせることになりかねなかった。
___だがしかし彼等はともあれ通しきった、その博打を。
そしてその掛け金に見合った、絶大な配当を手にしたのである。
投打共に結果を残してきた絶対的エースが、今まで頭に無かった球種で打ち取られた。
その事実は巨摩大藤巻の彼等の脳裏に、どうしようもないほどに深く打ち込まれた……後の流れは最早語るまでもない。
「ストライクワン!」
「ストライクツー!」
「ストライク、スリー! バッターアウト!!」
「ゲームセット!!」
満員の甲子園球場、観客総立ちの中で勝敗は決した。
『長い……長く暗いトンネルのような戦いでした。苦しかったこの戦いを制したのは最強投手北瀬涼!
高校野球のレベルを遥かに超えたこの投手戦を制しました。決め手となったのはエースの花火……投打ともに全国最強を示しました』
『そして今見事、薬師は今年春夏連覇を果たしました!』
『試合前、甲子園を制したこの偉大なるエースが語った「真紅の優勝旗をキャプテンに持たせたい」その言葉のとおりに優勝旗が、今薬師のキャプテン真田俊平の手元に……今渡りました』
「北瀬が、伊川が、秋葉が、三島が、雷市が入ってきた時……初めは、こんなすげえ奴等が、本当にうちにいて良いのかって思いました」
「秋の時も思いました。こんなすげえ奴等の主将が本当に俺なんかでいいのかって」
「一緒に練習していく内に天辺取れるような奴等が、更に見違えるくらい成長して、そんな光景を間近で見れる特等席にいることが許されるのかって」
「ただ、幸せでした」
「本当に……ありがとう、今俺は、人生で一番幸せです」
薬師高校 甲子園春夏連覇。
薬師野球部三年生、本日を以て公式戦引退。
薬師 対 巨摩大藤巻
試合結果 4対2
薬師残りベンチ 1人
今試合薬師重傷者 0人(軽傷者1名、数日で復帰可)
試合時間 2時間5分
北瀬涼投球数 120球(完投) 22奪三振