【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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展開を定期をしてくださった方、ありがとうございます!


116球目 格上

 

 

 

 

1回裏、大学日本代表の攻撃は1番の星。

1番打者らしく、走塁に長けたプレイヤーである。

 

対してU-18の先発ピッチャーは、巨摩大藤巻の本郷。

夏の甲子園決勝で、8回まで薬師高校を無失点で抑えるという快挙を成し遂げた男である。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

何とか1番打者を討ち取った彼は、何故か不満げな顔をしていた。

……本郷と同じく高校3強である北瀬や成宮に対抗心を抱いている為、この程度のピッチングでは彼にとって不十分だったらしい。

 

 

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打席には2番西沢。

彼も走塁や盗塁に優れているプレイヤーで、1番打者として起用するか悩まれていた。

 

 

___ガギン!

 

「あっ、ヤベ」

 

鈍い当たりを響かせたボールは、ファースト三島の方向へ転がっていく。

……そして、彼はトンネルした。

 

ライトの秋葉は、まるで知っていたかの様にフォローに入っていき、2塁に送球。

 

 

 

討ち取った当たりがセーフにされてしまった本郷は、めちゃくちゃ怒っている。

 

 

「三島ァ……! ___巫山戯ているのか?」

「悪りぃ、ミスったわ。次は取るぜ!」

 

クソみたいな守備を披露した三島だが、あまり悪いと思っていない様だ。

えっ、そんな怒るか? みたいなとぼけた顔をしながら、次は取ると宣言していた。

これ位、普通に毎回取れなくては困るのだが。

 

 

 

 

 

 

ワンアウトランナー1塁で、打席には3番興田。

打たれた分を取り返さなくてはと、鼻息荒く意気込んでいる。

 

 

___ガギーン!

 

高く上がった打球は、センター方向へ飛んでいった。

これはアウトになるだろうと、観客達は一瞬思ったが……

 

 

「取ります!」

「え?!」

 

___ガツン!

 

薬師野球部で培った経験則により、俺のボールだと飛び出していた北瀬。

センター藤澤を見もせずに、落下位置に飛び出していって衝突。ボールは当然落ちて、コロコロと転がっていった。

 

その事故を見た、青森安良ショートの真貝は慌てて飛び出していったが、俊足の1塁ランナーは直ぐにホームインしてしまった。

 

 

「___お前らっ!!」

「北瀬! 危ないだろ!!」

 

「す、すみません! 俺のボールだと思ったんですけど、違ったかもしれないです……!」

 

クソ守備によって1点取られたピッチャー本郷や、明らかに自分のボールだったにも拘らず下級生に衝突された藤澤は怒っている。

北瀬は平謝りしていた。完全にビビっている。

 

一応センターも強いダメージは受けていなかったが、危ないので気を付けてほしい。

……ちなみに衝突しに行った北瀬はノーダメージだったが、慌ててボールを完全に見失っていたらしい。

 

これで本郷は、自責点0で1失点。

出塁から帰塁まで薬師野手陣のせいで取られていて、凄く可哀想だ……薬師野球部の場合、日常風景だが。

 

 

 

 

 

 

ツーアウトランナー3塁とかなりチャンスの状況で、打席には4番田畑。

主砲らしく豪快なパワーヒッター、以外に選球眼のあるプレイヤーである。

つまりバッティングだけで言えば、雷市の劣化版だ。

まあ、守備にも雲泥の差があるのだが。

 

 

___ガギーン!

 

センター方向に鈍い当たりを出して、あっさり捕球されていた。

北瀬も流石に、2連続で飛び出したりはしなかった様だ。

 

 

「ランナースタート!」

「……セーフ!」

 

だが、3塁ランナーの帰塁は防ぐ事が出来なかった。

普通にキャッチしていても難しいタイミングだった事もある。

だが……センターが、レフトの北瀬が突っ込んでこないかと警戒してしまった事も大きい。

 

 

「…………!!」

 

本郷は無言ではあるが、明らかに激怒している。

巨摩大藤巻が野手を担っていたら、かなりの確率で防げた進塁が多かった為仕方ないだろう。

 

センターの藤澤やファーストの遠本にショートの真貝は、それが分かっていたので気不味そうにしていた。

……薬師野手陣4人はそれが分かっていないので、何で不機嫌なんだろう? という顔をしていた。

 

これで本郷は、自責点0で1回2失点。酷い話だ。

 

 

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打線にはセンター長岡。

気まぐれだが、強い相手と戦う時は張り切るプレイヤーだ。今日は楽しそうにしている。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

そんな彼も、本郷の前では呆気なく三振を取られていた。

北瀬や成宮といった超スタープレイヤーがいるせいで、高校野球の中で最強とは言えないが、彼も天才的なピッチャーなのである。

 

 

「うお、スゲェー! 本郷、お前がエースじゃないってマジかよ?!」

「…………」

「無視すんな!」

 

強いピッチャーが好きな長岡は親しげに本郷に話しかけていたが、完全に無視されていた。

本郷は、人に対して塩対応しかしないタイプなのである。

 

大学生日本代表の長岡は不満げな顔をしながらも、仕方ないと切り替えて守備に付き始めた。

この打席で攻守交代。次は2回表、U-18の攻撃だ。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

本郷は3回まで投げ、薬師野球部達主導のエラーの後、失点は無かった。

被安打4の2失点、自責0である。

 

一方でU18は、12安打5HRで9得点していた。

薬師野球部にとってはいつもの事だが、やはり化け物じみた打撃力だ。

 

 

プロ顔負けの薬師の破壊力とアホエラーに大笑いする、大学日本代表エース神木の姿がありつつ、試合は進行。

 

 

 

 

4回から6回までは、成宮が登板。

 

変化球に驚異の切れ味があり、既にプロ基準で考えても金特1つ持ちである稲城実業の大エース。

プロに行ったら開幕1軍行きするであろうウルトラキレキレの変化球で、被安打3の無失点。

圧倒的なピッチングで、大学野球面々を圧倒していた。

 

これで2回しか甲子園に行けなかったというのだから、全く西東京の魔境ぶりには恐れ入る。

 

 

大学側も、4回からの神木とクリスバッテリーがホームゲッツーをかまして鎮火を試みるも……尚も変わらず、薬師打線は大暴れ。

いくら大学生ピッチャーの神木が土壇場に強いといっても、薬師打線の安打製造機と3連ホームランはどうしようもなかった。

 

 

 

 

「ポジション変更のお知らせをします……ピッチャー成宮に変わりまして、北瀬くん、北瀬くん……」

『___わああぁぁ!!』

 

7回からは、西東京の北極星とか言う意味不明なネーミングで呼ばれたりもする、大エース北瀬が登板。

 

成宮は、自分が登板した時よりも盛り上がっている事に拗ねつつも、1つ確信していることがあった。

 

___今から始まるのは、一方的な虐殺だ。

そしてその予感は、現実となった。

 

 

 

 

ストレートしか使わないピッチャーに、1点どころかただ1度の打球すら許されず3回27球9奪三振。

プロでないといえ大学最高峰の面々が、反撃の欠片も許されず粉砕された姿には薬師に慣れている観客達にも、どよめきを生んでいた。

 

だが成宮には、ハッキリ言ってなんの驚きも無かった。

 

 

(うん、圧倒的に勝って貰わなきゃ困るよ

今の所……今の所、俺より格上のピッチャーと、俺が認めたキャッチャーが組んでるんだからさ!)

 

 

 

 

ちなみに、唯一失点した本郷は、暫く三島にキレていたが、北瀬が27球で仕留め切ったのを見て鎮火した。

守備が悪いのは分かっていたのだから、俺が三振を取れば良かったと考えたらしい。

こうして、悲しき奪三振モンスターは生まれていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「27-2で、U-18の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

 

 

 

試合が終わった後、大学でもバッテリーを組んでいるクリスに対して、神木は他人事の様にこう口にしていた。

 

 

 

「しっかしスゲーよな、お前の後輩ってば同地区であんなんとずっと戦ってたのか

……本郷も余裕でプロだけど、あの2人プロの1軍よりずっとつえーじゃん」

「成宮と北瀬が同地区に現れたのは、不幸としか言いようがないですね……」

 

 

長年青道高校と甲子園を掛けて争ってきた、成宮カルロスを始めとした稲城実業の黄金世代はもう卒業。

 

……だが同学校同学年5人が同時に日本代表に選出された、前代未聞の事態を引き起こした、薬師黄金世代5人衆が来年の夏まで残っている。

入学から引退まで噛み付かれるハメになった、自分が全てを託した投手の事を思い、時間を作って顔を見に行くことを決意したクリスだった。

 

 

 

 

 

 

対して北瀬と伊川は、こんな誰に聞かれているかも分からない甲子園球場で、こんな危うい事を話していた。

 

 

「俺、ストレートだけでけっこう抑えられるんだな……」

「ぶっちゃけ、相手の打力が無かっただけじゃね?」

「それはそうだけど……」

 

大学日本代表を、非力呼ばわりする彼ら。

絶対そんな事は無いのだが、北瀬や伊川の基準からしたら本当にそうなのかもしれない。

 

 

「もしくは、御幸先輩のリードが良かったとか?

 

……昔、捕手やる気あるのかとか、捕手失格だとか、北瀬がお前のせいで輝けない事に苛つく。俺なら、あいつをもっと輝かせてやれる、とか言われて腹立ったけどさ……

 

普通にマジだったな! 俺、キャッチャー辞めて良かったわ。野球を1年以上やって来たけど、リードの良し悪しとか全く分からねぇもん」

 

 

 

ズケズケとクレームを入れてくる御幸先輩の事は苦手ではあるが、嫌いという程でもない伊川。

別に尊敬する人を貶された訳でもないので、ブチギレたりはしなかったのだ。

 

北瀬は伊川の言葉を聞いて、微妙そうな顔をしながらこう返した。

 

 

「へー、あの人そんな事言ってたんだ

……いやまぁ、伊川のリードがあんまり良くなかったっぽい事は、最近分かって来てたけどな」

「だろーな。最近、由井なんて稲実相手に完全試合したし……そんなに北瀬の能力は変わってないのに」

 

由井や影山に御幸といった優秀なキャッチャーと組んでいる内に、薄々伊川のリードがゴミだった事を察した北瀬。

理屈は分からないが、彼らみたいな優秀なキャッチャーにリードを任せれば、なんか抑えてくれると分かったのだ。

 

だからと言って北瀬は、弟の伊川と組みたくないかと聞かれればそんな事は無いのだが、なんか下手だったんだろうな位は分かるようになっていた。

 

 

 

それでも、対して仲良くも無い伊川に直接言わなくても。でもまぁ、ちょっと微妙なリードしてたみたいだしな……という、複雑な心境の北瀬。

 

そんな心境で言葉を発した北瀬に対して、お前の能力は変わってないのに打たれないって事は俺が下手だったという事だったって分かっているしと、割と客観視していた伊川。

 

だがエースの球速が5km増したのに、あんまり変わってない扱いするのはどうなのだろうか……?

実際の所、彼の意外に献身的な性格は割とキャッチャーに合っているのだが、結局才能は開花していなかった。

 

才能という物は、どれだけあったとしても磨かなければ光らない物なのだ。

……いや、馬鹿げた打撃能力は、持ち主だった並行世界の北瀬達が頑張っていたので除いて良いだろう。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カハハハ……下に空がある!」

「楽しそうだな、雷市!」

「俺も飛行機乗るの始めてなんだよな……」

 

大学日本代表との試合が終わった当日、キューバで行われる世界大会の為に飛行機に乗った、17人の高校生達。

 

敵チームは笑うしかない程に馬鹿げた打撃センスを持った、薬師5人衆を含めた彼らは、世界でどれだけの結果を残すのだろうか……? それはまだ、誰も知らない。

 

 

 

だが日本中の野球ファン達は、こう期待していた。

 

___日本中を震撼させた、薬師5人組を含めた今年の彼らなら、悲願のU-18初優勝をしてくれるだろうと。

 

 

 

 

 

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