【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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117球目 キャプテン

 

 

 

 

キューバにやって来た、17人の高校球児達。

彼らはU-18日本代表に用意されたグラウンドで、各々練習を積み重ねていた。

 

 

___バシッ!

 

「ナイスボール!」

「ナイスキャッチです! 御幸先輩!」

 

 

___バシッ!

 

「マジでフォークもキレキレだな……」

「ありがとうございます! 御幸先輩も、フォークと超スローボールをたった3日で完璧に捕球出来て凄いです!」

 

予告されている変化球なんて、キャッチャーなら最初から取れて当然なんだよなと、内心自嘲している御幸。

だが彼はキャッチャーとしての信頼を得る為、試合中に気を使われない為、なんとか表には出さなかった。

 

……そういう弱い所を見せた方が北瀬との信頼関係が築けると、御幸達U-18のチームメイト達は全く知らない。

北瀬は、相手の野球人としての能力より、人間的な信頼関係に動かされる人種だと分かっていないのだ。

普通の甲子園クラスのプレイヤーは、人格より実力を重視するのが割と普通である。

 

 

「ははは、もっと褒め称えてくれても良いんだぜ?」

「御幸先輩ってリードも神ですよね! 大学生相手に3回無安打にしてましたし!」

「…………」

 

それは9割9分ピッチャー北瀬の実力なんだよと、黙り込んでしまった御幸。

それを不思議に思った北瀬が、困った顔で質問する。

 

 

「あれ? どうかしましたか?」

「何でもねぇよ! ……それより、手が止まってるぞ?」

「あ、すみません。今投げます!」

 

 

 

様々な思惑がありつつも、どこかぎこちない雰囲気があるU-18日本代表チーム。

通常日本代表というのは元から強豪校出身のメンバーであり、お互い交友関係があるのだが……薬師野球部の5人の人格を、詳しく知っているチームメイトは居なかった。

彼らは、中学の頃まで目立つ環境に居なかったのだから当然だろう。

 

プロでも大活躍するだろうと言われている、新たな超強豪校所属である薬師5人組に対して、他のチームメイトはどう対応して良いか分からなかったらしい。

 

彼らについて、甘々対応の北瀬、薬師5人組の中では1番人当たりの良い伊川、カハハハ……としか言わない轟、客観性のない三島、目立たない秋葉位の情報しか無かったのだ。

後、妙にホームランに拘る性格な所位だろうか? それは野球についでであって、人間性ではない気もするが……

 

こんな情報しか無ければ、どんな対応をすれば良いか分からなくて当然だろう。

 

薬師野球部員も、青道高校の御幸や降谷に烏野高校の影山の人間性を少しだけ知っている位なので、チームメイトに絡みに行くのは難しかった。

北瀬や雷市は人見知りをするし、伊川は相手の人間性に興味がないし、三島は言動で引かれているし、秋葉は積極性がない為、誰も積極的にコミュニケーションを取れないのだ。

 

……知っている現チームメイトの3人が、全員コミュ障なのも大きい。

隠れコミュ障の御幸やコミュ障の降谷、論外の王様である影山には、橋渡しなど全く出来ないのである。

 

 

 

ちなみに1番苦労しているのは、チームを支えなければならない監督達だった。

今回のチームは、単体で強力なプレイヤーが多い分、個性的な人間性をしている人ばかりなのである。

 

ぶっちゃけ消去法で、大阪桐生の3年生スラッガー赤川にキャプテンをやらせたが、強打者揃いの薬師野球部員に割と萎縮してしまっていた。

本当はCL学園の安里がいれば、絶対にキャプテンを任せていただろうが……御幸・影山・円城と比べると明らかに実力不足だったので、残念ながら選べなかったらしい。

 

テキトーな薬師野球部の轟監督や、性善説を信じ過ぎている薬師野球部の片岡コーチより、マトモな精神回路をしている並木監督達。

彼らはかなり真面目なので、苦労しながらどうにかチームを機能させていた。

 

……まぁ大変な事は沢山あるだろうが、その分初優勝の可能性は高いので頑張って欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、クリーンナップを根こそぎ日本代表に持っていかれた薬師野球部は、コーチの伝手などで組まれた青道高校との練習試合でボコボコにされていた。

崩壊守備を引き継ぎながら主力を全員持っていかれた、真田キャプテンは悲鳴を上げかけている。

 

 

(いや青道高校に前合宿させて貰ったし、練習試合を断れないのは分かるけど……何で今やるんだよ?!)

 

 

 

 

実は落合監督は、薬師野球部にボコボコにされた記憶を今回の練習試合で上書きしようとしていたらしい。

……だが、流石にスタメンから5人もいないチームと戦うのは無駄過ぎた様だ。

 

そこそこの実力しかない友部とパワードは、点を取ってくれる上級生が居ないプレッシャーからか大炎上。

2人で4回20失点と、弱小校と戦ってもこうはならないだろうと思われる惨状だ。

 

まあそれでも、薬師野球部を責める事は出来ない。

分かっていて練習試合を申し込んだのは落合監督だし、向こうは引退している真田前キャプテンまで出して来ている。

これ以上、薬師野球部にはどうする事も出来ないと、傍目から見ていても分かるのだ。

 

 

(相手は非常に若いチームだ。主力が抜けたら、精神的な揺さぶりも効きやすいだろうと分かってはいたが……普通ここまでダメになるか?)

 

 

 

 

普段ならガン無視するという作戦を取ってくる盗塁にも見事に動揺して、薬師野球部は引っかかっている。

得点を取ってくれる野手陣がいないというのが、酷く下級生を左右していたのだ。

 

火神や結城に由井など、他校なら即クリーンナップ級のバッターがいるのにも拘らずである。

全部コミュ力だけで解決して来た真田キャプテンや、どこか影の薄い3年生だけしか上級生がいない事が、ダイレクトに響いていたらしい。

 

 

「小野センパイ! 俺、負ける気がしねぇっス!」

「おお、俺達なら勝てる!」

 

青道高校野球部のメンバー達は、沢村のハイテンションに引き摺られて笑顔で試合をしていた。

 

相手は主力選手がごっそり抜けていて、もはや薬師野球部とは言えないレベルまで下げられていると分かってはいる。

だがそれでも、格上とも思えるライバル達に圧倒的な差を付けて勝つ事は嬉しかったらしい。

 

 

 

 

8回4-25と薬師がボロ負けしている状況で、焦っている花坂がピッチャーの真田にこう質問していた。

 

 

「さ……真田キャプテン、どうしましょう?!」

「___とにかくホームランを打とう! それしか、俺達に出来る事はねぇ!」

 

どうすれば良いのかという漠然とした質問に対して、とにかくホームランを出そうという指示を出した真田前キャプテン。

いや、まだキャプテンが決まっていないから、後は国体しかない真田が主将のままなのかもしれないが……

 

まあとにかく、真田は普段通りホームランを打とうという指示しか出せなかった。

主軸がいなくなっているのに、沢村相手からホームランを出して20点差を覆そうというのは無茶にも程があると思われる。

 

___だが、それが真田というキャプテンの限界だ。

彼は特別野球に詳しい訳でもない、優れた指示が出せる訳でもない。

人望とインタビュー特化の、甲子園優勝校としては微妙なキャプテンでしかないのである。

 

 

 

 

 

 

「26-5で、青道高校の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

「じゃあまたな! 薬師諸君! ……次の俺達は、エース北瀬に勝つぜ!」

「おお、またなー」

「お疲れ様です!」

 

 

 

こうして、薬師野球部と青道野球部の練習試合は終わった。

青道高校のメンツは試合が終わった瞬間に撤退していき、グラウンドに残された薬師野球部員達。

 

パワプロが、真田前キャプテンに対してポツリとこう零した。

 

 

「今の俺って、何が1番足りないんでしょうか……?」

「うーん。強いて言うなら、絶対に勝てるっていう気持ちの持ちよう……とかか?」

「確かに……俺は青道高校の空気に飲まれていたかもしれません。クリーンナップがいないだけで、ピッチングまで悪くなるのはダメですよね!

俺、青道と次に戦う時までには、メンタルを強くしておきます!」

 

 

 

こうしてパワプロの能力には、対強打者◯が付いた。

反省をして素直に能力を伸ばせる、彼の生来の野球センスは凄まじいと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事があった夜、轟監督と片岡コーチは酒とジュースとおつまみを監督室に持ち込みながら、キャプテンを誰にするかについて話し合っていた。

 

 

「やっぱキャプテンは三島じゃないっすかねぇ!

アイツが1番、意外と2年生達の中では面倒みが良いし、俺達の気風にも合ってますよ!」

「___俺は、エースの北瀬が良いと思います

人間性というのは、立場によって創られていく。実力や実績で考えるなら、彼が1番良いと思います」

 

轟監督と片岡コーチはキャプテンに必要だと考えている資質が違うので、中々話し合いが終わらなかった。

新しい強豪校なので、色々調整もあるし取材も沢山来ているので、チームにとって重要な主将を決める時間が取れなかったのである。

甲子園が終わって当本人の2年生達が全員居なくなってから、漸く話し合える時間が出来ていた。

 

 

「まー北瀬が主将ってのも悪くはないんですけどね?

取材とか受けるの、アイツ苦手じゃないっすか。目立つのが大好きな三島とかの方が良いと思いますけどねぇ……」

「確かに現時点での性格面においてキャプテンに向いているのは三島だと思います

___ですが、主将とはチームを引っ張って行く者

チームの士気を考えると、チームで1番実力のあるプレイヤーをキャプテンにするべきだと思います」

 

主将にするべきなのは、目立つ事が好きで意外と面倒見の良い三島か、高卒メジャー選手になる事が決まっている北瀬か。

お互い相手の言っている事は理解できるだけに、中々話し合いは進まない。

 

 

「案外、その理屈なら伊川って選択肢もありますね!

アイツも高校最強の安打製造機ですし、面倒みも最近良くなって来ましたし!」

「そうですね。彼の名声なら、キャプテンとして相応しいと思います

身内とそれ以外との対応の差が激しい所が、あまりキャプテンとしては向いていないかもしれませんが……」

 

実力で決める前提なら、最近の伊川なら意外とキャプテン業務がこなせるかもしれないと轟監督が話し出す。

片岡コーチも、確かに北瀬じゃなくて伊川でも良いかもしれないと少し思った。

彼を選ぶ場合、友人を贔屓する性格を表立って出さない様にしなければならないが、悪くはないと考えたのだ。

 

轟監督も片岡コーチも、選手達の性格を良く見ていると言えるだろう。

 

 

「ですよねー。まー後は普通に、秋葉って選択肢もありますよね!

ド派手な野球をする薬師野球部を背負うには、ちょっと華が無さ過ぎる気もしますが……」

「……彼もU-18に選ばれている優秀なバッターですよ

まあ彼からは目立ちたいという欲求を感じないので、高校生レベルではない北瀬・伊川・雷市を差し置いてキャプテンをやる事に、不安を感じるかもしれませんね」

 

 

ついでと言わんばかりに轟監督は秋葉の名前も出していたが、まあ彼にはしないだろうなという言い草だ。

それに対して片岡コーチは少しだけ反論したが、結局本人は恐らくやりたくないと思いますよねと付け加えている。

 

2人共、まあこの豪華なラインナップのチームから主将に秋葉を選ぶのは、少し酷かなぁと思っていたのだ。

三島なら喜んでやりそうだから良いかもしれないが、看板の3人組よりは明らかに実力が低いのに、無理にやらせるのはちょっと……という感覚である。

 

 

「一応、雷市も3年生ですが……有り得ないっすね

人見知りが酷すぎるし説明も出来ないし、何1つキャプテンに向いている素質がねぇ」

「彼は、性格が悪いという訳ではないのですが……確かにキャプテンには、あまり向いていないでしょう」

 

甲子園準優勝校の4番である雷市父親である轟監督。

だが、アイツをキャプテンにする可能性は無いと、バッサリ切り捨てた。

 

片岡コーチは轟監督程バッサリと言い切りはしなかったが、まあ向いていないだろうなと考えている。

人間関係を構築するのを完全に外部からの接触に任せているので、人を纏めるキャプテンなど出来る訳がないのだ。

 

 

 

 

こうして薬師野球部の監督達の時間は過ぎていったが、たった数時間で決めきる事は出来なかったらしい。

 

……彼らには全く時間が足りていないのに、U-18の後には更にスカウト達が詰めかける事が予想される。

肉体的に非常に辛いと思われるが、彼ら2人で頑張るしかないのでどうにかして貰うしかない。

 

 

 

 

 

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