【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
薬師3強……いや、今では日本国内3強とすら呼ばれている男達の内2人の、衝撃的真実。
監督が入学と同時に誘わなければ、北瀬と伊川は野球を続ける事が無かった。
そんな日本野球の歴史の分岐点を、しれっとミーティングの余興でぶちまけられ、全員の腰を抜かさせた。
……そんな一幕がありながらも、そんなこんなで始まったオープニングラウンド2戦目はスペイン戦。
先発は北瀬、リリーフは本郷の予定。
1回表、日本代表の攻撃は1番藤澤。
走塁に命を賭けている超俊足のプレイヤーである。
対してスペインのピッチャーは、コントロールが良い152kmのロサ。
曲がりはそこまで大きくないとは言え、カーブとスプリットが割と速いと評判だ。
___カキン!
そんな彼から藤澤は、ちょっとボテッとした当たりだったが自慢の足でセーフにしてしまった。
ノーアウトランナー1塁で、打席には2番伊川。
___ザザッ!
強打者の伊川に気を取られている内に、ランナーの藤澤が盗塁しあっさり成功。
これで、ノーアウトランナー2塁。
___カキーン!
そして伊川は、普段通りのツーベースヒットを放って出塁。
ランナーはすぐさまホームに突っ込み、余裕の1得点。
ノーアウトランナー2塁で、打席には3番赤川。
薬師高校一同がいなければ、高校球児で最強クラスのバッターだったプレイヤーだ。
___カキーン!
ツーストライクまで追い込まれた後、スペインのエースロサからツーベースヒットを打つことに成功。
「おっしゃーっ!!」
本人も、この大舞台で打てた事を強く喜んでいる。
ノーアウトランナー2塁で、打席には4番轟。
高校最強のホームランバッターであり、将来は日本の4番と目されている。
___カッキーン!
『わああぁぁ!』
特大のホームランである。これに日本サポーターは歓喜の声を上げ、スペインサポーターは絶望した様な声を上げていた。
ノーアウトランナー2塁で、打席には5番秋葉。
ランナーを返す目的でこの番号に置かれたが、今回は轟がホームランを打ったせいで割と無意味になっている。
___カキン!
秋葉は、世界大会だろうと冷静にヒットを放ち出塁。
安打製造機としての力を見せていた。
その後、6番ファースト遠本や7番ライト原、そして8番御幸が相次いてアウトを取られて交代。
これで、初回は日本が3得点。
裏のピッチャーは北瀬だから、どれだけ抑えてくれるかと日本サポーター達はワクワクしていた。
___バシッッ!
「アウト!」
___バシッ!
「アウト!」
___ガギ
___バシッ
「アウト! スリーアウトチェンジ!」
___簡単に展開を説明すると、リリーフの本郷を出す必要がなかった。俗に言うワンサイドゲームである。
地味に御幸がしっかりゴロアウトを狙い、球数の節約も行っていたらしい。
意図を理解していない伊川と違い、ちゃんと打たせることを前提としたシフトとリードしているのだ。
そもそも薬師ではないのだから、ゴロを打たれたところでいつものエラーや悪送球などしようもない。
増してや彼らは国の代表として選ばれた精鋭達なのだから、気にするだけ時間の無駄。
リードを読まれることもないので、怪物球威とその剛速球は存分に猛威を振るった。
結果は語るまでもない……薬師3人組が打ちまくって、北瀬が完全試合を達成した。それだけである。
___理論上の全三振の81球を下回る、僅か78球での完全試合。12-0での圧勝劇。
ボコボコに打たれまくったスペインのエースであるロサは、さぞかし落ち込んでいるかと思われたが。
___むしろ、目をキラキラと輝かせていた。
「前からベネディクト監督が言ってた、野球のスタープレイヤーってさァ! キタセとかイガワとか、ライチみたいな奴の事だよな___俺もなって見たい!!」
「ああ、応援するさ!」
ロサは、薬師三強打線と北瀬の絶対的エースとしての姿に圧倒されていた。
監督の言うスター選手としての姿を見て憧れを抱き、この時からメジャーを目指すようになったという。
そして監督の理想通り、野球をスペインに広める程のスターとしてロサが成長したのかは……また別の話。
「御幸先輩! 明日俺、登板予定じゃないんでボール受けてくれませんか?」
「いやいや……お前一応完投してるから、ダメ」
北瀬は試合が終わった後、海外にいるとはいえ外で観光したりは出来ないから暇だったのかキャッチングをしてくれと御幸先輩に頼んでいた。
当然、野球に大してはマトモな倫理観を持っている御幸は断っていた。
「でも俺、多分100球も投げてないっすよ? 後150球位はいけますし!」
「流石にソレは言い過ぎだから。精々50球位だろ」
「いえ、俺なら250球位まではスタミナ持つんで!」
「マジかよ……?!」
じゃれ合いの様な会話で、サラッとトンデモナイ事を暴露された御幸はたいそう困惑していた。
250球投げられるなら、地方大会で3連投位しても余裕って事になるよな?
それが本当だとしたら、スタミナ切れとか絶対狙えないんですけど?! 俺は卒業しちゃったけど、後輩達はどうすれば良いんだよ……
別に落合監督には情など湧いていないが、後輩達の為に寮に帰った後この情報を伝えた御幸。
それを聞いた監督は頭を抱えて、化け物か? と漏らしていたらしい。
御幸と北瀬にそんな事がありながら、試合当日になった。
U-18日本代表の、オープングラウンド3戦目はオランダ。体格を活かしたプレーが特徴的で、打撃も守備もパワフルだと言われている。
が、精度は野球の盛んな日本・アメリカ・韓国・キューバなどと比べて数段劣るだろう。
3戦3勝が期待されるU-18日本代表の攻撃は、なんと1番伊川という采配。
どうやら2戦2勝と余裕のある段階で、監督達は1〜3番と4〜7番のダブルチャンス打線を試してみたかった様だ。
___カキーン!
___カキン!
___カッキーン!
何故か、このやり方は意外と通用した。
難なくツーベースの伊川はともかく、続く藤澤のヒットと雷市のホームランで3点先制。
無死で原がセンター前ヒットで出塁すると、真貝のバント処理の時にオランダの3塁手が悪送球。
そして、カルロスの単打と盗塁後御幸のワンヒットでさらに2点追加。
……日本代表としてカルロスや御幸が連続で打つのは、地味に珍しいのではないだろうか?
いや、彼らが全く打たないという訳ではないのだろう。比較対象がおかしいだけだろう。多分、恐らく。
薬師部員達の馬鹿げた打撃を見て、自分のスイングを崩されていないと良いのだが……
2番手先発ピッチャーのピッチングを見て、駄目だこりゃと思ったらしいオランダの監督。
なんと1回表の段階で、日本代表達が聞いた事もないリリーフピッチャーを緊急登板させてきた。
野球の実力的には格下の国の謎ピッチャーを見て、楽勝ムードを漂わせていた下位打線の日本代表、赤川と遠本。
だが、あまりにも遅すぎる球・あまりにも低い姿勢からの投球で待ちきれず凡退。これでスリーアウト。
オランダのリリーフを見た感じでは、130km出ているかどうか位だろう。なぜコレが打てなかったのか……?
甲子園を目指す強豪出身なだけあり、逆に遅球派には滅法弱かったらしい。
まあ普通に考えて、130kmで国際大会に出場出来る位キレのあるプレイヤーはあまりいないのだろう。
ちなみに日本の先発ピッチャーは、マイナーリーグとメジャーリーグの中間位の実力である、日本プロ野球でも即通用すると言われている都のプリンス成宮。
初回はとにかく甘いところに力のある直球を投げつつ、そこから低めに落とすフォークで空振り三振に仕留めていた。
相手のバットは、面白い様にクルクルしている。
……
3回表になると、オランダ代表は3番手にマルケスというピッチャーを起用。
彼は既にマイナーリーガーとして活躍している選手。
北瀬と伊川が誘われているマリナイズと昨年契約していて現在1Aの、1年後はメジャー選手だろうと言われている天才だ。
成宮より1km速い最速154キロの剛腕投手で、身長199cmとクソ高いところから投げ下ろすストレートは恐怖の一言。
更にスライダー・SFF・シンカーと低めで空振りさせる球も充実している上にマウンド度胸に優れている、シンプルに言って化け物ピッチャーである。
たかが高校野球の強豪校選手が、マイナー1Aとはいえプロ野球選手に敵うはずもない。
下位打線の真貝・カルロス・御幸は全員三振と、戦っている次元の違いを見せつけられた。
……
ここからなんと、両者無得点が7回まで続いた。
成宮は堅い内野陣を信頼し、打たせて取る投球で球数を節約しながら、3安打のみに抑える。
轟や三島と言った守備難選手が、野手として出場していないから出来る対応だろう。
対してオランダの実質エースであるマルケスは、球威と低めの変化球を巧みに使い、チームメイトの守備のマズさを覆い隠していた。
薬師野球部程ではないが、オランダ代表の守備は割とマズいのである……少なくとも、普通の打撃チームである青道高校や市大三高より脆い。
3番の轟から、オランダバッテリーの何が悪かったのか全く分からない理不尽なソロホームランを打たれたりはしていたが、8回まで3失点に抑えていた。
9-1と日本が圧倒的に有利な場面で、成宮はあまり疲れた様子を見せずに三者凡退。
薬師相手に完投した経験からすれば、楽勝だったらしい。9回3安打6奪三振・107球で1失点と、完投勝利していた。
ちなみに1点取られているのは、主砲に得点圏で打たれてしまったかららしい。
彼がクソ守備難なのに試合に出られているのには、打撃センスという明確な理由があったのだ。
……DHを使ってあげられれば良いのにと思わなくもないが、更に酷い守備をしている5番のマドゥロがいるのでどうしようもない。
こうして最後まで日本勝利ムードを崩せないまま、オランダ対日本の試合が終わった。
ちなみに北瀬は、稲城実業の成宮並に活躍していたマルケスに目を輝かせていた。
マルケスも北瀬や伊川の事を知っていたらしく、試合後日本代表ベンチに駆け寄りすぐに去っていったという。
「Jullie zijn Kitase en Igawa, toch?
Ik kijk er naar uit om deel uit te maken van het team!」
「こんにちは……いや、ハロー?」
「ソーリィ。ウィードント、アンダースタンド、ダッチ」
オランダのエースが、何を言っているのかはさっぱり分からなかったが……後でスカウトのヘンソンから、彼が同じチームになる事を楽しみにしていたと聴いた。
北瀬は一足先に2年後の味方と戦えた伊川を、最後まで羨ましがっていたと言う。
……日本代表のメンバーからすれば、お前がそこまで意識する程のプレイヤーか? と感じていたらしいが。
化け物なチームにいるせいで、地味に彼らも感覚が狂っていたという事らしい。
154kmの変化球3つ持ちは、明らかに天才なのに……