【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
3戦3勝と、スーパーラウンドへの出場が殆ど決まっているU-18日本代表達。
次の対戦相手は台湾代表。
今までの台湾のイメージである打高投低から脱却するべく、頭脳派である楊舜臣と蔡峰を中心とした、好守共に緻密な野球が主体である。
今年の台湾は豊作の年と言われており、将来有望な選手が大勢いるとか。
彼らのエースは、日本に留学に来ている楊。
球速こそ130km/台前半ながら、精密機械と称されるほど卓越した制球力で打ち取る技巧派である。
台湾の先発は楊。
投球練習時に、キャッチャーのミットを全く動かせずに際どいコースに構えられたミットに投げ込むという、超絶技巧のパフォーマンスを見せている。
「あれマジかよ?」
「あー、俺達はアイツと戦って勝ったぜ? アイツのチームメイトが弱かった事が大きな原因だけどな」
「西東京地区に留学してたのか……そりゃ甲子園に出てこれねぇだろうな」
「いやー楊さんのコントロール、凄く良いっスね!」
彼の存在を知らなかった日本代表達はざわめいていたが、北瀬は呑気に称賛していた。
基本的に彼は、強い相手と戦いたい人種である。
……
台湾の楊は、コントロールを捨てた威力マシマシのストレート、普通のストレート、制球重視の遅いストレートの3種を巧みに使い分けた。
その上、時々カーブ・フォーク・シュートの三つの変化球を織り交ぜるだけでなく、内角攻めや奥スミなどを徹底的に利用してくる。
更にキャッチャーの、台湾の頭脳と呼ばれるほどの好リードが合わさった事で鬼に金棒状態。
まあそれでも、薬師5人組には打たれて5回6失点になっていたが……彼らをその程度で抑えたのは、快挙だろう。
日本の先発である本日の本郷は、コントロールが良い訳ではなく、かと言ってボールのキレが悪い訳ではない普通な感じであり、コースが甘くとも球威で押し切るスタイルだ。
そんな中、台湾打線は守備難の三島を狙って出塁していく。
志傑のホームランギリギリの犠牲フライで、初回になんとか1点を取り、3回にはスクイズで1点追加。
そして5回には三島のタイムリーエラーで更に1点追加。地味ながらもじわりじわりと追いかけていく。
そして6回。バッターは7番の御幸。
ツーボールツーストライクの場面で、御幸はボール球を見逃した。
___バシ!
「ストライク! バッターアウト!」
(マジかよ?! 今のはボール球だっただろ!)
少し外れたボール球に対して、何故か審判にストライクとコールされてしまう。
実は薬師5人組が際どいコースであっても積極的に降っていく上に、伊川が楊を降板させる為に粘って球数増やしを狙ったせいで、ストライクゾーンが広くなっていたのだ。
……
そして6回裏。台湾のバッターは、1番の王。
日本のピッチャーは変わらず、怪童と呼ばれる本郷。
___バシッ!
「ボール、フォア!」
御幸はこっちもストライクゾーンを利用してやろうと考え、先頭の1番に対して際どいコースを狙わせたが……まさかの先頭フォアボールになってしまった。
序盤は少し本郷の球が荒れ気味だったのに加え、楊の投球練習でのパフォーマンスもあり、審判に今日の本郷はコントロールが悪いという意識付けする要因となってしまったのだ。
ちなみに本郷は4回に志傑に対して腹にデッドボールを当てていて、その際の本郷の不貞腐れたような態度が審判の癪に触っていたのもあり、少し不利になっていた。
彼の相手を無視するような態度は、いつも通りではあったのだが……日本人ではない審判はそう考えてはくれなかった様だ。
次のバッターは、2番林。
選球眼が売りのバッターで、奪ったフォアボールの数はあまりにも多い。
ピッチャーが荒れている時には、来てほしくないプレイヤーだった。
___バシッ
「ボール、フォア!」
「……チッ!」
「おいおい、ちょっと落ち着け?」
そして次のバッターに、またも四球を出してしまった。
しかも本来ならストライクな球をボールと言われた事によって、本郷は更にイラつく。
御幸は宥めようとしているが、全く成功していない様だ。
次のバッターは、3番の許。
力士と間違えられるほどの巨漢で、見た目通りのパワーだけでなくミート力や選球眼も優れている強打者だが、見た目どおり非常に鈍足。
___ガギィン!
「……あ、ヤベ!」
ボールは高く内野に上がり、確かに討ち取った筈だった。
だが……ファーストの三島が落球した隙に、ドタバタとした走りでセーフになってしまう。
「悪りー本郷!」
「チッ! この下手くそが!!」
これで、ノーアウト満塁。普段よりもピリピリしていたこともあって、三島のミスに本郷は更にイラついていた。
そしてノーアウト満塁の場面で、主砲の志傑が打席に立つ。
___バシッ!
「ボール!」
___ガギーン!
「……ファール!」
___バシッ!
「ストライク!」
なんとかツーストライクまで追い込むと、御幸は決め球に内角のスプリットを要求した。
この試合の志傑は変化球にタイミングが合っておらず、外角は1塁に三島がいて信用できなかった為の選択である。
___カッキーン!
『わああぁぁ!』
しかし日本バッテリーの選択を読んでいた志傑は、確信を持って振り抜く。これでまさかの満塁ホームラン。
7対6となり、日本は逆転されてしまった。
「ドンマイ本郷!」
「次は行けるぞー!」
「エラーして悪かったな!」
「……うるせぇ」
そんな状況下でも、薬師高校の選手達は気にせずエールを送っていた。
1年生の夏に9点差から1回で逆転した成功体験によって、これ位の事は苦難の内に入らないのである。
そしてホームランを打たれて逆に吹っ切れた本郷は、その後三者連続三振に切って落とす。
御幸も本郷も、最初から変な事狙わずこうすれば良かったと悔しがっていた。
そして7回表に、台湾のピッチャーが黒に交代。
あっさり秋葉が討ち取られて、次のバッターは国際大会でも打率10割を維持してきた伊川。
スリーボールツーストライクとフルカウントになった辺りで、伊川はこんな事を考えていた。
(大体動きは見たな……次は狙うか?
___いや、この球はボールだな。振らなくて良いや)
___バシッ!
「ストライク! バッターアウト!」
「……マジ?」
伊川は確信を持って見逃したが……選球眼の良さが逆に仇となり、ボール球を見逃してまさかの三振判定。
ストライクゾーンがかなりズレている事を、計算に入れていなかった事が敗因である。
「クソ審判ーっ!!」
「台湾贔屓過ぎるだろ!!」
「2度とこのマウンドに立つんじゃねぇ!!!」
観客席から見ていても今のは誤審だとハッキリ分かった為、日本側の観客達はいきり立っていた。
こんなクソみたいな誤判定で、伊川の打率10割が消える事が我慢ならなかったしい。
「伊川ドンマイ! 代わりに俺が打つ!」
「まー、そんな事もあるって覚えとくしかねぇな……ホームラン頼むぜ!」
そんな空気の中、北瀬と伊川は特に気にしていなかった。
確かに審判も人間なんだから、そんな事もあるよなーという顔である。
地味に、彼らも誤審である事は疑っていない。
そんな空気の中、ツーアウトランナー無しの場面で打席には本日レフトの北瀬が入る。
___カキーン!
北瀬はインハイのストレートを振り抜き、センターオーバーのスリーベース。
この後台湾の監督は轟を敬遠で出塁させ、次の三島の打席。
……するとまさかの、また敬遠。
「勝負しろー!!」
「cowardice!!」
「这不存在!!」
「卑怯者ー!!」
「Buying a referee?!」
先ほどの審判の大誤審も合わさり、当然観客席から多くのブーイングが鳴り響くが、台湾バッテリーは知らん顔。
6番の赤川を三振に仕留めて、スリーアウトチェンジ。
7回裏は本郷がこれ以上点を取られてたまるかとギアを上げ、三者凡退。
___ガギン!
「うおっ!」
「……!」
と思われたが、緩いファーストゴロを本郷が無理矢理取ろうとして三島と激突。
一応どちらも大事には至らなかったが、本郷の精神的にはショックが強かった。
次の2番には甘く入った球をランエンドバントを決められてしまい、ツーアウト1・3塁になってしまう。
この場面、監督は交代させるか迷ったが……結局本郷も三島も続投。
「ランナースタート!」
だが1塁ランナーのディレイドスチール、その隙に3塁ランナーの英傑がホームインで1点追加されてしまった。
___ガキン!
そして3番は三遊間のポテンヒットで出塁し、1・3塁の場面でバッターは今日当たっている4番の志傑。
敬遠もありだが……本郷のプライドや今後を考えると逃げずに抑えるしかないと御幸は考え、勝負に出る。
するとまたもやディレイドスチールを仕掛けられ、2塁送球しようとした御幸は前の事もあって投げられず、1塁ランナーに進まれてしまった。
___カキーン!
そして結局、全力のストレートが打ち返され9対6。
その後なんとか5番を抑えたが……本郷の精神はぐちゃぐちゃだった。
8回は、日本は打撃妨害でランナーを出すも四人で抑えられ、台湾も三者凡退と試合に動きが無かった。
9回表、先頭の真貝が三振したところで投手交代。
守護神の劉がマウンドに立ち、外角のカーブで秋葉をファーストゴロに打ち取る。
後1人でゲームセットの場面で、打席には9割打者の伊川。
___カン!
凄まじい威圧感の伊川。
思い出したかのようにまさかのセーフティバントを仕掛け、走力Aを活かしてセーフをもぎ取った。
……彼なら普通に打てたの思うのだが、なぜこんな選択をしたのだろうか?
普通に考えたら相手への揺さぶりがしたかったのだろうが、伊川に揺さぶりの知識なんて無いのだ。
多分、セーフティバントを急にやってみたくなっただけだと思われる。
彼は絶対セーフになる謎の自信があって、リスクなど無いからと実行したのだろう。
彼には地味にバント○の能力があったので、実際簡単に成功してしまった。
そしてそれに動揺した台湾のリリーフピッチャーが北瀬と轟にフォアボールを出した。
この場面で、次は三島。
ツーストライクになり少しホッとした瞬間……甘く入って満塁ホームラン。9対10で逆転。
そして赤川にはヒットを打たれるが、台湾バッテリーはその後なんとか抑えた。
そして9回裏、ストッパーで北瀬が登板。
ファーストを遠本に、レフトを原に交代して守備力を上げた。
___バシッッ!
「ストライク! バッターアウト!」
___バシッッ!
「ストライク! バッターアウト!」
___バシッッ!
「ストライク、バッターアウト! 試合終了!!」
やはり北瀬は凄まじいピッチングで三者凡退に抑え、ゲームセット。
ギリギリの戦いだったが、何とかU-18日本代表は4戦目でも勝つことが出来た。
「俺、投げられてラッキー!」
「ギリギリの場面で出して貰えるって事は、やっぱり北瀬ってエース運用されてるんだな!」
「それは当然だろ……」
「ガハハ、次は俺が先発したいぜ!」
「流石に……今回それは無い気がするな……」
試合後、薬師野球部の5人は普段通りの会話を続けていたが、その他日本代表はそんな精神的余裕は無かった。
特に本郷は、自分自身の不甲斐なさに強烈な怒りを覚え、次はこうならないと誓っていた。
北の大地でテレビ越しに彼の姿を見ていた新田監督は、本郷の不甲斐なさを嘆きつつも___この試合が彼の更なる躍進に繋がると確信していたという。