【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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122球目 寸前

 

 

 

 

キューバのホテルの中、並木監督と真木コーチが関根トレーナーが来てミーティングが始まるまでの直前の時間に、北瀬達薬師5人組はぺちゃくちゃとおしゃべりしていた。

 

 

「いやー、やっぱりギリギリの試合も良いよな!

台湾戦の9回表の三島の打席とか、アドレナリンドバドバだったよ!」

「それ言っちゃダメな奴だろ!」

「…………」

 

軽率な北瀬の発言を窘めたつもりになっている秋葉だが、地味に追撃を口にしてしまった。

不甲斐ないピッチングをしてしまったと自覚している本郷は、恐ろしい表情をして黙り込んでいる。

 

伊川はこの恐ろしい状況で、とりあえず自分の反省点を口にしてみる事にした様だ。

 

 

「……俺もあの時、130km相手にアウト取られちゃったからなー。良く考えてみりゃ、あの審判なんかおかしかったのには気付いてたのにさ」

「やっぱそうだったよな! なんかさ……俺達のバッティングの時だけストライクゾーン妙に広くなかったか?」

「それに本郷がストライクに投げた球も、途中から妙にボール判定されてたし……

あの審判、もしかして台湾側に買収されてたんじゃね?」

「カハハハ……そうなの?」

 

変な結論に話を持って行きそうな北瀬、伊川、轟の話を実は聞いていた監督。

防音性の無いドアをガチャリと開けた後、彼ら3人の目を1人1人しっかり見て注意した。

 

 

「あの審判は買収されてなどいない。そういう考え方は、プレーする時の雑念になりかねないから止めようね」

『はい……』

 

素直に反省した彼らを見た並木監督は、野球知識が浅い彼らになぜこの結果になったのかと考える癖を付けさせようと試行錯誤し始めた。

 

 

「ミーティングの前に、君達3人には、どうしてあの誤審が起きたかを考えて見て貰おう

他のメンバーは、彼らにヒントを出してあげて」

『はいっ!』

「じゃあまず、6回の御幸の見逃し三振。アレも正直、俺も誤審に近いと思うよ

じゃあ、何で審判のストライクゾーンがズレてたか。思い付いた事を言ってみて」

 

彼ら3人が必死になって考えていた時、伊川は1つ思い付いた。審判に悪感情を持たれると大変な事になる事もあるらしいから、そうに違いない!

でもやっぱり、ちょっと言い辛いなぁと小さな声で答えを口にした。

 

 

「……本郷がデットボールを与えた時、謝らなかったからだと思います」

「惜しいかな、確かに後々繋がってくる所もあるんだけど……他には何か無い?」

 

伊川は基本、何か問題があれば誰かの悪意が潜んでいるに違いないと考える人種だった。

だから、謝らなかった本郷への報復だと考えたのだ。そんな回答は、当然ながら並木監督にとって不正解扱いだった。

 

 

「カハハ……ヨウのピッチング、コントロールが良かった……から?」

「そうだね。やっぱり正確なピッチングをしている投手の投げる球は、ストライクだと誤解しがちだと思う

じゃあ他には? 今まで答えてない北瀬も考えてみて」

 

皆の前で間違えて少しガックリとしている伊川を見ながら、3人の中では1番野球知識がある雷市が正解を導き出した。

そもそも彼は、伊川と北瀬の世迷い言に少し惑わされていただけで、審判の買収を疑っていた訳ではない。

ちゃんと何故ストライクゾーンが狭まったかを理解しながらも、人見知り気質で言えなかっただけである。

 

次は北瀬に話が振られたが、彼は全然分からなかった。

俺が答えるの? 全然分かんないんですけど!

北瀬はそうやって内心頭を抱えながら、どうにかそれらしい答えを探し始めた。

 

 

「え、えーっと……」

 

真剣に考えても、全く何も思い付かなかった北瀬。

うんうんと唸りながら、何か思い当たる事がないかと考えている。

 

そんな行き詰まっている北瀬に、秋葉が助け舟を出した。

 

 

「ほら……御幸先輩の前の打席で、伊川は何かしただろ?」

「えっと、ファールを沢山出してたよな。確か、相手ピッチャーのスタミナを削るとかで」

 

ここまであからさまなヒントを出しても答えが分からなかった北瀬を見て、並木監督や後からやって来た真木コーチや関根トレーナーは困惑した。

だが彼らはなんとか表情には出さず、並木監督は優しく答えを教えてあげようとしていた。

真剣に考えて何もわからない奴を、責めた所でどうしようもないからである。

 

 

「うん、それはカット打ちっていうやり方なんだけど……ルール的にグレーゾーンなんだ

ちゃんとヒットを狙わなきゃいけないんだけど、伊川は毎回長打ギリギリでファールになってたから審判に見逃されてた感じかな

それによってストライクゾーンが狭まったという点もあると思うよ」

 

並木監督の言葉に、伊川はマジかよという顔をしていた。

ストライクゾーンを勝手に狭くしてしまった事を、申し訳なく感じたらしい。

 

 

「えっ、そうなんですか……? チームメイトを巻き込む様な動きをしてしまって、すみませんでした」

 

(まあ確かに、勝手にカット打ちをやるのはどうかと思うが……別に行動が不正解でも無かったんだよな)

(意外と真面目な子なのかな? 楊のスタミナを削るのは、ちゃんと機能してたんだけど)

(伊川はカット打ちを知らないでやっていたのか……

試合でやってはならないという程では無いが、野球倫理も教育して行かないといけないだろうな)

 

真木コーチや関根トレーナーに並木監督は、それぞれこんな事を考えていた。

伊川の独断先行や意外な謝りグセに対して、どうやって指導していけば良いのか考えているのだ。

 

対して日本代表の選手達はそこまで深くは考えず、伊川にこう言った。

 

 

「楊のスタミナは削れてたから良いんじゃね? 相手バッテリーからしたら、スゲーうっとおしかっただろ!」

「っちゅうか、何でカット打ち普段からせぇへんのや? 相手からしたら絶対最悪やろ」

 

 

天久と真貝が、妙に凹んでいる伊川をフォローした。

戦略的には正しかったのだから、全然問題ないだろうと考えたのだ。

もう部活を引退している真貝なんかは、最悪な助言をしてしまっている。カット打ちをライバルチームに推奨するのは、あまり良くないと思うが……

 

こうして、北瀬と伊川の野球知識は少しだけ増えた。

並木監督達には、どうか彼らに多くの知識を授けてあげて欲しい。

それが、日本野球界にとって大きな宝となるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

5戦5勝と、スーパーラウンドへの出場が確定している日本代表達。今までの順位は当然日本が圧倒的に1位で、サポーター達を熱狂させている様だ。

 

スーパーラウンドでの初戦の相手は、韓国代表に決まった。彼らのオープニンググラウンドでの成績は4勝2敗。

攻守共に積極的であるが、その勢いのあまりラフプレー一歩手前の状況になりやすいかなり荒々しいチームである。

 

監督は選手達を集めて、このようなミーティングをした。

 

 

「今回戦う韓国代表だけど……少し荒々しいプレーが目立つチームだ

今まで日本は連戦連勝してるから、危険だと思ったら避けて欲しい。今回の日本代表は絶対に優勝出来るチームだから、ここで選手が削られると困る___いいね?」

『はいっ!!』

 

 

 

 

 

こうして始まったスーパーラウンド初戦。

韓国の最注目選手は、絶対的エースの李周原。

最速151kmにキレのあるシュートとスライダー、カットボールを持ち球にする本格派で、ケンカ投法が売り。

 

この選手を聞いた時、日本代表全員の頭には薬師高校の2番手ピッチャー、真田俊平の事が思い浮かんだらしい。

確かにシュートとツーシーム、カットボールを使う最速149kmで内角攻めの投手なので非常に近いだろう。

 

 

 

 

1回表、韓国代表の攻撃は1番金。

確かに北瀬相手なら厳しかったかもしれないが、2番手ピッチャーなんて楽勝だとニヤついている。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

……だが、結果は三球三振である。

成宮は、将来メジャーでプレーするかもしれない程の実力者なのだ。舐めて掛かって打てる相手では無い。

 

 

___ガギ

 

「アウト!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

2番も3番も、キレのある変化球に翻弄されて三者凡退にされていた。

簡単に討ち取られた打者陣の不甲斐なさに、韓国のエースはブチ切れている。

 

 

 

 

 

 

「빌어 먹을 ... ! 그런 헤보와 같이, 만큼만 억제해도 이길 수 있는 기분이야! !(クソカスがぁ……! あんなヘボ共じゃ、とんだけ抑えても勝てる気しねぇっ!!)」

 

1回裏、韓国の大エースである李はブチギレながら1番秋葉にデッドホールスレスレの球を投げた。

 

 

___バシッ!

 

「ボール、フォア!」

「真田先輩のボールより殺意を感じるな……」

 

だが自チームのキャプテン兼ピッチャーの内角鬼攻めに慣れていた秋葉は、悠々とフォアボールを選択した。

 

 

___バシッ!

 

「ボールフォア!」

「……」

 

楊相手に痛い失態をしてしまった伊川も、李相手では迷う余地無し。

絶対にボールだと確信を持ち、バットをピクリとも動かさずに1塁へ進んだ。

 

 

(クソッ! 何で俺のボールにビビらねぇんだ!!)

(日本代表相手だと、ケンカ投法は効果が薄いのか……? 怪我を恐れないバッターなのかもしれない)

 

韓国バッテリーはそんな事を考えながら、日本の3番バッターである北瀬に投球を開始する。

 

 

___カキン!

 

「あっ、ヒットかー」

「カハ、カハハハ……! 満塁!!」

 

北瀬のヒットによって、ノーアウト満塁になった日本代表。

このチャンスの場面で、絶対に回してはならないバッターが高笑いを上げながら登場する。

___高校最強の長距離砲、轟雷市が打席に立った。

 

 

「부서져라!! (潰れろ!!)」

 

李は内心轟の威圧感にビビり、罵声を上げながら投球を開始した。

 

 

___カキーン!

 

低く鋭い打球が飛び、一気にランナーは駆け出した。

3塁の秋葉は直ぐにホームへ、2塁の伊川すら余裕の帰塁だった。

そして1塁にいた北瀬も、ランナーコーチャーの言う通りに全力でホームベースに突っ込む。

 

 

「……セーフ!」

『わああぁぁ!!』

 

間一髪のタイミングだったが、北瀬はギリギリセーフ。

これで、初回から一気に3得点。

 

 

「けっこう良かったぞ! 雷市!」

「良いじゃん轟ー! そのまま蹴散らせー!!」

「ガハハハ、ホームランじゃなかったけどな!」

「スリーベースヒットなんだから素直に褒めようよ……」

 

ベンチメンバーも彼のバッティングを一応称賛している。

薬師メンバーはホームランでは無かった事は残念だったらしいが、凄まじい勢いのある打球も割と良かったらしい。

ワイワイガヤガヤと話しながら、楽しげに試合を見ていた。

 

ちなみに、ここ最近は成宮やカルロスもしょっちゅう野次を飛ばしている。

最初は敬遠していたが、やってみるとけっこう楽しかったらしい。

 

 

 

 

その後5番の遠本や6番の赤川は討ち取られたが、チャンスに強い御幸は3塁の轟をヒットで返した。

最高のライバルだった成宮を、援護してやりたい気持ちがあったらしい。まあ、どうせ薬師の4人が点を取ってくるだろうとは少し思っていたが……

 

 

 

 

 

 

2回表、韓国代表の4番憲聖が打席に入った。

彼はホームランを打つパワーもあるが、それ以上に当てる力の凄いアベレージヒッターで足もかなり早い優秀なプレイヤーである。

成宮と御幸は、彼をバッターとしてかなり警戒していた。

まあ薬師の投壊打線程ヤバい訳ではないらしいが……

 

 

___カキーン!

 

1塁と2塁の間を抜け長打になると思われたが……伊川が打球が飛ぶ位置を謎の直感で完全に把握していた事により、掴み取ってアウト。

 

 

「ナイス伊川!」

「あの動き、どうやったんだ?」

「巨摩大藤巻みたいな仕掛けはしてないのになー」

 

総合的に考えれば素晴らしいファインプレーではあったのだが、ギリギリファーストの守備範囲内だったので衝突する危険はあったかもしれない。

並木監督達は、注意すべきか褒めるべきか悩んだそうだ。

 

 

 

……

 

 

 

成宮はその後も三者凡退に抑えていき、打線も4人を中心に追加点を取っていった。

一方的な展開に、観客や韓国代表達ですら日本の勝利を確信していた。

 

そして、そんな状況に血の気の多い韓国ナインが黙って見ていられるはずがなく、なんとかパーフェクトを阻止しようと攻守で荒々しいプレーが増えていく。

特に周原は元々インコース攻めが多かったのでデッドボールが多くなっており、北瀬と伊川にはボールが直撃していた。

鉄人の彼らは軽くぶつけられた程度にしか思っていないが、わざと当てているだろうなと確信したらしい。

 

 

 

 

 

 

そして8回表。0対9で日本が圧勝している場面。

 

 

(クソッ、このまま終われるかよ! せめてピッチャーだけは潰してやる!!)

 

 

___カキン!!

 

ここまでパーフェクトピッチングを続ける成宮を潰そうと、憲聖が痛烈なピッチャー返しを仕掛ける。

本来彼にはピッチャー返しを狙える実力は無かったのだが、強い殺意が良い感じに作用したらしい。

 

 

___バシッ

 

「アウト!」

 

だが成宮はその打球を、あっさりとキャッチしてアウト。

この時彼は、2年夏で起きた伊川のピッチャー返しを思い返しながら、あの時より遥かに軽いと心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

9回表、韓国代表の攻撃。

ツーアウトランナー無しの状態で、打順は9番載元。

 

 

___ガギ

 

フルスイングがカス当たりとなり、ボテボテのサードゴロ。

だがそれても、韓国のバッターは全力で走った。

 

 

「イ゛ッ……!」

 

その結果、バッターの左足が、ベースを踏んでいた遠本の右足を蹴り上げてしまう。

 

 

「お前ら……! いい加減にしろよ!!」

「クソ外道が!!」

「일부가 아니다! (故意ではないんだ!)」

 

軽く怪我をした遠本や、キレやすい真貝は韓国のバッターに掴みかかった。

 

「뭐하는 거야! 적재를 놓아라!! (何するんだ! 載元を離せ!!)」

「직접 공격하는 것은 비겁하다!! (直接攻撃するなんて卑怯だぞ!!)」

「テメーらは許さねぇ! ここでブチのめす!!」

「乱闘か、久しぶりだな……」

「you!Stop!! (君達、止まりなさい!)」

「落ち着け! お前達は日本の国旗を背負ってるんだ!」

 

日本代表も韓国代表もファースト付近に集まって来て乱闘寸前にまでなったものの、最終的には審判や監督達によってなんとか収まりゲームセット。

 

成宮が完全試合を達成したものの、遠本は全治1週間ほどの打撲を負い日本の戦力の低下という、何とも言えない結末になってしまった。

 

 

 

 

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