【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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10球目 無敵

青道のライバルだったらしい市大三高が、まさかの7回コールド負けで終わった試合を見て帰った後、机の上に置いてある新聞に早速デカデカとさっきの試合が乗っているのを見つけた。

 

 

「センバツベスト8、市大三高コールド負け。サヨナラ満塁ホームランを打たれ、そのまま泣き崩れる真中、3年……」

「ちょっと栄純くん、そんな大きな声で読まないで!」

「だってよー、俺。こういう長い文章は、声に出さないと読めなくてさ!」

 

重苦しい沈黙の中、沢村の声が無駄に大きく鳴り響く。

青道の上級生達にとって、良いライバルだった市大三高が弱小校に……元弱小校の薬師にコールド負けした姿が、あまりにも衝撃的だったのだ。

青道ナインで特に苦しかったのは、最高の親友でライバルの真中……彼の高校最後の試合が、こんな苦しい結末を迎えた現実を直視したくなかった丹波だろう。

 

このままではエースの投球に支障が出ると感じた御幸は、先輩相手にも関わらず活を入れようと話し出す。

 

 

「あれ、丹波さん。もしかして落ち込んでます? これはマグレじゃなくて、普通に市大の実力不足っすよ」

「…………」

「落ち込んでる丹波さんに追撃しやがった! なんて酷い奴なんだ……」

「でもさ。まさか優勝候補の市大が3回戦で消えるとはな……」

「これが一発勝負の怖い所だよなぁ」

 

青道不動の正捕手である御幸一也の失礼な一言で沈黙が破られ、徐々に先程見た試合の話で盛り上がっていく。

 

 

「でもさぁ、マジで薬師の打撃ヤバくね? 打撃に限って言えば、市大三高以上だったよな」

 

不安そうにしている部員に対して反論しようと、他の部員が薬師の不安要素について口に出した。

 

 

「ああ、確かに。でも守備は俺達の3軍以下だったよな。つうか普通、中学生でももうちょい上手いんじゃねぇの?」

「てかさァ。薬師守備左側の、レフト、サードって大穴空いてないか? あっちに飛ばせば何か起きそうだよな」

『だよなぁ……』

 

そうだよな! 確かに薬師の打力は凄いけど、あんなズタボロの守備相手だ。俺達なら勝てる!

というか、何で不安要素のある3人を同じ場所付近に集めているのだろう? こちらの付け入る隙としてはありがたいけど、ちょっと考えれば分かりそうな物だけどな。

 

 

「……それに、何で伊川ってセカンドなんだろう……この守備力なら、まだファーストとかに置いた方が良くない?」

 

妙だと気付いた3軍メンバーの1人が、鋭い意見を出した。

これを御幸やクリスが聞いていたら、薬師の隠し玉を察する事が出来たのかもしれないが、聞いていたのは同じ3軍メンバーだけだった。

 

 

「中学でやってたポジション、そのままで行くことにしたんじゃないか?

元々強豪校じゃない薬師メンバー全員が、あれだけの打撃を誇るんだ。その分守備練習を削ってるからポジション変更する時間が取れなかったとか」

「でもさぁ、せめて北瀬をライトに置いた方がマシだと思わない? これじゃレフト側飛ばし放題だよね」

「いやテンプレ通りに行くと、ファーストとレフトは守備難の選手を置くし、そういう事じゃないか?」

「うん……それもそうかも」

 

 

 

次の日、クリスはベンチ入りメンバーに対してこう忠告した。

 

 

「エース格を温存し、いきなりクリーンナップを入れ替える常識外れの戦い方。もし計算された戦略なら、うちとの戦いでも何か仕掛けてくる可能性がある」

 

それを買って記録要員にされているのだから当然だが、クリスの洞察力は高かった。それでも、薬師の守備位置のおかしさには気付かなかった。

なまじ常識的に考えられる選手だった分、レフトとサードに守備難の選手を置くのは当然だと考えたのだ。

セカンドにも守備難の選手を使うのはおかしいとは思ったが……薬師の大半の選手が守備範囲の狭い守備難か、守備範囲の広い普通の捕球能力の選手だったので、そういう方針のチームだと合点してしまっだのだ。

 

 

「片岡さーん!」

「てつー!!」

「真田せんぱーい! 頑張ってー!」

「御幸くーん!」

「いけーっ青道ー!」

「大物食いを見せてくれーっ!」

 

弱小チームが強豪相手に勝った場合、奇跡だとかジャイアントキリングだとか言われる事が多い。

だが、薬師高校はそう呼ばれなかった。なぜなら、偶然の勝利では無いと、観客全員が分かっているからだ。

運も絡んでくるとは言え、あの市大三高に7回コールド勝ち。あの1戦で、優勝候補筆頭として名を刻んだのだ。

 

 

……やはり、6回戦は薬師が来たか。大方の予想通り、市大三高を破った勢いそのままに勝ち進んだ薬師と準々決勝で戦う事になった。

都千草相手では、ファースト兼ピッチャーの三島と三野が登板して21対9で5回コールド。

 

青道高校全員が、薬師を既に弱小相手だとは思わず、同格クラスの強豪を相手にすると思って試合に臨んでいた。

 

 

 

「打つ時はレフト側を狙え! 確かに北瀬、轟、伊川の打撃は光るものがあるが、守備の練習不足は一目瞭然!

その一球に、その一本に、その一振りに、自分達の全てが映る……迷いは要らん! 自分達の野球を信じろ!!」

『はいっ!!』

 

青道高校の片岡監督は、この試合ではレフト方向への徹底すると指示した。

もちろんそれは、守備位置が予想通りだった場合の話だが。青道高校には予想が外れていたら、自主性に任せる打撃をさせるだけの柔軟性がある。

 

 

 

「あー頭痛てェ。昨日朝まで飲み過ぎちゃったわ」

 

強いカリスマを発揮する青道の片岡に対し、薬師の轟監督はあまりにも適当な事を言う。酷い発言だったが、部員はそれが嘘だと見抜いていた。

 

(監督、朝まで青道のビデオ見てたんだろうなぁ……すげぇ執念だよ、本当に)

 

「いや、監督お酒飲めないじゃないっすか」

「そうだっけ? まあいいや。先発は……ギリギリまで悩んだが北瀬で行く」

 

対してこちらは薬師ベンチ。大方の部員の予想を裏切り、対青道戦の登板はレフトの北瀬になった。市大三高相手でもコールド勝ち出来たし、ここで秘密兵器の北瀬を使わなくても良いと思ったのだが。

 

 

「へー、何でっすか? 真田先輩の体力も復活してるし、隠し玉は最後まで隠していた方が良くないっすか?」

 

初登板は割と嬉しいが、理由も気になった北瀬は監督に質問する。

もし、俺が登板するのが当然みたいな空気だったら言わなかったけど、皆気になってるだろうし。

薬師に来てから少し積極的になった北瀬は、その初心者ぶりから質問が多くなっていた。

 

 

「稲城実業は、青道や市大三高と比べて一枚上手だ。特に、エース成宮の調子が良い日はヤベぇ。もし運が悪かったら、俺達の実力でも大量得点とはいかないかもしれねぇ。

……だから青道には、北瀬登板の練習台になってもらう。なに! たかが1週間じゃ、十分な対策なんて立てられっこねーよ!

それに、準決勝も市大三高程じゃないけど強いから真田で行きたいしな!」

「分かりました、やります!」

 

ベンチの意思が固まった所で、監督が試合前の演説をする。

 

「青道は強敵だが、勝てねー相手じゃねぇ!

コスい作戦なんて要らねぇ、全球ホームランにするつもりで行け!!」

 

『おうっ!!』

 

 

 

 

「ただいまより、準々決勝、青道高校対薬師高校の試合を始めます」

 

 

「あれ? マウンドに立ってるの、エース真田じゃなくてあの北瀬だ」

「あいつ、投手も出来るのかよ! すげぇー!」

「投手やらせるより、外野守備を練習させりゃいいのに……」

 

 

試合開始直後に青道高校は、薬師への想定が不十分だった事が判明してしまう。観客達も全くの想定外だった、まさかの主砲が先発という事態が起きたのだ。

 

明らかに薬師投手陣で頭一つ抜けていた真田を、何故先発させない!

故障か、いや前回の試合では4回で降りていたし、やはり真田はスタミナが足りないから抑えで登板させるのか?

だが、主砲の投球は全くのノーデータだ。球種も、球速も、コントロールも、弱点も! たった1回の試合で探らなくてはならない。

投手経験のある選手かは分からないが、あの身体能力なら投手として最低限の仕事なら、必ず出来るだろう。

だが全くのノーデータという事は、実践経験の足りない選手である事は確かだ。少しでも早く、彼の弱点を探らなくては。

 

それに、捕手が伊川に変更されている。確かに、渡辺のリードは優れていなかったが、ここで守備の要を交代させる意味は何がある?

 

 

てんやわんやしている青道に対して、主砲を公式戦で初めてピッチャーマウンドに送っている薬師は、何故か安心した顔で守備位置に立っていた。

 

少なくとも、薬師のベンチメンバーはこの唐突に見える投手北瀬を信頼しているらしい。

 

 

 

青道の核弾頭を自称するスイッチヒッター倉持洋一は、主砲北瀬が情報に無い投手として投げる事に多少動揺したが、すぐに平常心を取り戻した。

 

 

(嘘だろ。エース真田じゃなくて、ノーデータの主砲北瀬が登板かよ! まぁ良いや。俺のやる事は決まってる。相手の球種を見させて貰った上で……打つ事!)

 

 

___バン!!

 

「ひゃっ……159kmだとぉ?!!」

 

冷静に試合に望んでいた倉持だったが、初回からトンデモナイ豪速球を投げられ、咄嗟に慌ててスコアボードを見る。そこには、159kmと記されていた。

 

 

1年生で左なら、140kmもあれば凄まじい選手だと言えるだろう。

それなのに、159kmだと? この速度は……1年生所か、高校生史上最速じゃないか?!

 

 

 

対して余裕のストライクを取った筈のキャッチャー、伊川はなぜか無駄にビビっていた。

 

(外角高めの釣り玉っぽいストライクだぞ、けっこう速いボールだぞ! もっとブンブン振って来いよ!

いやー強豪相手にキャッチャーとして出ると違うなぁ……ストライクゾーンに指示しておいて良かったぁ。えっと、次は多分ストレートを内角高め……で良いかなぁ?)

 

 

___バン!!

 

「ストライク!」

 

打たれてすらいないのに混乱している伊川は、なるべくピッチャーのスタミナを温存するという大義名分を掲げ、完全にストライク先行しているにも関わらずまたストライクゾーンに投げさせ、三球三振を目論む。

 

(よし、外角高め、内角高めと来たら……次は外角低めで決まりっしょ! 変化球は3回に1回位って言われたから……次はカーブで良いや)

 

 

___スパンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

全く打者の照準が合っていないにも関わらず、1度も解禁していない変化球を投げさせてアウトを取る。

知識もなければ経験もない伊川に、強豪相手に読み合いを出来る能力は全く無いのだ。

 

 

倉持は追い詰めてもいない初回で新球種を投げてきた事に疑問を覚えつつ、ラッキーだと割り切って次のバッターの小湊と話した。

 

 

「亮さん、最後の球種は多分カーブです。ストライク先行させがちっぽいですね。後あのキャッチャー、多分追い込まれれば自滅しますよ。」

「なるほどね……分かった、狙い玉絞っていくよ。それに、まだ球種があるなら使わせて見せるよ」

 

 

 

初回ワンアウトでのバッター、小湊から外角真ん中ストレートで1つストライクを取った後、キャッチャーから超スローボールを指示された北瀬は、少しビビっていた。

 

(えっ、ここでコレ投げるの? ストレートで押し切れそうな気がするけどなぁ。それに、ただ遅いだけのスローボールって、打たれたらホームランされてもおかしくないよね……やだなぁ。

まあ、当然キャッチャーの指示には従うけどさ)

 

キャッチャーとして完全に実力不足の指示だろうなと心の隅で分かっていた北瀬だったが、自分のピッチャーとしての力量にも自信がなかったので素直に言う事を聞いた。

 

北瀬の表情を見ていた小湊兄は、目敏くバッテリー間の歪さを見破った。

 

(今、ピッチャー嫌そうな顔をしたな。バッテリー間の信頼関係はあまり無さそうか? 変えてくるか。いや、投げ始めた……来る!)

 

 

___ぽすっ

 

「ストライクッ!」

 

(へぇ……スローボールか。有るって分かってれば打てたけど、流石に初回じゃ難しいね。でも良いの? キャッチャーが駄目なら、こういう球は格好の餌食になるけど……エースは分かってるみたいだよ)

 

外角低め、ストレートで押し切られた小湊兄。だがMAX159kmの新球種を解禁させた事で仕事をやり切ったと考え、腹黒い笑顔で満足そうにベンチに戻る。

 

 

「純、2球目のボールはスローボールだったよ。後、バッテリーの信頼関係は無さそうだ。最終的には、どっちかの意見だけが歪に通るんじゃないかな。どっちも試合勘無さそうだけど」

「オシッ! 分かった、ナイス小湊!」

 

 

___だが、強打の青道すら、圧倒的な才能の前では無力である。初回は三者三球三振。

今年の夏、実は初回を0点で抑えたのは初めてだ。当然薬師ベンチはまるで優勝したかのように大盛り上がりだ。

 

「やったーー!」

「奇跡だ……」

「カハハハハ! ナイスキタセ!!」

「やっぱうちの真エースは違うねぇ! 青道相手に初回無失点かよ!」

 

スローボールを投げる時にちょっとビビってた事を忘れて、北瀬は堂々と胸を張った。

実力的には打たれないと思ってたんだよな! いやちょっとは打たれるだろうけど、その分打撃でお返しすれば良いし!!

 

「ここまで皆に温存して貰いましたからね……これ位楽勝ですよ!」

 

 

(見たか! 俺達の本当のエース、北瀬涼の実力を!!)

 

薬師高校の1番、真田俊平も内心荒ぶっていた。

 

(1年の北瀬、轟、伊川を輝かせる為に、俺達脇役は必死に努力してきた。ずっとこの時を待ってたんだ……もっと騒げ、もっと轟け! 俺達のエースを見ろ!!)

 

真田も傍目から見れば十分優秀なプレイヤーだったが、彼にとって自分の活躍は二の次だった。だって、自分は大して才能が無い。なら天才の後輩達を支えようとして当然だろう。

元弱小校にも関わらず、自分より優秀なプレイヤーが山程いた事は、真田の標準を狂わせるには十分だった。

 

 

 

 

薬師高校の攻撃。1番秋葉は、降谷の豪速球相手に粘り、最後は三振こそしたが、高校生離れなストレートに初回から仰け反りすらしない貫禄を見せつけた。

 

(こいつ……内角ストレートでも仰け反らなかったな)

(凄いけど、北瀬よりちょっと遅いしな……てかコントロール悪くね? チーム事情的に、デッドボールされるのが1番嫌だな)

 

 

次の打者は2番、伊川始。市大三高相手でも打率10割を崩さなかった男。こいつ相手にどう攻めるか。

 

 

___バン!!

 

「ボール!」

 

(こいつに明らかなボールを振らせるのは難しいか……だが腕の振りを甘くしたら持っていかれる、全力で振り切れ!)

(この投手、やっぱノーコン?)

 

投手と野手の熾烈な戦いの中、あくまで伊川は冷静。監督の攻めの姿勢を見た上で、あくまで確率の高さを考えたプレーを心掛けていた。これは冷静というより、やる気が足りないと言い換えるべきかもしれないが。

 

(ホームラン打てなくもないけど、後ろには轟と北瀬がいるしなー。どうせどっちかがホームラン打つでしょ。)

 

伊川は打力があるにも関わらず、無理に振ってこなかった。よって立ち上がりが悪い降谷は当然の様にボールが先行し、フォアボールを出した。

 

(やっぱり、この投手はやると思ってたよ)

 

「ボール、フォア!」

 

 

 

 

次の打者は轟雷市、どう見ても豪快なスイングの長距離砲。豪速球の降谷だろうと、マトモに当たればホームランされるであろう実力者だ。

 

 

___バン!

 

「ボール!」

「カハハハ、沈んだ……すげェすげぇスゲェ!!」

 

 

___バン!

 

「ボール!」

 

御幸は思わず舌打ちしたくなった。

(ちっ、やりづれぇな……しっかり見やがって。だが、カウントを悪くしてでも、ここは高めのストレート。ボールの威力で押し切るぞ!)

 

 

___カーン!!

 

あわやホームランといった打球が、ギリギリフェンスに当たってツーベース。次の塁を積極的には狙ってこない伊川も余裕で帰還し、初回から点を奪われた。

 

 

降谷の球の威力を知っている青道側の観客席は絶望しかけたが、それに浸る間もなかった。

次の打者も、同じく強敵。4番、北瀬涼。轟に匹敵するホームランバッター。更に投手としての適正も非常に高い、薬師最大の強敵だからだ。

 

 

___カン!!

 

「アウト! ……アウト、ゲッツー! スリーアウトチェンジ!!」

「よくやった倉持ー!」

「ありがとうございます小湊さん!!」

 

打球はショート真正面! 飛び出していた轟を運良くゲッツーした青道高校は、次の攻撃に移る。

確かに運は良かったが、1点先制されている。それに薬師は、下位打線も油断出来ない。

これは厳しい戦いになる……分かっていた事だが、御幸達は改めて気を引き締めた。

 




薬師高校の打順は

1番 レフト・秋葉一真・1年
2番 キャッチャー・伊川始・1年
3番 サード・轟雷市・1年
4番 ピッチャー・北瀬遼・1年
5番 ファースト・三島優太・1年
6番 レフト・山内・3年
7番 セカンド・福田・3年
8番 ショート・小林・3年
9番 センター・大田・3年

で市大三と比べるとスタメンは正捕手の渡辺とピッチャーの真田が変わっています
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