【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
スーパーラウンド2戦目の相手は、世界中の野球人が憧れる聖地メジャーリーグが開催される場所、アメリカ。
全員が圧倒的なフィジカルを持っており体幹、肩、パワーは圧倒的で不安定な姿勢からでも精確な送球を行い、本塁打を狙うパワーヒッター多数。
控えめに言って化け物の巣窟である。
今回MLBが運営している野球育成機関、ウインドユースアカデミーからも多数参戦。
それもあって親善で戦った成宮と御幸、そして何より既にメジャー契約が実質ほぼ内定してる北瀬に強い興味を持っているらしいが……
これまでの戦いで伺える、アメリカ上位打線にも劣らぬ薬師黄金世代。特に異常な打率をこの国際試合でも維持している伊川も、強く警戒している。
親善のようにインコース甘めによる有利がないため、御幸も厳しい戦いになると予想している様だ。
今回日本相手に登板する予定のコンラッドは、日本のデータを見て不思議に感じたらしい。
「あれ? ボス、オープニングラウンドで外野手やってるんだけど、キタセって投手じゃなかったか?」
「コンラッド……お前ちゃんとデータ見たのか? 奴は今年のジャパンの中でも、非常に優秀なバッターだぞ」
「マジか! ……今年のジャパンはヤバくね?
親善試合で戦ったナルミヤも、凄く良いピッチャーだったし。また戦えると良いなー」
彼は長身のサイドスロー、ウインドユースアカデミー出身で親善試合でも投手を任された投手。
長い手足から繰り出される豪速球とスライダーは、左打者相手には滅法強いがセットポジションに難がある、右打者への攻め方はやや改善されたようだ。
かつてスタジアムで憧れた伝説の左腕投手と、自分とほぼ同世代で同じ領域に既に達している北瀬を強く警戒しているらしい。
そして彼は、成宮との再戦を望んでいる。
一方、日本のエースである北瀬は残念がっていた。
「残念だなー、俺アメリカ相手に投げたかったんだけど」
「よく分かんねぇよな。お前が1番強いんだから、アメリカ相手に投げさせれば良いのに」
「成宮さんも降谷さんも本郷もいるし、俺が1番って事も無い気がするけど……」
最難関の敵であるアメリカにエースを起用しなかったのには、もちろん理由がある。
スーパーラウンドは、勝ち抜け戦では無いからだ。
4戦4勝の日本は、勝てるか怪しい相手に全力を注ぐよりも、勝てる相手に確実に勝つ事が求められるのだろう。
試合前、並木監督がこのような事を言った。
「アメリカ代表は確かに強い
___でも、君達なら勝てる相手だ。日本の高校野球史上、最も強い君達なら絶対に勝てると信じている」
『ハイッ!!』
U-18日本代表の優勝経験は、未だかつてない。
だからこそ、俺達が絶対に勝つ! 彼らはそうやって、チーム意識が強まっていた。
前例に無いこの大会での優勝は、俺達の実力や名声を飛躍的に高めてくれる。だから、皆で頑張って勝ち抜こう!
そう言った空気感が、なんちゃって強豪校出身の薬師部員達にも蔓延していた。
割と彼らは、周りの空気に流されやすいのかもしれない。
まぁ、チーム仲が良いのは良い事ではないだろうか。
1回表、アメリカの攻撃は1番マルコ。
ムキムキマッチョで足が速く、恵まれたフィジカルを盗塁に活かしきっているバッターである。
対して日本の先発ピッチャーは、日本3強投手の本郷。
彼は、アメリカ相手だろうと無失点で抑え切ってやると意気込んでいた。
___バシッ!
「ストライク! バッターアウト!」
本郷は、簡単に3球で1人目を抑えてしまった。
自分やアメリカの実力に自信があるマルコは、マジかよという顔をしている。
2人目のバッターはハイマン。アメリカ代表としては珍しい技巧派で、選球眼が非常に優れている。
___ガキ!
___バシッ!
「ストライク! バッターアウト!」
だが、そんな事は関係無かった様だ。
本郷-御幸バッテリーによって、呆気なく見逃し三振にさせられていた。
ツーアウトランナー無しと追い込まれた状態で出てきたのは、ラインハート。
典型的なパワーヒッタータイプだが、ミート力も意外とあるらしい。
___バシッ!
「ストライク、バッターアウト! チェンジ!」
そんな強敵相手でも、本郷はその意気込み通り怪物球威で圧巻の3人切り。
圧倒的な重量と変化球のキレに、アメリカチームもかなり苦戦していた。
1回裏、日本代表の攻撃は1番秋葉。
今回の打順は、とにかく1番から5番で点を取って来るスタイルの様だ。
アメリカの先発は、ウィード。
重い球が持ち味で、球も割と速い。本郷と似たプレースタイルのピッチャーである。
___バシッ!
「ストライク、ツー!」
ツーボールツーストライクと、追い込まれた秋葉。
だがこの程度、彼にとって困難の域には入らない。ヒットを打ってやると、秋葉は闘志を燃やしていた。
___カキ
「……セーフ!」
微妙な音が鳴っていたが、割と良い所に飛んでいったのでどうにかセーフ。
彼の走力はDと代表選手の中ではけっこう鈍足なので、ギリギリの走りだった。
ちなみにこの大会の能力平均は、高校生基準のパワプロ表記ではC〜B程度である。
「秋葉ー! それじゃホームラン出ねーぞー!!」
「カハハハ……次はホームラン!!」
「まぁギリギリヒットだし良いんじゃね?」
「まだ行けるでしょ? もっとちゃんと打ってよね!」
普段通りの野次が飛び交い、日本語が分かるアメリカの選手は困惑していた。
アキバはしっかりヒットを打ったよな? 何でホームラン打てとしか言わねぇんだ?? という反応である。
薬師高校の部員の考え方は頭薬師である事を、アメリカ代表は当然知らなかった。
ノーアウトランナー1塁で、打席には2番伊川。
___バシッ!
「ボール、フォア!」
「積極的に打ちに行けよー!」
「フォアボールは甘えだぞー!」
「打てるんだからさぁ、もっと積極的に頑張りなよ!」
「いいじゃん、塁に出たんだからさ!」
これまでの試合で、ストライクゾーンの違いや審判の誤判定について学んでいた為、余裕の表情でボール球を見逃しフォアボールで出塁。
だが日本代表のメンバーは伊川にブーイング。
お前は打とうとすれば絶対打てるのに、何でフォアボールを狙うんだよ。普通に考えたら打ち得じゃん! という反応である。
アメリカチームは、日本の謎のブーイングに大層困惑していたらしい。
ノーアウトランナー1・2塁で、打席には3番北瀬。今日はレフトでの出場。
アメリカチームも、秋葉や伊川よりも評価されているらしい3番の北瀬をかなり警戒していたが……
___カッキーン!
「うっしゃ!」
「カハハハ……ナイスホームラン!!」
「ガハハハ、やっぱホームランは良いよなぁ!!」
「流石、甲子園を2連覇しただけはあるね!」
それでも、北瀬がいつもの3ランホームラン。
最初は余裕ぶっていたアメリカチームも、だんだんと不味い流れを感じ始めていた。
続く轟が2ベースを打つも、三島は天高く打ち上げ御幸はゴロ、カルロスは見逃し三振でスリーアウト。
初回の日本代表は、3得点で終わった。
……
2回は双方得点無しで終わり、3回表アメリカの攻撃、
4番カーライルと7番ロバートが出塁してしまい、ツーアウトランナー1・3塁の場面で出てきた8番ウィリアム。
1塁ランナーは盗塁に自信があるのか、リードを大きく取っていた。
___ザザッ!
ロバートが盗塁しようとした瞬間、本郷が1塁に投げた。
完璧なタイミング、これは絶対にアウト!
「あ、やべっ」
『えっ…………?』
……と思いきや、三島がまさかの捕球ミス。3塁ランナーはホームに突っ込み、1塁ランナーも2塁に進んだ。
普段在籍している薬師野球部には、送球する時優しく投げる暗黙のルールがあるので、本郷の剛速球なんて三島に取れる筈が無かったのだろう。
双方ベンチ含め球場が静まり返った後、守備位置変更で三島が3塁に移動した。
ちなみに、3回裏で三島は秋葉、伊川、北瀬が出塁した後に満塁ホームランを放って会場を盛り上げた。
酷い守備難に見合うだけの結果を出した以上、本郷も一先ずは怒りを飲み込んだ様だ。
こうして人は成長していくのかもしれない。
こんな惨事がありながらも、5回までで2-7と日本優勢。
並木監督達は本郷にこのまま続けさせるかどうか悩んだが、決勝登板予定の北瀬に万一があったときの為に本郷の肩を温存することを決定した。
そして5回裏、降谷が地味に国際大会初登板の時。
___カキーン!
___ガキーン!
「アウト!」
___カキン!
___カキン!
___カキン!
___カッキーン!
降谷の球は先ほどまで攻めあぐねた本郷に比べると非常に軽いとみられ、長打を撃ち込まれた。
カルロスがアウトを取るも次の回も細かくヒットを打たれ、カーライルに満塁打を受けてしまい、最終的には2回7失点で9-10で降板。降谷はしなしなになっていた。
「ガハハハ、よくある事だ! 気にすんな!!」
「7失点なんて、誤差範囲だろ」
「ドンマイ降谷さん! そんな事もありますよ!」
「何で北瀬は降谷に敬語使ってんの? ……弱みでも握られてる?」
ちなみに薬師部員達は、炎上耐性が高すぎて欠片も気にしていなかった。
「おっ、俺が登板かぁ。まー相手は薬師程じゃないし、大丈夫でしょ!」
そんな事を言っていた天久が登板するも反撃ムードに押し込まれ、伊川轟が本塁打を撃ち込むが後が続かず、9回では下位打線が全く打てず結果13-13で延長戦へ。
10回表では天久&御幸バッテリーが必死で抑え込もうとするも、三島方向に打球が飛んでいった事により運悪く1点取られてしまった。
絶体絶命のピンチ。ここで打席に立つのは1番の秋葉。
今大会のヒット数ランキングは3位。
1位の伊川と2位の轟はバグじみたプレイヤーなので、実質1位と言っても良い成果である。
___カキーン!
青特の固め打ちも発動して、結果アメリカのコンラッド相手からツーベースヒットを奪い取っていた。
「そこはホームラン打っとこうぜ!」
「カハハハ……ドンマイカズマ!」
「ツーベースなんだから良くね……?」
「流石にここは褒めるべきでしょ! ナイス秋葉!!」
絶体絶命のピンチで得点圏にランナーを置いたのにも拘らず、相変わらず日本ベンチは塩対応。
秋葉はため息を履いた後、気を取り直してリードを取った。
ノーアウトランナー2塁で、打席には伊川。
アメリカの守護神であるコンラッドからは、化け物の様に見えている。
伊川自身知らなかったが、ここでメッタ打ち、対左A、チャンスA、マルチ弾が全発動していたのだ。
最も伊川と近い距離にいた捕手のカーライルは、伊川の発する圧が桁違いに跳ね上がっていることに戦慄した。
伊川始という男、最初から神懸った精密なバッティングのパフォーマンスを発揮していながらまさか、スロースターターだとでも……?
そう考えている中、コンラッドが投球。
___カッキーン!!
『わああぁぁ!!』
結果遥かに飛距離のついた2ランで、逆転サヨナラ。
延長10回、14-15で日本チームの勝利。
「うっしゃー俺達の勝ち!」
「ギリギリの戦いだったなー」
「カハハハ……もっとホームラン打ちたかった!!」
「ガハハハ、スリーランホームランが出来て嬉しいぜ!」
「このまま行けば、初優勝まで行けるんじゃないか?」
試合後、薬師メンバーはこんな事を話しながら喜んでいた。
一時は負けていた事もあり、強敵アメリカ相手に勝てた事が嬉しかったのである。
まあ甲子園出場と比べるとあまり喜んでいないが……彼らにとって、世界大会よりも甲子園の方が重要なのである。
野球に詳しい人材がいないので、悲願のU-18初優勝と言われてもピンと来ないのだ。
チームの雰囲気に合わせて、何となく頑張ろうという気持ちにはなっているだけマシだと言えるだろう。
ここまで全勝していたアメリカチームは、スーパーラウンドでの手痛い1敗に苦しむこととなる。
無論この後勝てば決勝に上がれる可能性も十二分にあるが、世界1が求められている彼らのプライドをかなり傷付けたのだ。
……アメリカ代表は最強を自負しているとはいえ、国際試合では北瀬のような明らかに外れている人間が1人2人混じっている可能性は想定していた。
だがまさかカーライルと同等以上のバッターが5人、いや頭一つ更に上の打者が3人いる事は想定していなかった。
おまけに、最強のエース北瀬を温存されてしまったのだから堪らない。
だが当の主砲兼キャッチャー兼キャプテンのカーライルは、落ち込むというより、どうにも試合中最後の打席の異常さが頭から抜け切らなかった様だ。
「……アキハは優れたプレイヤーだ。トトロキ、ミシマも……まあ打撃は素晴らしい」
「キタセリョーも、間違いなくペープルースのような何十年に1人の逸材であるがまだ分かる」
「だがイカワ___あれはなんなんだ? 本当に同じ人間なのか??」
「アレはサイン盗みではない。コンラッドの指から離れた瞬間に、あらゆる理屈を無視して割り出してたとしか……」
「あれじゃまるで、サイキッカーだ……」