【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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124球目 英雄

 

 

 

 

U-18各チームの順位は、スーパーラウンドでの試合結果と、オープニングラウンドの試合のうちスーパーラウンド進出チームとの対戦結果を合算して求められ、決勝進出チームが決まる。

つまり、オランダ・台湾・韓国・アメリカに勝っている日本はU-18決勝に行ける事が既に確定しているのだ。

 

だからと言って、負けても良いやなんて思う選手は日本代表になんてなれない。

なれないハズ、だったが……

 

 

「なぁ秋葉、俺達って決勝進出が決まってるよな?

だったら皆の体力回復を考えて、次の試合を辞退した方が良くね?」

「それは……倫理的にアウトだろ」

「確かに観客のチケットも有料らしいし、俺達が戦わない訳にはいかないよなぁー」

「なんか違う気が……」

 

北瀬と伊川は、負けても良い試合なんて放棄しても良いんじゃないかという意味不明な発言をしていた。

野球人として完全にアウトな言動だが、秋葉はちゃんと彼らに説明出来なかったらしい。

そうかな、そうかも? という微妙そうな顔をして話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

一方相手チームのベネズエラも、日本チームの強さに絶望していた。

 

 

「あんなの、どうやって勝てって言うんだよ……」

「俺達そもそも、スーパーラウンド敗退確定なのにな……」

 

そう、彼らは4戦4敗とどう足掻いても3位決定戦にも出られない事が確定しているのだ。

谷間の世代と評されている今回のU-18ベネズエラ代表は、どうにかスーパーラウンドに進んだは良い物の、強いチームにはサンドバッグにされ続けていた。

 

特に次の相手は、投壊と謳われる日本代表。

観衆の目前で、俺達どうなっちゃうの……? と震えても仕方ないだろう。

 

こうしてお互い戦いたくないと思っている野球が始まった。

 

 

 

 

 

 

1回表、日本代表の攻撃は1番秋葉。

今大会の活躍で、ドラ1指名が噂されている選手である。

 

相手のピッチャーはベントソ。

147kmのストレートにカーブとフォークを使い分けるが、メンタルが弱く一発病を患っていて強化版丹波みたいな選手である。

 

ちなみに丹波というのは1年前の青道高校のエースであり、140kmのストレート以外は全くベントソと同じ様なプレイヤーであった。

強打の青道高校は毎回ピッチャー不足に悩まされていたのだが、それを象徴する様なエースだったのかもしれない。

まあ実は、地方大会が終わって引退した後にメンタルの弱さと一発病を克服したらしいので、ベントソの強さは今の丹波以下なのだが……

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

秋葉一真は、初球から甘く入った球をホームランにしてしまった。

 

「よっしゃホームランキター!!」

「ガハハハ、ホームランは気持ちいいぜ!」

「やっぱ凄いねー! 打撃は俺より上かもしれない」

「そもそも鳴は二刀流タイプじゃないしな」

 

初っ端からの花火に、会場中が大きく盛り上がった。

日本代表達も楽しそうにしているが、ベネズエラ代表達の顔は完全に青くなっている。

 

 

「Oye, ¿no era Akiha del tipo carnoso? (おいおい、秋葉はミートタイプじゃ無かったのか?)」

「Dame un respiro, me masacrarán a este paso. (勘弁してくれよ、これじゃ虐殺されちまう)」

 

彼らは谷間の世代らしく割と卑屈だったので、この一発だけで日本代表に勝てる気がしなくなってしまった様だ。

 

 

 

 

初回からホームランが出たこの場面で、2番バッターは9割打者の伊川。

 

 

(ふあぁぁ眠いめんどい、試合って面倒くさいなぁ……真田先輩達もいないし)

 

そんな事を考えている彼は、寝不足らしく眠そうな顔をしているが、最強の安打製造機としての威圧感は隠せていない。

 

実はベネズエラはピッチャーを使い切っている為、3番手ピッチャーのベントソを使い続けるしかないのだが、伊川の得体のしれない威圧感でもう彼の心は折れかけていた。

 

 

___カッキーン!

 

過呼吸を起こしながら投げたボールはすっぽ抜け、案の定伊川は景気良くカッ飛ばしていた。

 

 

(あっ、別にホームラン打つ気は無かったんだけどな。あまりにも甘い球だったから、つい飛ばしちゃったわ)

 

伊川はそんな本音を内心零しながらも、悠々とダイヤモンドを一周していた。

ベントソは2回連続ホームランを打たれ、白目を剥きかけている。

 

 

 

 

2連続でホームランを打った日本代表、3番手バッターはレフトの北瀬。

メジャークラスのミート力とパワーを持った、正に完璧超人である。

 

 

(調子は普通な感じがするけど、彼相手なら絶対ホームラン行けるな!)

 

「この打席、どこまで飛ばせるか……勝負だ雷市!」

「カハハハ……マケナイ!!」

 

ホームランを飛ばすのは確定事項、戦いはどこまで飛ばせるかだという酷い宣言をしながら、自信満々にバッターボックスに立った北瀬。

勝てるという思い込みの強さが威圧感を上げ、ノミの心臓を持つベントソを怖がらせている。

 

 

「¡miedo! (怖っ!)」

 

恐怖の薬師打線の迫力に飲まれながら、何とか投球を開始したベントソ。

 

 

___カッキーン!!

 

打球はバックスクリーンに直撃、3連続のホームランが出てしまった。

 

 

「すっげ、宣言通りの特大ホームランじゃん!」

「バックスクリーンに当たったから、飛距離は上がらなかったけどね!」

「ホームラン祭りじゃー!!」

「直撃して飛距離が短いて、どういうこっちゃねん……」

「カハハハ……! 絶対打つ……!!」

 

 

 

 

完璧なホームランの連続に日本代表のボルテージが高まり続けながら打席に立つのは、4番の轟雷市。

ネットで薬師雷砲と呼ばれたりする彼は、その名の通り日本一の投壊野球チーム薬師高校の主砲である。

 

 

「カハハハ___ホームラン!!」

 

ベントソ視点では、ホラー映画に出てきそうな笑みと共にベントソの心をを破壊するべくやって来た悪魔、轟雷市。

もう変えてやれと思う位ピッチャーは顔を青くして震えているが、マシンガン継投で戦って来たベネズエラには他に出せる投手が居ない。

 

一旦タイムを取って落ち着かせようと試みたが、彼は故郷に帰りたいと口にするばかりで何も変わらなかった。

そして……

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

 

場外への特大ホームランで、ベネズエラ代表達の心を完全に圧し折ってしまった。

 

 

「Se acabó… (おしまいだ……)」

「No es bueno (駄目だこりゃ)」

 

谷間の世代らしく優秀な纏め役も不在な彼らは、諦め切った表情を隠せていなかった。

監督は、お前自身の出世の為に最後まで頑張れと口にしていたが、選手達はもうここまで試合が崩壊したら何やっても変わらないだろうという反応。

 

国旗を背負って戦っているという矜持を、完全に圧し折られてしまっていた。

 

 

 

 

相手選手の目が全員死んでいる中、楽しげに登場して来たのは5番の三島。

彼も非常に優秀な長距離砲であり、ハズレ1位の可能性が高いと噂されている。

 

 

「ガハハハ! 北瀬がバックスクリーン直撃で、雷市が場外に特大ホームランか……俺はどっちをやろうかな!!」

 

もう今回の試合の事をホームランダービーだとしか思っていない三島は、自分が目立つ妄想でニヤニヤしながらバッターボックスに立った。

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

結果は観客席へのホームラン。

前打者合わせて5連続ホームランという、ここは本当に世界大会なのだろうかと観客達を困惑させる様な結果を残した。

 

 

「クソッ、完全には芯で捉えられなかったか?

……ガハハハ、まぁホームランはホームランだからな! 今回はこれで良し!」

 

だが三島本人は納得いっていない様だ。

バッターとしての雷市を、ピッチャーとしての北瀬を超えるという目標をずっと持ち続けている彼は、これ位では満足出来ないのである。

悔しげな顔をしなから、グラウンドを一周していた。

 

 

「三島も良いバッターだよなー!!」

「歴代日本代表の中でも相当凄いバッターだろ! ……守備はアレだけど」

「薬師野球部はやっぱスゲェな!! 轟メソッドみたいなのがありそうだ!」

「三島ー! お前も最高だー!! プロに行っても推し続けるぞー!!」

 

観客達は、彼ら薬師野球部5人の圧倒的な成果を見て、感嘆の声を上げながら称賛していた。

 

 

 

……

 

 

1回表は打順が1周し、脅威の10得点。

5連続ホームランに心がヤラれていたベネズエラのピッチャーが、下位打線相手でも派手に炎上していたからである。

 

対して日本は、昨日投げていないピッチャーの1人である成宮を登板させ、圧倒的な三振劇を繰り広げさせていた。

成宮本人は「投げられるのは嬉しいけどさー、俺が何やっても勝ちが決まってる試合だよね……」と微妙そうな顔をしている。

 

どうせ明日の決勝は、最初から最後まで北瀬が投げる。

……だけど、万が一事故が起きたらアメリカ相手に投げられる事を考えたら、今日は投げたくなかったのだ。

脅威の継投投手達が抜けたベネズエラ相手に勝った所で、対して嬉しくないのである。

 

彼は自分が入学する高校に、優秀なシニアの選手をスカウトして黄金世代を作ろうと画策する位勝ちに執着しているが、同じ位自分の手で勝敗を決めたいと考えているのだ。

今回みたいに勝っても負けても何も変わらない上に、消耗し切ったチームを相手するのは好みでは無かった。

 

 

 

 

3回表で23点差が付き、次の回からは並木監督の指示で三振策を決行。

勝利が決まった場面で無理に選手達を疲れさせる必要は無いという、彼の冷静な判断による物だった。

 

日本の勝利ムードは7回から降谷が登板しても変わらず。

絶好調の彼相手に1点も取れず、ベネズエラ代表は最初から最後までボコボコにされて試合が終わった。

 

 

 

 

 

 

北瀬は伊川に対して、試合後ホテルのロビーでつまらなさそうな顔をしてこう話した。

 

「それにしても、今回の相手凄い弱かったなー……

薬師野球部員だけとか、稲城実業野球部員だけとかでも勝てたんじゃね?」

 

その相手を舐めている言葉に、大阪桐生の3年生でU-18キャプテンの赤川が、次元の違う天才相手に少し萎縮しながらも注意した。

 

 

「……相手を軽視する様な発言を人前でするな

俺達は日本代表なんだ、日本語で話しているとはいえ、注意するに越したことは無い」

『すみません!』

 

中学生の頃の治安の悪さから相手を深く思いやろうという発想が無いだけで、性根が腐っている訳ではない彼らは納得してキャプテンに謝った。

実質高校生になってから野球を始めた北瀬と伊川は正直、日本代表の重みはあまり理解していないが……

ベネズエラ代表の悪口を公然の場で言う良くないという事は、一応理解したらしい。

 

立場が人を作るというが、確かに彼らは昔よりも遥かにマトモな人間になり始めていた。

環境というのは、人間の性格を決める重要な要因である。

 

 

 

 

 

 

「Es una pesadilla… (悪夢だ……)」

「Después de todo, el béisbol es un deporte de talentos. Mis esfuerzos no tuvieron nada que ver con ellos.

(結局、野球なんて才能のスポーツだよ。俺の努力なんて、あいつ等には全然関係無かった)」

「¡Basta, basta! ¡Dejo el béisbol!! (止めだ止めだ! 野球なんて辞めてやる!!)」

 

そんな真面目な日本代表達の言動は、ベネズエラ代表達には全く関係無かったらしい。

ピッチャーのベントソを含めた数人は酷いイップスにかかり、野球を辞めた。

 

ただでさえ谷間の世代だと揶揄されて精神を消耗していた彼らは、今回の出来事で完全に心が折れたのだ。

 

 

 

もちろんコレは、日本代表達が悪い訳ではない。

英雄とは、多くの人の夢を打ち砕き……それ以上の人の夢を背負う物なのだ。

今年のU-18日本代表メンバーは、望む望まないに拘らずそういう運命である。

 

 

「これがこっち側の景色か……俺もいつか、自分だけの力で勝てる様に……!」

「ん? 今なんか言ったか?」

「何でもないよ!」

 

まあそもそも、国内大会で散々薬師に蹴散らされながらも最後まで足掻いていた日本代表メンバーがベネズエラ代表達はたった1回の試合で心が折れたと聞いたら、あまりにもメンタルが貧弱に感じられて内心コケにするだろうが。

 

 

 

 

 

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