【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
スーパーラウンドも5戦5勝と、圧倒的な実力を見せたU-18日本代表。
裏で行われている試合は既に関係なく、世界大会決勝戦への出場が決まっている。
そんな中、食事処でガツガツと飯を食べているのは雷市・伊川・真貝。
それ以外の選手は箸が進まない様子で、一口一口嫌そうな顔をして食べている。
「カハ、カハハハ……おいしい!」
「なぁ雷市、俺の分食ってくれね?」
「ミッシーマ食べないの……? いいよ!」
「え、じゃあ俺も!」
「俺もお願い!」
「頼むわ!!」
こうして、ドサドサと雷市の前に積まれていく料理。
慣れない異国の味と言うのもあるが、単純にこの国の料理は基本マズいのだ。
「カハハ……食べられるかな……」
「じゃあ半分俺が食うから」
「アリガト!」
そこに助け舟を出したのが、意外と普通に食べられている伊川。
昔はご飯を食べるのにも苦労していた事を思えば、この位なんてこと無いのだ。
こうして異国の料理に苦しめられながら、彼らの時間は過ぎていった。
今年の日本代表は異常だ。
そう確信しているアメリカ代表は、北瀬攻略の足掛かりを得るべく、研究の為急遽入手した字幕付きの夏甲子園決勝の本郷正宗対北瀬涼の試合を見ていた。
彼らの目を引いたのは、圧巻のピッチングを見せる北瀬や本郷ではなく、何故か伊川の打った所にワープしてくる巨摩大藤巻の野手陣だった。
「コレどうなってるんだ?!」
「理解不能だ……イカワの打つ場所を、事前に予測しているとしか思えない」
「待て。何らかの方法で、イガワが打つ可能性のある場所を絞っているんじゃないか?!」
「うーむ、研究する時間がもっとあれば俺達でも出来たかもしれないが、今の段階では無理そうだな……」
5回裏、三島と主砲の雷市がメンバーから外れた事に衝撃を受けた彼ら。
日本通の選手に、これはどういう事がと質問した。
「おいおい、何でライチとユータがここで交代なんだ? 確かに今日の彼らは不調に見えるが、流石に変えちまう必要はねぇだろ」
「この大会は夏の甲子園って言うんだけど、スケジュールが非常に過密なんだ
この前の試合は39-81という有り様で、彼らは非常に疲れているのさ。前回の試合の後、薬師メンバーは3人入院したらしいし」
「マジかよ」
「国内大会如きに、そこまでやらせるか?」
日本人とは感性が違う彼らは、甲子園如きに死力を尽くして戦う雷市達が理解出来なかったらしい。
そこまでして戦う必要があったか? と思いながら、試合を真剣に見ていた。
甲子園決勝戦のビデオは、遂に8回裏が再生され始めた。
シングルヒットの後ファーストのエラーが出て、キャッチャーが後逸した後にショートがゴロ処理をミスって脇腹に鋭い打球を受けて2失点の場面。
アメリカ代表達は、薬師高校のあまりの守備難に困惑していた。
「あー……元々チームヤクシは超弱小校で、ベンチ割れすらしてたらしい。リョー達が入ってから強くなったから、守備難の選手ばかりなんだろうなァ……」
「1-5番まで国際大会出場選手かよ、なんでここまでやれるやつらがベンチ割れの弱小スクールに入ったんだ?」
「……まあ経済的な理由だと別に俺達が言えた口でもないか、ジャパンは学費高いって聞くからな」
そして9回表、交代で出てきた真田がヒットを打ち、キャッチャーもヒットを打ってワンアウト満塁の場面で出てきた北瀬に歓声を上げた。
「ヒュウ! ここでスーパーヒーローのお出ましか!!」
「ここで打てなきゃ勝ち目はねーぞ?!」
「てかシュンペーサナダ、キャプテンマーク付けてたな」
『今試合初のホームラン! カオルユイとハジメイガワ、そしてシュンペイサナダ。2人の相棒とキャプテンに答える、天を突き破る流星の如き一振り!
これで試合は一気に逆転! この場面で4-2に!』
北瀬の大活躍に、割と薬師高校に肩入れしていたアメリカ代表達は歓声を上げた。
「カッッケーな!!」
「二刀流って奴か!」
「自分で投げて自分で打ってやがる……」
「勝負あったな! 流石にさっきみたいな不運は2回も起きないだろう」
そんな彼らの予想通り、9回表の北瀬は打たれなかった。
世界最高峰の野球の天才としての実力を遺憾なく発揮し、三者三振で仕留めていた。
『長い……長く暗いトンネルのような戦だった。苦しかったこの戦いを制したのは最強投手リョウキタセ!!
高校野球のレベルを遥かに超えたこの投手戦。決め手となったのはエースキタセの花火……投打ともにジャパン最強を示したと言えるだろう!』
『そして今見事、薬師は今年春夏連覇を果たした!』
『試合前、甲子園を制したこの偉大なるエースが語った「レッドの優勝旗をキャプテンに持たせたい」その言葉のとおりに優勝旗が、今薬師のキャプテンシュンペイサナダの手元に……今渡った』
厳かに渡される、赤の優勝旗。
アメリカ代表は字幕を読みながら、日本人にとって甲子園は大切な戦いなんだなぁと少しだけ納得していた。
ここでビデオを止め、アメリカ代表の監督はチームメンバー達に今回分かった事を討論させようとしている。
「試合を見て、何か分かった事を言っていこう!」
「……リョーはスライダーとスローボールを温存していたのか?」
その言葉に、監督は悩みながらこう返していた。
「それはどうだろうな。確かにその可能性はあるが、多分キャッチャーが取れないだけだろうな
最速165kmのピッチャーの球を、即席バッテリーのキャッチャーが完全に使い熟すのは厳しいだろう」
「そりゃそうだな!! 最後だから3球種で行くぜってならない事を期待してるわ!」
この討論会は1時間を超え、途中雑談になりながらも真面目に話していた彼ら。
だが最終的には、伊川始超能力研究所脱出者説なんて物も出てくる様なめちゃくちゃな結論になったとか。
まあ実際の北瀬達もチェンジリングされているというハチャメチャ具合なので、フィクションじみた能力という意味では合っているのかもしれない。
U-18決勝戦が始める頃、薬師野球部は食堂に集まってワクワクとしながら試合を見ようとしていた。
「北瀬さん、今日も完全試合出来るかなぁ?!」
「雷市さんもホームラン出して欲しいよなー! 2・3発位!」
「向こうは流石に伊川さん対策して来るか?」
「どれだけ対策しようと、アイツらは止められねぇよ!」
『ですよね!』
現2年生に絶対の信頼を置いている薬師部員達は、優勝した事が1度も無い日本代表の勝利を疑っていなかった。
関心は、どれだけ差を付けて勝てるかと言う事だけ。
尊敬している彼らがどれだけ力の差を見せつけられるか……部員全員がワクワクしながらテレビを見ていた。
『1回表、先発はやはりこの男、日本総大将の北瀬涼!
MAX165kmでキレキレのサウスポー、変化球もスライダーやカーブ、フォークにスローボールを使い分ける正に世紀の天才!
この試合、どんな投球を見せてくれるでしょうか?!』
『U-18ワールドカップ日本代表は、今まで1度も優勝経験がありません
だから絶対に北瀬くんが抑えてくれるとは言い辛いですが……彼は絶対的な才能を持っています!
きっと彼なら、私達を頂点まで導いてくれるでしょう!』
実況者が話す、アメリカのバッターよりもエース北瀬が優勢とする予想を聞き、薬師部員達は当然だろうと頷いていた。
日本最速ピッチャーの相棒である由井も、北瀬達が勝つだろうと確信を持って試合を見ていた。
「北瀬さんを見てると、日本初のU-18優勝なんて当然な気がして来るよ」
「当たり前だ……真田先輩からエースナンバーを奪い取り続けたんだから、それ位やってくれなきゃ困る」
「奥村くん、何か凄い真田キャプテンに懐いてるね」
「…………」
プイッとそっぽを向き、由井の言葉を無視した奥村。
あの人を追いかけてここまで来たけど、別に子犬の様に懐いてるって程じゃないし……俺と真田先輩は対等なバッテリーだったし……
そんな事を考えながら、奥村は知らん顔をしていた。
基本的に愛想が悪い奥村が、真田キャプテンによく言及する時点で特別対応なのだが、彼はその事実を見なかった事にしているらしい。
そう言った好意的な感情を見せないからチームメンバーと良く揉めていたのだが、そんな簡単な事に彼は気付いていなかった。
ちなみに彼は1週間前程に退院してから完全復帰して、練習に参加している。
極度の疲労も取れて、普段のツンツンした性格が戻って来ていた。
『彼の投球を一目見ようと、世界中から野球ファンが詰め掛けています!
彼は既に国内で収まる器ではありません、世界のKITASEとして、大会の歴史に名を残そうとしています!!
注目の初球……163km! 101マイルを超える圧倒的な速球!!』
『これで最速では無いというのですから、高校生の身体だとは思えませんね
その上速さだけではなくコントロールや変化球も抜群だと言うのですから、既にプロを超えている逸材だとすら評されるのも当然ですよ』
『ストライクッッ! これでスリーアウトチェンジ!!
1回表、エースの球数はたったの8球! 日本の北極星たる実力を見せつけてくれました!』
『一見北瀬くんが1人で戦っている様に見えますが、そうではありません
キャッチャーがゴロを打たせる指示が出来るのは、日本代表メンバー達の守備を信頼しての事ですからね』
『今年の日本代表は、少々守備が荒い一面を見せていますが……それでも尚、エースやキャッチャーは野手陣を信頼していると言う事でしょうか?!』
当然ながら今年のU-18日本代表も、大体のメンバーは守備難ではない。
スモールベースボールを掲げている日本の代表なのだから、普通守備が出来ない選手が選ばれる事は無いのだ。
つまり今年の日本代表の守備が悪いのは、全部薬師高校のせいである。
自チームの圧倒的な打撃力を誇りに思っている1年生達だが、今大会の守備の事は少し恥ずかしく思っていた。
まさか昨年度の日本代表総エラー数の5倍を、三島先輩が1人で稼いでしまうなんて……あれだけ打撃は凄いのに、何で守備のセンスは無いんだろう?
彼らは当然、北瀬と伊川のパワプロ能力を知らなかった。
『まぁ守備難の選手は、北瀬くんも所属する薬師高校部員だけですからね
特によろしくない轟くんはDH専任ですし、今回は三島くんもスターティングメンバーに選ばれていない事が大きいのではないでしょうか』
『三島くんは今大会、満塁ホームランを含む15得点を上げています!!
ですからスタメン出場でも良いと思うのですが……流石に完全試合の可能性がある北瀬くん登板時には、出場させられない様ですね……』
『2番打者の秋葉くんまで抑えた、アメリカ代表のマイケルくん。ですがこの場面で颯爽と現れるのは! 今大会打率8割の伊川始!!
彼の世界最高峰の打撃は、非常に見応えがありますよ!』
『高校生の段階で、ベーブルースの再来とまで言われる北瀬くん。その彼の実力すら、伊川くんは超えているだろうと有識者はこぞって口にしています
……実際どうだと思いますかね? 165kmのストレートを持つ北瀬くんも、100年に1度の天才と評されるべき実力者なのですが』
日本チームの怪物の1人伊川始は、圧倒的打率と存在感で以てこのキューバで既に多くの者達をそのプレーで魅了していた。
……あとまあ単純に顔が良くて口の上手さが無駄に上達してパット見人当たりがいいので、ライト層へのウケがかなり良くなったのもあるかもしれない。
『迷い所ですね……北瀬くんも伊川くんも、日本が誇る世紀の天才ですし!
そんな彼らは、春のセンバツでバッテリーを組んでいた事もありました! 小学校の頃から同じチームにいた彼らは、正に相棒と言って良いのではないでしょうか!!
ああ! 話している内に、伊川くんは簡単にツーベースヒットを放ちました!』
『正にチャンスメーカー、天才の一撃といった所でしょうね。あれだけ守備の穴を正確に狙える選手は、メジャーリーグにも居ないでしょう』
薬師野球部の実質クリーンナップである秋葉が討ち取られた事を残念がりつつ、薬師メンバーはワクワクと言った表情を崩さずに試合を見ていた。
段々と1年生達も、先輩のクソ度胸が身に付いて来た様だ。
「秋葉先輩が打てなかったの残念だよな!」
「あの人は後半強くなるタイプだし……固め打ちって感じ」
「伊川先輩なら、絶対にヒットを打ってくれる!」
「ホームラン打ってくれないかな!!」
「あの人はそういうプレイヤーじゃないだろ」
深夜テンションもあって、ギャーギャーとはしゃいでいる薬師野球部員達。
彼らが住んでいる寮の隣は学校とグラウンドなので、近所迷惑になる事は無い。
なので基本大らかな監督やコーチに上級生達は注意せず、寧ろ1年生達のハイテンションに乗る形で騒いでいた。
日本代表の試合を見て自らを高めようというより、先輩達が活躍してるのを見て野次を飛ばそうと言った雰囲気である。
日本代表メンバーを5人も排出した名門校である薬師高校だが、彼らはかなりいい加減だった。
彼らにとっての祭りは、後3時間位続く。