【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
157kmの怪物降谷率いる青道高校や、絶好調の天久擁する市大三高。
そして、異次元のキレを持った都のプリンス成宮を倒して夏の甲子園への出場を決めた薬師高校。
U-18日本代表を5人も排出して、正に薬師野球部の全盛期といった環境である。
北瀬や伊川がメジャーからのスカウトの話を聞いている頃、雷市や三島、秋葉に真田といった選手達もプロ野球からのスカウトが殺到していたらしい。
特に雷市はマイナーリーグからのスカウトも数件来た様で、轟監督がホクホクした顔をしていた。
轟親子は契約条件の良い日本野球を優先する様だが、やはり本場からのスカウトは非常に嬉しかったのだろう。
最初は疲れた顔をしていた轟監督だが、段々と対応に慣れてきたらしく幸せそうな顔だった。
先輩達や後輩達も我が事の様に喜んでくれていて、伊川は少しだけ野球への好感度が上がったらしい。
別に野球本体は好きじゃないけど、皆が喜んでくれるのはけっこう嬉しいなと思ったのだ。
こうして彼は、人々との交流によって段々と野球沼に引き摺り込まれて行く……のかもしれない。
国際大会が終わって1週間と少しが経ち、スカウト達への対応が終わった頃、監督が重大発表と評して室内練習場に部員を集めていた。
「よーし、全員集まったな!
じゃあ予定より少し早いけど、重大発表だ! まずは、新たなキャプテンを発表する
かなり悩んだんだが……三島に決定した!!」
「よっしゃあ!!」
「おめでとー!」
「良かったな!」
「カハハ……おめでと!」
「……おめでとう!」
___パチパチパチパチ!
事前に知らされていなかった三島だが、ノータイムで喜び始めた。彼はかなり判断が早い。
伊川は副キャプテンの北瀬になると思っていたのでビックリしたが、別に本人もやりたくないだろうし良いかと三島を祝福する事にした様だ。
「じゃあ三島! 何か一言言ってくれ」
「ウス! ……キャプテンに選ばれて嬉しいです! 薬師野球部を引っ張って行ける様に頑張るから、よろしく!」
三島が一言だけ堂々と普通の事を言った後、轟監督はそのまま副キャプテンの指名に移った。
「おー、頑張ってチームを引っ張ってくれ! 後、副キャプテンは北瀬と秋葉! ちゃんと三島を支えてやってくれよ?」
「はいっ!」
「頑張ります」
北瀬も秋葉も、ほっと一安心した様だった。
なぜなら、彼らはかなりキャプテンに選ばれたくなかったからである。
北瀬は自分は人を纏めるなんて向いていないと考えているし、秋葉は天才達を差し置いて選ばれるのが嫌だったのだ。
……そもそも現2年生でキャプテンをやりたそうにしているのが三島だけだったので、彼を選んだのは妥当な選択だっただろう。
「後、背番号も発表していくぞ!
1番は、分かっているとは思うが……北瀬涼! お前だ」
「ハイッ!!」
キャプテンと副キャプテンの発表という重大なイベントの後、そのまま背番号の発表に移った轟監督。
ベンチ入りメンバー当落線上の1年生はドキドキして仕方ないだろうが、その辺は考慮していなかった。
そもそも薬師野球部には伝統が無いので、いつ背番号が発表されるのかや選考条件などがあやふやなのだ。
えっ、このまま発表されるのか……? と言った困惑している空気のまま、あっさり20人が決まった。
自分が甲子園優勝校のベンチ入りメンバーに選ばれると思っていなかったのに選ばれた花坂は、選ばれた事でドキドキワクワクしている。
(僕が、こんな凄いチームの背番号を貰って良いのかな……ううん、選ばれたんだからしっかりしないと! 頑張るぞ! えいえいおー!!)
北瀬と伊川にはしゃぎながら抱負を言いに行った彼は、微笑ましく思われながら褒められていた。
彼らは、可愛い後輩が出場出来る様に、俺達も頑張らなきゃなと考えたらしい。
まだ花坂の背番号は2桁なので、勝負が付かないと中々試合に出られない状況なのだ。
こうして、新たな薬師野球部の活動は始まった。
世界大会出場組の休息が終わった頃、北瀬との投球練習で由井は戦慄していた。
「あの……球速また上がってませんか? それに、コントロールも良くなった様な……」
「そうかも? なんか最近、ちょっと調子良い気がしたんだよなー」
パワプロ能力によって、球速+3kmとコントロール+7、スタミナ+7に変化量+2、人気者と国際大会○を手に入れていた。
更に変幻自在という、ストレートと変化球を交互に投げると発動。ストレートの体感速度が上がり、変化球の曲がり始めが大幅に遅くなる能力まで獲得していた北瀬。
何故か本人は気付いていなかったが、相当能力が上がっている彼に真っ先に気付いた由井。
俺達のエースがまた凄くなった事を喜びながらも、(あれ……もしかしてまたキャッチング難しくなった?)と内心少しビビっていたらしい。
キャプテンとベンチ入りメンバーの発表があってから少し経った頃、1年前にも合同練習をした渋田南高校と渋田西高校が合同練習に来ていた。
最初に合同練習をした時に、来年は薬師高校に集まって練習しようと約束していたのだ。
夜行バスで来たらしい彼らは、きょろきょろと薬師野球部の施設を見渡しながら感動していた。
「ここが甲子園優勝校の、薬師野球部の施設かぁ……すげぇ充実してるな!」
「あー、1年前甲子園に出てから理事長が建ててくれたんだよ。スゲェよな! これも雷市達のお陰っていうか」
渋田南高校は地方大会ベスト16で、渋田西高校ベスト8で3年生達は引退していた。
彼らの悲願であった、地方大会ベスト8という夢は叶っていたのだ。一緒に合宿をした薬師高校が甲子園で大活躍した事によって、彼らの熱意に火が付いたらしい。
……ちなみに引退している筈の3年生達も、何故かこの合宿に付いて来ていた。
強豪校がどんな感じなのか、かなり見てみたかったらしい。
寮の空きスペースはいくらでもあるから、別に20人位追加で来ても良いっすよーと、轟監督がまた適当な許可を出したのだ。
彼らの宿泊場所を案内しに来ている、真田前キャプテンと平畠前副キャプテンに、北瀬と伊川。
前に話した事がある選手達と、雑談しながら寮を案内していた。
「北瀬とか伊川の活躍、テレビでめっちゃ見たぜ! スゲーな!!」
「まさかお前らが、こんなスーパースターになるとは思ってなかったわ……前から強いのは分かってたけど」
「見てくれたんだ、ありがと!」
「スーパースターは言い過ぎだけどな」
感性が普通の人同士、前回の合宿で割と仲が良かった同じ2年の山中と林田に、北瀬達はそう返していた。
伊川は未だに自分の事を、そこそこ凄いプレーヤーなんじゃないか? 位に考えているらしい。
野球の事を将来沢山お金が貰えるかもしれない仕事程度に考えているから、こんな反応をするのである。
世界大会でも活躍しておいて自分の才能をあまり自覚していないと言うのは、どれだけ野球に興味がなければ出来る芸当なのだろうか……?
多分伊川にとって野球の才能というのは、スマホゲームが得意位の価値しか無いのだろう。
なぜこんな奴に非凡な才能があるのかと、神を呪いたくなる様な話である。
総勢100名超えの薬師野球部の前に立ち、少しビビりながら渋谷南・西高校のキャプテン達が挨拶した。
「俺は渋谷南のキャプテンの山中です、よろしく……」
「俺は渋谷西高校のキャプテン、西島です。よろしくお願いします」
『よろしくお願いします!!』
「お、おう。よろしく……」
薬師野球部の強豪校特有のドデカい音量の挨拶に驚きながら、キャプテン達は何とか挨拶を返していた。
彼らは基本、そこそこの中堅校でしかない為、こういったガチ系の選手に慣れていないのである。
___カキーン!
___カキーン!
「うわ、ノックの打球エグすぎる……」
「コイツらが2軍って、マジ?」
渋谷南・西高校の選手達は、2軍に混じって練習している様だ。
春夏全国制覇を達成した、薬師野球部1軍の練習に混じるには力不足だろうと、両監督達が話し合って決めたらしい。
だが、それでも彼らは、薬師高校2軍選手の打撃力にビビっていた。
何だコレ。最後の夏に戦ったチームの4番より、明らかに強いんですけど……という反応である。
当然の話だ。
彼らは全国制覇が出来るチームを選んでやって来て、必死に努力を続けているのだから。
ついでに、パワプロ能力で打撃力がメキメキと成長しているのも大きい。
「……驚きました? 俺も薬師に来た時は、マジヤベーって毎日思ってたっすよ!」
あんぐりと口を開けている渋谷高校の選手達に、太平が声を掛けた。
彼は基本的にコミュニケーションをしっかり取っていくタイプだから、つい話しかけてしまったのだ。
「あぁ、本当に凄いな……っていうか君、真田さんに似てるね。弟さん?」
「いや、従兄弟の真田太平っス。俺って、キャプテンにけっこう顔似てますよねー!」
「いやぁマジで似てるな! 見た瞬間、血縁ありそうだなって思ったよ!」
ちなみに2軍と一緒に混じっている渋谷高校の選手達と同じ所にいるのは、つい先日太平は2軍に昇格したからである。
まだまだ荒削りな選手だが、片岡コーチは彼のパワーに潜在能力を感じたらしい。
実際の所、北瀬達との友情トレーニングの効果が大きいのだが、まあ実力が開花していく可能性という意味では正しいのかもしれない。
4日間の合宿で、彼らは薬師野球部の2軍と試合をして大負けしたり、3軍と試合をしてギリギリの所で勝ったりと充実した時間を送った。
そして合宿が終わる直前に、北瀬-由井バッテリーとの1打席勝負を全員が受けられる事になった。
___バシッッ!
「アウト!」
「うわー、これがメジャーリーガーの球か……やっぱり超速えぇ!」
「この体験、一生自慢出来るんじゃねーの?!」
全員三球三振にされてしまったが、渋谷西・南高校の選手達は大満足。めっちゃ楽しかったー! とニコニコした顔をして、打席から去っていった。
公式戦でボコられるなら兎も角、お遊びで体験させてくれる分には全く打てなくても楽しかったらしい。
そして最後に、彼らはサインが欲しいとお願いし、準備良く持ってきていた渋谷野球部全員分の色紙に名前を書いて貰っていた。
「スタメン全員の名前が入った色紙もくれてありがとう! 一生の宝物になったよ!」
「いや、ネームペンで名前書いただけですけどね……」
「俺達の名前も入れてしまって良かったんですか?」
山中が持ってきてた色紙に沢山名前を書いただけだから、そこまで感謝しなくてもと思った北瀬に、即プロ級とかじゃない俺達の名前まで入れてよかったんですかねと聞いた瀬戸。
彼らはあまり、レア度とかいう概念を理解していなかった。
「寧ろサインの形が決まる前って、希少価値がありそうだから全然OK!」
「投壊の薬師全員のサイン持ってる奴とか、あんまり居ないんじゃないか?! ……金に困ったら売ろっかな」
「最初から売る気かよ!」
「ヒデー奴!」
最後まで気楽に振る舞いながら、渋谷南・西チームは去っていった。
薬師野球部の1年生は、やっぱりお気楽なチームって俺達以外にも居るんだなぁと考えていたらしい。
……残念ながら、全国出場校で甘っちょろい考え方をしているのは薬師高校だけである。
国体まで1週間を切った日に久しぶりの完全休養があり、北瀬と伊川はある物を買いに行った様だ。
「スマホも、大分性能良くなって来たよなー!」
「まー月日が経てば当然だよな、元々ゲーム機だってある訳だし……思ったより早く発売されたけど」
北瀬と伊川が話しながら寮で夜ご飯を食べていると、もう部活は引退に近い真田先輩が近付いて話しかけて来た。
「おっ、お前らスマートフォン買ったのか?」
「先輩! おはざーす!」
「おはようございます! そうっすね、そろそろ買おうかなと思ってたので買いに行きました!」
真田キャプテンはなるほどなぁという顔をした後、ニカッと笑ってこう言った。
「へー、やっぱり寮生活だと休みにやる事被るもんだな! じゃー取り敢えず、ライン? 交換しようぜ!」
「やった! ありがとうございます!」
「ありがとうございます! ……先輩が卒業した後も、ラインして良いですか?」
「もちろん良いぜ! 楽しみに待ってるからな!」
こうして北瀬と伊川は、真田先輩とラインを交換する事が出来たらしい。
この出来事によって、伊川の進路が大きく変わるかもしれないのだが……今の彼らは、それを知らない。