【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
国民体育大会とは、毎年都道府県持ち回りで開催される国内最大のスポーツの祭典の事である。
競技によっては高校3大大会とされる事もあるのだが、野球の場合はそうではない。
3年生達の為のお疲れ様大会という位置付けで、実力に関係なく最上級生が選ばれる事が多い。
秋季大会とも日程が被っているので、薬師野球部の戦力は悲しい事になっていた。
国体での優勝は、ほぼ捨てたのである。
彼らは、3年生7人と2軍メンバーを含めた1年生13人で結成した、あまりに手薄な戦力で挑む事になった様だ。
1年前に東京都の秋季大会日程をズラしてくれたのは特例であり、人数が足りている今回はしてくれないらしい。
北瀬と伊川は、真田先輩達と戦える最後の試合だと意気込んでいたので、轟監督の決定を聞いた時悲しそうな顔をしていた。
「俺……真田先輩達と最後まで一緒に戦いたかったっす」
「俺も……」
北瀬や伊川の心底悲しそうな声を聞いて、真田前キャプテンは苦笑いをしていた。
本音を言えば真田も一緒に戦いたかったのだが、そういう訳にはいかないと分かっていたからである。
「ありがとな! 俺も一緒に戦いたかったけど、秋季大会があるから仕方ねぇな……薬師野球部はまだ層が浅いから、お前らを出すしかねーだろうし」
「そうすね」
「確かに……」
真田先輩の発言に対して、確かにそうなのかな……? と思いながら頷く北瀬達。
2人は薬師野球部の事を、甲子園という大きな舞台で優勝出来たし全体的に強いチームだと思っていたのだが、尊敬する人の言う事は疑えなかった様だ。
地味にマイルドヤンキーな側面が出ている。
「これからもお前らを応援してっからな、頑張れよ!」
『はいっ!!』
北瀬達は嬉しそうに返事をした。
もう薬師野球部とは関係なくなってしまうのに、真っ当に応援してくれそうな事が嬉しかったからである。
中学生の頃は後輩を犯罪者の道への導こうとする先輩達しかいなかったので、爽やかに自分達を応援してくれる事が凄く嬉しかったのだ。
北瀬と伊川は1年半前の入学式を思い出し、轟監督から野球部に誘われて良かったと思い返していた。
こんなに良いチームメイト達と知り合えたのは、野球という競技のお陰だと思ったからである。
野球というか勝負事が好きではない伊川ですら、今では野球部に入部した事を後悔していなかった。
彼らにとって、このチームは最高だった。
今までの人生の、ちょっとした不幸は全部、この出会いの為にあったのだと思う程に。
キャプテンの三島と轟監督が対戦相手を決めるくじ引きに行き、帰って来た。
部員達はどこと当たっても勝つと思いつつ、戦う相手はやはり気になっていた。
エースは北瀬、裏エースは友部、リリーフはパワプロと三島と錦織と、ピッチャーが枯渇しかけているので連戦が多いと敗北も有り得るのである。
三島と轟監督は、割とホッとした顔で帰って来た様だ。
チームの雰囲気を見て、伊川が真っ先に質問した。
「対戦相手はどうなりましたか?」
轟監督が、いつものテキトーな声でこう答える。
「おー、1回戦目はシードだから無しで、2回戦は宮高校
3回戦は東京高垣か田中高校で、4回戦は分からん
5回戦は都立王谷か? まぁここまでの学校相手に負けは無いだろうな
7回戦目は稲城実業か市大三高で、
準決勝は成孔学園か帝東、決勝は青道の可能性が高い」
その発言を聞いて、割と選手達は安心していた。
良かった、流石に強豪校5連戦は無かったみたいだ。マンガの主人公みたいなチームだから、ヤバいくじ運も覚悟してたけど……ホントに良かった。
実際の所、別にくじ運はそこまで良い訳でもないが、何となくそんな空気が流れていた。
秋葉はふと、思い付いた事を口にしていた。
「そう言えば……青道はめちゃくちゃ運が良いですね。強豪校とは決勝戦でしか当たらないなんて」
『ですね……』
薬師部員達はその言葉に頷きながら、まぁ俺達には関係無いかと流していた。
スタミナを完全に温存したU-18にも選ばれた降谷と、意外に強い沢村が牙を剥くかもしれないのだが……そんな事を今の彼らは知らない。
3年生達が居なくなって秋季大会が始まり、1回戦と2回戦は圧勝した。
ひたすら薬師高校のピッチャーが三振に切って捨て打者陣が打ちまくる、彼らにとっては何の変哲もない試合だったがファンは喜んでいたらしい。
2回戦が終わった後、北瀬がふと今回先発したパワプロに対して気になった事を聞いた。
「何かお前の球、前より速くなってね?」
「あ、はい! 入部した時は145kmだったんですけど、今は151kmになりました!」
北瀬は、確かに成長してるなぁと呑気な感想を抱きながら、自分の感想を言った。
「めっちゃ速くなったなぁ! 半年ちょいで6kmアップは凄くね? もうちょっとコントロールを良くした方が良い気もするけど……」
弱小校の選手相手に、今回の試合で2回も死球を当てているパワプロくん。
相手は150kmが襲いかかって来る恐怖で完全に仰け反っていたが、残念ながら彼らの身体能力では避けられなかった様だ。
当たった人は半泣きで選手交代されていた。
「俺、コントロールよりも速球能力を活かしたプレーがしたいんです! 北瀬さんより、速いボールが投げられる様になりたい……んです」
「そっか、頑張れよ! 俺も皆とまた優勝出来る様に頑張るからさ!」
パワプロは先輩に対して楯突くかの様に言ってしまったつもりだったが、北瀬は普通に頑張れよと応援していた。
薬師野球部として皆で喜びたいという気持ちが先行している北瀬にとっては、パワプロが強くなる事は大歓迎だったからだ。
パワプロは(この人は意外とかなり優しく教えてくれるし、性格も良いんだよなぁ、偶に失言するけど)なんて考えながら話していた。
北瀬の性根自体はかなり良いのだが、彼は人と真っ当にコミュニケーションを取る機会が不足していた。だから失言が多いのだ。
寧ろ、たった1年で一般的に見て口が上手いレベルまで行った伊川が化け物すぎるだけだろう。
実は、誰も気づいていないが、伊川のIQは170以上あり地頭は世界有数レベルである。
特に目で見たものを理解する能力を現す、知覚推理指標を計測した場合、世界最高記録を大幅に超える300。
彼は、勉強方法をしっかり教えててくれる人が居たら東大も狙える天才である。
教科書を一語一句丸暗記の勉強法で、偏差値60近くを叩き出せていたのはそういう仕組みだったのだ。
まあ知力とは関係なく、人に依存する癖があるので大成できるかは別の話になるのだが……
北瀬に傍から見ると過度な練習をさせる事もあったのは、漫画の天才キャラみたいに優秀な頭が、無意識に限界ギリギリの耐久値を導き出していたからだ。
伊川が居なかった場合、北瀬はいくら鉄人だろうと変な練習で勝手に故障していただろう。
本人は監督のお叱りに納得して反省していたが、実際の所、北瀬にリスクのある練習などあまりさせていない。
そんな事実を周りは何も理解してくれないで、提案者の伊川だけが一方的に責められるのは可愛そうな話だ。
中学生の頃はもっと酷い理不尽がいくらでもあった為、伊川はまったく気にしていないが、悲しい相互不理解と言えるだろう。
リードがまともに覚えられなかったのは、無意識にバッターは自分レベルの知覚能力がある前提で考えてしまう為、既存のリード法に意味を見出せなかったからである。
その問題を乗り越えていたら、最高峰の頭脳を活かして世界最高峰のキャッチャーになっていたかもしれない。
ちなみに、北瀬のIQは110位で頭脳的には普通の人間だ。
フィジカルで野球の全てを解決している為、北瀬と伊川には、大人と子供位の知能差がある。
依存体質ではない北瀬が伊川の判断に従いがちなのは、無意識にそれが分かっているからだろう。
北瀬と伊川の相互理解が足りないのは、伊川が難しい話をすると北瀬に伝わらない事が多々有り、伊川は自分の考えを伝える事を無意識に諦めているという事も大きい。
北瀬は北瀬で、伊川なら俺の考えている事を全部理解していると勘違いしているのだ。
確かに北瀬の知識レベルでは伊川の役に立つ事はないが、流石に彼だって北瀬の思考内容まで理解していないのだが.......
彼らの相互不理解は、中々埋まりそうに無かった。
「ありがとうございます! 最初の目標は、打倒降谷さん!! ゆくゆくは、怪物と呼ばれるプレーヤーに……!」
「頼もしいなぁ! 応援してるからな!!」
性格の良い北瀬は、尊敬する人越えを宣言したパワプロの事も真剣に応援していた。
こういった優しい真っ当な一面が、伊川が北瀬に傾倒する理由なのだろう。
伊川は能力関係無く、明るい善人が好きなのだ。
試合が終わった後は当然、試合出場組は練習禁止。
北瀬・伊川・由井・火神の部屋は全員スタメンなので、部屋でまったり寛いでいた。
……いや、身体的にも肉体的にも屈強な伊川だけは、真剣に国語の勉強をしている。
限界ギリギリを超えた努力をしている様に見える伊川を、由井は心配して声を掛けた。
「伊川さん……あんまり根を詰めると後々反動が来ると思います。少し休憩しては?」
「うーん。野球漬けであんまり勉強出来てないからさぁ、もうちょっとやっておかないと……」
割と悲観的な性格をしている伊川は難を示したが、北瀬はのほほんとこう言い放った。
「でもさ、伊川もメジャー行き決まったじゃん。無理に勉強する必要無くね? 野球一筋で生きていけるっしょ!」
「確かに......英語の習熟とかアメリカの法律の勉強をやっていくべきかもしれない。後で参考書を買わなきゃ......」
伊川は北瀬の言葉に納得して、参考書を閉じた。
だが、勉強する事をを止めるつもりはないらしい。そんな彼を見ながら、火神は不思議そうに尋ねた。
「うおっ、メジャー行きが決まったのか! おめでとう!! ......ます! でもそれなら、向こうの人に全部任せれば良いじゃねぇか。何も、疲れるベンキョーを続ける必要さは無いですか?」
伊川はその言葉に一理あるなと思いつつ、何で俺は学習を辞めないんだろうと悩んだ。
そして、ある結論を出してこう言った。
「うーん、それはそうだけど......多分俺は、知らない事が分かるのも好きなんだと思う
だからコレは趣味っていうか、息抜きかもな」
「あー確かに、伊川ってそういう所あるよな。俺が野球に誘ったから、最近あんまりやれてないだろうけど.......中学の頃も、無理矢理引っ張って行ってごめんな」
北瀬の割と申し訳なさそうな声を聞いて、伊川は慌てて否定した。
この部活を、嫌々やっていると思われるのは心外だったからである。
「そんな事ない! 確かに俺は、野球自体はあんまり好きじゃないけど、薬師野球部は好きだから!!
こんな楽しいチームに入れたのはお前のお陰なんだ! だから、良かった、ありがとうってマジで思ってる!!」
「そっか、それなら良かった!」
本当に嬉しそうに笑って、北瀬は喜んでいた。
伊川がそう思ってくれててよかった! 俺が伊川と野球がやりたくてお願いしまくったけど、いい結果に繋がってたんだ!
まぁ何故かこのチームは良い人ばっかだし、伊川も真田先輩に懐いてたもんな!
伊川は基本的に俺に文句を言わないから、アイツに迷惑かけてても分からないんだよなぁ……
割と人が良い北瀬は自己中心的な部活選択を少し気に病んでいたので、伊川を喜ばせられていたことを嬉しく思ったようだ。
中学校の頃、荒れている部活を選んだことで伊川にも迷惑を掛けた自覚はあったので、余計に。
まぁそれは、北瀬に心理的に依存していて明らかにヤバそうな部活に入部する事を了承してしまった伊川にも問題があるのだが、北瀬は気付いていなかった。
ちなみに伊川は、北瀬に嫌われたくないという思いで犯罪者率が高い野球部に入部しようとしている北瀬を止められなかった事と、それで暗黒の3年間を過ごさせる事になってしまった事をかなり申し訳なく思っていた。
俺は気付いてたのに、俺のせいで北瀬は苦労したんだと後悔していたのだ。
彼は、身内に対しての責任感が強すぎる性格をしている。
ちなみに由井と火神は、野球が好きではないという伊川の言葉にドン引きしていた。
由井は才能と言う物の残酷さを少し噛みしめ、火神は好きでもない物をここまで続けてきた伊川を不思議に思っていたらしい。
火神は、基本的にやりたい事しかやらない性格だからだ。
まぁ、割と責任感はあるので決められた仕事位は熟すが。
「伊川さんって、やっぱり凄いですね……」
「そうか? ありがとな?」
強張った顔で賞賛してきた由井に困惑しながら、伊川は取り合えずお礼を言った。
彼は、皆がなぜ打ちたい所を決めて打たないかを理解していないからである。
確かに巨摩大藤巻の時みたいに守備が工夫してきたら困るけどさ、守備陣の所に打つよりは勝率高くないか? 不思議だなぁと考えているのだ。
彼は、自分の卓越した空間認識能力などを理解していなかった。
北瀬や雷市、三島や秋葉に真田先輩の方が身体能力が高いから野球に向いていると、未だに彼は割と本気で信じているのである。
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細かい裏設定なので、興味がなければ読み飛ばしてください。
IQが20違うと会話が成立しないという俗説があります。
なので伊川は無意識に、北瀬に分かるような簡単な言葉で話すクセがついているという設定です。
多分彼は、学者とかと話している方が話が合います。
だからと言って、北瀬との友情が成立していない訳ではありませんが……歪な関係になってしまっているのはそのせいです。
伊川のIQは、言葉を中心とした物の名前や言葉の理解をするなどの能力を示す、言語理解指標130。
実際に手を動かして目で見たものの理解をするなどの能力を示す、知覚推理指標300。
複数の情報を同時に処理したり順序立てて処理したりする能力などを示す、ワーキングメモリー指標130。
どれくらい早く物事を処理できるかなどの能力を示す、処理速度指標130。
総合172程度を想定しています。
平均は100で、130以上はギフテッドなので、ありえない位能力が高いです。
ですが、知覚推理指標だけ飛びぬけているのは非常に苦労すると思います。
野球で例えると、投げる動作だけでボールの軌道を完璧に理解できてもその理由は説明できないし、その情報をどう活かせばいいかは分からないし、判断も遅いからです。
相対評価で言えばですが。
結果、人と感覚がズレすぎているので心の底からの共感があまりできません。
まあ、優れた頭脳によって取り繕えていますが……真っ白なパスル1000個の組み立て方を、一瞬で把握出来るような人間は普通では無いでしょう。
彼は出来ない人を見ると(適当にパズルが合う形を当てはめて行けば良いだけじゃん? 何で出来ないの?)と内心困惑します。
宇宙飛行士ですら、真っ白な300ピースのパズルの組み立てが問題として出される位なのですが、伊川からすれば工場で段ボールにシールを貼り続ける事位に簡単過ぎてつまらない作業です。
伊川の知覚推理指標300は、今生きている2番手の人と70程度離れている為、彼の見ている世界を真に理解してくれる人は恐らく一生現れません。
彼の非科学的な超能力は、北瀬とのテレパシー、周りを打撃に特化させるパワプロ能力、チェンジリングされた事実だけであり野球の実力とはあまり関係がありません。
人類史上最も優れた、動く物体の予測能力を持っているだけです。
北瀬も100年に1人の身体能力を持つだけで、別に非科学的な超能力を野球に活かしている訳ではありません。
北瀬と伊川は、頭脳か身体能力かという違いはあれど、常人から外れた能力を持っているという点ではお似合いの兄弟だと言えます。
追記
ちなみに北瀬の言語理解指標は90
知覚推理指標は140
ワーキングメモリー指標は100
処理速度指標は110位の想定です