【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
思ったより多くの方に読んでいただけた為、春休みが終わるまでに無印編を完結する事にしました!
もしよろしければ、あと10日間程お付き合いくださると嬉しいです
2回表、青道高校の攻撃は、青道不動の4番結城哲也。打席で見せる人並みを超えた集中力で、甲子園出場経験は無いながらもドラフト候補として噂されている。
……実力は確かな4番打者だが、最大限に警戒したバッテリーに、1回目で見せていなかったスライダーとフォークを使われバッターアウト。
5番増子も全く粘れずアウトにされ、チャンスだけに強い6番御幸が打席に立つ。
これでは絶対打てないと、誰しも思ったが……
(どうしよっかなァ……この回超スローボール使ってないし、それで良いや)
ノーボールツーストライクと追い込んでから、捕手が安易に指示したスローボールを盛大に飛ばされホームラン。
珍しく初回で点を取られなかった薬師高校だが、簡単に同点にされてしまった。
「ドンマイドンマイ!」
「そりゃそんな事もあるよなぁ」
「打撃で取り返しゃ良いんだよ!」
初出場のエースがホームランを打たれても、全く薬師高校は動じない……これは、メンタルが強いとかそういう問題では無い。
毎試合10点近く取られる事に慣れすぎて、1点1点に重みを感じなくなっていたのだ。
ホームランを打たれたにも関わらず緩い空気が良かったのか、バッテリーは慌てず騒がず白洲を打ち取り、同点で終わった。
「……アウト! スリーアウトチェンジ!!」
2回裏、ヒットとフォアボールでランナーを出しつつ、下位打線を無失点で切り抜けた降谷。
薬師相手に2回1失点。素晴らしい活躍をした降谷だが、明らかに息が弾んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「降谷、交代だ」
(そうか……薬師高校相手では、一球一球MAX150kmを全力で投げ込み続けなくてはいけなかった。元々スタミナの少ない降谷ではバテてしまっても仕方ない)
片岡監督は少し、後1回位は行けるかもしれないと考えたが、当初の予定通り3回では沢村に代わることにした。
「…………」
「降谷ァ! お前の後ろにいる泥舟は、けっこう頑丈だぞ!」
リリーフピッチャーの沢村が、一応先発だが2回で交代させられた降谷を励ました。言い方が怪しいが、恐らく。
3回裏。リリーフ登板した沢村と相対するのは、薬師高校1番、秋葉一真。
1球見てストライク、2球目は完全に打ちに行った。意味分かんない角度から投げ込まれた、変速サウスポーの投球に完全に差し込まれる。だが……
___ガギン
「ポテンヒットだ! マグレ当たり逝った〜っ!」
「ドンマイ沢村! そんな事もある!」
長打もある秋葉を警戒していた野手は、あまりにも遅いその打球への反応が遅れてしまいセーフになった。
___カン!
___カキーン!!
そして、伊川、轟相手にヒットとホームランを浴び、3点差を付けられる。
何とかキャッチャーが落ち着かせたものの、長距離砲の北瀬にあっさり単打を打たれ、ノーアウト1塁。
(この位置、このタイミング……ドンピシャ!)
薬師のセオリー通り、盗塁を試みてクラウチングスタートを切った北瀬。沢村は慌ててボールゾーンに投げたが、勢い余って大きく下にズレてしまった。
相手は遅いクセ球相手な上、地面でワンバンしている。そこまでは見ていた北瀬は、余裕で2塁に進めると思ったが……矢のような速球に阻まれる。
「……アウト!!」
2塁だけ見て全力で走っていた北瀬は、全く何が起きてアウトにされたのか分からなかった。
「ちょっ、ちょっと待て、今どうやってアウトにされた?!」
「ああ……あいつ、地面にぶつかったボールを素手で受け止めて、そのまま2塁に投げやがった!」
折角のチャンスを潰された薬師高校。だが、そんな彼らにとって些細な事よりも、相手キャッチャーの技量に感嘆していた。
「すげぇなーあのキャッチャー。お前らも真似して見ろよ!」
「無理っス!」
「カハハハハ、カッコ良い!」
「すっげぇ……パワプロでも出来るか怪しいぞ!」
「ドンマイ、まあ次も打てば良いさ!」
轟監督だけが、この出来事のマズさを理解していた。
(おいおい……あのキャッチャー相手じゃ絶対、俺達の打撃を盛り上げてる、やり過ぎな盗塁なんて出来ないぞ! 自力で勝る相手に冷静に対処されたら、こっちが危ないってのによ!)
……
監督が3回裏に心配していた事は、完全に杞憂だった。11対6で薬師の圧勝ムードが漂い始め、特に天才バッテリーは調子に乗っていた。
(捕手ヤバいし、ホームラン打たれたし。どうなる事かと思ったけど順調じゃん。)
(いやお前、6回6失点は普通に打たれてるぞ……まあ、それでも俺達の勝ちだけどさ)
阿吽の呼吸を自称するバッテリーは、六回裏で5点差がついた段階で、早くも勝ちを確信し始めた。
打たれまくってもいるのだから、まだまだ青道が勝つ可能性もあると思うのだが……中途半端に野球の常識を知っている2人は、そんな事実を考えもしなかった。
だが、元々集中力の無い彼らが更に油断していようと、青道高校が劇的に有利になる訳ではない。
7回表、5点差を付けられている青道高校。ワンアウト1塁と、チャンスとは言えない微妙な状態で、チャンスに強い御幸に回る。
(絶対、低め内角ギリギリのストレートが来るって分かってる!)
___ズバッッ!!
「……ストライクッ! バッターアウト!」
(分かってたんだけどなぁ! ……それでも、打てなかった!!)
丹波さん以上のカーブ、鳴に匹敵するスライダー、上記と比べて全く遜色ないフォーク、これだけの変化球より目立つMAX159kmのストレート。
それらを持ち合わせながら7回7失点の敵エース、北瀬涼……理由は彼を含めた野手陣のお粗末さと、何より捕手伊川のありえてはならない配球にある。
こんな素晴らしいエースと組んでいるにも関わらず、伊川の捕手としての能力、特に配球スキルは酷く、青道3軍のキャッチャーにすら大幅に劣る悲惨な実力だ。
定石すら覚え切っていないであろう、余りにも的外れなその組み立ては、御幸クラスの選手なら手に取るように分かる。
偶に、逆にド素人過ぎて読み外す時はあったが……定石は、強いから定石なのだ。ピッチャーを活かす所か泥に塗れさせる様なリードは、とても西東京ベスト8チームのキャッチャーとは思えない。
絶対にストライクを先行させる。内角低めに来る確率は50%を超えている。これだけ分かっていれば、マグレ当たりも多発して当然だ。
更に野手陣の守備能力が低いともなれば、投球能力だけを言えば高校最強の北瀬相手に、7回7得点出来たのも納得だろう。
キャッチャーとしての捕球だけは妙に上手いから、160km近いボールが取れるから、エースの専属捕手として使っているのだろうが……いや、正捕手が取れないから仕方なく使ってる急造捕手なのかもしれない。
そう思う程、配球、送球、守備の指示が出来ていない。
薬師の守備力を総合的に見ると、逆にそれでも1回1失点ずつで抑えられているのは不運ではないかと思ってしまうが……この投手相手にここまで打っていて、それでも青道は負けていた。
沢村、川上、丹波……誰が投げても等しく燃やし尽くされ、残る投手は怪我明けのエース丹波だけになり、スタミナが切れても投げ続けるしかなくなっていた。
途中、ノーアウトの状態で意外と上手い沢村のバントが2回も決まるという珍事が起きたが……守備練習をしていない沢村に守備をさせる訳にはいかない。
投手を川上に代えた時点で、沢村は交代させた。
エースの丹波さんに代わっても薬師の勢いは衰えず、点差を離さない事しか出来なかった……
西東京三強の青道高校と、新星・薬師高校を見に来た記者は思わず呻く。
「7回でエースが登板しましたが……青道高校も、為す術なく薬師に破れそうですね……」
「むしろ、よくここまでコールドにされなかったと言うべきだろう……9回表、最後の攻撃で5点差。奇跡が起こらない限り、薬師の勝利は揺らがない」
青道高校以外の誰もが、この試合の勝者を決めつけていた。
青道メンバーは……諦めてこそ居なかったが、奇跡が起きない限り負ける現状を察してしまっていた。
「諦めるな! まだ勝負は続いてる……薬師の守備力相手なら、ここから逆転出来る芽はあるぞ!!」
悲壮な面持ちの青道。逆転を諦めた訳では無い。だがどうしても終わるかもしれないという表情を隠せないまま、下位打線の白洲健二郎が打席に立つ。
「ガハハハハ! ふいーっ……水分補給はしっかりしとけよっ、身体に違和感あったら言えよ、こんな所で怪我隠されちゃ堪んねぇからな!!」
「監督……一応相手は、あの青道ですよ」
「ウ゛ーーンそうだな……流石に何人か守備変えんのは辞めとくかァ」
「当たり前だ!!」
「アンタそんな事考えてたんスか! 言って良かった……」
対して薬師高校は、既に勝ったと言わんばかりの明るい雰囲気だった。
点差を見ればその通りだが、自分達に経験値が足りない事を思い出すべきかもしれない。まあここから負ける事は早々無いだろうが……
奇跡とは、殆ど起こらないから奇跡と呼ぶ。
青道高校にはその奇跡が起こらず……新たな強豪・薬師高校は、試合の流れのまま順当に勝利を掴んだ。
___ズバッッ!!
『わああぁぁ!!』
「ストライク、バッターアウト! ……ゲームセット!!」
強豪青道高校相手に14対9で、薬師高校の圧勝。半年前まで弱小チームだった薬師が、西東京地区大会決勝まで進む事がほぼ確定した瞬間だった