【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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132球目 思い出

 

 

 

 

4戦目も圧勝した薬師の次の相手は、黑學院蔵山。

春夏共に甲子園出場経験のある古豪だが、近年は帝東や鵜久森に王谷といった強豪に隠れがち。東東京四天王の中で最弱という感じのチームである。

 

実は北瀬達がキューバに行っている間に練習試合をしており、その際は錦織先発、勝敗は4対11で蔵山の勝ち。

スター選手達が軒並み居なくなって不調だったとはいえ、甲子園春夏制覇校がこれでは不甲斐ないとしか言いようが無い。

 

その試合に出ていた由井・火神・友部などはリベンジの機会に燃えていた。

 

 

 

 

1回表、黑學院蔵山の先発は岩切。

アンダースローであり、キレのあるシンカーとストンと落ちるサークルチェンジが武器。スライダーも投げる。

 

薬師との練習試合では全員1年生相手とはいえ、アンダースローの長所を活かし切り、火神・結城の未来のスラッガー二人相手に三振を取るなどしている。

 

……正直、何でこのチームにいるか分からないかなり優秀な選手だと言える。

多分、高校生になってから実力が開花したのだろう。そうでなければ、スカウト勢が全員節穴という事になってしまう。

 

 

1番秋葉が、バッターボックスに立った。

日本代表の誇りに掛けて、絶対打ってやると意気込んでいる。

 

 

___ガギーン!

___バシッ!

 

「アウト!」

 

だが、運悪く長打になりかけた球を取られてしまいアウト。

彼は(アンダースローのチェンジアップなんて見たことねぇよ……)と内心愚痴っていた。

流石の彼でも、全く見たこと無い球を初見で打つのは難しいのである。

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、次の打線は2番伊川。

そんな秋葉が苦戦する様な球には見えないけどな……? と思いながら、バッターボックスに立った。

見たことが無い球だろうと完全に予見出来る、彼らしい意見だと言える。

 

 

___カキーン!

 

「セーフ!」

 

どんな球だろうと、どこに飛んで来るかが一瞬で把握出来る伊川は余裕のツーベースヒットを放った。

ベンチはヒットなんてつまらないと少し白けた顔をしていたが、全く気にしていなかった。

 

ちなみに、伊川を凄く尊敬している花坂だけは歓声を上げてくれていた様だ。

彼にとって、最大の癒しな後輩である。

 

 

 

 

ワンアウトランナー2塁で、打席には本日レフトの北瀬。

ホームランを放って、公式戦初登板の錦織を援護してやろうと意気込んでいる。

 

 

___ガギン!

 

「……アウト!」

 

だが、アンダースローのチェンジアップに仕留められるという、秋葉と同じ轍を踏みアウト。

 

 

「最初から変な球に手を出すなよー!」

「気持ちは分かりますけどね!!」

 

ベンチから野次が飛ぶ中、北瀬はトボトボと帰っていった。

確かに、あんな変なボールを最初から打ちに行くのはバカらしいよな……と感じたのである。

 

 

 

 

ツーアウトランナー2塁で、打席には4番轟。

 

 

「カハハハ……オモシロイ球!!」

 

凶悪な笑みを浮かべて出てきた彼は、味方が仕留められた球をホームランにしてやろうと嗤っている。

……少なくとも、相手バッテリーにはそう見えていた。

 

 

___カキン!

 

「セーフ!」

 

雷市はあっさりヒットを放ち、これでツーアウトランナー1・3塁。

 

 

「ガハハハ、どうせならホームラン打てよ雷市!」

「惜しいッスよ!」

「まぁ良いんじゃね? 一応打てたしな!」

 

ベンチからは野次の様な声援の様な言葉が飛び交っていたが、雷市はスンとした顔をしていた。

ホームランが打てなかった事が悔しかったのである。

 

 

 

 

ツーアウトランナー1・3塁で、打席には5番三島。

 

 

「ガハハハ! ここでホームランを打てば、俺が主砲になる日も近いな!!」

 

高らかな笑い声を上げ、打席に入った三島。だが……

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ」

 

なんと、たかが四天王最弱相手に初回無失点にされてしまっていた。

まぁいくら薬師野球部といえど、毎回絶対に打てる訳ではないのでそんな事もある。

 

 

 

 

1回裏、薬師高校の先発は錦織。

前11点取られて負けたから、さぞかし初先発の1年生は緊張しているだろうと考えていた黑學院蔵山だが……彼は全く緊張していなかった。

 

そもそも薬師は二桁取られて上等、倍取って勝てば良いというチームなのだ。

前回はスタメン5人が居なかったから負けただけで、普通に戦っていたら負けようが無いチームである。

 

結局この回、エラーもあって1失点。薬師部員達にとってはマズマズの結果となった。

 

 

 

 

2回表、ワンアウトランナー3塁の場面で瀬戸が上手く粘り、外に逃げるスライダーを捉えてヒットで得点。

それによって勢いが出始め、アンダースローに慣れてきた薬師打線が長打長打で大量得点。

薬師相手に小細工をしても、一瞬しか通用しなかったと言う事である。

 

最後は三島が守護神として出てきて三者凡退で締め、5回17-5でゲームセット。

5番手ピッチャーを使おうと、地方大会レベルの相手には負けない実力を示せていた。

 

 

「やった……! 俺が、4回まで抑えられた……!!」

「おめでと! 錦織」

「ありがとうございます! 北瀬さん!」

 

大エースからのお褒めの言葉に喜んでいる錦織。

彼は薬師高校に来るまではあまり強くない選手だったので、5番手ピッチャーとはいえここまで来れたのが嬉しかったのだ。

彼は、地味に北瀬や伊川との友情トレーニングで強化されていたらしい。

 

 

 

 

 

 

6回戦の相手はギリギリの所で5回戦を制した大華学園。

西東京夏地区ベスト16の中堅と強豪の堺をうろつく学校で、野球とは全く関係ないが偏差値は55らしい。

甲子園に出れさえすれば全国ベスト8は狙える強豪4校の犇めいているこの地獄の削りあいで、人材的にも割を食いやすいポジションともいえる学校である。

 

どう考えても勝てない虐殺されそうな相手と戦う事になって、さぞかし大華学園の選手達は落ち込んでいるだろうと観客達からは思われていたが……

 

 

「ふおぉぉぉう!! ここまで来てやったぜぇぇぇ!!」

「キャプテン落ち着けって!」

「明日先発なんだから、騒がないで体力残しとけよ……」

「これが落ち着いていられるか!!

あの日本の北極星北瀬さんとか、甲子園打率10割の伊川さん、薬師雷砲と呼ばれる雷市さんと戦えるんだぞ??

俺はこの日の為に野球をやって来たんだああぁぁ!!!」

 

熱心な北瀬達のファンであるキャプテン兼エース、多摩利典のおかしなハイテンションによりチームはある意味盛り上がっていた。

意図した事では無いが、彼の狂気じみた喜び方によって敗北が全く怖く無くなっていたのである。

 

アイツの喜び方はかなりヤベーけど、確かにこんなチャンス2度とねぇよな! 当たって砕けてやるぜ! という気持ちになっていたらしい。

 

 

 

 

 

 

1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

自然体な姿で、悠々とバッターボックスに立った。

 

 

___ガギン!

 

「セーフ!」

 

相手バッターの内角をえぐれるクロスファイヤーに、秋葉は若干妙な打撃音を立てながらも出塁。

走力Dは、地方大会クラスでは速い方なのである。

 

 

「ギリギリじゃん!」

「ガハハハ、まだまだ精進が足りないな!」

「……うっせーよ!」

 

ちょっと恥ずかしそうな顔をしながら、ベンチに言い返した秋葉。

この程度のピッチャー相手に、初っ端から討ち取られかけたのが恥ずかしかったのだ。

 

ちなみに相手はMAX141でフォーク3、カーブ3に加えてクロスファイヤーが持ち味の選手であり、別に弱くない。

彼らの感覚が狂っているだけである。

 

 

 

 

ノーアウトランナー一塁の場面で、打席には伊川。

彼本人は打席に立っても面倒だなぁとしか思っていないが、可愛らしい顔付きによって女性ファンから盛大な歓声が飛んでいた。

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

 

そして盛大なホームランを放った。

彼はパワーはBと甲子園出場選手の上位程度でしか無いが、完璧に芯に合わせられるミート力によって長打も普通に放てるのだ。

 

 

「カハハハ……! ナイスイガワ!!」

「ナイスです伊川さん!!」

「格好良い……!!!」

「流石伊川! ……普段からホームラン狙えば良いのに」

 

薬師野球部からすれば弱小校相手とはいえ、味方からホームランが出るのは嬉しいらしい。

上級生下級生関係なくワイワイとはしゃぎながら、伊川のバッティングを称えていた。

 

 

その後北瀬も本塁打、轟は本塁打、火神は2ベース、三島はライナーヒット、打者として覚醒しつつあったパワプロも2ベース。

そして、ここまでで相手キャッチャーの投球傾向を見ていた奥村がヒットを打った。

 

北瀬と伊川との友情トレーニングの恩恵がないとはいえ、もともとの素養は高いので打率自体は悪くないのである。

薬師野球部にいるから目立たないだけで、1年生でミートBパワーDはかなり優秀だった。

 

 

 

 

1回裏、薬師高校の先発はパワプロ。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

甲子園の経験によって強化された、真田直伝のシュートとカットボールを実戦レベルで投入。

北瀬からもらった重い球、強打者にも後れを取らぬ投球等その才の片鱗を見せ始めていた。

 

コントロールはよろしく無く、またデッドボールを与えていたが……

前キャプテンより恐ろしい、151km破壊弾としてある意味恐れられていた。

 

意外と人が良い伊川も、真田先輩を挟んで仲が良かった影響で打席に立ってあげていて、両手の指を超える回数当てられていたらしい。

パワプロくんは毎回謝っていたし伊川も許していたが、世界レベルの強打者に当てまくるヤベェ奴かもしれないと部内で言われていた。

 

 

彼が最終的に5回自責2点で抑え込んだ結果、5回コールド勝ちの圧勝。

実際の失点は8点だが、まぁパワプロくんが悪い訳では無いだろう。大方野手陣の怠慢のせいである。

 

この戦いでパワプロくんは、粗削りなものの次代エース候補として目されることとなった。

ちなみに相手のピッチャーを観察した結果、対角線のコースに投球したときに能力が上がる、クロスファイヤーのコツを得たらしい。

またデッドボールを当てまくるつもりだろうか……?

 

 

 

 

 

 

「あの……ちょっと良いですか??!」

「えっ、何か?」

 

球場を後にする北瀬達の所に、おいやめとけってと制止する大華学園の面々を後ろに多摩が訪れた。

 

 

「お願いします!!!」

 

彼は、神妙な顔と共に自分の懐に手を伸ばした。

懐からは一つのボール。

……つまり、サインをくださいという事だ。

 

 

「あっ、サインが欲しいって事で合ってる……?

良いよ! なんなら球場出た後、俺と伊川と一緒に写真とか要る?」

「ぜひお願いします!!!」

 

戦ったり一緒に練習した選手からサインを求められる事が割とあるので察した北瀬は、快く快諾。

ついでに写真も取るかと、ファンサービスに溢れた対応をしていた。

 

___多摩の手元に残ったのは、ボールを持ってお願いした北瀬のサインボールと、わざわざ薬師野球部のボールを持ってきて渡してくれた伊川のサインボール。

そして、両隣にメジャーリーガー達が立っている、多摩がど真ん中に立った写真だった。

 

 

 

 

数年後、大華学園野球部の同窓会にサインボールを持ってきた多摩はドヤ顔で自慢していた。

 

「……でそんとき書いてもらったのがこのボールな訳よ!

世界にただ一つ、写真に日付とサイン付きの、この俺に、この、俺に!!! 贈られたなあぁ!!!」

「がああああ!! クソォあんとき俺も恥ずかしがらずやってもらうんだったああああああああ!!!」

「つーかそれ、売ったらいくらになるんすかね?」

「あ? 殺す」

「直球!?」

 

 

 

 

 

稲城実業に緑間真太郎

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