【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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他の作者様が反転機能を使っているのを見て使いたくなったので、今回は使用してみました。
空洞にコピーを掛けると、透明文字が出現する事があります。大局に影響のない事しか書いていませんが、もし読んでくださる読者様がいらっしゃれば、出来れば2周目に見てください。若干シリアスになります。


135球目 9失点

成宮さんやカルロスは強かった……なのに、稲実の後輩達は弱かったな。薬師野球部がそうならない様にしないと!

北瀬は強くそう思ったらしい。

 

かつて宿敵だった、稲城実業との戦いにあっさり勝利した薬師野球部。

都のプリンスと呼ばれ、国際大会でも大活躍した成宮さんが居なくなってしまったのだから当然だろう……と北瀬は理解しつつも、どこか釈然としない思いをしていた。

何となく、稲城実業相手ならかなり苦戦すると思い込んでいたのである。

 

つまんないのと、勝っておいて勝手に相手の弱さを残念がる北瀬。

彼は、次の相手にはさほど興味が無かった。

だから普段通りの澄ました顔をしつつ、寮の自室で伊川に一応聞いた。

(最近の伊川は、野球について聞けば色々教えてくれるんだよな! いつ勉強してるんだろ……?)

「次の相手ってどんなチームだっけ?」

「あぁ、俺達程じゃないけど全員フルスイングの強打打線で、エースは小川常松。本郷程じゃないけど重い球とスクリューが武器で、球速は147kmらしいぞ」

 

北瀬は伊川の言葉に希望を見出したらしく、輝いた目をしていた。残念ながら結局、彼にとって良い情報は出てこないのだが……

 

「なるほど……つまり強いのか?」

「いや、正直あんまり……俺達の敵じゃないな」

「ちぇっ、やっぱりそっかー」

 

残念そうにする北瀬。聞こえていた火神も同じ様に残念がり、同じく聞こえていた由井は(甲子園行くなら相手が弱い方が有り難いんだけどなぁ)と内心思っていたらしい。

伊川もやはり、由井と内心同じ事を考えている様だ。お互いが気付く事は無かったが。

 

伊川は内心、北瀬の調子の乗り方を不味いのではと思ってはいた様だ。

野球で食べていくなら、相手が弱いからやる気が出ないなんて問題ある思想なのではないかと考えている。

それに北瀬のバッティングは、彼のモチベーションに大きく左右される。それを考えるに、今の北瀬の考え方だとライバルがいなくなった場合相当困るのではないかと思っているのだ。

まあ北瀬に嫌われたくなかったので口にはしなかったが。

 

地方大会準決勝を控えた日、轟監督が行ったミーティングでは案の定相手を舐めた発言をしていた。

彼は普段通りの態度でいる事が、生徒の精神を安定させてくれると考えている……のかもしれない。

「相手は俺達程じゃないが重量級打線……ま、大丈夫だろ

明日の試合はエースを出さねぇ。先発はパワプロ、リリーフには友部か三島を出す! 心構えはしといてくれや」

『はいっ!!』

 

ミーティングが終わった後、三島はかなり嬉しそうな顔をしていた。北瀬と伊川は、三島をまたピッチャーとして使うのかよ……とちょっと内心嫌がっていたが。

 

「ガハハハ! 久しぶりにピッチャーとして強敵と当たれるな!! 腕が鳴るぜ!!」

「まぁ友部が最後まで投げるかもしれないけど……心配しなくても、甲子園で強豪相手に投げられるだろ」

「カハハハ……よかった、ミッシーマ!」

 

確かに三島は4番手ピッチャー扱いされているが、実力的に考えれば2番手ピッチャーでもおかしくないのだ。

轟監督や片岡コーチが、出来るだけ野手に専念させたいと考えてあまり起用されていないだけである。

 

まぁ甲子園の連日試合では、その様な甘っちょろい事を言ってられないと思われるのでほぼ確実に三島の登板機会はあるだろう。

ファーストとピッチャーに昔はキャッチャーと、本人が望んでいる事とはいえ、彼は客観的に見るとチーム事情にかなり振り回されていた。

 

北瀬や伊川は三島の活躍を見て、やはり投手をやらせるより野手に専念させたほうが良いのではと憂いていた。

特に北瀬は、アイツに無駄に練習させる位なら俺に連投させれば良いのにとすら考えていたらしい。

まあ三島のやる気などを鑑みて、心の中で言うだけに留めていたが。

彼らは友達想いの怪物である。

 

そんな感じの割と緩いテンションのまま、薬師高校対成孔学園の試合は始まった。

尚、緩いテンションなのは薬師野球部員だけである。成孔学園の部員も観客達も、強い熱気に包まれていた。

1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

国際大会決勝戦で5打席4安打を放った事によりネットなどで過剰に期待されている事を、内心負担に感じている選手である。

昔はパソコンを持っていなかったから噂を知らなかったのだが、スマホを持つ様になって知れる様になってしまっていた。

知りたくない事もしれてしまうスマホを使っていて、偶にスマホ断ちしたほうが良いのではとも考えているらしい。

___カキン!

 

「やっぱり、北瀬や本郷程のボールじゃない」

 

小川もけして悪いピッチャーでは無いのだが、秋葉はあっさりヒットを放った。

苦手意識のある重い球の使い手と聞いて内心警戒していたが……あまり気にする必要は無かったらしい。

秋葉はホッと一安心しながら、次の塁を狙っていた。

秋葉は薬師高校の中では相当ネガティブな方だった。今回も、打てなかったら多くの観客達からブーイングを食らうのではないかと心配していたのた。

 

ノーアウトランナー1塁で打席に立つのは2番伊川。

多分討ち取られる可能性はほぼないけど、万が一を考えて守備が苦手らしいレフトとサードの中間を狙うか。

なんて、かなり相手を舐め腐った事を考えながら打席に立っていた。俺は高校生としては最強クラスのバッター、こんな所で負ける筈が無いなと本人なりに冷静に考えていたからだ。真面目に考えた結果、負けないという想定になるなら仕方ない。

「伊川くーん! 頑張ってぇ!!」

「伊川ー!! ヤれー!!」

「最強を見せてくれー!!」

 

そんな事を全く知らない観客達は、一見愛想が良く見える美少年の伊川を大層応援していた。

煩えしダイレクトに感情をぶち当ててくんな、怖えからマジで辞めてくれと伊川は思っていたが……

___カキーン!

 

『わーー!』

 

最初から想定していた通りの場所にボールを飛ばし、これでランナー1・3塁。

出来る事を普通にやっただけなので、なんの感慨も抱かないまま伊川は一応次の塁を狙うフリをしていた。

どうせ北瀬か雷市がホームランを打つと思っているので、実際にリスクを犯して走るつもりは無い。

 

大切な親友の北瀬のスリーランホームランの為に、わざわざ秋葉が帰塁出来ない様な場所だけを狙って打っていた。

 

さぁ打てとお膳立てされた状況で出てきたのは、国際大会でMVPを取った最強投手北瀬。

相手ピッチャーが児童向けアニメの曲を歌っている事にドン引きしながらも、堂々と登場した。

 

「涼……凄く応援されてるのね、凄い熱気だわ」

「北瀬ー! お前が最強だー!!」

「行けよ、ここまで来たら優勝してよね!」

「北瀬くーん! 頑張ってー!!」

「俺達の後輩に勝ったんだから優勝しろよ!」

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

 

そして、大方の予想通りにホームラン。

軽く拳を上げてチームメイトにアピールしながら、北瀬はダイヤモンドを一周した。

観客達はここぞとばかりに大歓声を上げている。

伊川は観客達に北瀬が望まれている事を喜びつつも、自分だけの北瀬ではなくなってしまった事が残念だった。

こんな汚い感情を、北瀬に見せるつもりはないらしいが……これだから相互理解が進まないのである。

ノーアウトランナー無しになって、打順は4番轟。

初優勝を成し遂げたU-18日本代表の主砲を務め、非常に注目されている選手である。北瀬や伊川程では無いが。

ちなみに、彼はそんな事なんて欠片も気にしていなかった。野球が出来れば満足な野球星人だからである。

「轟! 轟!!」

「お前がNo.1だ!!」

「雷市……激アツなお前を見せてくれよ!!」

 

___カキーン!

 

運悪くツーベースヒット。

……これ程までに実力がかけ離れていると、運が悪くてもツーベースヒットが放てるらしい。

ホームランを打てなかったので雷市は少し悔しがりながらも、真面目に次の塁を狙っている。

伊川とは、やる気と打順が違ったからだ。

 

やはり脅威の薬師打線だろうと、上位打線の方が強いのは変わらない。

仮に雷市と伊川の打順が変わったら、伊川ですら凡退を覚悟してホームランを狙いに行っただろう。

 

ノーアウトランナー2塁で、打順は5番火神。

何故U-18日本代表に選出されなかったのか疑問視される位、非常に優秀な打者である。

恐らく、あまりにも酷い守備が原因だと思うが……代打の切り札位には使えただろうに。真相は不明。

薬師野球部から大量に選ぶのは……これ以上格差が広がるのはマズいと上層部は思ったのかもしれない。

___カキーン!

___バシッ!

 

「アウト!」

 

景気良くツーベースヒットになりそうだった当たりを、相手野手がギリギリキャッチ。運悪くアウトになった。

しかも、火神が打った瞬間飛び出した雷市もアウトになってしまっていた。

走塁の練習を殆どしていないのに飛び出した雷市が悪い。

 

「マジか……」

「カハハ……」

 

「ドンマイ火神!」

「そんな事もあるぞー!」

「次! 次打とう!!」

 

ベンチからは優しい声がかけられつつ、火神と雷市はしょんぼり帰っていった。

情けない! と自分のミスを反省しながらである。

どこぞのリード壊滅元キャッチャーは見習って欲しい。

 

いや……伊川だって、好きで北瀬のピッチングの邪魔をしていた訳では無い。

だって何回動画を見ても意味が分からなかったのだ。まあこんな事、言い訳でしかないと彼は自覚しているが。

 

ツーアウトランナー2塁の場面で、打席には6番三島。

U-18日本代表として、色々な意味で大活躍した選手である。彼が打つ場面とエラーする場面が交互に出てくる様な動画が、大量に作られたりしていた。

三島はそもそもネットを見ないので殆ど知らないが、知ってもノーダメージな鋼のメンタルをしている。

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

 

ここでまたホームランが出た。

「ガハハハ!」と特徴的な笑い方をしながら、彼は楽しげにダイヤモンドを回っている。

スタンドの観客達も、北瀬のホームランの時程では無いが楽しげに歓声を飛ばしていた。

また1つ、三島のフリー素材が出来たと妙な喜び方をしている人もいたとかいないとか……

 

秋葉は三島を使ったおふざけ動画に対して内心憤慨していた。

本人は気にしないだろうが、親友を貶されているのは許せなかったのである。注目度が高いと言い換えられるのは分かっているが……それでも許せないのである。

 

ツーアウトランナー無しで、打席には7番三井。

瀬戸と熾烈なポジション争いを繰り広げている選手で、とりあえず使ってみるかと監督は思ったらしい。

 

今の所全体的に瀬戸より劣っている選手ではあるが、得点圏の時や負けている時の打撃能力だけは群を抜いていた。

まぁ勝っていてランナーがいない今は、何の関係もない能力なのだが。

ちなみに、炎の男と書かれたTシャツを着ている人達は何者だろうか…?

「みっちゃーん!!」

「よっ! 炎の男!!」

 

なんか観客席の一部からむさ苦しい応援が聞こえつつ、彼は堂々と打席に立った。

(あいつら……今日も見に来てくれてたのか! じゃあ打たねぇとな!!)

___ガギン!!

 

「……セーフ!」

 

微妙な当たりだったが、走力Cを活かしてセーフ。

アイツ、得点圏じゃなくても打てる事あるんだなぁと、薬師部員達は内心思ったとか思ってないとか。

味方の打撃能力には厳しい薬師野球部であった。

 

三井は、出場すらマトモに出来ないのに毎回見に来てくれていた友人が見ている時に打てて良かったと感動していた。

不良をやっていたのは無駄な時間だったとは思っていたが、それは友情を否定する物では無かったのである。

 

ツーアウトランナー1塁で、打席には8番奥村。

別にミートBパワーDと打撃能力は悪くない筈なのに、他の部員の投壊野球ぶりのせいで駄目な印象がついてしまっている選手である。

(打つ、今回こそ絶対に打つ……!!)

彼は気負いすぎている上、薬師野球部のバッティングに狂わされていた。

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

普通に三振を取られ、これでスリーアウト。

さっきから打たれまくっているが、小川だって高卒プロ入りが有り得る良いピッチャーなのである。

 

1回表は結局4得点、中々良い滑り出しではないだろうか?

……いや、これで中々良い程度の印象になってしまう薬師野球部の得点能力が、相当異常なのだが。

 

周りの打撃が成長していく中、1人だけ取り残されていく事に奥村は焦りを感じていたらしい。

あれだけ打撃が駄目だった投手のパワプロに、打順を抜かされそうになれば焦りもするだろう。

本人のプライドが災いし、それを周りに見せる事は無かったが。見せていれば、他の人は親しみを持ってくれただろうに……

 

1回裏、先程滅多打ちにされた成孔学園の攻撃。ここで巻き返してやろうと闘志を燃やしている。

対して薬師高校の先発はパワプロ、2番手ピッチャーの登板だ。

 

相手バッターは、当たってでも塁に出てやるという顔をしている。

実際パワプロくんは、強烈なデットボールを良く当ててくるので悲壮な覚悟と言っても良いだろう。

監督も流石にコレはヤバくね? と思いつつ他にピッチャーがいないので出さざる終えなかったらしい。

___ガッ!

 

「ヴッ……」

「すみません!」

 

挨拶代わりの、初球胴体にデットボール。相手が考えていた通り、当たって塁に出していた。

彼は151kmをノーコンで投げてくる、恐ろしいピッチャーである。

パワプロくんは相手に申し訳ないとは思いつつも完全に開き直っていた。

それは、速球派投手の宿命だと考えているらしい。

 

ノーアウトランナー1塁、相手バッターはパワプロの死球を恐れてつつも、果敢に向かってきている。

やはり弱小校のバッターとは一味違うのだ。

だから、更にデットボールに当たりやすい。

 

___カキン!

___バシッ!

 

「アウト!」

 

ピッチャー方向に飛んできた打球をパワプロは取れず、これは抜けるかと思われたが……

伊川がダイビングキャッチ。ゲッツー。

 

優れたリード力を活かし伊川の捕球範囲に打たせた、奥村のリードが地味に光っている。

普通の観客達は、アレを取れる伊川スゲーとしか思っていない様だが。

 

伊川は内心、何で俺にばっかり飛ばしてくるんだよと嫌がっていた。

奥村の選択が合理的な事は分かっている為、クレームをつける事は無かったが……自分のミスを怖がってはいる。

 

ツーアウトランナー無しで出てきたバッター。

彼もまた、死球だろうと塁に出てやると固い覚悟を決めていた。

誰も彼も、自分の身体の事を考えなさ過ぎではないだろうか? それだけ甲子園の舞台は重いという事だろう。

残念ながら、成孔学園のバッターがどれだけ身体を張ろうと甲子園出場は不可能である。

___ガギーン!

 

「バシッ!」

「アウト!!」

 

バッターの強気な姿勢も虚しくライト方向にふわふわと飛んでいった打球は、北瀬に当然の様に処理されてアウト。

……いや、地区大会準決勝レベルなら今のは取れて当然なのだが、火神や結城の守備難イメージに補正されてかなり良く見える。

 

難なく処理して貰えてホッとしていたパワプロだが、センター方向に飛ばそうと考えていた奥村は顔を歪めていた。

彼は、自他共に理想像が高すぎる性格をしている。

アイツ難儀な性格だよな、そんな所も見てて面白いんだけど……と瀬戸は考えていたりする。

 

……やはり大差がついてしまったか。そう思っていた成孔学園の大多数の部員達。

今まで必死に練習してきたからこそ、彼らとの実力差がありありと分かってしまうのだ。

 

5回表、25-8と大差がついたこの場面。

轟監督は右手を高く上げて大きくグルグル回すという、誰にでも分かるサインをまた出していた。

辞めろ……辞めてくれ……! せめて最後まで対等に戦わせてくれよ……! 成孔学園の生徒達は絶望していた。

___これは、ワザと討ち取られてアウトになれというサインである。

 

恐らくあからさまにこのサインを出しているのは、誰の責任で行っているかを観客達に明確にする為だろう。

彼は社会人としてはダメダメだが、野球部監督としては立派な人格者であった。

それでも選手にワザと三振を取らせる、相手の事は全く考えない選択肢は取るが。

___バシッ!

___ぶん

 

打席には2番伊川。コクリと頷いた後、あからさまにボールがミットに収まった後にゆっくりとバットを振った。

多くの観客達は指示でやってます感を出そうとしているのかと思っていたが、彼は単純に楽がしたいのと最速でアウトになろうとしているのを両立させたかっただけである。

 

別に伊川は、自分の打率10割が消える事を何とも思っていない。

寧ろ、今までの試合でワザと三振する機会が回って来なかった事を残念に思っている位だった。

野球本体には全く興味がないので、出来るだけ楽に行きたいのである。チームが勝って皆で喜ぶ為なら、無理をしても良いと思ってはいるが……恐らくその機会は無い。

なんなら、後で10割が消えて失望される位なら今失敗した方が良いとすら思ったりもしていた。頭の良い人間らしく、彼は悲観的な性格なのだ。

「……ストライク! バッターアウト!!」

 

「あれ、あの伊川くんがアウトになった……?」

「いやいやアレ、ワザとアウトになってるだけだぞ?」

「あちゃー、ここで10割消えかー!」

「仕方ないけど残念だなぁ……」

 

殆どの観客達も、伊川はワザとアウトになったと確信していたが怒りはしなかった。

薬師野球部の強烈なフルスイングが、身体に負荷を掛けていると分かっているからである。

 

その負荷を抑える為の筋肉が付いていった為、彼らの守備はかなり酷くなっていたらしい。

秋葉など、守備をしっかりとやっている人は故障しなければ良いのだが……不安である。

 

3番北瀬も4番轟も、監督の指示通りアウトになった。

自分の子供だろうと容赦なく打率を下げる選択が取れる所が、轟監督の尊敬出来る性格なのかもしれない。

 

そして5回裏、1点取られつつも何事もなくパワプロが続投し、コールドで試合が終わった。

 

「終わった……終わってしまった……」

「試合終了! 28-9で、薬師高校の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

___わああぁぁ!!

 

大勢の観客達に見守られながら、薬師野球部は決勝戦進出が決まった。

 

大体の部員は当然の結果だと考えていたが、スタメンの中で伊川だけは決勝戦に進めて安心していたらしい。彼は基本的に不安性である。

 

「うゔっ……オレ゛! グヤ゛ジイ!!」

「夏は、甲子園行こうな……」

「アイツら強過ぎるだろ……」

 

そして、成孔学園の秋季大会も終わった。

薬師野球部の知名度によって、沢山の観客達に見守られながら……それが良かったのか悪かったのかは、彼ら本人じゃなければ分からない。

 

伊川はそんな風に本気で泣く彼らを少し見てしまい、心の底ではちょっとだけ辛く思っていた。

見ないように……いや、見なかった様にしようと無意識に思ったらしく、彼が自分の内心に気付く日は来ないかもしれない。

自分は畜生な性格をしていると、最近自覚しているのだ。

 

「クッ! 俺は結局投げられなかった!!」

「ドンマイ三島! まぁ5回コールドじゃ仕方ないって!」

「なんやかんや友部も投げられてないしな……」

 

悔しがる三島を慰めながら、2年生達は特になんの感慨も抱かず去っていった。

成孔学園に思い入れがないので、そこそこの相手だったな位にしか思う所がないのである。

 

なんなら北瀬は、頼まれて一緒に写真を取った大華学園の生徒よりどうでも良く思っていた。

彼からしたら、弱すぎてどちらも変わらなかったのだ。

 

一方今回のパワプロ-奥村バッテリーは、成孔学園相手に圧勝した事を喜びながらバスに乗ろうとしていた。

コントロールが悪い所とスタミナが無い所以外、パワプロは良いピッチングを見せていたのだ。あくまで野手陣の怠慢を無視した場合の話だが。

「パワード……まあ、一応良い投球だった」

「何回も言ってるけど、パワプロな! 奥村こそナイスリード!」

「プロスキー、コントロールが悪いのを何とかしろ」

「だからパワプロだって! ……俺さぁ、コントロールより球速を上げたいんだよなー」

 

次の代のエースだろうと言われているパワプロくんは、強豪校相手に9失点で済んだ事を割と喜んでいた。

いや9失点は酷いと頭では分かっているのだが、薬師野手陣を背負ってコレなら良いほうだろうと思っているのだ。

 

勝てないなら問題があるが、俺達の野手陣は点取ってくれるし……と楽観的に考えているパワプロ。

まぁヤバい新入生達の入学によって、彼がエースとなる事は恐らくないので多分このままでも大丈夫だろう。

 

薬師高校でエースになる事を待ち望んでいたパワプロくんの事を考えると、理不尽が襲いかかってきて可哀想な話である。

 

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