【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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137球目 体験練習

 

 

 

 

呆気なく青道高校に勝った薬師高校。

北瀬以外の部員や観客達は喜んているが、北瀬は微妙な顔をしていた。彼はギリギリの戦いがしたかったのである。

 

帰り道を忘れた子供の様な顔をしている北瀬に対して、降谷は手を指しのべた。

 

 

「おめでとう……甲子園で戦えるのを楽しみにしてるから」

「当然! 俺達は明治神宮大会も勝つし、青道高校も甲子園に連れて行くからな!!」

「うん……分かってる」

 

彼らが何となくお互いの心境を分かり合っている中、今日3回3失点の沢村が北瀬の視線を遮る様に出てきた。

 

 

「ううっ、そうだぞ! ……俺達に勝ったんだから、ぐすっ、こうなったら全部勝てよな!!」

「泣かないでよ……俺達は勝つから、青道も出られるし」

「マジで頼んだぜ! 甲子園の景色って奴、絶対見てみたいんだ……敵任せで出れるか決まるなんて悔しいけどな!!」

 

そう言い去った沢村や降谷に対して、北瀬はボソボソと思った事を口にしていた。

 

 

「もし俺が青道高校にいても、皆の打力に粉砕されてただろうし……やっぱ巡り合わせって大事だな」

「北瀬ー、そろそろ撤収の準備するぞー」

「あー、分かった!」

 

 

 

 

 

 

簡単に地方大会優勝を果たした薬師野球部。

2日後には、中学生の部活見学の日がやって来ていた。

今年はU-12初優勝の立役者である綾瀬川や、中学生No.1二塁手と歌われる流川など、優秀そうなプレイヤーが既に推薦入学確定している。

 

そんな彼らも一応見学会には来るのだが、それより重要なのは新たな原石を見つける事である。

今入学が確定しているのは、綾瀬川次郎と流川楓、桜木花道と笠松幸男、そして國神錬介の5人だけである。

 

今年は主に真田母がスカウトする選手を決めているのだが、彼ら以外は決めきれなかったらしい。

やはり、野球経験の浅さが浮き彫りになっている。

 

とはいえ、たかが2年弱である程度実力を見抜ける様になったのは凄まじい成長だ……

たった2年半の練習でドラフト1位を取った真田の母親だけあって、天才的な偵察の才能を持っていた。

 

 

今回は3軍の1年生達が寮見学を担当し、何事もなく説明が完了した。事前練習の時間が功を奏したのだろう。

 

その後、片岡コーチの演説が始まった。

 

 

「薬師野球部の体験練習に集まってくれて、ありがとう。今回は、俺達がどういったチームであるかを体験して貰う事になる

 

薬師野球部に入部するには、野球推薦の狭き門を通るか一般入試で入学して貰う事になる

今年の一般入試合格人数は200名、今回体験に来ているのは600名……つまり6割以上が受験の壁の前に破れる事となる、絶対に野球部に入りたい者はまずは勉学を優先してほしい

 

見学体験に来た者の中から、5人程度、薬師高校野球部に必要な人間を推薦させて貰う

今集まって貰ってる人の中には、既に推薦が決まっている人が5名いるので、そこに追加する形になるだろう

 

この体験で優秀な成績を出さなくても野球部に入部する事は可能だが、日々の成果を発揮すると考えて頑張って欲しい。以上だ」

 

『はいっ!!』

 

その後片岡コーチから話を引き継いだ轟監督は、今回も隠せない適当さを滲み出しながら話し始めた。

 

 

「じゃー今から体験練習を始めるぞー。こっちは才能ありそうな奴と実力がある奴を発掘してくから、まぁ頑張ってくれや」

『はい!!』

 

今回の体験練習での人材発掘は、轟監督と片岡コーチと真田母の3名が全体を見て、ベンチ入りメンバー20名と引退した3年生、ついでにマネージャーの佐藤が1人1人確認していくらしい。

 

今回は練習風景を見せるだけで良い2年生達は、ホッと一安心していた。

彼らは、人を落とすという作業が性格的に考えると致命的に向いていないのである。

 

 

 

 

___カッキーン!!

___カッキーン!!

 

ピッチングマシーンの球を打つ体験練習。

たかが機械の球だと安心した新入生候補も多かったが、160kmに設定されていたので苦労していた。

 

だが薬師野球部のベンチ入りメンバーは、簡単だと言わんばかりに飛ばしまくっている。

顧問に薦められるがままに薬師野球部に見学に来た、青道高校からの推薦も貰っている百沢は青い顔をしていた。

 

 

「何だよ……何であんな簡単に打てるんだよ……」

「そりゃアイツらはスゲェ天才だし、学年だって違うからな。比べてもしょうがねーよ。それに、お前もかなり打ててんじゃん! それにめっちゃデカいし……2m位?」

「あ、うす。でも俺、推薦入学出来る程じゃないっすね。どうせ野球やるなら強い所入りたいと思ったんすけど……」

 

「は? アイツ何様?? あの真田俊平にタメ口聞くとか馬鹿じゃねーの?」

「お前もさんつけろよ……まぁ芸能人みたいな感じだし、分からんでもないけど」

「アイツは確か、中学ベスト8の主砲だった百沢雄大だな。やっぱ薬師志望か……手強いライバルだな」

 

 

話しかけてきた上級生らしき人物に、百沢はネガティブ思考になりながら対応していた。

ちなみに彼に話しかけているのは、誰もが憧れるドラフト1位指名の真田前キャプテンである。

なぁなぁで野球を続けてきた百沢は気付いていないが、マジで尊敬すべき人なのだ。

 

ちなみに真田前キャプテンは、才能がありそうな百沢が過度に緊張しているのを見て解きほぐそうと話しかけに来てくれていた。

 

 

「お前なら推薦入学も有り得るだろ! 体格めっちゃ良いのはアピールポイントとして十分だしな!」

「そう……すかね……? というか、真田さん? って凄い人なんですか? すみません、俺あんま高校野球に詳しくなくて」

 

真田はその言葉を聞いて、今の薬師野球部に入ろうとしているのに前のスタメンを知らないんだ……とはちょっと思ったが、気にせず優しく返していた。

彼は、甲子園優勝校のキャプテンを務めるには優し過ぎる性格の人間である。

 

 

「一応ドラフト外れ1位の投手だったりするけど……

まぁ俺達のエースの方が明らかに強いからなー、別に気にしなくて良いぜ!」

「えっ?? ドラフト外れ1位?? マジで凄い人なんすね! 本当に雲の上の人だった……」

 

他の人の言葉を聞き、彼の正体が気になっていた百沢。

ドラフト外れ1位と聞き、プロ入りだけでもヤバいのに上位12人に選ばれた選手かよ! と驚愕していた。

 

 

「いや、別に雲の上じゃないと思うけど。俺はチームメイトと運に恵まれただけの、普通の選手だよ」

「は、はぁ……」

「まーとにかく! 確かに実力的には推薦取るのはキツいだろうけど、ポテンシャルで合格するかもしれないし気楽に打てよって言いたかったんだ!

もし落ちてもココに来たければ、受験頑張って合格すれば良いしなー」

「……! ウス! あざーす!!」

 

めちゃくちゃ注目されていた真田は、これ以上話しても百沢が無駄に注目されちゃうだけだなと会話を切り上げて去っていった。

 

百沢も、自分にドラフト1位凄い人が話しかけてくれた事で吹っ切れたらしい。

思い出作りとしても、来て良かったんじゃね?

受かるか受からないかなんて、身長に注目されるかどうかで決まるもんなー。今の俺が何やっても関係ねーや! と開き直ったらしい。

 

真田が話しかけた事は、結果的にちゃんと百沢の合格に繋がった様だ。

1人だけ先輩が目をかけてあげるのは贔屓かもしれないが、薬師野球部の戦力になりそうな奴を見極めてやったので仕方ないだろう。

やった理由は、単純に真田が才能マニアな事が大きいが。

 

 

 

 

 

 

バッティングが終わり、次は投手&捕手と野手に別れて力を見せる場になった。

わざわざ愛媛から来た、貧乏な家庭出身の青井葦人は、ここで薬師野球部に受かってプロ入りし、母ちゃんを楽にして上げようと意気込んでいる。

 

ちなみに無理やり東京まで来た理由は、中学校宛に薬師野球部に見学に来ませんかとお便りが来たからだ。

母は渋っていたが、甲子園優勝校からのお誘いと言う事で最終的には背中を押してくれたらしい。

 

 

「センパイ達のバッティング、ホントに凄かった……!! 俺もここに入りたい! 瞬兄がお金出してくれて良かった……!!」

 

早速、ピッチャーとしてブルペンに向かった青井。

そろそろ彼の順番になった時、そこに現れた1人の女性が彼の肩を掴んで止めようとしていた。

 

 

「ちょっと待って、あなたは外野の守備固めとして呼んだの。とりあえずこっちに来なさい」

「は? 俺はピッチャーやぞ、何で外野の守備固めなんてやんなきゃいけねーんだ! そもそも殆どやった事ねーし!! てか、誰なんだアンタは!」

 

彼の発言に対して、その女性は真面目な顔をして返答した。

彼女こそが、青井を薬師野球部に誘った人物である。

 

 

「私は偵察部隊の真田よ、縁あって薬師野球部に雇われているの。主に偵察とスカウトを担当してるから、あまり会う事は無いと思うけど……入学したらよろしくね?

この学校に入りたいと思うなら、まず野手として入りなさい。別にその後、自分のやりたいポジションに移っても良いわよ? まあ貴方の才能なら、野手としての方が輝くと思うけど……」

 

唐突にそんな事を言われ、青井は嫌そうな顔をしている。

 

「……何で俺が、野手としての方が輝くんだ? 俺やった事ねーし信じられねーんだけど」

「ああそれは、ボールの落下地点への移動が人より明らかに速かったからよ? 普通ではない才能だと思ったの」

 

メジャー最強投手とも言われる、グレッグ・マダックスの生まれ変わりを自称する自信過剰な彼だが……

見学に来ている周りとの実力差を、認めない訳にはいかなかったらしい。

綾瀬川次郎と名乗ったピッチャーが、あまりにも鋭くてビタビタな投球をしていたからだ。

 

暫し悩んだ後、彼は決心した。

 

 

「……入部したら、ポジションを戻して良いんだな?」

「良いと思うわよ? まあピッチャーとしての貴方が、ベンチ入りメンバーに選ばれる実力になれるかは分からないけど……」

「分かった。今回、今回だけは……アンタを信じて外野をやってみる!」

 

このままでは推薦入学者にはなれないと悟り、野球部副部長だとか言う女性の言葉を信用してみる事にした青井。

別に俺にずっとピッチャーをやるなと言ったじゃ無いし、今回位は受かる為にやっても良いかと考えたのだ。

 

 

 

 

 

 

そうして外野守備に挑んだ彼だが、かなり苦戦していた。

確かに落下地点を予測するのは苦労していないのだが、ちゃんとキャッチする事が出来ないのである。

 

……だが彼の特異的な才能を、轟監督と片岡コーチはしっかりと目に焼き付けた。

 

 

「確かに真田のカーチャンが言う通り、落下地点までの動きに全く無駄がねー……これでほぼ未経験ってのが信じられねー位っすね」

「ええ___彼の才能を、私達が活かせたら。薬師野球部は更に進化するでしょう」

「てか、真田カーチャンに予め言われてなかったら、俺も青井のヤベー才能に気付かなかった気がするんだけど……あの人何者です?」

「彼女は素晴らしいスカウト能力を持っていますね。末恐ろしい才能だと思います」

 

こうして彼は、薬師野球部への入学が決まった。

投手としての意地を貫くか、野手に転換するか……見物だと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

そして今回の体験練習で発掘された、1番の原石。

無名で全く注目されていなかった、堤高中学校の黄瀬涼太である。

 

彼と今回組む事になったキャッチャーが、真っ先に彼の異常さを知った。

 

 

「じゃーよろしくな! お前はどんな変化球が投げられるんだ?」

「スライダーとカットボールとカーブとフォークとシンカーとシュートとスローボールッスね」

「マジかよ……??」

 

1個1個の変化球はへなちょこだとしても、7個の変化球はおかしいだろと少し冷や汗をかいたキャッチャー。

彼は、既に推薦入学が決まっている笠松幸男である。

 

 

「まずはストレートからだ! 思いっきり投げろよ!」

「うーっす」

 

 

___バシッ!

 

「OK! ナイスボール!! 次はスライダーだ!!」

「はーい」

 

 

___バシ!

 

気楽な口調で返した黄瀬。この場面で推薦入学が決まるのだから、もう少しやる気を出して欲しい。

 

だがそんな彼の態度とは裏腹に、投げる球は相当えげつなかった。

中学生レベルでは相当良いと言える球速135kmを叩き出した上に、変化球も割と曲がっていたのだ。

そんな変化球が7個もあるのだから、化け物と言って差し支えない。

 

天才を見慣れている轟監督や片岡コーチすら、興奮しながら彼について話していた。

 

 

「アイツは逸材です! 絶対推薦で取りましょう!!」

「多少態度は改めさせなければなりませんが

___綾瀬川と同じく、新生野球部の2大エースと成れる実力があるかもしれませんね」

 

そんな首脳陣の反応を、分かっていたとばかりな態度を見せる黄瀬。かなり余裕ぶっている。

俺なら甲子園優勝校の推薦取れて当然だろと、野球歴1年にも拘らず確信していたのだ。

 

彼は、今まで努力をしていなかっただけの超天才である。

 

 

(綾瀬川っちとか同学年でスゲー選手がいるし、このチーム来て良かったー! やっぱ上手い人が近くにいないとやる気出ないんだよね)

 

話した事も無い中学最強投手に対して、綾瀬川っちとかいうちょっとダサい渾名を勝手に付けている黄瀬。

自分は将来、彼と同格になれる才能があると無意識に察知しているので、今現在の実力差は気にならないのだ。

 

 

 

 

投球が終わった後、黄瀬は近くで見ていた北瀬の所に突撃してニコニコ笑っていた。

 

 

「ねー北瀬センパイ、俺の事見てました?! まだまだセンパイには勝てないけど、俺スゲーアンタに憧れてて!!

あ、俺尊敬する人には『っち』って付けて呼んでるんスよ!! だから北瀬っちって呼んで良いっスか?!」

 

マシンガントークを繰り広げる黄瀬。

北瀬は、まあ馬鹿にしている訳じゃないなら良いかな……? と思ったが、突如黄瀬が視界外に消えた。

先程まで組んでいたキャッチャーに、飛び膝蹴りを食らったのである。

 

 

「お前、先輩にそんな言葉遣いをするんじゃねー!!」

「___は? アンタ程度に言われる筋合い無いんスけど。ぶっちゃけ現時点でも俺の方が実力ありますよね?」

 

睨み合う2人を見て、北瀬はオロオロとしていた。

別に俺は北瀬っちって呼ばれても良いけど、笠松くん? は怒るだろうしな……どうすりゃ良いんだ。

 

北瀬は内心頭を抱えていたが、そこに伊川という救世主が現れた。

 

 

「お前ら……勝手に争うのは仕方ないけど、北瀬を巻き込まないでくれないか?」

『すみません!!』

 

体育会系が染み付いている笠松と、伊川もかなり尊敬している黄瀬は素直に謝った。

黄瀬と笠松の確執が出来ながらも、薬師野球部の体験練習は滞りなく進んでいった。

 

 

 

 

 

 

体験練習が終わり、推薦入学者の発表に入る事となった。

片岡コーチがどの選手を何故選んだのかの説明を始める。

 

 

「___これより、推薦入学決定者の発表に入る

まず黄瀬涼太。7球種の変化球を持つ器用さを買った

次は木兎光太郎。ボールのキレに注目した選手だ

3人目は百沢雄大、ポテンシャルの高さを感じたからだ

4人目は青井葦人、外野への適性が感じられた

5人目は三谷優治、パワーがある為選出した

 

選ばれなかった選手も、一般入試で野球部に入部する事が出来る。薬師高校で野球がやりたい場合は、一般入試を頑張って欲しい

俺達のチームは、一般入学生と推薦入学生を差別したりはしない。ベンチ入りメンバーは実力で決めている

___諦めない者が、甲子園への切符を掴める。最後まで努力し、我々の野球部に入部して欲しいと望んでいる。以上だ」

 

『ハイッ!!』

 

 

こうして、薬師野球部推薦入学者が確定した。

 

 

 

 

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