【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
体験練習が終わって少し経った頃、北瀬と伊川は新入生に対しての雑談をしていた。
「綾瀬川って奴、めちゃくちゃ凄くなかったか?! あの得体のしれない感じ、マジスゲー!!」
「多分、彼の独特な空気感で相手バッター達が萎縮しているんだろうな。それに進塁させない為の技術も凄かった」
伊川の的確な分析を聞いて、北瀬は伊川が言うならそうなんだろうなとテキトーに納得していた。
彼は基本的に、伊川の分析能力を信頼しているのだ。
「へーそうなんだ、ちなみに他に凄い選手はいたのか?」
「黄瀬涼太だな。曲がり方とかはまだ全然だけど、変化球7種は大きな武器だと思う
それにアイツ……多分今までちゃんと練習して来てないな。才能だけであそこまでやれてるんだと思う」
筋肉の付き方などで、そこまで看破した伊川。
北瀬はそれを特に疑問視せず、なるほどなぁと頷いた。
「へー……じゃあある意味、俺達と同じだな!」
「そうだな。黄瀬が育ったら、そういう事になるな」
育つかどうかは知らんけど、と思いながら伊川は言った。
努力しなかったり、方法が間違っていたりしたら強くなる事は出来ない。何となく伊川は、ソレが分かっているのである。
まぁ彼の化け物じみた能力を考えると、お前が言うなと思われてしまうだろうが……
北瀬と伊川がバッティング練習をしている時、下級生が慌ててやって来た。
「あの! パワプロの奴、休憩も全く取らずに練習してるんです。止めてくれませんか?!」
『分かった!!』
1年生に先導され、北瀬達は室内練習場に向かった。
そこには、大量の汗を流しながらネットに向かって投球を続けているパワプロがいた。
「あのさ……」
「ほらパワプロ! 一旦休憩だ!」
パワプロくんはチラリと北瀬達を見て会釈した後、投球練習を続けようとした。
北瀬はそれを見てそんなに練習がやりたいのか……と止めるべきか迷っていたが、伊川は断固たる決意で止めようとしていた。
「___パワプロ、一旦止めろって言ったよな」
「……なんですか? 俺は、もっと練習しなきゃいけないんスけど」
伊川はパワプロの右足を見て、確信を持ってこう言った。
「右足、すげぇ疲れてるよな。多分後もう少し練習したら肉離れだぞ……それでもやりてぇか?」
「なんでそんな事分かるんですか……?」
パワプロは図星を付かれた上、これ以上練習すると肉離れになるという妙に具体的な怪我内容を聞いて困惑していた。伊川先輩はそんな風に嘘をついたりしないと知っているからである。
「うーん。多分俺、昔から目が良いんだよな。だから何となく分かる……のかなぁ?」
「……分かりました! 止めに来てくれて、ありがとうございます! こんな所で怪我する余裕無いですもんね。俺風呂でも入ってきます!」
納得して練習を辞めようとしたパワプロくんに対して、伊川は確信をついた一言を放った。
「ちょっと待った……綾瀬川が、そんなに怖いか?」
『?!』
パワプロくんは一瞬表情を無くした後、ため息をついた。
「……そりゃ怖いですよ。先輩達が卒業した後、俺がエースになれると思ってたのに、このままじゃ……」
「確かに綾瀬川のピッチングは完成されてるよな
でも、パワプロの完成されてない所は……逆に強みなんじゃないか?」
「どういう事ですか?」
伊川は嘘を付いている事を自覚しながら、パワプロを宥めかけようとしている。
「綾瀬川は、今のピッチング内容から大幅に変える事は無いだろう……既に実力が付いて、完成されているからだ
対してお前は剛速球だけの荒々しいピッチングだからこそ、ここからどう成長していくかお前が決められるんだ」
「確かに……そうかもしれませんね。色々教えてくださってありがとうございます! スッキリしました!!」
パワプロは丁寧にお辞儀をした後、ニコニコとしながら帰っていった。
北瀬も伊川の言葉に納得したらしく、嬉しそうな様な困った様な微妙な顔をしていた。
「完成されてないからこその強みかぁ……多分俺にはない、よなぁ……」
「完成されている事は、けして悪い事じゃない。次はどうすれば良いかが分かりやすいって事も、強みの1つだろ」
「……? つまり、どういう事だ……??」
パワプロに言ったのは嘘八百だって事だよ。伊川はそう内心で呟いた。
だが北瀬にそんな嫌な事を教える訳にはいかないので、適当な事を言ってお茶を濁す。
「変化球が凄い人と、球速が凄い人がいるとするだろ? その人達のどっちが凄いかなんて、分かる訳なくね? って事だよ」
「うーん、分かる様な分からない様な……ま、いっか!」
こうして今日も、北瀬の平穏を守った伊川。
都合の悪い情報は教えないというのは過保護過ぎる気もするが……まあ一種の解決策かもしれない。
パワプロも、これで焦りが減ると良いけどな。焦りは最大のトラップって、何かのアニメでも言ってたし。
そんな事を考えながら、バッティングに戻った伊川達。
1軍や2軍の後輩達にもバッティングを教えながら、割と楽しく過ごしていた。
北瀬と由井がピッチングをして、火神や結城達がバッティングや守備練習をする放課後の自主練習。
由井が変化球を落とそうとも、ストライクゾーンに入っていたらストライク判定の特別ルールを設けている。
ちなみにストライクとボール判定も由井がやっている。ぶっちゃけ、不正しようと思えばし放題だ。やらないとは思うが。
今日は超スローボールを軸に練習しているらしく、緩急にバッターは翻弄されていた。一発結城がホームランを出していたが……それ位である。
次は火神がバッターボックスに立っていて、北瀬を打ち破って見せるとギラギラ瞳を輝かせていた。
___ブォン!
___バシ
「ストライク! ツー!!」
「由井ナイス! スローボール、ちゃんと取れるようになったんじゃないか?!」
北瀬は、また由井がスローボールをしっかり取った事を喜んでいた。
由井本人も、ある程度納得出来る精度まで高められたと感じているらしく、嬉しそうな顔をしている。
「そうですね! ……そろそろ、実践で使って良いかもしれません」
スローボールに付いて話しながらも、由井はキャッチャーミットを構えた。
北瀬はそれを見てニヤッと笑い、指示通りに投げる。
___バシッッ!
___ブォォン
「ストライク! 火神くんアウト!」
「うわあぁ! 負けちまった!!」
火神は悔しがりながらバッターボックスから出ていった。
次の打席には、薬師野球部の主砲轟が入る。
「カハハハ……キタセ、打つ!!」
「勝負だ! 雷市!!」
お互い盛大に笑いながら、真剣勝負を始める。
1球目、ギリギリの所に決まったストレートを由井はストライク判定とした。
これでノーボールワンストライク。
2球目、ボール気味のスローボールを雷市は見逃す。
これでワンボールワンストライク。
3球目、普通ならビタビタと言える内角低めだったが、北瀬にしては若干荒れている。そこを雷市は強振し、低く強い球を勢いよく飛ばしていった。
「俺が取る!」
___バシッ!
「アウト! 雷市さんはアウトです!」
だが飛んでいったのは、セカンド伊川の守備範囲。
軽快な足取りでボールを捌き、優しく三島の方向へ投げた。
これで今回は雷市の負け、単純に運が無かった様だ。
「カハハハ……ナイスキタセ! 良かった!」
「ありがと! 雷市のバッティングも良かったと思う! 飛んだ方向によってはセーフだったし!」
お互いの健闘を称え合う2人。2年弱も一緒に過ごしてきただけはあり、けっこう仲が良いのだ。
次のバッターは、公式戦打率9割の男伊川。
北瀬の為にも、今日も打ってやると気合を入れていた。
威圧感を周囲に蒔き散らしながら、無表情でバットを構えている。
「よし……勝負だ北瀬!」
「望む所!」
1球目、内角ギリギリのストレート。
見送る必要は無い、北瀬の球の軌道は完璧に覚えている。
___カキン!
「セーフ! 伊川さんはセーフです!」
飛距離は微かに足りないが、飛ばした方向はショート瀬戸方面。
守備範囲が広い訳でもない彼に取れる訳が無かった。
「やっぱ伊川を打ち取るのは難しいなぁー!」
「薬師守備だからってのもあるけどな」
この後も数人がチャレンジして、ことごとく三振にさせられていた。
ちなみに、伊川の対北瀬打率は7割弱。
カーブとフォークと全力ストレートが封印されているとはいえ、凄まじい戦果である。
逆に、なぜボールの軌道が分かる伊川が3割程度打てないかと言うと……ボールが重すぎて、完全に打ちたい場所に打つ事が出来ないのである。
170kmに近いボールに、球威が非常に重くなる怪物球威が乗っているのだから当然の話だろう。
守っている選手にちょっとアレなのが混ざっていなければ、もう少し打率は落ちただろうなと伊川は冷静に考えていた。
「今日はホームラン打たれちゃったか……それより、いつか伊川を見逃し三振にしてやりたいなぁ! 伊川はどんな変化球なら打てないと思う?」
「うーん、打てないならともかく見逃し三振か……ツーストライクの時に、見たこと無い球を投げられたら可能性はありそうだけど……」
「やっぱ厳しいか、俺ら同じチームだしな!」
「だよなぁー」
そんな事を話なから、暫くの間一休みしていた北瀬達。
北瀬と対決する練習は評判が良いので、沢山投げたのだ。
後は軽く体操でもするかなと思いながら、北瀬の今日の練習は終わった。
……まだまだ出来ると思ってはいるのだが、轟監督に危ないから辞めろと言われているから無理なのだ。
俺ら野球に詳しくないし、確かに危ないかもなぁ。それに、後輩達が真似しても困るし。
北瀬と伊川は、そう思ったせいで鉄人能力を活かしきれていなかった。
まぁ選手寿命的に考えると、割と良い判断だと思われる。
今日は休憩しろと言われて早めに練習が終わり、北瀬はゲームをして伊川は勉強をしていた時、マネージャーの佐藤に言われて1時間位で絵を書くことになった。
他の割と暇している部員達も集められて、学校の掲示板に貼り付けられる事になったらしい。
嫌がらなかった部員達が集められたのは良いものの、何故こんな事をするんだ……? という雰囲気は蔓延していた。
確かに全く野球とは関係ないので、北瀬も不思議そうにしている。
「甲子園優勝チームの選手だし取材とかするのは分かるんだけどさ……何で絵を書くんだ?」
「いや何となく、野球選手がどれ位絵が上手いのか気になって……新聞部としての企画ですかね」
「まぁ良いんじゃね? 暇してる奴だけ集めたんだし」
そんな事を言いながら、伊川は北瀬とのバッティング勝負のイラストを書いていた。
妙に上手いというか、良く見てみると指の握りやボールの回転まで表現されている。
彼なら、頑張れば芸術系の大学でも受かるのではないだろうか……?
花坂も、伊川先輩の絵の上手さに驚いていた。
「伊川先輩って、めっちゃ絵が上手んですね!! 昔練習してたりしたんですか?」
「ああ、ちょっとだけな」
今回の伊川が言うちょっとは、本当に少し練習しただけである。
北瀬にアニメキャラを書いてくれと頼まれて、絵の基礎を数時間だけ学んで書いた事があるのだ。
かなり上手かったので、北瀬はかなり喜んでいた。
伊川は立体的に物を捉えるのが上手いので、器用な手でイメージをそのまま書く事が出来るのだ。
「何でも出来るよな、伊川は! マジで何が出来ないんだ? って感じするし」
『ですよね……!』
後輩達が頷く中、北瀬が色々な事を思い出している。
「野球も出来るだろ? 料理も出来るだろ? 勉強も絵だって書けるし、パソコンだって出来る……あれ、完璧超人か??」
「言い過ぎだって。これ位なら練習すれば誰でも出来る」
伊川は、努力を積み重ねれば誰でも何でも出来ると勘違いしているが、実際そんな事はない。
どれだけ勉強しても優秀にはなれない人だっているし、どれだけ運動してもヒョロガリのままの人もいるのだ。
北瀬はこんな完璧超人と一緒にいて、良く劣等感を持たなかった物である。
学力面では大層差を付けられているのだが、彼は全く気にしていなかった。
……いや、彼はそもそも真面目に勉強する質では無いので、普通に自分の努力不足だろうと思っているのかもしれない。
いやまぁ、北瀬には妬むという感情が存在していない疑惑があるのだが……好きな物で強い人に挑む事が好きな彼には、そもそも妬む理由が無いのかもしれない。
結局彼らは野球バカなので、伊川以外の人は普通の絵か下手な絵を掲示板に飾る事になっていた。
そもそも守備難を全国に晒しているので、ヘッタクソな人も気にしていなかったらしいが。
下手くそな絵をネットにアップされて実名で晒されているのだから、もう少し気にした方が良い気もする。
北瀬は海の絵を、由井はバットの絵を、花坂はプリンの絵をを書きました
花坂は生クリーム付きのプリンを、ある意味伊川先輩と仲良くさせてくれた救世主として崇めているらしいです
園大和(ダイヤモンドの功罪・バッティングの天才)
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