【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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139球目 再戦

 

 

 

明治神宮野球大会初戦の相手は北進学園。

1年生の夏甲子園で、ギリギリの死闘を制した因縁の相手である。

まぁ昔と今では実力が大きく変わってきているので、今の所は薬師野球部が格上だと言って良いかもしれないが。

 

薬師高校の轟監督は、一応相手の確認をする事にしたらしい。チーム内に覚えてなさそうな奴が多々いるので……北瀬とか三島とか火神とか……

 

「最後に確認だ!いつも忘れてる奴がいるからなぁ……

北進エースは149kmの剛速球2年、東光進。変化球はナックル一筋っつうか、ほぼナックルしか投げて来ねぇ

後、4番レフトの石和には注意してくれ。俺達程じゃねーが、強烈なバッティングをする奴だ。以上!勝つぞ!!」

『はいっ!!』

 

 

 

 

一方、相手のチームである北進学園は……エースの東光があからさまに震えていた。

 

「無理無理無理!!誰が助けてぇ!!」

「あーいつもの発作じゃん」

「コイツこんな事言ってる割に、マウンドに立つと大体何とかするんだよなぁ……」

 

泣き虫の東光は放っておいて、大城監督は試合前最後の話を始めた。

 

「相手は薬師高校……昔当たった時とは全く違うチームだ

リードは読めないし打力も更に上がってる……優勝候補筆頭って奴だな

だからこそ!ここで奴らを叩いて北進学園の名を知らしめてやれ!行くぞ!!」

『オォーーッッ!』

 

 

 

1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

……だがこの時、既に彼は嫌な予感がしていた。

 

(つうか……ナックルなんて打った事ねーよ!)

 

嫌な予感というより、ほぼ確信に近かった様だ。

流石の彼でも、打った事無い球は打てないのである。

 

 

___バシッ

___ブォン

 

「ストライク!」

(うわ、やだな……ぐにゃぐにゃしてるし)

 

 

___バシッ!

 

「ボール」

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

いや……何かホームランを打っていた。当たれば飛ぶ球質をしているらしい。

ベンチのホームランコールを聞きながら秋葉はホッとしていた。これで後で三振しても格好がつくなと思ったのだ。

 

 

 

 

ノーアウトランナー無しで、打席には2番伊川。

 

(ストレートより一瞬、軌道予想に時間かかるけど……それしか強いトコ無くね?)

 

そんな事を思いながら、彼は打席で威圧していた。

本人はそんな気は無いのだが、彼の圧倒的な【打つ】オーラに相手が萎縮しているのである。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

 

 

___カキーン!

 

伊川は涼しい顔をして、余裕のツーベースヒットを放っていた。

端的に言って化け物である。何でナックルを確信持って打てるのだろうか……?

 

 

 

 

ノーアウト2塁で、打席には3番北瀬。

 

(よっしゃ、ホームラン打ちたいなぁ!)

 

いつものお気楽思考を持ったまま、北瀬が打席に入った。

当然彼も威圧して来ている。

 

相手ピッチャーの東光は、ヒーヒー言いながらマウンドに立っている。

北瀬は(この人大丈夫なのかなぁ……?)と心配そうにしていた。大丈夫、彼はメンタルがどうなっていてもちゃんと投げられる選手だ。

 

 

___バシッ!

___ブォォン!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

___ブォォン!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

 

「ボール」

 

 

___バシッ!

___ブォォン!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

北瀬は残念ながら、三振に仕留められてしまった。

 

(うわ、あの軌道マジでスゲェ! 俺全然分からなかったんだけど!!)

 

彼は心の底から凄いなぁと思いながら打席を去った。

 

 

「ガハハハ、今回は俺の勝ちだな!」

「お前まだ打ってないじゃん……」

「ドンマイです北瀬さん!」

「次は打てますよ!!」

 

「おー、次は頑張るよ!」

 

北瀬はベンチに手を振りながら、三振したにも拘らず堂々と打席から去っていった。

監督達は、北瀬の様子を見て微妙な顔をしている。

 

「いや、ちょっとは気にしろよ……」

「彼の切り替えの速さは、長所にも短所にもなるでしょうね」

 

 

 

 

ワンアウトランナー2塁の場面で、打席には轟。

 

(打ちたい!トウコウのあの球……!打ちたい!!)

 

「カハハ……カハハハ……!トウコウ、打つ!!」

 

不気味な笑い声で周りを威圧しながら、薬師高校の主砲は堂々と打席に立った。

相手ピッチャーは失心しかけている。

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___バシッ!

___ブォォン!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___バシッ!

 

「ボール、フォア!」

 

ナックルボールは軌道を制御出来ないからか、ワンストライク取っただけでフォアボールになってしまっていた。

 

「雷市ぃ!フォアボールは甘えだぞ!!」

「そこはホームラン打っとけよ!」

「いやいや、ナイス観察眼です!雷市さん!!」

「見極め大事ですよー!そのまま行きましょう!!」

 

ベンチはワイワイと騒いでいるが、轟監督はある事の可能性を考えていた。

 

(東光の奴ら……【ナックルボールは制御出来ない】って体で、堂々と敬遠するつもりじゃないだろうな?)

 

選手に対して、無理なボールを打ちに行けという指示を出した事は無い。

変なクセをつけると後々苦労するからである。まぁ何故か、悪球に手を出す選手が薬師には多いのだが。

それでもちゃんと打つから、手出しはし辛い。

 

それを逆手に取って、主砲は全打席敬遠……されてもまぁ、他の奴らが打つからいっか!

そう思い轟監督はガハハと笑った。余裕の表情である。

 

 

 

 

ワンアウトランナー1・2塁、打席には5番火神。

 

「よっしゃー!テンション上がって来た!!」

 

いつも通りの事を言いながら、彼はバットをブォォンと振った。

相手ピッチャーは、彼のバットの振り方を見て(アレは……化け物かな??)と怯えている。

 

___カキン!

 

 

 

 

火神のヒットで満塁になり、打席に立つのは6番三島。

 

(ここで打ったらヒーローだ!俺スゲェ格好いい!!)

 

「ガハハハ!絶対打つ!!」

 

実は満塁男の能力を持っている三島に、絶好のチャンスが回ってきた。

今回の明治神宮大会初の満塁ホームランが打てるチャンスという、かなり嬉しい展開に彼のテンションは一段階上がって絶好調になっている。

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

 

高めボール球を精一杯振り抜き、場外への特大ホームランを彼は出した。

 

「三島!ナイスホームラン!!」

「マジカッケェな!三島!!」

「カハハハ……ナイスホームラン、ミッシーマ!!」

「本当に凄かったです!!」

 

「ガハハハ、やはり俺は天才だからな!」

 

ドヤ顔をしている三島。まぁここまで盛大に飛ばしたら当然である。そして、漫画の名言の様な事を言っていた。

 

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打席には7番瀬戸。

 

(俺も、ホームランを打ちたい!)

 

そう考えながら打席に入る彼は、立派に薬師脳に汚染されていた。

 

 

___バシッ!

___ブォン!

 

「ストライク!」

 

 

___ガギーン!

 

「ファール!」

「ギリギリの所に飛んだな……」

「ツーベースかと思ったんだがな」

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___バシ

 

「……ストライク! バッターアウト!!」

「まじかぁ……!」

 

ギリギリの所に決まったストレートをボールだと判断し、見逃し三振。

 

「ドンマイ瀬戸ー!」

「次ホームラン打てばチャラだぞー」

「ドンマイドンマイ! 次頑張ろう!!」

 

抑えられようがワイワイと盛り上がっている薬師ベンチの中、伊川は澄ました顔でこんな事を考えていた。

 

(いやでも……アレはギリギリボールだったよな、誤審?

俺らはボール球だろうが積極的に振るし、審判の中でマイナス補正されてても仕方ないよなぁ)

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打席には8番奥村。

 

(打つ。先輩達みたいにデカいのを、一発!!)

 

実はこの思考が、奥村の低打率の原因でもあった。

パワプロ能力でほぼ強化されてないにも拘らず、パワプロ能力で強化されている部員達と同じスイングをしようとしている。

これではU-18メンバーの様に、打撃の調子を崩しても当然だろう。

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___ガギーン!

___バシッ

 

「アウト! スリーアウトチェンジ!!」

『あああぁぁ……』

 

観客達からため息が漏れていた。

彼らは薬師打線をまだまだ見ていたかったのである。

 

「ドンマイ奥村!」

「次はホームラン打とうぜ!」

「惜しかったよ奥村くん!」

「次々! 次決めよう!!」

 

薬師ベンチは、そんな奥村を暖かく迎え入れている。

彼は奥歯をギリギリと噛み締めながら、ベンチまで戻っていった。自分の情けなさが許せなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

1回裏、北進学園の攻撃は1番サード。

相手があの、デットボールで有名なパワードという事である意味非常に警戒している。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

___ブォン

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッ!

___ブォン!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

パワプロ-奥村バッテリーは151kmのストレートでゴリ押し。

変な小細工をするより、これが1番強いのだ。

 

相手バッターは、固くバットを握り締めてこう思った。

 

(そうだ……そうだよな。アイツはコントロールはゴミだが、ヘボピッチャーって訳じゃねぇ!そもそも151km出せる奴が弱い訳ねぇだろ!!)

 

「アイツの球、やっぱクソ速えぇわ。対角線上に投げられると、もう反応出来ねぇ位」

「……分かった、気を付ける」

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打席にはセンター石和。

アイツが言うクソ速えぇ球を打ってやろうと、バットを短く持ち直した。

 

 

___バシッ!

___ブォン

 

「ストライク!」

(は、速えぇ……堀川さん位出てるんじゃねぇか?!)

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

 

 

___ガギ

___ダダッ!

 

「セーフ!!」

 

ボテボテのサードゴロの筈が、雷市が取るのに手間取りセーフ判定になる。

パワプロはそんな事もあるよなと気にしていなかった。

薬師野球部の戦い方に汚染されているのだ。

 

(堀川さんより重い球投げてくるけど、怖くは無いな……変化球も曲がらないしコントロールが甘過ぎる)

 

そう楽観的に考えている石和。

彼が1年生の頃にいた堀川篤哉先輩という投手が非常に素晴らしく、彼よりパワプロは強くないなと思ったのである。

それでも、薬師の打撃力を考慮できていない気がするが……代わりに守備力も酷いので問題ないだろう。

 

 

 

ワンアウトランナー1塁で出てきたのは、3番ショート。

彼は打てば何とかなるさと思い、とにかく当てようと考えている。

 

 

___ガギーン!

 

そしてレフト線ギリギリに、高く高く打ち上げていた。

ライトの北瀬はフォローに走りつつ内心頭を抱えていた。

 

(マズい、そこは火神しか守れねぇ……!)

 

 

___ボテッ

 

案の定、落球した。

1塁ランナーがが3塁まで進んだ頃、ボールを拾って投げようとしたが……送球に不安しかない火神はセンターの秋葉に任せる事にしたようだ。

軽く投げてくれた為、ミットからズレてはいたがしっかりキャッチ。そのままホームベースに投げた。

 

「……セーフ!」

『あああぁぁ……』

 

割とギリギリのタイミングだったが、3塁ランナーはセーフ。これで5-1となった。

 

「そうだ!それで良いんだ!!」

 

ベンチから大城監督が吠える。

北進学園の部員達はそれを聞いて、このまま行こうと決心していた。

 

 

 

 

ワンアウトランナー3塁で、打席にはピッチャー東光。

ガクガクと足を震わせながら、バッターボックスに向かっていた。

それを見ている北進学園のメンバーは(大城監督のシゴキでメンタルが治らなかったのはお前位だよ……)と嘆いていたらしい。

 

 

___カキーン!

 

フェンス直撃の打球を放ち、3塁ランナーは一気にホームに突っ込んだ。もちろんセーフ。

バッターも2塁まで進み、この回2点目である。

 

東光進という男は、メンタル面が悲惨でも野球は強いのだ。

 

 

 

 

ワンアウトランナー2塁で、打席にはファースト。

薬師野球部と戦うという事で、最初は無理だと悲観的になっていたが……案外行けるかもと思い始めていた。

 

 

___バシッ!

___ブォン

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

 

___ガギ

___バシッ

 

「アウト、ゲッツー! チェンジ!!」

『キャー!伊川くーん!!』

 

当てる事には成功したが、打球はセカンド伊川真正面。

当然伊川はダイレクトでキャッチ、慌てて戻って来たランナーをタッチした後、1塁に送球した。

 

別に普通のプレーなのだが、今まで薬師の悲惨な守備を見てきたにわかファン達は湧いている。

 

「良いぞ伊川ー!」

「ナイスです伊川さん!!」

「内野の要!!」

 

いや、薬師野球部の皆も湧いていた様だ。

彼らは守備力が無いのが基本なので、アレがスーパープレーに見えたらしい。

 

 

 

……

 

 

 

「試合終了、23-10で薬師高校の勝ち!礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

薬師高校も北進学園も点を取りつつ、最終的には順当に5回コールド勝ちをしていた。

さぁ撤収作業だと思い動こうとした北瀬を、何者かが呼び止めて来た。

 

「あの……」

「えっと、何?東光」

「次戦う時は、もっと強くなって……いると良いですね。俺がピッチャーとして」

「…?ああ、待ってる!」

 

変な事を言って来た東光に一瞬困惑した後、意味が分かってニッコリ笑った北瀬。

強い相手と戦うのが好きなので、相手が頑張る分には大歓迎なのだ。

 

 

 

 

「あわわわ……あの北瀬涼に話しかけちゃった!!」

「お前変な所でクソ度胸だよなー」

「俺も話しかけりゃ良かったかなぁ……」

 

一方北進学園のベンチは、あのメジャークラスの北瀬に話しかけにいった東光に呆れていた。

普段あれだけ小心者なのに、その度胸はどこから来たんだと呆れているのである。

 

ちょっと羨ましげにしていた人もいたらしいが……

彼らの戦いも、まだまだ続く。

 

 

 

 

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