【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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141球目 孤高

 

 

 

 

ツーアウトとは言いつつも、味方のミスで得点圏にランナーを置いてしまい、エース北瀬は動揺するかと観客からは思われていたが……

彼は普段通りの投球を見せて、大阪桐生の8番をあっさり三振にしていた。

 

北瀬はピッチングに、感情の一切を出さない選手なのだ。

身体の制御は伊川と同様完璧なプレイヤーだった。但し、予測は外れるので打率10割とはいかなかったが。

 

 

 

……

 

 

 

9回表、7-1で薬師高校優勢の場面。

今回の試合でずっとバントを狙っていた4番の木村は、遂にバッティングの許可を出されていた。

 

……そう、3点以上得点差を付けられた最終回になった場合、無駄に足掻かず盛大に散ろうと松本監督から言われていたのである。

 

もちろん打てるに越したことはないが、流石に最後までバント狙いはちょっと嫌じゃね?という監督からの思いやりであった。

部員達は賛同する者と不賛成を掲げる物に分かれていたが、どちらかというと主砲は反対側だった。

 

(最後まで……最後まで勝ちを諦めない!!)

 

最後は個人の裁量に任せられているのが大阪桐生なので、彼はバント狙いを辞めなかった。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___カーン!

___ゴロゴロ

 

流石大阪桐生というべきか、何とかバットに当てる事に成功した木村。

勢いを殺さなくて良い為、普通に考えるよりは当てやすいのかもしれない。

 

 

___バシッ

 

「アウト!」

 

だが、転がった方向はセカンド伊川方面。

当然簡単に処理されて、小学生に投げるかの様に優しい送球を1塁にされて呆気なくアウト。

 

「クソッ……クソォォ!!」

 

木村は試合の結末を確信して、大粒の涙を流していた。

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打線は5番垣本。

 

(悪いな木村……俺はヒッティングで行くぜ)

 

最後はバッティングをしたいと思った二刀流の垣本。

彼は普段通りにバットを長く構え、全力で長打を狙っていた。北瀬相手と考えると最適解ではないが、彼は自分のバッティングがしたかったのだ。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

 

 

 

そして、最後のバッターが打席に立った。

大阪桐生6番バッターの高田。彼は度重なる故障によって投手を諦めながらも、名門大阪桐生スタメンであり続けた選手である。

 

(ここで打ったら、プロ入りも見えて来るやろうな……最初から打たしてくれたらええのに)

 

自己中な彼は、最後までそんな事を考えていた。

それだと1点も取れなかった気がするのだが……彼には関係ない事らしい。

あくまで高校生活をプロ入りの手段として考えている高田は、見栄えの悪いバント作戦を嫌っていた。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、バッターアウト!試合終了!!」

『わああぁぁ!!!』

 

薬師野球部に観客達からの祝福が鳴り響く中、薬師メンバー達はエースの北瀬の所に集まってわちゃわちゃとしていた。

 

「やったな北瀬!」

「俺達なら当然だって!皆も打ってくれてありがと!!」

「やりましたね!!決勝戦進出ですよ!!」

「ガハハハ、俺達は最強!!」

「カハハハ……!サイキョー!!」

 

 

 

 

薬師野球部員達がはしゃいでいる中、大阪桐生の選手達は冷静に列に並んでいた。

既に春のセンバツ出場は明治神宮野球大会出場で決まっているので、大騒ぎする必要性があまり無いのである。

 

「帰ったらもっと練習せんとな……」

「こない恥ずかしい試合を2回もしたないしーな」

「帰ったら特訓だ!!」

『おうっ!!』

 

『7-1で薬師高校の勝ち!礼!!』

『ありがとうございました!』

 

 

 

 

 

 

試合が終わった後、案の定薬師野球部は大量の取材を受けていた。

イケメンな1年後のメジャー選手へ、取材が容易に出来るとなったら当然の対応だろう。

 

「ガハハハハ!そうでしょう、俺達は強いんです!!」

「最強投手は北瀬だと、決勝戦でも証明してみせます」

「いやーバント怖いっすね」

「カハハハ……カキモト強かった……デス」

「やはり守備をもう少し改善して行きたいですね……」

 

薬師U-18出場5人衆が普段通り回答する中、由井はちょっと意地悪な質問をされていた。

 

「北瀬くんはカーブとフォークとスローボールを使いませんが……そこに戦略的な意図はあるのでしょうか?」

「俺が取れないだけです。エースの北瀬さんに、申し訳ないと思っています」

 

帰っている途中、由井があの質問で落ち込んでいるのを見て伊川は慰めに行っていた。

 

「仕方ない。いつかちゃんと全部取って、アイツらを見返してやろう……」

「はいっ!……ありがとうございます」

「あれ、由井はまだ気にしてんの?

俺はけっこう……いや違うな___高校最強のピッチャーだから、取れないのは仕方ないんだ。それでも取れたら、その捕手が凄いってだけだよ」

『おおー……!』

 

遂に自分が最強だと認めた北瀬。

仲の良い由井が、悪い捕手だと言われていたのに今更気付いて腹が立ったかららしい。

薬師部員達は俺達のエースがまた1つ成長したと、彼の強気な発言を喜んでいた。

 

「そうです、北瀬さんが高校最強です……少し精神面が成長しましたね」

「あれ、奥村は真田先輩が最強だって思ってる訳じゃないのか?」

「いつか真田先輩と、貴方を超えるつもりですが……まだ北瀬さんの方が強いですよ」

「そっか、そうだよな……」

「言った側から弱気にならないでください」

「……ハイ」

 

1年生にも拘らず大エースに対して強気な発言が目立つ奥村だが、部員達はいつもの事としてスルーしていた。

上級生のまぁいっかという空気に流されて、何となく彼のビッグマウスが許されるムードになっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

ホテルに帰った薬師部員達は、何故か巨摩大藤巻高校の選手達と一緒に夜ご飯を食べていた。

そう、何故か宿泊施設が同じだったのである。

 

「カハハハ……美味い!美味い!!」

「雷市は何でも美味しそうに食べるよなぁー!」

「勝った後のメシはサイコー!!」

 

気にせず楽しげに食べる部員が多い薬師高校に対して、巨摩大藤巻の選手達は微妙な顔をしていた。

何しろ、次に当たるライバルの前で変な真似は出来ないと考えたのである。

ダサい田舎者だと思われたら、本郷が憤死しちゃうし……大方の選手はそんな事を考えていたらしい。

 

北瀬はそんな空気感を気にせず、楽しげな顔をして本郷の方を向いていた。

 

「世界大会以来だなぁ、どんな感じの練習してた?

あ、俺は最速168kmになってさー!コントロール気にすると投げられないけど、やっぱりちょっと嬉しいや!」

「……」

「後さー、あの大会以降スライダーの調子が妙に良いんだよなぁ。お前に投げるのが楽しみだよ!」

「そうか」

 

自チームの大エースと、世界最強クラスの大エースが楽しげ?に話しているのを見て巨摩大藤巻の選手達はざわめいていた。

 

(本郷の塩対応、北瀬さん全く気にしてねぇ?!てか本郷良く恩人に対してあんな対応取れるよなぁ。それに、仲よさげなのかな……?アレ)

 

北瀬が長文を話して本郷が一言二言返すのが続いていたが、彼ら本人は気にしていない要だった。

北瀬は機密事項だと把握している事以外の情報をペラペラ話してしまっているので、巨摩大藤巻の選手はメモを取っている物すらいた。後で分析してやるつもりなのだろう。

 

 

轟監督や片岡コーチはそんな北瀬に呆れていたが、まぁ三島が最近練習してるカーブとか、本人が新たに身に着けたHスライダーについては話してないから良いか……と考えてたのだ。

口が軽い北瀬にも、一応話して良い最低限の分別は付いている様だった。

 

ちなみに三島がカーブを練習している理由は、フォークだけでは空振りが取りづらいと思ったからである。

覚え易いとされているカーブを練習しようと、北瀬に詰め寄って教えて貰っていた。

北瀬本人は、バッティング練習とか守備とかやった方が良いんじゃね……?と三島に教えるのに消極的だったが、彼の熱意に勝てず教えてしまっていたらしい。

 

ちなみに北瀬がHスライダーを覚えた理由は、由井が取れる様に頑張って曲がりが少ない球を投げようとしていたら出来てしまったのだ。

パワプロ的に言うなら、Hスライダーの特訓をしていた扱いになっていたらしい。

 

今は変化量2とあまり使い物にならないが、まあ相手を驚かせる位には使えるだろう。と北瀬は思っていた。

でも曲がりは少なくても162kmが出る変化球って、かなり魔球ではないだろうか……?

 

 

ほのぼのとしている薬師野球部を見て、巨摩大藤巻の1年生が意を決して伊川に話しかけていた。

 

「あの伊川さん……バッティング見て貰えませんか?!」

「えっ、俺??えーっと、流石にチームが違うのに……良いのかちょっと判断出来ないなぁ……」

「ガハハ、その心意気は良し!教えてやれ伊川!!」

「まぁ……1日教える位なら良いんじゃないか?」

「キャプテンがそう言うなら……分かったよ」

 

絶対断られるだろうと覚悟を決めて話しかけた彼は、あっさり了承されて呆然とした。

えっ、本当に良いんですか?いや、メジャークラスの選手に教えて貰えるなんて、いくら金を積んでも無理だと思うんですけど……??いや、教えて貰えるなら遠慮しませんけどね??

 

「ありがとうございます!!!」

 

この練習で後輩の1年生がミート力が大幅に上がってアベレージヒッターのコツを覚え、来年の夏にベンチ入りしてしまうのを今の彼らは知らない。

何となく伊川さんの言う事は身体が覚え易くて、気付いたら打てる様になっていた……と後輩くんは言っていたらしい。

 

親切で教えるのが上手いメジャー選手がチームに2人もいるなら、薬師野球部が強くなる訳だよ……と巨摩大藤巻の選手達は納得していた。

 

 

 

 

 

 

ホテルの部屋で黄昏れている北瀬。

それを見ながら、伊川は気にせず勉強をしていた。

 

「明日、スローボールとHスライダー解禁かぁ……楽しく戦えると良いなぁ……」

「北瀬さん、どうしたんですか?」

「……いや、明日の試合も楽しいと良いなと思ってさ」

「そうですね、明日こそ完全試合が出来るように頑張ります!!」

「うん」

 

伊川は、北瀬が内心ギリギリの戦いを求めている事に気付いていた。

だが既に薬師は……彼が手抜きをした程度では負けない。

それに北瀬のメジャー行きに付いていくには、伊川は最後まで戦うしかないのである。

 

だから北瀬の簡単に勝ててしまうという悩みを解決出来ない伊川は、彼の呟いた一言にあえて無反応だった。

既にどうしようもない事は、ひたすら目を逸らすしかないと考えているのである。

 

(由井が努力すればする程……北瀬の楽しさは減っていく

俺のリードがいつまで経っても良くならなかったのは、無意識にソレが分かっていたからかもしれない。今更気付いても遅いけど……)

 

誰か北瀬に対抗出来る投手が相手チームに出てきてくれと願いながら、伊川は目を瞑っていた。

 

(綾瀬川が、もし他のチームに行ってくれていたら……

いや、アイツが悪い訳じゃないんだけどさぁ)

 

また他人の思惑に巻き込まれている綾瀬川。

彼はそういう、人の考えている事に巻き込まれる星の元に産まれて来た人間なのだ。

まぁ伊川は、本人にそんなどうしようもない理不尽な事を言わないので問題は無いだろう。

 

 

 

 




三島にカーブを身に着けさせた方が良いとくださった方、ありがとうございます!確かにと思ったので入れました!
伊川のリードが良くならなかったのには、複合的な理由がある裏設定です
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