【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
明治神宮野球大会決勝戦の日。
普通なら緊張する場面だが、轟監督は余裕ありげにガハハと笑っていた。何か地味に笑い方が三島と似ている。
「決勝戦は巨摩大藤巻だが……相手は烏野高校との激戦で疲れ切ってるだろうな
絶対に勝てる試合だ!楽しんで勝ちに行け!!」
『はいっ!!』
対して巨摩大藤巻の新田監督は、恐ろしい覇気を見せながら本郷に尋ねた。
「昨日は非常に長い戦いだったが___行けるな?本郷」
「___行けるに決まってるだろ」
「そうか……薬師高校恐れに足らず!勝つ事だけ考えろ!___行くぞ!!」
『おうっ!!』
恐ろしい雰囲気を監督やエースが漂わせながら、最後の締めに掛かった巨摩大藤巻高校。
だが新田監督も本郷も、内心こう考えていた。
(とは言ったが……今回は良い対策が思い付かなかった
コレであの北瀬に勝つなど、有り得るのか?)
1回表、巨摩大藤巻高校の攻撃。
観客達は、巨摩大藤巻も大阪桐生の様にバント攻勢で来るかと思っていたが……そんな事は無かった。
彼らは普段、バントを使用しないチームなので直ぐにやれと言われても出来ないのが分かり切っているからである。
___バシッッ!
「ストライク!バッターアウト!!」
ノーアウトランナー無しで、2番バッターは赤木。
三井とシニアで同チームだった選手であり、彼に対抗心を抱いている東京地区の1年生は多かったりする。
(やる……行ける!)
___バシッ
「ストライク!バッターアウト!!」
「……?!」
はたから見れば、それは確実にスライダーだっただろう。
だが赤木は、絶対に違うと確信していた。
「最後の変化球、スライダーじゃない。Hスライダーかカットボールか……でも、今までの北瀬さんの球よりは怖くないですね」
「___有益な情報だった、感謝する」
ちなみに、なぜ追い込まれてもいないのに新球種を見せてしまったのかというと……
このまま誰にも変化球を投げないままだと、由井のプロ入りに支障が出かねないからである。
北瀬は由井はちゃんと、変化球が取れる選手なんですと証明して上げたかったのだ。
勝利至上主義なら許されない北瀬の発言だが……轟監督は許した。
来年の夏まで、薬師野球部は大会を蹂躙する事がほぼ確定してるからである。
どうせほぼ100%優勝出来るなら、ドラフトに掛かる選手を増やす方針で行こうと思い、実行したのだ。
巨摩大藤巻の3番は本郷。
ピッチングの師匠であり、優勝を成し遂げる為の最大のライバルでもある北瀬。
___今、彼を超えてやると、本郷はギラリと北瀬を睨んだ。
北瀬はそれを見て、ニコッと笑った。
追い越すつもりで戦ってくれる、彼との試合が楽しくて仕方ないのだ。
それを見て、本郷正宗はブチギレていた。
北瀬の奴___俺達をライバルだと思っていねぇ!!
格下がどこまでやれるか、楽しみだなぁなんて目で見ていやがる!!上等___その余裕を剥ぎ取ってやるよ。
本郷の怒りは、あながち間違っていない。
高校最強の俺に、高校最強打線がいるんだから負けるわけないよね?とちょっと思っているのである。
___バシッ!
「ストライク、バッターアウト!チェンジ!!」
北瀬は1回表を簡単に無失点にしていた。
「ナイス北瀬!」
「この調子で後ろに飛ばさないでくれ!!」
「すげぇ……!!」
「ありがと皆……楽しいホームランダービーにしようね」
『おうっ!!』
「……分かった」
1回裏、薬師高校の攻撃は1番秋葉から。
___バシッッ!
「ストライク!」
___カキン!
___バシッ
「アウト!」
良い当たりだったが、鉄壁の守備に阻まれてアウト。
「ああっ惜しい!」
「ドンマイ秋葉ー!次はホームラン狙おうぜ!」
ワンアウトランナー無しで、打席には2番伊川。
今日はバットを長く持ち、ホームランを狙う算段をしている。北瀬がホームランダービーをやりたいというから、その為だ。
当然巨摩大藤巻バッテリーも、普段と違うと気付いた。
ホームラン狙いなのか……もしくはそう見せかけて守備を釣り出して3塁まで進む算段なのか……
彼らは少し悩んだが、ホームラン狙いだと判断した。
伊川は今まで、堂々と小細工を見せつける選手では無かったからである。
___バシッ!
「ストライク!」
___バシッ!
「……ボール!」
___カッキーン!
「ファール!!」
追い詰められた伊川。だが彼は、ホームランを狙う事を諦めていなかった。ホームランダービーの開催の為である。
「伊川どうしたんだ……?」
「ガハハハ、遂にホームランの良さに気付いたか!」
「俺が伊川にも、『ホームランダービーしようね』って言ったからかなぁ……」
「そういう事ですかね……?」
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
そして伊川は、本当にホームランを打ってしまった。
優しく微笑みながらダイヤモンドを回ると、ベンチの皆にこう言った。
「今日の俺は、ホームランを全力で狙うよ……誰が1番打てるか、勝負だ!」
「やった!楽しみだなぁ!!」
「ガハハハ!俺が1番を取ってやる!!」
「カハハハ……勝負!楽しみ!!」
ワンアウトランナー無しで、打席には3番北瀬。
俺もホームランを打ってやると、楽しそうな目をしている。
___カキン!
『わああぁぁ!』
結果的にはヒット。
残念そうにしながら、2塁を狙う姿勢を見せている。
ワンアウトランナー2塁で、打席には4番轟。
本郷はギラついた目をしていたが、キャッチャーの方を急に睨みつけて怒っていた……敬遠しろとの事である。
___バシ
「ボール、フォア!」
仕方なく……本当に渋々敬遠した本郷。
あからさまにイライラしているのが目に見えて分かる。
「カハハハ……」
(またこれか……嫌だなぁ……)
雷市は悲しがりながら、1塁に向かっていった。
ワンアウトランナー1・2塁で、打席には5番火神。
「よっしゃーテンション上がって来た!」
(本郷の球打つの楽しみにしてたんだよな!すげぇ奴と戦うのワクワクする!!)
いつも通りの火神に対し、バッテリーは勝負を挑んだ様だ。
___ガギーン!
結果は、ライト方向への進塁打。
走力Bの2人がタッチアップの瞬間、全力で走った事による結果だ。
「くそっ、ミスった!ごめん!!」
「ガハハハ、そんな事もある!」
「惜しかったよー!」
「大丈夫だよ、ランナーは3塁に進んだしね!」
ツーアウトランナー2・3塁、打席には6番三島。
「うおーっ!やってやるぜぇ!!」
(ここで打ったら……さっきの雷市よりスゲェな!また一歩、俺は成長する!!)
___ブォン!
___バシ
「ストライク!」
___バシッ!
「ボール」
___バシッ!
___ブォン!
「ストライク、ツー!」
___バシッ!
___ブォン!
「ストライク、バッターアウト!チェンジ!!」
「ウガァァ、やられたァ!!」
残念ながら、今回の三島は打てなかった。
まあ彼は伊川では無いので、そんな事もある。
「ドンマイ三島!」
「そんな事もあるぞー」
「惜しかったです三島さん!」
「次ホームラン打ちましょう!」
ベンチは絶好のチャンスを逃した彼にも暖かく声をかけ、三島は直ぐに復活していた。
立ち直りが非常に早いのが、彼の良い所である。
2回表は北瀬が圧巻の三振劇を見せ、裏は薬師下位打線が凡退した。3回表も北瀬が三者三振にしていた。
3回裏、薬師高校の攻撃は1番秋葉。
次は絶対打ってやると、真剣な顔をしている。
___カキン!
「セーフ!」
初球からヒットを放ち、彼は薬師3強に繋げた。
だがベンチは微妙な顔をしている。
「秋葉ぁ!どうせならホームラン狙おうぜ!!」
「ドンマイドンマイ!そんな事もあるよ!!」
「ナイスです秋葉さん!」
「本郷さん相手にヒットは良いですよー!」
いやまあ、微妙な顔をしているのは一部だった。
大多数の部員は喜んでいる様だ……秋葉は喜んでいる下級生を見て、少しホッとしていたらしい。
ノーアウトランナー無しで、打席には2番伊川。
彼は威圧感を蒔き散らしながら、本郷を方を見ていた。
「…………」
(狙うはホームラン一択。芯に当てるんだ)
___バシッ!
「ストライク!」
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
有言実行とばかりに、2連続ホームランを放った。
「伊川ー!良いぞぉ!!」
「普段からそれやってくれよぉ!!」
「伊川さん!!!」
「凄い……!!」
普段ホームランを狙わない彼が2打席連続ホームランを放った事に、部員達は戦慄しながら歓声を上げていた。
コイツ……やろうとすれば何でも出来るのか?!流石天才だな!!という感じである。
ノーアウトランナー無しで、打席には北瀬。
闘志に燃えた目をして、彼はバットを構えた。
「ホームランダービーだからね___俺も打たないと」
___バシッ!
___ブォォン!
「ストライク!」
___バシッ!
___ブォォン!
「ストライク!」
呆気なく追い詰められた北瀬だが、ギラついた目は全く変わらない。
……むしろ、ここで打ってやると意欲に燃えていた。
___カッキーン!!
『わああぁぁ!!』
宣言通り、いやそれ以上の場外ホームランを放った。
ベンチも総立ちで、彼の勇姿を称えていた。
「北瀬!最高だ!!」
「ガハハハ、これが薬師打線!!」
「北瀬さん……!凄いっ……!!」
「ホームラン!!ホームラン!!」
拍手喝采の中出てきたのは、4番轟。
「カハハハ……!ホームランッ……!!」
楽しげに嗤っている彼に、待ち受けている運命があった。
「ボール、フォア!」
「カハハ……また……」
あからさまにしゅんとしながら、彼はまあ1塁に向かって行った。
ノーアウトランナー1塁の場面で出てくるのは5番火神。
「よっしゃー!俺もホームラン打ってやる!!」
気合十分といった表情で出てきた火神。
彼も北瀬と同様、かなりのバトルジャンキーである。強い相手と戦いたいという意味で。
___バシッ!
___ブォォン!
「ストライク!」
___ガギン!
___バシッ
「アウト!」
「ウガーッ、負けた!!」
悔しがりながらバッターボックスから出ていった彼だが、どこか楽しそうな顔をしていた。
やはり本郷と戦うのはワクワクするのだろう。
ツーアウトランナー1塁の場面で出てきたのは6番三島。
「ガハハハ!狙うはホームランただ1つ!!」
高笑いをしながら出てきた彼は、気合十分である。
まぁ薬師打線は、いつでもホームランを打とうと気合が入りまくっているのがデフォルトなのだが。
___カキーン!
そしてツーベースヒットを放った三島。
彼はそれでも悔しそうにしているが、高校野球3強の本郷相手にツーベースは快挙と言って良いだろう。
そして……1塁にいた轟が、ホームに突っ込んだ。
「…………アウト!スリーアウトチェンジ!!」
『あああぁぁ……』
ギリギリのタイミングだったが、残念ながらアウト判定が出てしまった。薬師ベンチは励ましの声を掛けている。
そんな時、伊川はこんな事を思っていた。
(いやでも……今のはギリギリセーフじゃね?タイミング的に。アピールプレイが足りなかったって奴か)
彼の目には送球がミットに届くより一瞬速く、本塁に手を置いた雷市が見えていたのである。
まぁ彼の人類史上最高クラスの目で見て出した結論だったので、審判が分からなくても仕方ないが。
観客達も、今の判定に文句は無いようだった。
人より非常に見えすぎてしまうというのも、ストレスが溜まりそうで大変である。