【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
4-0と薬師優勢の中、4回表巨摩大藤巻高校の攻撃。
1番バッターは、どうやって北瀬を攻略するかと頭を悩ませていた。
(やっぱり……バントか?得意じゃねーが、やってみる価値はある……かもしれない)
彼は、独断でバント作戦に出た。
___カーン!
___バシッ
「アウト!」
『北瀬!!北瀬!!』
だが打球は、ピッチャー北瀬真正面。
彼は軽々とノーバウンドでキャッチしていた。
ベンチに帰ると、彼は新田監督に睨まれていた。
「___ワシは、バントをしろと言ったか?」
「……言ってません、すみません」
「生半可な術で北瀬に対抗するなど不可能、心得ておけ」
『ハイッ!!』
……
5回表の直前、1人の荒々しい呼吸が巨摩大藤巻高校ベンチに鳴り響いていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
明らかに消耗している本郷。だがその瞳はギラギラと前を見ていた。勝つ事を全く諦めていないのだ。
「本郷___交代だ」
「……耄碌したか?ジジィ!!」
そんな勝つ事を諦めた監督の言葉に、本郷は怒髪衝天という表情をしていた。
「お前のスタミナが無い事が敗因だ……それ以上でも以下でも無いわい」
「…………!!俺は試合に出るぞ!!」
「落ち着け本郷!お前もう無理だって!!」
暴れてでも試合続行しようとしている本郷を、慌ててキャッチャーで幼馴染の円城が止めようとしていた。
新田監督はそんな彼をギロリと睨みながら、内心こう考えていた。
(まだ投げられるかもしれないとは、ワシも思っとるが……万が一にもお前を潰す訳にはいかんのだ
___それも、こんな負け試合の為にはな)
そして出てきた2番手ピッチャーは、薬師高校相手に大炎上していた。
そして12点差が付いた所で、轟監督はあからさまに右手を高く上げ、グルグル回した。
これは、ワザと討ち取られてアウトになれというサインである。
伊川はそれをみてコクリと頷き、今回はピッチャーがギリギリ取れる所に打ち上げた。
___バシッ
「アウト!」
どうせアウトになるなら、ちょっとした嫌がらせをしてベンチに帰るか。とでも思ったのだろう。
確実にアウトになって、若干2番手ピッチャーを疲れされる手に出ていた。凄く今更だが。
……
『信じられません!夏甲子園でギリギリの勝負を繰り広げた巨摩大藤巻高校が……まさかの12点差を付けられています?!』
『エースの本郷くんが事前に消耗していて降板した事が、ここまでの差を作らされてしまいましたね……』
『後1つ!後1つのアウトで北瀬くんは、ノーヒットノーラン達成です!!』
『コールドゲームなので非公式記録ですがね』
___バシッッ!
「ストライク、バッターアウト!……コールド!試合終了!!」
『わああぁぁ!!』
勝者も敗者も等しく、グラウンドの真ん中に集まり整列する。これが日本の野球である。
「12-0で、薬師高校の勝ち!礼!!」
『ありがとうございました!!』
北瀬も本郷も、お互いに一言もかけないまま無言で去っていった。
伊川はそんな北瀬を見て、怖々と疑問を口にした。
「良いのか?本郷と話したい事もあっただろ」
「……勝った俺が、何て声を掛けるんだ?」
「万全の本郷と、甲子園で戦いたい……とか?」
「確かにそれ、アリだったな」
「まぁ良いだろ。どうせ決戦は甲子園だし」
「そうだな!」
学校に帰って理事長が持ってきてくれた肉をガツガツと食べた後、グラウンドで花火大会を決行していた。
喜んでいる生徒は多かったが、由井や奥村といった頭脳系は微妙そうな顔をしている。
北瀬は、そんな彼らを不思議そうに見て聞いた。
「あれ、線香花火嫌いか?」
「いや、そうじゃなくて……野球をするグラウンドで、こんな事して良いのかなって思いまして……」
「別に良いんじゃね?理事長が許可してるんだし。速くこっちでやろう!負けたら最後の片付けやる係だぞー!!」
「あ、今行きます!!」
そこら中で数人が集まり、線香花火大会が開かれていた。
1番最初に落とした奴が片付けをするルールが、薬師部員達のスタンダードである。
彼らは潔白な野球部員なので、罰ゲームに出来る事がそれ位しか無いのだ。
「はは、遅かったな由井!俺はもう負けた所だぜ!」
「三井くん……負けるの速くない?」
「さっき突風が吹いたんだよ、それで何人もダウンした」
「最終決戦を、今伊川と森山先輩がやってるぜ!」
___ビュービュー
「あっ……」
「よっしゃ勝った!!」
「勝者伊川!敗者三井!!」
『わあぁ!!』
「よし、もう1パックあるから由井もやろう!」
「はいっ!」
「ったく、出遅れ過ぎだっての。楽しい事は待ってくれないんだぜ?」
「ははは……」
彼らは楽しく、また花火大会をしていた。
神宮大会と比べるとちっぽけな思い出に過ぎないが、こういう事もけっこう記憶に残る物である。
北瀬も伊川も、雷市も三島も秋葉も、楽しかった事として一生覚えていたという。
| 神宮大会勝ちました! |
| これで甲子園で戦えますね! |
| おめでとう |
| 今度こそ君たちに勝つよ |
| 俺達だって負けませんよ! |
| 甲子園三連覇してみせます! |
| 次会う時は、甲子園だね |
| はい! |
スマホを見てニコニコしている北瀬を見て伊川は尋ねた。
「どうしたんだ?凄く楽しそうだけど」
「あぁ、降谷さんと甲子園で戦おうねって話してたんだ!楽しみだな、次はどんな進化をして来るのかなぁ!!」
「おー、そっか。楽しみだな」
伊川は内心(北瀬に勝てる位まで強くなってくるか……?)と疑問視していたが、気にしない事にした様だ。
微笑みながら、北瀬の喜んでいる姿を見ていた。
対外試合禁止の12月。今回は今更やる事になった、引退した薬師上級生を交えての引退試合。
前回は人数的に出来なかったが、今回は多数の1年生を交えての実施になる。
といっても3年生チームは人数が足りないので……
「というわけで俺達は、北瀬と由井の合計9人をスタメンで使わせてもらうぜ!」
「いやちょっ北瀬は禁止カード過ぎますよ!?」
「いいじゃん!下級生組はU-18組4人に火神までいるんだし!」
「だからって……初手投手トップ2独占するとは思いませんって!?」
何やらチーム分けで揉めている様だ。
ピッチャートップ2の2人をを纏めて持って行くのは、かなりズルいと思ったのである。
「はー……これが運動部の学年カーストってやつですか」
「えっ?真田先輩達の引退試合なら、俺も先輩チームが良いんですけど」
「伊川まで3年生の方行ったら、マジでゲームが崩壊するからやめてくれ!」
「カハハハハハ!!キタセの球もサナーダ先輩の球も、山までブットバス!!」
割と揉めたが、流石に北瀬が強すぎるのと轟守備が問題過ぎると判断した轟監督。
彼が最終的に、下級生はDH制&上級生組10失点まではピッチャー真田、5回から20点差でコールドということで一応のバランスを取ることとなった。
……バランスがこれで取れたと判断されるのは根幹的に何かがおかしい気もするが、まあ彼らは納得しているのでいいのだろう。
上級生チーム
1平畠(三)
2森山(左)
3真田(投)→(中)
4北瀬(中)→(投)
5福田(二)
6米原(右)
7山内(一)
8米原(遊)
9由井(捕)
「……打順一部適当すぎないですか?」
「北瀬以外皆、打力なんて似たり寄ったりだからいーよ」
「しっかし内野できる奴が少なすぎて、打たれた日にゃ春甲子園の時よりひでーことになりそうだぜ……」
(真田先輩の引退試合、どうせ人数不足なら俺が受けたかったな……)
(……って目してるけど、なーんでそういうことは口にできねえのかなあ奥村……)
下級生チーム
1秋葉(中)
2伊川(二)
3三島(一)
4轟(DH)
5火神(左)
6結城(右)
7瀬戸(遊)
8奥村(捕)
9緑野(三)
P友部→パワプロ→錦織
「パワプロ……流石に今回は勘弁してくれよ」
「本当に先輩方野球そのものから引退させることになったらお前、マジで退部モンだからな?」
「わ、わかってますって!流石に引退試合で怪我は本気で洒落にならないですから!」
先行は上級生チーム。
先頭打者は、北瀬と共に副キャプテンとして部を支えた男平畠。
対するピッチャーは友部、手首の使い方が柔らかく変化球に崩されない下半身の強さなどが特徴のピッチャーだ。
___バシッ!
「ストライク、バッターアウト!」
___ガギーン!
___バシッ
「アウト!」
北瀬からしっかり上げてもらっていた球速アップの効果もあり平畠を三振、森山をフライアウト。
___カッキーン!
___カッキーン!
___カッキーン!
しかし真田北瀬福田に3連ホームランされていた。
分かってはいたけれど、大味すぎるバッティングに下級生バッテリーも苦戦、最終的に1回4失点となる。
「真田センパーイ!マジカッケェっス!!」
「流石先輩!!打撃力も投手力も完璧!!」
「伊川!お前は一応下級生チームだろーが!!」
後半の先発は、元キャプテンの真田。
2年半もの間薬師野球部をあらゆる面で支え続けた男、というより彼がいなかったら色々崩壊していたと思われる。
___ガギ
___コロコロ……
「やっべぇ……」
150の大台を超えた速球に一級のツーシーム、カットボールに秋葉も2ストライクまで追い込まれるもボテボテヒット…と思いきや三塁打。
内野陣がただでさえ下手なのに、内野守備に慣れてない連中ばっかりなのである。これじゃ打たれた瞬間に失点しかねない。
___カッキーン!
「うわっ、引退試合でも容赦無いッスね!」
「手加減する方が失礼だろ!」
そこから更に薬師が……いや日本が誇る究極安打製造機伊川、彼があっさりホームラン。
その直後には三島が打席に入り、闘志を燃やしていた。
___バシッ!
「アウト!」
「しまったああぁ!!」
「カハハハ……!サナーダ先輩打つ!!」
___カッッキーン!!
『わあぁ!!』
三島は気合のいれすぎで三振したが、次は笑い声と共に登場する主砲轟雷市。
全てを打ち砕く雷砲はボールを破壊しかねない。
本当に山の向こうまでいくんじゃないかという勢いでホームラン……使用しているのが飛びやすい金属バットとはいえ、飛距離約200mだった。
「はは……俺マジでプロでやってけるかな……」
「あれ、真田先輩どうしました?」
「何でもねーよ!」
真田はコレで、やや自信を失いかけていた。もちろん薬師打線らがイカれてるだけなのだが……
___カキーン!
「アウト!」
___ブォォン!
___バシッ!
「アウト、チェンジ!!」
「思ったより点数伸びなかったなぁ」
「いやいやいや、4-3なんて普通試合の後半戦だろ!」
「でも薬師対薬師だぜ?烏野戦みたいになってもおかしくないだろ……」
『…………』
火神の打球北瀬がフライで抑え、結城をしっかり三振に抑え込んでチェンジ。
思ったよりもちゃんと抑えられてて、長引くのではと思っていた部員は安心したらしい。
2回表は1度下位打線相手に出塁を許すものの、セカンド伊川の好守備もあり無失点。
2回裏は、裏では瀬戸が2ベースヒット、奥村がゴロ、緑野が三振……そして打者が一巡。
秋葉が安定のヒット……ではなくランニングホームランを出したら伊川が2べース、三島も2ベース、雷市はホームラン、火神はランニングホームラン、結城2ストライクからの3連続ホームラン。
「うげぇぇコレはやべぇぇ!!」
「真田先輩!何とか…何とか堪えてください!!」
「お、おう……頑張るわ……」
引退する先輩相手に容赦0、まさかの2回11失点。
伊川の言う通り、手加減する方が失礼だと思ったのだろう。真田はとりあえず、下位打線を抑え込みチェンジ。
いや彼本来の実力ならもっと抑えられるはずなのだが、基本フォームやボールのクセ等がほぼ割れてしまっているのが大きいのだろう。
プロになったらそのへんは何とかして欲しい。
3回表では米原、由井がヒット、平畠がホームラン……後にも色々あって7点入った。
裏では北瀬が遂に出陣、見学してた1年生達が大盛り上がりの中、下位打線を瞬殺である。恐ろしい剛速球だった。
4回表からパワプロが出陣。デッドボールが洒落にならない為に、奥村は仕方なくアウトコースを要求。
すると四球連発押し出しからの、あわやデッドボールで降板していた。
4回裏は北瀬が伊川も含めて完全に抑えた。真田先輩達に勝利をと考えた、彼の執念が優ったのだろう。
ちなみに雷市はスライダーに当てたが、僅かに及ばずフライに倒れたらしい。
5回からは錦織……とりあえずめっっちゃ打たれ、北瀬に抑えられた。20点差コールドのルールにより試合終了。
「えー、結果を発表します___勝者、北瀬涼!!!」
「やったー!……あれ、先輩方は???」
「ガハハハ、夏までに北瀬のスライダーを攻略だ!!」
「北瀬vs伊川の矛盾決戦と対雷市の雷砲激戦は、マジで見ごたえ凄かったなあ」
「チケット売ってたら金取れるだろ!アレ」
「いやー最後にマジいいもん見れたわ!!!」
監督のふざけた言葉に笑いが出ていた薬師野球部。
3年生が引退しても、彼らの野球は続いていく。