【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
美川実業、鳥野、巨摩大藤巻と戦い、エース北瀬と超重量級打線で勝利を納めてきた薬師高校。
対するは白龍、青森安良、大阪桐生と戦い、その打撃で勝利を納めてきた大島工業高校という注目の1戦。
ファンやマスコミから西の薬師、東の大島の打撃戦と称されるこの試合に、大いに盛り上がっていた。
ちなみにどちらも東日本のチームなのだが、どちらもあまりにも打ち過ぎるのと一応東西に分かれているのでこう表されることになったとか。
西日本の打撃重視の強豪は確実に泣いてもいい。
先発は北瀬。轟監督はこの大事な決勝戦でまさかの超攻撃型打線を結成した。
「いいか!今日の試合。大島の先発は間違いなく黒川だ!
確かに奴はスゲェピッチャーだけどな、それ以上にスゲェ奴を俺達は知っている!
それに、ウチには友部やパワプロ、ついでに三島もいるが、あっちにはエースしかいねぇ! あいつを降ろしちまえばこっちの勝ちだ!!
だからお前ら!いつも通り打って打って打ちまくれ!!」
『はいっ!!』
このように一応考えてはいるが、観客からはいつもの薬師の強攻突破と言われていた。実際そう言われてもおかしくない。
ちなみに大島ベンチでは、こんな会話が繰り広げられていた。
「いいかお前ら! 今日は待ちに待った薬師戦だ! 相手が北瀬だろうが関係ねぇ! 今日こそは1イニングで100点取ってこい!!」
『おぅ!』
(いや無理に決まってんでしょーが、お前らもこんな無茶苦茶にノるんじゃないよまったく……)
「何を言うんだ桐生! そうやってすぐ限界を決めるな! お前の悪いクセだぞ!」
「いやなんで俺が考えてる事分かったんだよ! こえぇなオイ!!」
監督とコーチの漫才の様なやり取りがありつつ、一応大島工業高校は纏まっていた。
但し、ホームランを打ちたいという個々人の欲求によって締まっていただけだが……
そんなこんなで始まった1回表、薬師高校の攻撃。
1番秋葉が初球ファールになった際、どこかで体験した事のある違和感を感じた。
160kmに近い剛速球選手とはいえ、ここまでボールが重い物かと思ったのだ。
そう、真田の事を師匠としてリスペクトしている黒川。
同じく真田先輩を素晴らしい先輩としてリスペクトしている北瀬・伊川から評価の評価はMAXに近いレベルで高かった。同族だと思われたのである。
ついでに真田本人から、技術的なことは北瀬に教えてもらえとありがたい言葉を受け取っていた。
それによってこれでもかとタッグ練習やコツイベを起こしており、怪物球威や怪童の両方を手に入れてしまっていたのだ。必死に北瀬に頼みこんだ本郷は、間違いなく泣いても良い。
「ストライク! バッターアウト!!」
「また天才かよ……!」
それでも2年間北瀬の球を打ち続けた秋葉はその意地からなんとか打とうとするが、チェンジアップで空振り三振。
2番伊川もその違和感にすぐ気付くが、それで何かある訳でもなく、普通にヒットを打つ。だが2塁まで進めなかった事を少しだけ悔しがっていた。
___カキーン!
『ぎゃああぁぁ!!』
「あの北瀬のボールを、あんな呆気なく……?!」
1回の裏、1番の森がまさかの初球クリーンヒットでホームランギリギリのスリーベース。
彼もまたなんだかんだで北瀬達に気に入られており、黒川の次くらいにタッグ練習やコツイベを起こしていたのだ。それによってアーチストや安打製造機を手に入れていた。
___カキン!
___カキン!
そして2番桜井・3番大場の二人はシングルヒット。
4番金井はツーベースで、5番黒川はセンターオーバーのスリーベース。
まさかのほぼほぼエラーの一切絡まない綺麗なヒットを連発していき、観客は愚かこの決勝戦を見ている者全てがどよめきだっていた。
たまたまこの試合を見ていたスカウトもあの天才を打った大島ナインに驚き、万丈監督はいったい何者なのだと目を疑っていたらしい。
実際には北瀬伊川のパワプロ能力が大きいのだが、優秀な指導者であるのは間違いない。
ただ、当の大島ナインはというと。
「あとちょっとだったー!」
「惜しい惜しい! 次だぜ次!」
「そうそう! やっぱ野球はホームランだぜホームラン!!」
(いやあの北瀬の球軽々打ってる時点ですごいの分かってんのかコイツら………)
「ガァーッハッハッハァーッ! まだまだ青いな大地ィー!」
「いやせめてアンタは分かってくれよ! 1番大人なんだから!」
薬師みたいなノリでホームランが出なかった事を嘆いていた。そんな雰囲気まで輸入しなくても良いのに……
この後も、こんな風にホームランの出ないだけの乱打戦が続いていく。
実は今日の大島打線はパワプロ的に言えば絶好調を超えるノリノリ状態。抑えるのは非常に困難だろう。
ちなみに北瀬は、珍しく非常に厳しい状況にも関わらず晴れ晴れとした表情をしていた。
元々野球に対してはエンジョイ勢であり、さまざまなライバルや大人との出会いをキッカケに野球を楽しんでいた。
……だが心の奥底では勝つか負けるかのギリギリの戦いを求めていたのだ。
それが叶った今は、とてつもないほどワクワクしていた。
そんな彼を近くで見ていた伊川は、ヤレヤレと思いつつも北瀬が喜んでいる事を喜んでいた。まるでお母さんと子供である。
「そんな……あの、あの北瀬さんが……」
だが、その光景を間近で見ていたスタメンマスクを被る由井の心は、北瀬伊川とは逆にショックでいっぱいだった。
全国の強豪どころか世界の強豪すら赤子を捻るかのように捻じ伏せた絶対的エースが、それなりにウチと合同練習をしていただけのポッと出の学校相手に連打を喰らっている。
その事実が信じられず、由井の心の奥底にあった北瀬なら絶対に打たれないという何処か慢心に近しい自信は、完全に崩れ落ちていた。
だが由井の頭には、抜け落ちてることがあった。それはそもそも大島工業は薬師のような無名の弱小ではなく、薬師よりも前から打撃中心のスタイルを取っていた古豪。
甲子園に出場したことがないだけで、それなりに実績のあるチームであること。
元々守備型のチームだった鳥野や蔵山が、薬師とのそこそこの交流だけであそこまで打撃力が開花したのだ。
元々打撃重視で、北瀬達と親密な程に関わった大島工業であれば、北瀬を打ち崩す程の急成長を遂げることは、もはや必然だった。
まぁ、大島工業の青道や稲実、帝東のような強豪とは違う、薬師によく似たところどころ緩めな雰囲気を間近で見ていれば、そう思っても仕方ないだろう。
そして5回裏。ツーアウト2・3塁の場面にバッターは4番の金井。彼は明らかなストレート狙い。
ならばと由井は北瀬にスライダーを要求した。
___カキン!
しかし金井は圧倒的パワーでスライダーを強引に持っていき、ライト前タイムリーヒットで1点追加。
___カッキーン!
そして次は5番の黒川はフォークを掬い上げ、スリーランホームラン。そして6番の幸田だが、由井は今、今まで経験したことのない深みに嵌っていた。
由井は北瀬の球の捕球で疲弊していたことに加え、尚如何なる場所に投げ込もうとも平然と打ち返してくる大島打線によってある種のイップスに陥りかけていた。
「由井! 三島が呼んでるぞー」
「は、はい……」
そんな時に北瀬が声を掛け、マウンドに集まるように言う。どうやらキャプテンの三島がタイムを掛けていたらしい。
マウンドに集まると三島はこんな話をした。
「北瀬……この場面、お前なら何を投げたい?」
「えっ? うーん、そうだなぁ………やっぱストレート?」
彼の単純明快な言葉に三島は頷いた後、堂々と胸を張って言った。
「ガハハハ、よし分かった! じゃあ由井、ここはストレート勝負だ!」
「えぇ……ちょ、三島先輩!? 相手はストレートが得意なんですよ!?」
「打たれても気にするな! 俺達が誰か忘れたか!
俺達は薬師高校! どんなピンチも打って打って逆転してきた!! ___それはこの試合でも変わらん!
それに! ウチには伊川や瀬戸、秋葉の三人がいるんだ! 三振以外のアウトだって捕れる!」
「そうそう三島の言う通り、意外となんとかなるって!
にしても、ここまで打たれたのって久々だよなぁ」
三島と北瀬の言葉を聞いたその瞬間、由井の脳裏に映ったのは今まで北瀬の何度打たれても気にせず、楽しげな様子でマウンドに立つ姿。
そして何十何百投げても平然としていて、更に投げようとしている姿。ハッとした由井は立ち直った。
___カキーン!
___バシッ!
「……アウト!」
『わああぁぁ!!』
「三島がファインプレーだと?!」
「北瀬が打たれるよりあり得ねぇ?!」
そして、試合再開し、北瀬の希望通りの全力ストレート。
幸田はそれをクリーンヒット……かと思えば三島がダイビングキャッチでまさかのファインプレー。薬師は大喜び。
幸田は心の中で北瀬の全力のストレートにはまだ対応出来ていない事に悔しがった。
例え大島工業の打線が凄くとも、北瀬の全力ストレートは真の意味で分かってても打てないのだ。それはそれとして打ててる事自体は充分に誇らしい事なのだが………
その後も北瀬と由井は何度打たれ続けようとも、エラーされようともめげずに投げ、そしてリードする。
しかし、ゴジラ打線と揶揄される大島工業相手にはストレートも変化球も全力で投げざるを得ないので由井の負担は心身ともにとてつもなく大きく、流石に9回に交代することとなる。
9回表、30対32でまさかの大島工業がリード。
___カッキーン!
___カッキーン!
___カッキーン!!
___カッキーン!!
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
「これぞ薬師打線!」
「良いぞ北瀬! 打たれた分は自分で取り替えせぇ!!」
「やっぱ元祖打撃特化高校は違うな!!」
だが薬師5人組が今までの鬱憤を晴らすような5者連続ホームランで見事に逆転する。
そして奥村は、監督にある提案をするのだった。
そして9回裏に選手交代。キャッチャーとしてマスクを被るのはまさかの伊川だった。
奥村の提案。それは奥村の考えたリードを轟監督を経由して受け取り、それを実行するというラジコン配球だった様だ。
前々から彼は案として考えてはいたが、奥村の捕手としてのプライド故にそれを口に出す気はなかった。
だが大島工業というとてつもない伏兵の登場にそうは言ってられない状況であり、解禁せざるを得なかったのだ。
伊川もなんだかんだで北瀬の球をしっかり捕れるのは自分というのは分かっており、そして自分のリードでは北瀬の足を引っ張る事も自覚していたので、あっさり了承。
北瀬も伊川がいいならいいかと特に気にしなかった。
___バシッ!
「ストライク、バッターアウト!!」
先頭は豪打大島工業の中で特に打つ地獄のクリンナップ3人組の1人、大場。
執拗なインコース攻めの後、フォークで空振り三振。
___バシ!
「ストライク、バッターアウト!!」
次は大島工業1のパワーを持つ四番金井。得意なインコースに投げて二球で追い込んだところを超スローボールで空振り。
そしてラストバッターはアメリカ帰りの天才、黒川。
ファールを打たせてなんとか追い込むが、黒川も監督やコーチ、先輩や同期、後輩の声援を受けて根気よく粘る。
(北瀬、最後はこの球だってよ)
(やった! 楽しみに待ってたんだよなぁ!!)
___バシッッ!!
最後に選ばれたのはど真ん中への渾身の全力ストレート。思ってもみない球に硬直し、見逃しの三振。
「ストライク、バッターアウト! 試合終了!!」
『わああぁぁ!!』
それが決まった途端に甲子園球場に響き渡るゲームセットの宣告。そしてその瞬間に大歓声が響き渡った。
この激闘を制した薬師ナインは大喜びなんてレベルじゃない盛り上がりを見せ、大島工業は泣きながらも彼らの健闘を讃えた。
試合が終わった後、黒川が今までありがとうございました、これからも宜しくお願いしますと挨拶をしに来た。
「やっぱり凄かった、北瀬も伊川も……甲子園でまた会おうな!」
「ああ! 約束だ!!」
「決勝戦で戦えたら面白いよなぁ!」
そして北瀬と伊川は黒川とメジャーリーグでの再会を約束し、薬師高校ナインはこの舞台を去るのだった。
そして明治神宮大会が終わって2週間後。大島工業との合同練習が組まれ、比較的すぐに再会することになったのは別の話。
ちなみに余談だが、東東京都大会でまさにゴジラの如く暴れ過ぎた大島工業野球部。
それによって地区内の学校からは練習試合を断られることが増えた為、しばらくは薬師以外の練習相手探しに手間取ることになったとか。
「そうだなぁ、もし見つかんなかったらとりあえずジャイアンツかスワローズの2軍辺りにでも声掛けてみるかぁ」
「いや無理に決まってんでしょうが! 絶対門前払いされるわ!」
「やるだけやってみないと分かんないだろうが!」
「だからムリだって! そもそもなんでダメ元で頼めばイケると思ったんだよ!」
ちなみに、実際突撃してみたら3軍相手なら良いよと言われていた。
大島工業野球部との繋ぎが欲しかったのだと思われるが……言ってみる物である。